そもそも社会保険の届出とは
今回のテーマは、社会保険の届出を間違えてしまったときの対応です。4月や5月ごろは「4月1日に入社した人の届出を間違えていた」という相談が増える時期だといいます。
まず前提として、一定の要件に該当する人が入社すると、社会保険に加入する必要があります。たとえばフルタイムで入社した人は当然対象です。
入社した場合は、日本年金機構公的年金の運営を担う組織。年金の記録管理や保険料の徴収、給付などの実務を行う。に対して「この人が入社したので社会保険に入れてください」という届出をします。
このとき、氏名や生年月日、入社日、そして見込みの給料額を届け出ます。たとえば見込み40万円の人、という形で申請し、最初の社会保険料が決まっていきます。
その後、給料は上がったり下がったりしますが、低いままでは公平ではありません。そこで年に1回、社会保険料を決め直す算定基礎届4〜6月に支払われた報酬の平均から、その年9月以降の社会保険料(標準報酬月額)を決め直す毎年の手続き。という届出があります。
さらに例外的に、給料が急に大きく上がった場合などは、年1回の届出とは別に随時改定報酬が大きく変動したときに、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定する手続き。という届出も必要になることがあります。
よくある間違いのパターン
本題は、この届出を間違えてしまったときの対応です。一番多いのは、入社時の見込み給料額を間違えて記載してしまうケースです。
極端な例では、40万円の人を30万円と書いてしまったり、ひどい場合は400万円と書いてしまうこともあり得ます。
ただ、そこまで大きな間違いはあまりなく、ありがちなのは手当を抜いて申請してしまうケースだといいます。
給料40万の人って、普通は通勤手当ももらってるはずなんで、通勤手当も社会保険の世界だと報酬って考えますから、それを入れなきゃいけない。でもそれを入れ忘れてました、とか。
通勤手当のほか、資格手当や役職手当などを付けていたのを忘れて、それを抜いた状態で届け出てしまうこともあります。
さらに忘れやすいのが残業代です。見込みの給料額には残業代も含めるため、残業代をまるごと抜いて申請してしまう間違いも起こり得ます。
間違いに気づくきっかけと、労務担当者がすべきこと
間違えていた場合、労務担当者は「間違っていたので直させてください」という訂正の届出を出す必要があります。
訂正しないと、本来より高い、または低い社会保険料のままになり、本人にとって不利・有利が生じてしまいます。他の従業員との公平性も保てません。
間違いに気づくきっかけはいくつかあります。最も多いのは、初回の給料計算で総支給額と控除している社会保険料を比べたときに、金額が合わずに気づくパターンです。
2つ目は、届出後に届く決定通知書届出内容にもとづき、その人の標準報酬月額(社会保険料の基礎額)が決まったことを知らせる通知。の内容を見て、前提となる金額がおかしいと気づくパターンです。
ここまでは会社側が気づくケースですが、最も気まずいのは本人が気づくパターンだといいます。
初回の給料明細が配信されたときに、「なんか私の社会保険料、異常に低くないですか?」とか、「異常に高くないですか?」みたいなことに気づかれる。本人の指摘で気づかれるっていうのは、すごく気まずいです。
放置するとどうなるか
初回の給料明細で気づかれるならまだよいものの、本当に気まずいのは、もっと後になってから発覚するケースです。
厚生年金の標準報酬月額は、年に1回、本人の自宅に「過去1年間はこの金額でしたよ」というお知らせが届きます。そこで本人が気づくと、会社は信頼を失いかねません。
たとえば給料40万円の人を、間違えて50万円で高く届け出ていた場合、本人は本来払う必要のない社会保険料まで負担させられていたことになります。
本人からすれば、自分が気づかなければずっと高いままだった、という話になり、人によっては強く怒ることもあります。多く取っていた分は返す必要があり、会社は会計処理の修正が必要になるかもしれず、双方にとってマイナスです。
多く取っていた場合はまだよいほうで、トラブルになりやすいのは社会保険料を低く取っていたケースです。追加で本人からお金をもらう必要があり、これはこれでひと悶着あります。
余談として、特に気まずいのが賞与支払届賞与を支払った際に、そこから徴収する社会保険料と将来の年金額の計算のために提出する届出。の提出漏れだといいます。
賞与支払届を出してないっていうことは、将来の年金に反映されてない状態で、本人にとって何のプラスもない。そういった中で会社が社会保険料を引いてたってことになるんで、場合によっては、会社がすごくズルして社会保険料を払わずに、自分たちの懐に違法に天引きしていたんだ、みたいに捉える人もいる。
だからこそ、正しく届け出ることが基本であり、もし間違いがあったなら、なるべく早く気づいて訂正するほうが、みんなにとって良い状態になるといいます。
見込みが外れても訂正できないケース
最後に、意外と誤解している人が多いポイントとして、入社時の届出は「見込みの給料額」で決める、つまり予想である点が挙げられます。
予想である以上、外れる可能性もあれば当たる可能性もあります。そして残業の見込み時間が外れた場合は、取得時訂正入社時(資格取得時)に届け出た標準報酬月額を、後から訂正する手続き。ができないのです。
たとえば給料30万円の人が、残業が多い会社のため残業代を月5万円と見込み、合計35万円で届け出たとします。ところが仕事がうまく回り、残業代が5000円で済んだ場合を考えます。
この場合、実際の給料は30万5000円なのに、35万円の等級で届け出ているため、社会保険料は高い状態になります。
こういう状態のときに、取得時の訂正ってできるんですか、って質問されます。これは日本年金機構がQ&Aで明確に出していて、残業の見込み時間や見込み金額が実績とずれた場合は、訂正できないというルールになっています。
スタッフから「残業が少なかったので社会保険料は減りませんか」と言われても、対応は難しいということです。経営者から「高い状態で届け出たが下げられないか」と相談されても、下げられないというのが正しい理解になります。
年金事務所の調査官が誤解しているケースにも注意
ここで注意が必要なのは、年金事務所の調査官でも誤解しているケースがある点です。
たとえば給料40万円の人を、残業代を月1万円と見込んで41万円で取得したとします。ところが業務が多く、残業代が5倍の5万円になり、実際の初回給料が45万円になった場合を考えます。
このケースで、調査官が「取得時訂正してください」と言ってくることがあるといいます。しかしQ&Aにある通り、見込みの残業と実績がずれた場合は訂正できません。
それを根拠に、取得時訂正しなくていいですよね、っていうふうに言い返さないと、もしかしたら年金事務所が間違った指導をしてきて、それでつい取得時訂正をしてしまう。で、本人に「社会保険料の届け出が間違っていた、追加で社会保険料ください」みたいなコミュニケーションを取らなきゃいけないかもしれない。でも本来は必要ないんです。
まとめ
社会保険の届出は、正しい金額で行うのが基本です。間違えた場合は早めに訂正し、本人とのやりとりが生じるなら丁寧に説明することが大切だと語られました。一方で、残業の見込みが実績とずれた場合は取得時訂正ができないルールがあり、調査官の誤った指導にも注意が必要です。
- 入社時の届出では、通勤手当・資格手当・役職手当・残業代を含めた見込み給料額を正しく申請する
- 間違いは初回の給料計算や決定通知書で早めに気づき、訂正届を出すのが望ましい
- 放置して本人が気づくとトラブルになりやすく、特に賞与支払届の提出漏れは信頼を大きく損なう
- 残業の見込みと実績がずれても、日本年金機構のQ&A上、取得時訂正はできない
- 年金事務所の調査官が訂正を求めてきても、ルールを根拠に必要ないと確認することが大切
