なぜ「50人」が労務管理のキーポイントなのか
吉田さんはまず、労務管理において「50人」という人数が大きな節目になると話します。
一事業所あたり常時50人以上の労働者を使うようになると、いくつもの選任義務が一気に増えてくるためです。
そのため吉田さんは、50人に達してから慌てて動くのではなく、その手前から準備を進める姿勢が重要だと繰り返し伝えています。
14日では見つからない産業医、40人台から動く理由
最初に挙げられたのが産業医の選任です。常時50人以上になった場合、産業医 ── 労働者の健康管理について専門的立場から指導・助言を行う医師。一定規模以上の事業場では選任が義務づけられている。を置く必要があります。
問題は期限で、選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任しなければなりません。
もうこれ勘の鋭い方だったらお気づきだと思うんですけれども、そんな14日で産業医さん見つからないんですよね。
産業医の資格を持つ医師はそれほど多くなく、さらに自社の事情を十分に理解してくれる産業医を探すのは簡単ではないと吉田さんは説明します。
そこで、しっかりした会社は採用計画をもとに、40人台の段階から産業医を選任したうえで50人目を受け入れる流れにしていると紹介されています。
50人に見込まれる時点で、つまり40何人の段階からもう産業医を選任した上で、その50人目のスタッフを受け入れるっていうような流れにしている会社がいい会社です。
産業医はコストか、投資か
吉田さんは、産業医について経営者からよく聞く反応も紹介します。顧問料が高く、経営の圧迫だと感じる声です。
ただ、その見方には別の面もあると吉田さんは指摘します。産業医がいれば、スタッフはいざというとき職場を理解した人に体調を相談でき、経営者側にもメリットがあるといいます。
たとえば休職中の従業員が復職を望んでいるものの難しそうな場合、産業医の意見をもらえるといった具体例が挙げられています。
資格が必要な衛生管理者、これも先回りで
2つ目の義務は衛生管理者の選任です。50人以上になると、衛生管理者 ── 職場の衛生管理を担う担当者で、国家資格が必要。常時50人以上の事業場で選任が義務づけられている。を置く必要があります。
ここで吉田さんが注意を促すのは、衛生管理者は資格だということです。社内で役職を作って任命するだけでは足りず、資格を持った人を選任しなければなりません。
資格試験について吉田さんは、極端に難しいわけではないものの、きちんと勉強しないと受からない試験だと言われていると説明します。
だからこそ、50人になってから労務担当者に「取ってきてよ」と言うのでは遅く、40人ほどの段階で資格取得を進めてもらう必要があるとしています。
さらに、衛生管理者と産業医を選任したら衛生委員会 ── 労働者の健康障害の防止などを話し合うために設けられる委員会。一定規模の事業場で開催が義務づけられている。も開く必要があり、社内でしっかり運用していきましょうと呼びかけています。
定期健康診断は50人未満でも必要、50人からは報告義務
3つ目は定期健康診断の報告です。年1回、常時使用する労働者には定期健康診断を実施する必要があります。
ここで吉田さんは誤解のないように、と前置きします。定期健康診断そのものは、50人未満の会社でも実施しなければならない義務だという点です。
たとえスタッフが1人の会社でも、常に働く方であれば雇入れ時の健康診断も定期健康診断も必要になると具体的に説明しています。
50人以上になると、この実施義務に加えて報告義務が発生します。報告先は労働基準監督署です。
50人以上になるまでは健康診断って一切やらなくていいんですよねっていう風に勘違いしている人がいるんですけれども、それは間違いなので絶対にやめましょう。
ストレスチェックは会社に「気づき」を与える施策
4つ目はストレスチェックです。これも常時50人以上の労働者を使用する会社が対象になります。
ストレスチェック ── 労働者のストレス状況を質問票などで把握する検査。常時50人以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。では、業務やプライベートに関する質問に答えてもらい、どれくらいストレスを抱えているかを分析します。吉田さんは軽い言葉として心理テストのようなものだと例えています。
個人ごとの結果を経営者が見ることはできませんが、部門別の結果は見られます。営業部門はストレスが高く、総務部門は低い、といった傾向がわかるということです。
吉田さんは、その結果を受けて会社が原因を調べ、対応することが大切だと話します。たとえば営業部門のストレスが高い背景に、パワハラ気質のトップの存在があれば、指導や降格・配置転換の検討につながるといいます。
見落としがちな休養室、IPO準備でつまずくことも
最後に、吉田さんが「かなりマニアックな論点」として挙げたのが休養室です。50人以上になると、会社に休養室を設けなければなりません。
正確には、常時50人以上の労働者を使用する事業所、または常時30人以上の女性労働者を使用する事業場が対象になると説明されています。
休養室の目的を吉田さんは、小学校の保健室のようなもので、体調が悪くなったときに休む場所だとかみ砕いています。
この論点は実は抜け落ちている会社が多いのではないかと吉田さんは見ています。問題になりやすい例として、IPO準備中の会社が挙げられました。
休養室の不備を労基署から指導され、IPO ── 新規株式公開。未上場企業が株式を証券取引所に上場し、一般投資家が売買できるようにすること。上場前には労務面の整備も審査対象になる。がスケジュール通りに進まなくなることもあるといいます。
だからこそ、こうしたマニアックな論点まで網羅的にカバーできるよう、人事労務担当者や経営者は気をつけていきましょうと締めくくっています。
まとめ
この回のポイントは、50人を境に発生する安全衛生の義務を「50人になってから」ではなく、40人台のうちから先回りして準備することです。産業医や衛生管理者は短期間で用意できないため、採用計画をもとに早めに動く姿勢が重要だと吉田さんは繰り返し伝えています。
- 常時50人以上になると産業医の選任義務が発生し、事由発生から14日以内という短い期限がある
- 衛生管理者は資格が必要なため、40人台の段階から取得を進めておく
- 定期健康診断は50人未満でも必要で、50人以上になると労基署への報告義務が加わる
- ストレスチェックは部門別の傾向から会社の課題に気づくための施策
- 休養室は50人以上、または女性30人以上で必要になり、IPO準備でつまずく例もある






