リスナーの質問「本人が事実を認めない場合どうすれば」
この回は、第203回「問題社員との面談技術」の後編に寄せられたコメントへの返答として進みます。吉田さんは、問題行動があっても本人が事実を認めない場合の対応について質問を受けたと説明しています。
寄せられた相談は、介護職の現場で起きているものでした。あるスタッフが特定のスタッフに対して悪口や陰口を言い、無視や嫌みもあるという内容です。
ただし、そのスタッフは利用者への対応には問題がないとのことでした。こうした場合にどう対応すればいいか、という質問です。
問題行動があっても、その事実を本人が認めない場合どうすればいいですか
吉田さんは第203回を聞き直し、放送の最後で「事実関係を認めたら懲戒処分しましょう」と話していたことに触れます。そのため、認めない場合の質問が出るのは自然だと受け止めています。
(第203回では)事実関係を認めたら懲戒処分しましょうみたいなことを言っていたので、確かに事実関係を認めない場合はどうすればいいんだろうっていうご質問をいただくのは自然なのかなと思った
事実を認めないケースは「悪事」と「能力不足」の2つに分かれる
吉田さんは、事実関係を認めない場合を大きく2つに分けて考えると整理します。
1つ目は悪いことを認めないパターン、2つ目は能力不足を認めないパターンです。能力不足を認めないケースも実際には多いといいます。
悪口・陰口、機密情報の持ち出し、金品の持ち出しなど、不正行為そのものを認めないケース
そもそも自分が求められている成果に達していないことを認識していないケース
悪事を認めない相手に、まず何を用意すべきか
悪いことを認めないパターンとして、吉田さんは相談にあった他スタッフへの悪口のほか、会社からの機密情報の持ち出しや、金品の持ち出しを認めない例を挙げます。
こうした場合に一番強いのは物証だと吉田さんは話します。悪口やパワハラの罵倒なら音声データ、金品の窃盗なら決定的な瞬間が映った監視カメラの映像が有効だといいます。
ただし現実には、その手の証拠が「ありません」となるケースがほとんどだと吉田さんは付け加えます。そこからどうするかが実際の課題になります。
本人が認めなくても懲戒処分はできるのか
吉田さんは、本人が認めなくても客観的な証拠を積み重ねれば懲戒処分は可能だと説明します。実際の裁判でも、本人が認めなくても有罪になるケースがあるといいます。
会社の懲戒処分についても、本人が認めないと処分できないというルールはないと吉田さんは話します。ただし、後で争わないためには、なるべく認めてもらう方向で話をした方がいいと考えられます。
物証がない場合は、同僚の証言やチャットのログなど、間接的に推測できる記録を集めて事実認定していくことになります。
証言は数が多いほど真実性が高まると吉田さんは説明します。加えて、被害者本人の証言は中立性に欠けるため、当事者以外の証言を集めることが重要だといいます。
被害者の証言だけだと、たとえば上司の厳しい指導への仕返しで嘘の証言をする可能性も否定できません。だからこそ、当事者以外の中立性のある人の証言が客観性を持つと吉田さんは強調します。
証拠を突きつけても認めない、そのとき何を残すか
吉田さんは、集めた情報を突きつけても、当のスタッフが認めないことは珍しくないと注意を促します。「私は言ってません」と平気で言う人もいるといいます。
当のスタッフさんに突きつけても認めないことがあります。珍しくないんです。「私は言ってませんね」とか平気で言います
そのため、まず動揺しない方がいいと吉田さんは助言します。こんなものだと受け止めておく心構えが大切だと考えられます。
どうしても認めなかった場合に残しておくべきなのは、「認めない」という記録だと吉田さんは話します。悪口が事実として届いているが本人は認めないという確認書を作ることが重要だといいます。
この確認書が効いてくるのは、後により深刻なケースで裁判になった場合です。弁護士の助言で本人が「深く反省したふり」をすることがあるため、面談で認めなかった事実を書面に残しておく意味があります。
その事実確認をした面談で、あなたは認めなかったですよねっていう確認書に一筆もらった方がいい
確認書に署名を求めることの2つの効果
吉田さんは、確認書に一筆もらうことには2つの効果があると説明します。
1つは、書面に署名するくらいなら認めようという人が一定数出てくることです。陰で悪いことをしている人でも、名前を書いて認めなかったと残すのはさすがにできないと感じる場合があります。
もう1つは、勤務態度なども合わせて解雇を検討する際に、「反省が足りない人だった」という証拠になることです。争いになったときにも会社側が強くなると考えられます。
最終的には、就業規則や過去の懲戒処分の記録、行為の重さを判断したうえで、場合によっては懲戒処分を行います。一定の幕引きをしつつ経過観察を続け、同じことが起こらないようにコントロールしていく形になります。
能力不足を認めない人は、そもそも何がずれているのか
もう1つのパターンが、能力不足を認めないケースです。吉田さんは、能力不足の問題社員と話すと、まずスタート地点がずれていることがほとんどだと指摘します。
