なぜ問題行動が起きるのか、鍵は「会社をなめている」状態
この回のテーマは「懲戒処分に頼らない会社の運営方法」です。吉田さんによれば、最近の放送では問題社員対応や懲戒処分といった事後対応の話が多かったといいます。
ただ、会社のことを考えるなら、そもそも問題が起こらない状態が望ましい、というのが今回の出発点です。問題を起こさないために、どこに気をつければいいのかを掘り下げていきます。
問題行動を起こす人にはいろいろなタイプがあるものの、吉田さんが相談や実体験を通じて感じている共通点は一つだといいます。
一言で言うと会社のことをなめてるなっていう人が問題行動を起こすと思います。
たとえば「この職場には1年ぐらいしかいないから適当でいい」「この職業は足かけにしか思っていない」といったケースだと、会社が軽く見られてしまうと吉田さんは指摘します。
では、なめられずに済むにはどうすればいいのか。吉田さんが挙げるのは、会社があなたの働きぶりを見ているというメッセージや視線を送り続けることです。
監視と言ったら言い過ぎですけれども、興味関心があって、あなたがうちの会社で成功してほしいんですっていう風なメッセージとか視線っていうのを送り続けるっていうのが最低限必要なことだなと思います。
入社前に「合格ライン」を伝える、期待成果の共有
1つ目のポイントは、入社時やその前後のできるだけ早い段階で期待成果を伝えることです。吉田さんは、内定を出すか出さないかを決める段階、本人が承諾する前に伝えるのが理想だといいます。
吉田さんは前回・前々回で触れた「期待成果の不一致」を例に説明します。ある単調作業で、会社は1時間に10個の成果物を求めているのに、本人は3個しか作っていない、という状況です。
うまくいかない典型は、本人が「1時間に10個作らなければいけない」ことを自覚していないケースだといいます。だからこそ入社前や内定段階での共有が効いてきます。
うちの会社に入社したら一時間十個の成果物を作らなきゃいけないんですよ、これが標準なんですみたいなコミュニケーションが取れてるとスムーズです。
「先に言ったら説明、後に言ったら言い訳」という言葉のとおり、正社員としての合格ラインを先に伝えられているかがポイントになると吉田さんは話します。
合格ラインの例として、単調作業なら1時間10個、営業職なら担当する売上が数千万円、書類作成なら1日何個、といった具体的な基準が挙げられました。
内定・入社前に基準を伝える
「1時間10個が標準」など合格ラインを先に示す
本人が基準を自覚する
求められる水準を理解した状態で働き始める
不足を指摘できる
「標準10個に対して3個だから不足」と伝えられる
最初に基準を伝えているからこそ、「あなたはまだ不足しています」というコミュニケーションが成立します。これが会社がなめられないための最初のポイントだと吉田さんは述べます。
見る・見られるの関係を明らかにする、グッドもモアも伝える
2つ目のポイントは、見る・見られるの関係性を明らかにすることです。会社が見ていることを、さまざまな手段で伝えていくのが重要だといいます。
具体的には、職業として成功してほしいという気持ちを込めて「うちの会社で何をやりたいですか」「今それができていますか」と問いかけたり、「この間の作業、よかったよ」と細かく声をかけたりすることです。
細かく言っていくっていうのはすごく効果があると思います。あ、ちゃんと上司だったり会社は見てくれてるんだってわかるからです。
さらに、よいところだけでなく改善点も伝えることが大切だと吉田さんは言います。人事評価で使われる「グッドアンドモア」という表現を引きながら、認めつつも「もっとこうした方がいい」と伝えるのがポイントです。
こうしたやり取りがあると、社員は「会社は自分をちゃんと見ている」と感じ、なめた行動を取りづらくなる。結果として問題行動も減っていく、というのが吉田さんの見立てです。
一方で、上司があまりに無関心だと、社員の側に「この人の下なら悪いことをしてもいいか」という心の緩みが生まれることもあると指摘します。上司が心の歯止めをうまく作れていないケースです。
つまり、期待成果を伝え、それをモニタリングし、よいところはよい、足りないところはもっとやってほしいと伝え続けることが重要だとまとめています。
