士業事務所への転職が「狭き門」になる理由
今回のエピソードは、採用面接必勝法の後編です。実際に面接を担当してきた吉田優一さんが、経営者視点で「こうすると面接に受かりやすい」というポイントを話しています。
最初のテーマは企業研究、特に事務所研究の大切さです。ここでは士業事務所への転職を想定して話が進みます。
吉田さんによれば、士業事務所への転職は実は狭き門になりやすいそうです。同じ士業でも状況は大きく異なります。
たとえば弁護士が法律事務所に転職する場合は、選ばなければ引く手あまたで、就職口は無限にあると言えるほどだと話します。
一方で、行政書士は雇用の数が少ないと言われ、社労士も比較的少ない方だといいます。一人事務所の先生が多く、人を雇用している社労士事務所はそれほど多くないためです。
その結果、資格を取ってこれから実務経験を積みたいと社労士事務所を志望しても、意外と簡単には就職できないのが実情だと吉田さんは指摘します。
テンプレの志望動機では、なぜ埋もれてしまうのか
そこで吉田さんが最初に挙げるのが、基本に立ち返った企業研究、つまり事務所研究です。経営者として「ぜひ入社してほしい」と思うのは、自分の事務所をよく理解してくれている人だといいます。
たとえば吉田さんの事務所はITやDXに強いという特色があり、履歴書にそうした点が書かれていると目を引くそうです。
ここで、ホームページを見れば誰でもわかることだから、みんな書いているのではと思うかもしれませんが、実際はそうではないと吉田さんは言います。
大体が中途の面接の場合、どこの事務所に出してもおかしくないような、テンプレートの志望動機なんです。
具体的には、社労士試験に通ったから実務経験を積みたい、という内容が多いそうです。すると経営者としては、それなら「どこでもいいのでは」という発想になってしまうと話します。
逆に事務所の特色が書かれていれば、ちゃんと研究してきてくれたと感じ、面接や適性検査といった次の選考ステップへ進んでもらいたくなるといいます。
ラジオを聴いている、が面接で効く理由
次に吉田さんが挙げるのは、経営者本人に関する情報を拾ってアピールする方法です。まず吉田さん自身に通用する例として、このラジオを聴いていると伝えることを紹介しています。
この十分で労務がわかるラジオを聞いてますよっていうのは、かなり面接とかでは好印象です。あ、そこまで聞いてくれてるんだみたいな。
これを他の会社に応用するなら、経営者のインタビュー記事を読んで感銘を受けた、会社が作っている動画を見て応募した、といった伝え方が考えられると話します。
士業事務所では本を書いている先生も多いため、先生の本を読んで受けたいと思った、というアピールも効果が高いそうです。面接まで進んでこう言われると、士業事務所の先生は気分が良くなって内定を出してしまう気がする、と吉田さんは語ります。
事務所のトップと面談できる機会があるなら、こうした点はアピールした方がよいという結論です。
病気の話が出たとき、面接官が本当に恐れていること
2つ目のポイントは、面接官が聞きづらいことを、応募者側から積極的に開示してほしいという話です。特に困るのが病気や怪我、なかでも病気の話だといいます。
採用面接では職歴をたどりながら、なぜ転職したのか、なぜ辞めたのかを尋ねます。その際に「病気になったから退職した」と説明する応募者もいるそうです。
真実を告知してくれるのはありがたい一方、そこで説明が止まると面接官は「大丈夫かな」と心配になると吉田さんは言います。
ここで面接官が最も恐れているのは、入社後に病気が再発して働けなくなることです。そうなると採用計画が大きく変わってしまいます。
大きな会社であれば、採用を決めた人事部門の担当者が、配属先の部門長に対して「面接でちゃんと聞けておらず申し訳ない」と、裏でやり取りすることになりかねないといいます。
だからこそ、病気の話になったのであれば、聞かれていなくても病名や再発の可能性の有無を伝え、就職した後も労務提供に支障がないという点を、これでもかというくらいアピールした方がよいと吉田さんは勧めます。
面接官が一番恐れてることは、採用してご入社いただいた後に、その病気が再発して働けなくなるってことなんです。
病気のことを、面接官の側から聞けない事情
それなら面接官の方から病気について聞けばよいのでは、と思うかもしれません。吉田さんはこの疑問にも触れています。
法律上は、回答は任意であると前置きしたうえで、病気について教えてほしいと尋ねること自体は可能だそうです。本人が同意すれば再発の可能性なども聞けます。
ただ現実には、これがとても聞きづらいと吉田さんは言います。どんな病気かわからず、本人にとってつらい体験かもしれないと思うと、面接官からは踏み込めないためです。
さらに、十分に説明したうえで聞いた場合でも、デリカシーのない質問をされたと口コミに書かれてしまう可能性もあります。こうした事情から、面接官は病気のようなプライバシーに関わることを聞きにくいのです。
もしそういう話になったら大丈夫ですよっていうのは、求職者側からアピールした方がいいと思います。
落ちた後の「もう一度」が、次につながる
最後は、残念ながら選考に落ちてしまった場合の話です。中小零細企業で、どうしても入りたい会社があったのなら、もう一度面接してもらえないか、一から応募し直してもよいかと伝えるのも一つの手だといいます。
吉田さんによれば、こうしたことを言う人はまったくいないそうです。だからこそダメ元で言ってみてもよいかもしれない、と話します。
今まで直接言われたことないです。
不採用の連絡をメールで送ると、多くは「今後のご発展をお祈りしています」という返信が返ってくるだけで、もう一度面接してほしいと言われたことはないそうです。
一方で、印象に残っている例として、別の求人が出たらまた応募してもよいかと聞かれたケースがあると吉田さんは語ります。数は少ないものの、中小企業でこう言われることはまずないため、かなりインパクトがあるといいます。
仮に半年後や1年後に再び求人を出したとき、前回の選考に来た人が本当に応募してきてくれたら、かなり好印象で、少なくとも面接の場には必ず呼びたいと吉田さんは話しています。
この最後のテクニックで必ず採用されるとは限りませんが、こうした粘りもあると吉田さんは締めくくっています。
まとめ
士業事務所の採用面接官である吉田優一さんが、経営者視点で受かりやすくなる3つのポイントを語った回です。事務所研究、病気の伝え方、不採用後の粘りという、いずれも具体的で実践しやすい内容でした。
- 士業事務所への転職は狭き門になりやすく、まず事務所研究で特色を理解することが第一歩になる
- テンプレートの志望動機は「どこでもいい」と見られやすく、事務所固有の情報を盛り込むと差がつく
- 病気の話が出たら、病名や再発の可能性、労務提供に支障がないことを応募者側から積極的に伝えるとよい
- 面接官は病気などプライバシーに関わることを聞きにくいため、応募者からの開示が安心材料になる
- 不採用でも「また応募したい」と伝える粘りは印象に残り、次の選考につながる可能性がある



