なぜ社労士があえて「弁護士に相談を」と勧めるのか
吉田さんはふだん、税金や相続など、社労士以外の専門家が扱うべき相談を受けることが多いと話します。
その中でもよく聞かれるのが、「これって社労士なんですか、弁護士なんですか」という労働系の相談だそうです。今回はあえて、社労士から見て弁護士に任せたほうがよい場面を取り上げています。
そのために、まず社労士と弁護士の考え方の違いを整理します。
弁護士は基本的に依頼者側に立ち、依頼者にとって一番いい選択を軸にロジックを組み立てると言います。一方で社労士は、倫理上、経営者側に100パーセントつくとは言えない立場です。
社労士の立場は労使中立で、労働者側でも会社側でもありません。その中立の立場から、会社がよりよい会社になるためのアドバイスをするのが社労士だと説明します。
立場が違うからこそ、考え方も違ってくる。ここが今回の話の前提になっています。
労使中立。会社がよい会社になるためのアドバイスをする
依頼者側に立ち、依頼者にとって一番いい選択を軸にロジックを組み立てる
未払い残業代の請求が来たら、なぜ弁護士なのか
1つ目は、未払い残業代の請求が来ている場合です。すでに交渉事や争いになっているため、弁護士に相談したほうがよいと言います。
依頼者の中には「交渉の窓口は社長がやるから、社労士に全部相談したい」という人もいるそうです。それでも吉田さんは、弁護士への相談を勧めます。
その理由として、吉田さんは自分の実体験を挙げます。お客さんのところに、相手方の弁護士から未払い残業代の請求が届いたことがあったそうです。
社労士の発想では、たとえば100万円の請求が来たら、正しい計算方法で再計算し、実際は50万円だったと分かれば「50万円に圧縮しましょう」となりがちだと言います。かつての吉田さん自身もそうでした。
ところが弁護士は発想がまったく違ったと振り返ります。客観的に計算すれば50万円だと分かっていても、10万円や30万円に圧縮できるロジックをいくつも組み立てるのだそうです。
会社側に落ち度があり、タイムカードにも残業の記録が残っている。社労士なら反論しにくいと感じる場面でも、弁護士は諦めないと言います。
じゃあそのタイムカードが残ってたら、どう考えるかというと、このタイムカードの中で働いてない時間はないんですか、と調べるんですよ。
たとえば事務職なら、使っていたパソコンのウェブブラウザの履歴を追う。動画サイトを見ていた記録が多ければ、1日およそ30分は見ていたのではないかと推論を立てます。
その30分を給与や未払い残業から差し引けないか、というロジックを作っていくわけです。1日30分でも、月20日ほど働けば月10時間ほどに換算されます。
喫煙者ならタバコ休憩も積み上げる。こうして細かく積み上げると、100万円の請求が意外と簡単に30万円や10万円になってしまうこともあると言います。
それが正当かどうかは別として、そういうロジックを立てるのが弁護士はとてもうまいと吉田さんは話します。だからこそ、顧問社労士に相談しつつも、弁護士に相談するのがよいという結論です。
労働組合対応は、なぜ弁護士に任せるべきか
2つ目は労働組合対応です。団体交渉は「交渉」と名がつくとおり、相手方との交渉が前提になります。
誰かの代理人となって交渉できるのは弁護士だけなので、費用も含めて考えると、労働組合対応は弁護士に相談したほうがよいと言います。
社労士が団体交渉に出て多くの話をしてしまうと、非弁行為だと指摘され、交渉がうまく進まないおそれがあるとのことです。
ここで吉田さんは、弁護士が交渉のスペシャリストだと実感した経験を紹介します。ある弁護士とタッグを組み、ある会社を支援したときの話です。
その弁護士は労働法にはあまり詳しくなかったそうです。そこで役割分担を工夫しました。
労働法の論点や、相手から言われそうな点は、社労士側が事前に会議でリストアップして弁護士に渡す。それをもとに弁護士が交渉していく、という流れです。
専門外であっても、ポイントを伝えればうまく交渉して話をまとめてくれた。そこに交渉のプロとしての力を感じたと言います。
一緒に団体交渉に出て思いましたけど、すごく交渉も上手で、結果、会社の100パーセント希望通りにはならなかったんですけれども、当初予定してたよりはかなり小さい和解金で終わったんです。
この経験からも、労働組合対応になったら弁護士に頼んだほうがよいと話しています。
整理解雇のとき、弁護士は何をアドバイスするのか
3つ目は整理解雇するときです。これは吉田さん自身の体験ではなく、知り合いから聞いた話として紹介されています。
整理解雇は、解雇が有効か、手続きに正当性があるかといった点で、争い事になる可能性が非常に高いと言います。
弁護士は訴訟を前提に考えるため、訴訟になったときに不利にならない行動をアドバイスしてくれるそうです。
たとえば社労士は労使中立なので、「払えるボーナスは払ったほうがいい」「昇給できるなら昇給したほうがいい」と言いがちです。
一方で弁護士は、整理解雇の前後でボーナスの時期が来ても、あえて払わないよう勧めることがあるといいます。昇給原資があっても、あえて昇給しないよう助言することもあるそうです。
さらに、希望退職の募集など、解雇前に行う手続きの告知文書について、細かい表現のアドバイスもしてくれると言います。
たとえば20名の希望退職を募集する場合、「20名」と言い切るのか「20名程度」とぼかすのかでニュアンスが変わります。
「20名」と言い切れば、確実に20名を集めるという会社の強い意志が伝わる文面になります。「20名程度」とぼかせば、19名でも21名でもよいと受け取れます。
そうしておけば、実際に辞める人が19名でも21名でも、トラブルになりにくいという考え方です。訴訟を前提にした細かい文面づくりも、弁護士ならではの効果的なアドバイスだと吉田さんは話します。
まとめ:どの場面で弁護士を頼るべきか
最後に吉田さんは、争い事や交渉事になっている場合は当然、弁護士に相談したほうがよいと改めて整理します。
具体的には、未払い残業代の請求が来ている場合、労働組合から団体交渉の申し入れが来ている場合、整理解雇したい場合です。
これらは社労士にも相談しつつ、どちらかというと弁護士に相談したほうが、会社にとってよい結末になるというのが今回の結論です。
まとめ
社労士と弁護士は立場も発想も異なります。争いや交渉が絡む労務トラブルでは、弁護士に相談したほうが会社に有利な結果につながりやすいと、社労士自身の実体験から語られた回でした。
- 社労士は労使中立、弁護士は依頼者側に立つという立場の違いがある
- 未払い残業代の請求は、弁護士が圧縮のロジックを組み立てられるため弁護士向き
- 労働組合対応は代理交渉できる弁護士に任せ、社労士は非弁行為を避ける
- 整理解雇は訴訟前提のため、ボーナスや告知文書まで弁護士の助言が有効
- いずれも社労士に相談しつつ、争い・交渉が絡む場面は弁護士を頼るのがよい






