なぜ「学業との両立支援」を取り上げるのか
今週のテーマは学業との両立支援です。両立支援というと一般的には育児や介護が思い浮かびますが、吉田さんが取り上げるのは、法律の規制がない学業との両立支援です。
吉田さんがこのテーマを選んだのは、自身が学業との両立で大きな経験をしたからだと話しています。具体的には、息子が幼稚園を受験したという経験です。
受験の準備は妻がメインで塾に通わせるなどしていたものの、吉田さん自身も塾に付き添ったり面接対策をしたりしたそうです。幼稚園受験でもここまで大変なのか、というのが終わった後の率直な感想だと語られています。
正直、幼稚園受験でもここまで大変なんだっていうのが終わった後の感想です。
吉田さんの会社はリモートワークで、家にいる時間も長く、スタッフもフレックスで自由に働ける環境があります。そういう環境でなければ受験も乗り切れなかっただろうと振り返っています。
出社型9時〜18時では両立できない、という実感
吉田さんは、もし出社型で9時から18時まで必ず会社にいる就業形態だったら、受験との両立は難しかったと話しています。
理由は塾の通い方にあります。毎週特定の曜日に塾へ通わせる必要があり、その日は午前中に塾へ行くことになります。出社型だと毎週決まった曜日に遅刻していることになり、気まずくなってしまうというわけです。
毎週特定の曜日に塾に通わせなきゃいけないから、その日は午前中塾に行くんですよ。でも(出社型だと)その時点で、毎週あの人特定の曜日に遅刻してるよねみたいな話になって気まずくなっちゃうんですよね。
こうした自身の体験や、これまでの周囲の話を振り返ると、家族の受験を理由に退職する人は少なくないのではないか、と吉田さんは考えています。
ただし、会社を辞めるとき、本当の退職理由をそのまま言う人は少ないと吉田さんは指摘します。多くはそれらしい無難な理由を伝えるものだからです。
だからはっきり「家族の受験を支援したいから会社退職します」なんていう人はあんまりいないのかなと思います。
そのため、無難な理由を言って退職届を持ってきた人の中には、実は家族の受験を理由に辞めた人も一定数いるのではないか、というのが吉田さんの仮説です。
受験には「終わり」がある。だから支援する価値がある
吉田さんは、学校の受験には受験日が決まっているという特徴に注目しています。合格でも不合格でも、その日まで行けば受験は終わるからです。
つまり、その日まで会社が支援してあげられれば、その人は辞めずに済むかもしれない、というのが吉田さんの考えです。
辞めずに済むということは、会社がその人に教育してきたことや、その人が会社で学んできたことが無駄にならないということでもあります。
そこまで(受験日まで)会社が支援してあげられれば、その人って辞めずに済むかもしれないんですね。
本人にとっては職場を変えなくていいというメリットがあり、会社にとっては教えてきたことがゼロにならないというメリットがあります。だからこそ、育児・介護だけでなく学業との両立支援も考えた方がいい、と吉田さんは話しています。
残業の上限と在宅勤務、2つの支援制度
吉田さんは、具体的な支援制度として、育児・介護休業や短時間勤務と似た仕組みを用意すればいいと提案します。まず出てくるのは労働時間の規制です。
ただし短時間勤務まで認めると他のスタッフからの反発もあるため、まずは残業時間を一定以下にするルールを設け、申請してきたスタッフには会社として認める、という形が現実的だと話しています。これなら家族の受験支援に向けた予定が立てやすくなります。
もっと手厚く支援するなら、育児休業の短時間制度のように所定労働時間自体を短縮する方法もあります。ただ、そこまでやるかどうかは会社で議論した方がいい、というのが吉田さんの立場です。
2つ目の制度は在宅勤務です。受験は当日に熱を出したり体調不良だったりすると、それだけで受けられなくなってしまいます。1年や2年努力してきたものが、当人にとっては相当悔しい結果になりかねません。
