そもそも専門業務型裁量労働制とは何か
この回のテーマは「裁量労働制をやめた方がいい5つの理由」です。裁量労働制には企画型と専門業務型がありますが、吉田さんは、ほとんどの会社で使われているのは専門業務型だと話します。
企画型裁量労働制はほとんど使われないため、この回と次回のテーマからは外し、よく使われていて誤解も多い専門業務型裁量労働制にしぼって解説していきます。
専門業務型裁量労働制について、吉田さんはまず厚生労働省が出している定義を読み上げます。
業務の性質上、業務の遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務として、厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から対象となる業務を労使で定め、
労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度です。
この定義だけでは理解しづらいため、吉田さんは具体例でかみ砕いて説明します。世の中には弁護士や研究開発のような仕事から、工場で単調な組み立てをする仕事、シールを貼る仕事まで、さまざまな仕事があると言います。
そのうち、弁護士のように専門性が高く、労働者自身がプロフェッショナルとして自律的に働いている業務が対象になります。こうした業務であれば、労使協定書や就業規則を適法な手順で整えることで、その業務に就いた場合はあらかじめ決めた時間を働いたものとみなす、というのがこの制度です。
コピーライターを例にした「みなし時間」の決め方
専門業務型裁量労働制の対象になる例として、吉田さんは、弁護士のほか、資格がなくても該当するものとしてコピーライターやテレビ番組のプロデューサーを挙げます。
吉田さんは、コピーライターを例に「みなし時間」の決め方を説明します。コピーライターに専門業務型裁量労働制を適用する場合、その業務はおおよそ1日8時間ぐらいだ、といったことを会社の中で決めていくと言います。
コピーの作り方そのものは労働者が自分で考えてよく、会社からの業務指示も、良いものを作ってくださいという形になると説明します。
その上で、当社のコピーライター業務に従事すると1日8時間相当だ、といった話し合いをして労使協定書にみなし時間を定めます。実際にコピーライティングの業務に従事したら、その日は1日8時間働いたとみなされていく、という流れです。
「みなす」という言葉が生む誤解
吉田さんは、理解を深めるためによくある誤解を取り上げます。ポイントは「みなす」という言葉で、これは法律的にとても強い言葉だと説明します。
1日8時間とみなした場合、実際の労働時間が何時間であっても8時間とみなされます。つまり、9時間働いた日も7時間働いた日も、8時間働いたことになるということです。
この仕組みに、経営者が誤った期待を寄せてしまうことがあると吉田さんは指摘します。
(従業員を)12時間働かせたい、でも残業代を払いたくないみたいなケースだと、こういう専門業務型裁量労働制をうまく使って、固定の給料で自由に働いてほしいなみたいな形で興味を持たれる経営者の方が多いです。
ただし吉田さんは、経営者が一方的に悪いわけではないとも話します。専門業務型裁量労働制で働く人はプロフェッショナルが多く、細かい指示をされたくない、残業時間や36協定の管理でごちゃごちゃ言われたくない、という思いを持つことも多いと言います。
その結果、会社は固定給で人件費管理が楽になり、働く側も細かく言われず自由に働ける、という双方の思惑が合い、専門業務型裁量労働制を導入するスタートアップは結構多いと吉田さんは話します。
一方で、吉田さんはこの制度を無限に働かせられる仕組みだと誤解しないでほしいと強調します。本来の考え方は、仕事がはかどる日は7時間で終わり、延びた日は9時間になることもあり、平均するとおよそ8時間になるから8時間とみなす、というものだと説明します。
理由1・専門業務の範囲が不明確でグレーゾーンが残る
ここから吉田さんは、専門業務型裁量労働制をやめた方がいい理由を順番に話していきます。1つ目は、専門業務の範囲が不明確だという点です。
例として、テレビ局のディレクターは専門業務型裁量労働制を適用できるとされている一方、アシスタントディレクターはディレクターの指示に従って動いているため、適用できないのではないかというのが一般的だと説明します。
ここで吉田さんは、ディレクターとアシスタントディレクターの中間の役職が会社にできた場合、それは適用できるのかという疑問が出てくると指摘します。つまり、どの専門業務型裁量労働制にもグレーゾーンがあるということです。
吉田さんは、肩書きだけで判断できないとも話します。名前はディレクターでも、実態が誰かの指示に従い時間配分も自分で決められないなら適用できず、逆に軽めの肩書きでも中身が要件を満たすなら適用してよいという考え方もある、と整理します。
時間配分を自分で決められず細かい指示で働いているなら適用は難しい
業務の中身が裁量労働制の要件を満たすなら適用できるという考え方もある
吉田さんは、こうした不明瞭なグレーゾーンがあること自体を問題視します。会社経営にはさまざまなリスクがあるため、グレーなものを会社に持ち込むのはできるだけ排除した方がいいという立場です。
理由2・裁量権がないと未払い賃金を問われる可能性
吉田さんは、やめた方がいい理由として、裁量権にまつわる論点も挙げます。定義には、時間配分や業務の手段を労働者自身の裁量に委ねるという条件が含まれています。
そのため、経営者や上司が細かく指示していたり、何時から何時まで働いてくださいと細かく指定していたりする場合は、裁量権がないのだから裁量労働制ではないのではないか、という論点が出てきてしまうと説明します。
さらに吉田さんは、そうした細かな指示のもとで多くの残業をしていた場合、未払い賃金があると言われてしまう可能性があると指摘します。この点でも、やめた方がいいという考えを示します。
この回はここまでで、専門業務型裁量労働制をやめた方がいい理由の続きは次回に持ち越されます。吉田さんは、まだ理由が続くとしたうえで、後編で解説すると話しています。
まとめ
この前編では、専門業務型裁量労働制の仕組みと「みなし」の意味を整理したうえで、業務範囲のグレーゾーンと裁量権をめぐる2つの理由から、吉田さんが導入をやめた方がいいと考える立場が語られました。
- 専門業務型裁量労働制は、対象業務に就けばあらかじめ労使で定めた時間を働いたとみなす制度で、コピーライターなどが例に挙げられる
- 「みなす」は法律上強い言葉で、実際の労働時間が何時間でも定めた時間として扱われるが、無限に働かせられる制度ではない
- やめた方がいい理由の1つ目は、専門業務の範囲が不明確でグレーゾーンが残る点
- 2つ目は、細かい指示で裁量権がないと判断されると、未払い賃金を問われる可能性がある点
- やめた方がいい理由の続きは後編で解説される






