なぜ社長が「扶養」を理解しておくべきなのか
今回のテーマは、社会保険の扶養に入り忘れていませんか、という内容です。
扶養は基本的に従業員個人の話です。それでも吉田さんがこのテーマを取り上げたのには、中小企業やスタートアップならではの事情があります。
こうした会社では、採用面接に社長が直接出るケースも多いといいます。そして面接では、扶養について聞かれることも少なくありません。
そこで社長が扶養の話を十分に理解していないと、従業員を大切にしていない会社ではないか、と思われかねません。
会社の信頼に関わったりとか、採用にとってマイナスになるんじゃないのかなと思って、今日このテーマを取り上げました。
扶養には2種類ある——理解が混乱する最大の原因
吉田さんは、扶養がなかなか理解されない理由を次のように話します。
一言で扶養といっても、税金の扶養と社会保険の扶養、この2種類があります。それぞれ考え方が変わるんですね。
まず税金の扶養です。判定する期間はとてもシンプルで、1月1日から12月31日までの間に稼いだお金で判断します。
例えば月給20万円の人が半年間働くと、その年の収入は120万円です。一般的に税金の扶養の範囲とされる103万円の壁 ── 所得税で配偶者控除などの対象になるかどうかの目安となる年収の基準。超えると扶養から外れる可能性がある。を超えているため、扶養には入れない可能性が高くなります。
一方で社会保険の扶養は、考え方がまったく異なります。
将来に向かって向こう1年間どれくらい稼ぐのかっていうところで判定します。
例えば月給20万円の人が10月まで働き、11月1日から無職になったとします。11月1日の時点で先を見ると、向こう1年間の収入は0という考え方になります。よって社会保険の扶養には11月1日から入れます。
過去の実績で見るのか、これからの見込みで見るのか。この違いを押さえておかないと、2つの扶養が混同して混乱してしまうと吉田さんは指摘します。
1月1日から12月31日までに実際に稼いだ金額で判定する
その時点から向こう1年間にどれくらい稼ぐかの見込みで判定する
同じ人でも結論が逆になる?2つの具体例
2つの扶養は判定方法が違うため、片方には入れるのにもう片方には入れない、というケースが生まれます。
まず、社会保険の扶養には入れるけれど、税金の扶養には入れないケースです。
月給30万円の人が1月から働き、10月に退職したとします。その年はすでに約300万円を稼いでいます。税金の扶養は103万円や150万円といった基準がありますが、どちらで見ても超えているため入れません。
ところが11月1日以降は無職で収入は0です。向こう1年間の収入が0になるため、社会保険の扶養には入れる、という結論になります。
逆に、税金の扶養には入れるけれど、社会保険の扶養には入れないケースもあります。ずっと無職だった人が年末に就職した場合です。
月給50万円の人が11月に就職すると、11月と12月で単純計算100万円を稼ぎます。その年の年収は100万円なので、税金の扶養には入れる可能性が高くなります。
一方で社会保険では、毎月50万円稼ぐ前提だと年収は600万円という見込みになります。社会保険の扶養の基準である130万円の壁 ── 社会保険の被扶養者でいられるかどうかの年収の目安。見込み年収がこれを超えると扶養から外れる。を超えるため、11月以降は入れないという考え方になります。
1月まで待って損をする、もったいないケース
吉田さんは、実際に起こりがちな「もったいないケース」を紹介します。
月給30万円の人が10月に退職した場合、その年は税金の扶養には入れませんが、社会保険の扶養には11月1日から入れます。
ところが税金と社会保険の話をごっちゃにしてしまい、翌年の1月1日から社会保険の扶養に入る、と考えてしまうことがあるといいます。
本来なら11月から入れたはずなのに、2か月分入り忘れてしまう。本人にとっては大きな損です。
もし従業員から相談を受けた会社側が、誤って「1月1日から入りましょう」と案内してしまったらどうなるか。
会社に責任が問われる可能性は低いですけれども、やっぱり信頼には関わるんですね。マイナスになると思います。
扶養に入り忘れると、どんな損があるのか
では、社会保険の扶養に入り忘れると具体的にどんな損があるのでしょうか。吉田さんは2つ挙げます。
1つ目は、国民健康保険料がかかってしまうことです。社会保険の扶養に入れば健康保険料はかかりませんが、入っていないと市区町村の国民健康保険 ── 会社の健康保険に入らない人が加入する、市区町村が運営する公的医療保険。保険料は所得などに応じて決まる。に加入することになります。
国民健康保険は、おおよそ月額数千円から数万円ほどの保険料がかかります。
2つ目は、国民年金保険料です。配偶者の場合、社会保険の扶養に入ると国民年金の保険料を納めなくてよいパターンがあります。
このパターンに該当すれば、月額およそ1万6000円ほどの保険料を払わずに済みます。入り忘れると、その分を負担することになります。
制度を使い切ることが、いい会社づくりにつながる
吉田さんは、こうした知識を会社側が持つことの意味を強調します。小さい会社なら経営者、ある程度大きな会社なら人事総務部門が理解しておく必要があると話します。
従業員から相談を受けたときにきちんと説明できないと、会社の信頼に関わります。社会保険制度は広い意味では福利厚生であり、会社の制度の一部だからです。
社会保険制度、そこを使い倒さないと、使い切らないのは会社にとって損ですね。
背景には、人口減少による人材採用難があります。採用がうまくいっている会社より、うまくいっていない会社のほうが多いのが実情です。
だからこそ、国がやっている制度をうまく使って従業員満足度を上げていくことが重要だと吉田さんは締めくくります。
まとめ
扶養には税金と社会保険の2種類があり、判定の考え方が異なります。税金は1年間の実績、社会保険は今後1年間の見込みで判断します。この違いを理解しておくことが、従業員への正しい案内と、会社の信頼につながります。
- 扶養には税金の扶養と社会保険の扶養があり、混同すると誤った案内につながる
- 税金は1月1日から12月31日の実績、社会保険は向こう1年間の見込みで判定する
- 同じ人でも、片方の扶養には入れてもう片方には入れないケースがある
- 社会保険の扶養に入り忘れると、国民健康保険料や国民年金保険料の負担が生じる
- 制度を正しく理解し使い切ることが、従業員満足度を高めいい会社づくりにつながる