そこで、受験1週間前は在宅勤務できるという制度があれば、感染リスクが大幅に下がると吉田さんは言います。特に小さい子どもの受験は風邪も引きやすく体調も崩しやすいため、効果が大きいと考えられます。
こうした制度があると、スタッフは会社が自分たちを大切にしてくれていると感じ、会社に感謝してくれるのではないか、と吉田さんは話しています。
どこまで支援する? 対象の「線引き問題」
一方で、こうした制度にはデメリットもあると吉田さんは指摘します。受験支援をどこまで対象とするのか、という線引きの問題です。
吉田さんの場合は息子の幼稚園受験でしたが、幼稚園から支援するのか、と疑問に思う人もいるといいます。受験は中学からでいい、いや高校から、大学だけでいいのでは、といったさまざまな意見が出てくるからです。
さらに、ここまでは座学の勉強を想定していましたが、将来プロ野球選手やプロサッカー選手になりたいという人もいます。そうした進路を支援するのか、という問題も出てきます。
どこまで支援するのかは会社で話し合って決める必要があり、そこで線引きや不平等の問題が生じます。それがスタッフの新たな不満のきっかけになるかもしれない、というのがデメリットです。
従業員本人の資格勉強と、リスキリングの後押し
ここまでは家族の受験という文脈で話してきましたが、学業との両立支援として一般的に想像されるのは、従業員自身の勉強だと吉田さんは言います。
吉田さんの会社は社会保険労務士事務所なので、社会保険労務士試験を受けたいという人がいます。税理士事務所なら税理士試験を受けたいという人がいるように、自分が勉強したいから両立支援をしてほしいという話になります。
この場合も、残業時間の規制や試験1週間前の在宅勤務など、家族の受験と同じような制度を設けることになると吉田さんは考えています。
こうした制度を取り入れると、政府が後押しするリスキリングの文脈にも乗れると吉田さんは話します。リスキリング ── 新しいスキルや知識を学び直すこと。近年は政府が労働者の能力開発を支援する文脈でこの言葉を使っている。
この会社にいれば勉強する時間も確保できる、スキルアップできる、と従業員が会社にいい感情を持ってくれると考えられます。
逆に、そうした支援がない会社もあると吉田さんは指摘します。士業事務所で時々聞くのは、あえて仕事量を押し付けて試験に受からせず、独立を防ぐというやり方です。
(税理士事務所で)すごい残業とかすごい仕事量を押し付けて、税理士試験受からせないようにして独立を防ぐみたいなね。使い捨てみたいな感じで人事管理、労務管理してる税理士事務所もあるようです。
こうした職場では、スタッフの会社に対する感情も良くならず、受験に合格できないなら辞めようという話になってしまう、と吉田さんは話しています。
自分の受験制度に必要な「上限」の議論
最後に吉田さんは、従業員本人の受験制度を作る際の注意点を挙げます。従業員がいつまでも資格試験に受からないと、他のスタッフから不満が出る可能性があるという点です。
具体的には、あの人はずっと会社の制度を使って残業の上限があり楽をしている、といった不満が出るおそれがあります。
資格試験は、良くも悪くも無限に受け続けられます。そのため、何回までを対象にするのか、といった上限を会社の中で議論して設ける方がいい、と吉田さんは提案しています。
いずれの制度も任意の制度なので、十分に会社の中で議論した上で、会社の価値観に合うような制度を作っていくことが重要だと吉田さんは締めくくっています。
まとめ
学業との両立支援は法律で義務づけられていませんが、家族の受験や本人の資格勉強を支えることで、離職を防ぎ、教育してきた人材を無駄にしないという効果が期待できます。制度化には対象の線引きや上限の議論が欠かせません。
- 育児・介護だけでなく、学業との両立支援も離職防止の手立てになる
- 家族の受験には終わりがあるため、受験日まで支援すれば辞めずに済む可能性がある
- 具体策は残業時間の上限制度と、受験1週間前の在宅勤務制度
- 従業員本人の資格勉強を支えると、リスキリングの後押しにもなり会社への好感につながる
- どこまで支援するかの線引きや、資格試験の受験回数の上限は会社で議論して決める