多くの場合、本人が自分は能力不足の問題社員だと認識していません。そのため、正しい客観的事実を共有できておらず、話が噛み合わないのだといいます。
具体的には、会社が求める期待成果を本人が理解していない状態です。吉田さんは、1時間に10個の成果物を作るのが会社の標準値というシンプルな例で説明します。
8時間働けば80個作るのが標準なのに、その人は1時間に3個しか作れない。会社は能力不足だと言いたくなりますが、本人に聞くと「1時間に10個作らなければいけなかったんですか、知りませんでした」となるケースが多いといいます。
期待成果を提示し直し、理想とのギャップを示す
能力不足の人と話すなら、会社がどんな期待成果を求めているのかを面談で提示し直すことが重要だと吉田さんは話します。会社はそれまでにも伝えているはずですが、面談で改めて示すのがポイントです。
そのうえで、今は3個しかできていないという現実と理想のギャップを伝えることが大切だといいます。
ただし、1時間10個が標準で実際は3個という数値で表せるケースは、製造現場などでは比較的理解してもらいやすいと吉田さんは言います。一方でホワイトカラーの仕事は、何が成果なのかが分かりにくいのが難点です。
同僚とのコミュニケーションや業務内容の質など、成果が抽象的になると、期待成果を提示しても能力不足を理解してもらえないケースがあります。
業務日報でスキル不足を自覚してもらう
成果が抽象的な場合に効果的なのが、業務日報を書いてもらう方法だと吉田さんは説明します。定番の手法だといいます。
毎日、1日に何をしたのかをできるだけ細かく書いてもらうのがポイントです。能力不足の問題社員はPCのログを解析すると日中ほとんど仕事をしていないことも珍しくないため、日報には書くネタがないといいます。
業務日報を書いてもらうとどういうことが起こるかっていうと、書くネタがないので、本人が書けない自分に気づいてスキル不足を自覚し始めます
たとえば書類作成に本来30分から1時間で済むところを、問題社員は平気で3時間かけ、上司の目にはダラダラ仕事をしているように映ります。
そこで上司が「本来は30分から1時間で作ってほしい」と日報をもとに伝えると、本人が期待成果に追いついていないことを自覚できます。
日報を書かせた後、社員は2つのどちらかに向かう
吉田さんは、業務日報を書かせた後は本人の反応が二択に分かれると説明します。
やる気がある
上司のアドバイスをもとに改善し、少しずつ成果が良くなっていく
やる気がない
上司のアドバイスが続くくらいなら会社にいられないと感じ、辞めていく
どちらに転んでも会社としては解決の方向に向かうため、日報を書いてもらい上司がコメントする流れを繰り返すのが有効だと吉田さんは話します。手間はかかると認めつつ、どちらでもいい形になるはずだといいます。
日報がスカスカでも認めない人には比較を示す
吉田さんは、業務日報に書くネタがないのに、書けない自分にすら気づかないケースもあると指摘します。中身がスカスカなのに「8時間仕事したからちゃんとやっている」という顔をする人がいるといいます。
こうした場合は、他との比較を示した方がいいと吉田さんは助言します。ただし名指しの比較はその人が妬まれる恐れがあるため、注意が必要だといいます。
たとえば同じ職種で入社年次が近い人の業務量を示し、あなたはその3分の1くらいではないかと伝える方法です。標準的な人の業務量と問題社員の業務量を客観的に説明し、理解してもらう形になります。
吉田さんは、ここまでやれば大体は解決できるはずだと話します。とはいえさらに難しいケースもあるため、質問があればポッドキャストのコメントを待っていると呼びかけています。
コメントの扱いと番組からの案内
吉田さんは、ポッドキャストのコメントは基本的にインターネット上に公開されると説明します。取り上げてほしくない場合はその旨を記載すれば取り上げないとのことです。
いただいたコメントはその場で返信したり、番組で取り上げたりする形を考えていると吉田さんは話します。取り上げてほしい相談があれば気軽にコメントしてほしいと呼びかけています。
最後に吉田さんは、Xでも労務について発信していることや、社労士法人ワンハートで初回無料相談を受け付けていることを案内し、この回を締めくくりました。
まとめ
事実関係を認めない問題社員への対応は、悪事を認めないケースと能力不足を認めないケースに分けて考えるのがこの回の要点です。本人が認めなくても客観的な証拠や記録を積み重ねることで、会社は対応を進められると吉田さんは整理しています。
- 事実を認めないケースは「悪事」と「能力不足」の2パターンに大別できる
- 悪事の場合、物証が理想だが、なければ中立性のある同僚の証言や記録を集めて事実認定する
- 本人が認めなくても懲戒処分は可能で、「認めなかった」という確認書を残すことに意味がある
- 能力不足の場合は、期待成果を提示し直し、現実とのギャップを本人に自覚させる
- 成果が抽象的な仕事では業務日報や他者との客観的な比較が有効になる