絶対にやってはいけない「惰性の昇給」
3つ目は、より実務的なポイントです。吉田さんが「絶対にやってはいけない」と強調するのが、惰性で昇給させることです。
たとえば期待成果に届いておらず、面談しても「まだまだだな」という状況のスタッフを、勤続年数が長いから、他の人も上げているからかわいそうだから、といった理由で昇給させるのはよくないといいます。
これは会社が儲けたいからではなく、本人のためにならないからだと吉田さんは説明します。できていない状態で昇給させると、本人が「俺はできている」と錯覚してしまうからです。
できてない状態で昇給させてしまうとどうなるかっていうと、俺はできているっていう風にどんどん本人錯覚してっちゃうんですよ。
すると、本人が思う自分の実力と客観的な実力が乖離していきます。周りへの態度が横柄になったり、できていると思い込んで反省せず、さらに成長しなくなるという問題が起きます。
これが積み重なると、実力が伴わないまま年功序列で給料が上がり、アラフォーやアラフィフで年収1000万円台に到達するようなケースが生まれます。こうした職場は、揉めるときに大きく揉めると吉田さんは言います。
その人が逃げ切って定年を迎えられればいいものの、そう簡単ではありません。M&Aによる買収で株主が変わったり、経営者や上司が変わったりすると、人事評価の方針が見直されることがあるからです。
実力より高い給料になっていることは、いつか誰かが気づきます。そこにメスを入れる話になると、努力してこなかった人が45歳や50歳で突然努力を求められる、非常に厳しい状況に置かれます。
転職を検討しても、こうした人は転職市場で高い値がつきにくいと吉田さんは指摘します。エピソードトークや苦労話が出てこないため、外に出れば大幅な給料ダウン、社内に残れば年収に見合う高い成果を求められる、という板挟みになります。
転職市場で高い値がつかず、大幅に給料が下がる
もらっている年収に見合う高い成果を強く求められる
どちらを選んでも大変で、「人生が詰んだ」という気持ちからサボりだすなど、問題行動に走ることもあると吉田さんは話します。
会社が成長すれば「いい離職」が起き、問題行動は未然に防げる
4つ目は、問題行動が起こる前の話です。吉田さんは、会社自身が成長していくことがとても重要だと述べます。
成長していく会社では、新しい部署や新規事業ができ、これまでとは違うチャレンジが求められるようになります。経営者もスタッフも、やったことのない仕事に挑戦しなければならなくなるのです。
そうした環境ではチャレンジする人が評価される一方で、なめた態度でルーティンをこなすだけの、チャレンジ精神のない人は評価されにくくなります。
結果として、サボりながら給料をもらおうとするやる気のない人は職場に居づらくなり、自ら緩めの職場を求めて転職していくと吉田さんは言います。
つまり、問題行動が起こる前に退職という形で決着し、問題行動の未然防止につながるというわけです。吉田さんは、こうした離職を「いい離職」と表現します。
去っていくのは残念でも、会社にとってはよい離職もある。そうしてよい人だけで固めていけると、いい会社になっていくのではないか、と吉田さんはまとめています。
なお、この回の最後には「いい離職・悪い離職」の話にも触れかけましたが、時間の都合で今回は見送られました。次回はいい離職率と悪い離職率がテーマになる予定です。
まとめ
懲戒処分という事後対応に頼らないためには、会社が社員を見ていることを伝え続け、期待成果と評価を正しく運用することが鍵になります。惰性の昇給を避け、会社自身が成長していくことで、問題行動は未然に防げるという内容でした。
- 問題行動は「会社をなめている」状態から生まれやすく、見ているという視線を送り続けることが予防になる
- 入社前や内定段階で正社員の合格ラインを伝え、期待成果を先に共有しておく
- よい点も改善点も細かくフィードバックし、見る・見られるの関係を明らかにする
- 惰性の昇給は本人の実力認識を歪め、将来大きな行き詰まりを招くため避ける
- 会社が成長しチャレンジを評価する環境を作ると、やる気のない人が自ら去る「いい離職」が起きる






