そもそも懲戒処分は何のためにするのか
今回のテーマは「悩ましい懲戒処分の進め方」です。吉田さんは最近、問題社員への対応について相談を受ける機会が多い一方で、その進め方自体をまだ番組で話していなかったと気づいたと言います。
まず押さえるべきは、懲戒処分の目的です。吉田さんは、よくある間違いから話を切り出します。
悪いことをしている従業員を徹底的に懲らしめるために懲戒処分をする、という経営者の方が時々いらっしゃるんですけど、それは間違ってます。
吉田さんによれば、懲戒処分の目的は本人に反省を促し、更生してもらうことにあります。まっとうな職業人として今後も活躍してもらうために処分をする、という考え方です。
怒った社長が「徹底的にやってやるぞ」「もう懲戒解雇確定だ」と言い出すこともあると吉田さんは話します。しかしそうした姿勢は、後の裁判で会社に不利に働きかねません。
後に裁判になった時に、「最初から辞めさせるつもりでしたよね」みたいな形になって、会社にとっても不利です。
本人にとっても、反省の機会が与えられないままでは、その会社での職業人生も、定年後まで含めたトータルの職業人生にとっても良くありません。だからこそ、まず目的を正しく理解したうえで処分をしてほしいと吉田さんは念を押します。
軽い処分から懲戒解雇まで、処分の程度をどう捉えるか
懲戒処分には程度があり、どこまでできるかは就業規則の内容によって決まります。吉田さんは、よくあるパターンとして段階を整理します。
一番重い懲戒解雇について、吉田さんは「極刑に値する」と表現します。有効と認められるハードルは非常に高いため、出すのであれば事前の相談と調査が欠かせません。
(懲戒解雇を)出すのであれば事前に弁護士の先生だったり、いろんなところに相談をして、そもそも懲戒解雇に該当する事由が何なのかっていうのは徹底的に調べた上で出した方がいいです。
中くらいの処分は、減給の制裁、出勤停止、降格あたりです。ただし降格は、懲戒処分としてやるか人事異動の一環としてやるかという論点があり、懲戒処分としての降格は有効性が争われやすいため、あまりやらない方がよいと吉田さんは話します。
さらに吉田さんは、減給や出勤停止まで至る人はかなりの問題社員であり、そもそも懲戒処分で解決するのかという別の問題もあると指摘します。
一番軽いのが、けん責や口頭注意です。ここで吉田さんは、処分の相場観を伝えるための具体的なたとえを持ち出します。
無作為に世の中のビジネスパーソンを百人ぐらい抽出して「今まで始末書を書いたことある方いますか」と無記名投票させても、ほとんどの人は始末書すら書いたことないんですよ。
まっとうな人が道を外した場合、多くはけん責を出せば反省し、そこで事が収まると吉田さんは言います。減給や出勤停止、まして懲戒解雇はかなり珍しいのが実態です。
珍しいがゆえに、いざ処分を検討する段になると、進め方がわからない、前例がないという状態になり、多くの会社が悩むことになります。
事実関係の調査と就業規則の確認から始める
吉田さんはここから、実際の進め方を順に解説していきます。最初にやるべきは事実関係の調査です。
調査では、メールやチャットの履歴、防犯カメラの映像など、なるべく客観的な情報を集めます。加えて、被害者や目撃者といった関係者から事情を聞き、本人にも「これは本当ですか」と確認していきます。
次に必要なのが就業規則の確認です。ここで吉田さんは、懲戒処分の大前提となる重要な論点を挙げます。
つまり就業規則がない会社は懲戒処分ができない、と吉田さんは説明します。就業規則がなければ、今後に向けて作るか、過去の分は諦めるか、話し合いで解決するかという選択になってしまいます。
就業規則には、どういう時がけん責で、どういう時が懲戒解雇か、といった内容が書かれているはずです。作り方は会社ごとに違うため、それを見ながら、調査した事実がどの事由に当てはまるのかを考えていきます。
処分は徐々に重くする。前例とのバランスで程度を決める
処分の出し方について、吉田さんは、本人に反省を促すという観点から、徐々に重くしていくのがスタンダードだと言います。
たとえば遅刻を繰り返すスタッフには、まずけん責処分で始末書を出してもらいます。それでも遅刻や無断欠勤が続くなら減給の制裁、出勤停止と進め、反省の機会を与えても改まらない場合に、最後に解雇を検討する、という流れです。
いきなり減給してはいけないというルールはありません。ただし順番を守った方が、後で懲戒処分の有効性を争ったときに強い、と吉田さんは補足します。
