「LINEで連絡できませんか?」という相談によく出会う理由
今回のテーマは、LINEを業務で使用するのはやめた方がいい、という話です。
LINEは、家族や恋人、友達と連絡を取るツールとしておそらく一番有名です。だからこそ、仕事にも使いたくなる場面が出てきます。
吉田さんによると、スタートアップや創業直後の会社と取引を始める際、こんなリクエストを受けることがあるそうです。
吉田さん、LINEで連絡できませんか?みたいなことをおっしゃるんですね。
これに対して吉田さんは、LINEを業務で使用するのはやめた方がいい、という立場を示しています。
ただし、本題に入る前に整理しておくべき区別があります。LINEには、一般的な個人向けのLINEと、仕事用のLINE WORKS ── LINEが提供するビジネス向けのチャットサービス。個人のLINEとアカウントを分けて業務利用できる。があるという点です。
吉田さんが問題視しているのは、LINE WORKS ── LINEのビジネス向けサービス。ここでは業務利用を否定していない。や仕事用に切り分けたアカウントではありません。プライベートのアカウントで、仕事もプライベートも両方連絡してしまう使い方です。
公私の境目と労働時間、2つの見えないコスト
1つ目の論点は、公私の境目がなくなることです。
例えば広告代理店の社長が、個人のLINEでお客さんとやりとりしていたとします。そこに新しく従業員が入ると、チームで支援するためにLINEグループを作ろうという話になりがちです。
すると、新しく入った従業員とも「LINE交換しようよ」という流れになり、社長やお客さんとプライベートのLINEでつながることになります。
吉田さんは、これは働く側からすればまず単純に嫌なはずだと指摘します。
なんで社長とLINE交換しなきゃいけないんですか?とか、お客さんとLINE交換しなきゃいけないんですか?っていう感情を抱くと思うんですよ。
これは従業員満足度の低下につながり、突き詰めれば離職率が上がる原因にもなり得ると話されています。
2つ目は、労働時間の問題です。プライベートでよく使うLINEに通知が鳴れば、人間はどうしても気になってしまいます。
仕事が終わった後にLINEへ連絡が来て、それに返信していれば、場合によってはその時間は労働時間だという話になります。
そしてその時間がタイムカードに出てこなければ、未払い賃金があるのではないか、という論点を作ってしまう恐れがあります。
退職時に「LINEを全部見せて」は現実的か
次の論点は、機密情報の問題です。従業員は、いつか退職するかもしれないというのが現実です。
先ほどの広告代理店のケースで、LINEグループを作ってお客さんを支援していれば、そこにお客さんの機密情報が入ります。
グループチャットならメンバーを退席させれば情報にアクセスできなくなるかもしれません。しかし、ダイレクトチャットでやりとりしているケースもあります。
その場合、情報を消さずにそのまま退職されると、機密情報が漏洩している状態になってしまいます。
雇用契約書や就業規則に「退職時にLINEの機密情報を全部削除する」と書いておけば、論理的には消させることも可能かもしれません。しかし吉田さんは、それは現実的ではないと話します。
じゃあ退職するときにあなたのLINE全部見せてくださいと。機密情報がないか確認させてくださいなんて現実的じゃないですよね。
さらに吉田さんは、これを無理やり実行するとパワハラ ── 職場での優越的な関係を背景に、業務上必要な範囲を超えた言動で就業環境を害すること。に該当するのではないか、という見方も示しています。
パワハラというと、殴る、行き過ぎた叱責といった極端な例が最初に浮かびます。しかし厚生労働省はパワハラを6つのパターンに分類しており、そのうちの1つが「個の侵害」だと説明されています。
吉田さんは、自分が退職時に「LINEを全部見せてください」と言われた労働者だったら、こう反論するだろうと話しています。
それってパワハラに該当するんじゃないですか、そこまで見せる必要性なんかないですよって反論すると思うんです。
こうした論点があるため、退職時に全部見せて機密情報を消させるのは現実的ではない、というのが2つ目の結論です。
「気軽にLINE交換」が信頼を損なう場面
最後の論点は、ブランディングの問題です。
会社を起業して順調に規模を拡大すれば、いい会社と取引したいと思うのが社長の自然な考えです。ゆくゆくは上場企業のような相手をお客さんにしたい、と考えることもあります。
そこまで格式が高くなくても、会社にはグレードがあり、いい会社も普通の会社も悪い会社もあるのが現実だと吉田さんは言います。
いい会社といい商談をして、いよいよ依頼を受けたとき、「今後の連絡はLINE交換で」と切り出したらどうなるか。吉田さんは、会社の信頼に傷がつくのではないかと考えています。
ちゃんとした会社ほど、機密情報や営業秘密を守りたいと思っているはずです。そういう相手からすると、気軽にLINE交換を持ちかける会社は、機密情報の管理がいい加減なのではないかと映る可能性があります。
そう思われてしまえば、この商談はなかったことにしてほしい、と言われるリスクも出てきます。
自社ではどう切り分けているのか
では、吉田さんの会社ではどのように公私を切り分けているのでしょうか。
吉田さんと従業員は基本的にLINE交換をしておらず、お客さんともLINE交換はさせていないと話します。
その代わりに使っているのが、ビジネスチャットツールです。
チャットワークやSlackといったツールを導入し、その上でやりとりをしてもらう運用にしているそうです。
この仕組みなら、退職や休職になった際にアカウントを使用不可にして回収し、機密情報ごと丸ごと管理できます。吉田さんは、これは自社に限らず多くの会社で行われている運用だと話しています。
最後に吉田さんは、LINEのすべてを否定するわけではないと補足します。業種業態によっては、これで連絡しないといけない場面もあるかもしれないからです。
プライベート性の高いSNSを仕事に使うというのは、一定のリスクがあるというのを分かった上で使うのであれば使ってほしいなと思います。
まとめ
プライベートのLINEをそのまま業務に使うことには、公私の境目・機密情報・ブランディングという3つのリスクがあります。仕事用の切り分けやビジネスチャットツールの活用で、こうしたリスクは回避できると吉田さんは話しています。
- 問題なのはプライベートアカウントの業務兼用で、LINE WORKSや仕事用に切り分けたLINEは否定していない
- 公私の境目がなくなると、従業員満足度の低下や、通知への返信をめぐる労働時間・未払い賃金の論点を生む
- 退職者が持つ機密情報を消させるのは難しく、無理に見せさせれば「個の侵害」としてパワハラに当たる恐れもある
- ちゃんとした会社ほど、気軽なLINE交換は機密情報管理への不安につながり、商談自体を失うリスクがある
- 自社ではチャットワークやSlackを使い、退職・休職時にアカウントごと回収して情報漏洩を防いでいる