もう一つの難しさは、就業規則を読んだだけでは処分の程度が決めきれない点です。条文は「しばしば遅刻を繰り返す時」のように曖昧なことしか書かれていないためです。
(就業規則に)しばしば遅刻を繰り返す時、と書いてあっても、しばしばってどれくらいなんですか、という話になります。
では何を基準に決めるのか。吉田さんは、その会社が過去にどんな処分をしてきたかという前例とバランスが取れるように決めていく、と説明します。
大会社であれば、さまざまなパターンの懲戒処分が人事部に記録されており、当てはめやすいと言います。一方、中小企業では事情が異なります。
(懲戒処分を検討している中小企業に聞くと)起業してから初めて懲戒処分するんですけど、もう前例なんてありませんみたいな話になります。
前例がない場合は、就業規則を見ながら社労士に相談し、このケースならこれくらいが妥当ではないか、と考えて決めていく形になると吉田さんは話します。
処分の前に必要な「弁明の機会」と懲戒委員会
処分を決定する前に重要な段階として、吉田さんは弁明の機会の付与を挙げます。本人が本当に反省しているのか、開き直っているのか、言いたいことがあるのかを聞く場を設けた方がよい、という考え方です。
これは法律上の必須ではないものの、弁明の機会を与えていた方が、後でトラブルになったときに会社に有利であり、本人の納得感も高まると吉田さんは説明します。
ただし「やった方がいい」という表現には条件があります。これはあくまで、就業規則に弁明の機会を与えると書かれていない場合の話です。
就業規則に書いてあるのに弁明の機会を与えずに処分を出すと、手続き違反として懲戒処分そのものが無効になります。吉田さんはこの点に注意を促します。
同じことが、懲戒委員会や賞罰委員会の開催にも当てはまります。就業規則に、委員会や取締役会の決議で処分を決めると書いてあるなら、必ずその通りに進める必要があります。
就業規則に懲戒委員会を設けてそれの結果で処分を決めますと言った時に、懲戒委員会が開かれてないっていう凡ミスは結構あるので、気を付けてください。
吉田さんによれば、こうした手続きの抜けは実際に起きがちで、せっかくの処分を無効にしてしまう落とし穴になります。
処分の程度に悩んだときの考え方と通知書の作り方
すべてを踏まえたうえで、最後にけん責か、減給か、出勤停止かを決めていきます。就業規則の内容と会社の前例を踏まえて判断しますが、吉田さんは「ここはすごく難しい」と率直に語ります。
考え出すとキリがない、と吉田さんは言います。そのうえで、少し気持ちが楽になる考え方を示します。
(処分の程度で)悩むっていうことは、逆に言うと、争った時の裁判官も悩むはずなので、職を奪うような重い懲戒処分じゃなければ、どれを出してもそんなに変わらないよねっていう開き直りも必要かなと思います。
もちろんこの開き直りを最初の前提にしてはいけない、と吉田さんは付け加えます。それでも、最後はえいやーで決めるしかない場面があるという実感です。
懲戒内容が決まったら、本人に懲戒処分通知書を出します。通知書には、処分の対象となった事実、就業規則の違反箇所、処分内容、処分日を明記します。
最後に、相談でよく出るのが「この事実を公表してもいいか」という質問だと吉田さんは言います。これについては、個人名の公表はやめた方がよいという立場です。
どんな懲戒処分をしたかを今後のために伝えるのは構いませんが、個人名まで公表すると名誉毀損などの論点が出てきてしまうためです。
パソコンを紛失した社員がいたから、その社員に始末書を提出してもらいましたみたいなことは、個人名を出さないで書いていただくのはいいと思うんですけれども、名前は出さない方がいいと思います。
吉田さんは、スモールビジネスでは懲戒処分の前例がなく、どれが正しいか分からないことが多いと締めくくります。そういう時こそ外部専門家の力を借り、妥当な処分を見定めて出すことが、後で揉めないための近道になると話しています。
まとめ
懲戒処分は従業員を懲らしめるためではなく、反省を促し更生してもらうために行うものです。事実調査から就業規則の確認、弁明の機会、通知書の交付まで、手続きを一つずつ丁寧に踏むことが、後のトラブルを防ぐ鍵になります。
- 懲戒処分の目的は懲らしめではなく、本人の反省と更生を促すこと
- 就業規則に懲戒事由がなければ懲戒処分はできない
- 処分は徐々に重くし、過去の前例とのバランスで程度を決める
- 就業規則に弁明の機会や委員会の規定があれば、必ずその通りに進める。抜けると処分が無効になる
- 前例がない中小企業ほど、外部専門家に相談して妥当な処分を見定めるのが安全






