そもそもインセンティブとは何を指すのか
番組では、今回から全3回にわたって、経営者が知っておきたいインセンティブ設計について取り上げます。第1回のテーマは賞与です。
まず安田さんが「なんとなくわかってはいるけれど、本当のところどうなのか」とインセンティブの意味をたずねます。
吉田さんによると、法律上「インセンティブとはこういうものだ」という定義は決まっていないといいます。
法律上の定義として、インセンティブとはみたいなものは決まってないんですけれども、一般的にはインセンティブというと、給与設計して外的な刺激を与えるというか、報酬設計をして、スタッフの皆さんにやる気になっていただくような仕組みをインセンティブと呼ぶことが多いです。
安田さんは「頑張ったらもらえるみたいな、ざっくりそんなイメージ」と受け止めます。
代表的なインセンティブとしてまず挙がるのは歩合給です。売上の何パーセントかを給与として支給する、といった形が多いといいます。
ただし、日本の企業で業績や個人の頑張りに連動して支払われるものとして最初に出てくるのは、やはり賞与です。そのため、この回では賞与に絞って話が進みます。
なぜ賞与は「ブラックボックス」に感じられるのか
吉田さんは、賞与について基本的なところから話したいと切り出します。理由は、金額をいくらにするか、どう支払うのがよいかで、経営者が悩むことが多いからです。
安田さんも、働く側として賞与がどう決められているのかわからないまま働いていた経験があると振り返ります。
私もサラリーマンの時は賞与を受け取ってましたけれども、どういう基準で決まってるのかとか、なぜこの金額になったのかっていうのはブラックボックスでしたね。
安田さんは「業績と連動してもらえるのかな」といつも思っていたと話し、支払う側も受け取る側も、決め方があいまいなまま賞与が動いていることがうかがえます。
賞与は「出すか出さないか」から自由に決められる
ここで吉田さんは、評価の基準を開示するかどうかも含めて、賞与の設計は実はものすごく自由だと指摘します。
まず、賞与を会社として支給するかしないかそのものが自由です。「正社員なら必ずもらえるもの」と思っている人もいますが、それも思い込みだといいます。
正社員だったらもらえるケースが多いですけれども、会社さんによっては正社員も含めて、うちの会社は一切賞与を支給しませんっていう会社もあります。
逆に、契約社員やパートに賞与を出すことも可能です。近年は同一労働同一賃金の流れもあり、正社員だけに賞与を出していると、パートや契約社員の不満の種になるため、一定額を出す会社も珍しくないといいます。
どのように設計するかも会社の自由です。中小企業では特にルールを決めず、「基本給の1ヶ月分を出そう」といった決め方をしているケースが多いと吉田さんは話します。
会社の業績で決めるか、個人の成果で決めるか
安田さんは、自由に決められるのはいい面もある一方で、どう設計すればいいか迷う経営者も多いのではないかとたずねます。
吉田さんが挙げる大きな方向性は、会社の業績に応じて決めるのか、個人の成果に対して決めるのかを先に定めることです。
会社に重きを置くのか、個人にフォーカスするのかっていうところですね。
会社の業績への貢献を評価したいなら、たとえば「利益の30パーセントを今年の賞与原資にする」といった約束をする方法があります。原資の決まり方がわかりやすく、業績が増えれば賞与も増えるとわかるため、チーム一丸で貢献しようという雰囲気になりやすいといいます。
もう一つは、賞与は個人の評価なのだと割り切る方法です。個人の営業成績や成果に対して、何パーセントかを賞与として還元する設計をしている会社も多いと吉田さんは説明します。
利益の一定割合を賞与原資にするなど。原資の決まり方が明快で、チームで業績に貢献する雰囲気になりやすい
個人の営業成績や成果に対して一定割合を還元する。個人の頑張りが賞与に直結する
大企業は「ごちゃごちゃ」でも中身がはっきりしている
安田さんは、これまでの感覚では2つの方向性がごちゃごちゃになっているケースが多い気がすると述べます。
吉田さんも、正直なところ、なんとなく会社の雰囲気で決めているケースは多いと認めます。ただし大企業では、混ざっている場合でも、どう混ざっているのかがはっきりしているといいます。
たとえば賞与として50万円を出す場合、そのうち30万円は業績部分、残りの20万円は所定の計算式による個人評価の結果、というように内訳が明確です。
個人の賞与と業績賞与みたいな感じで、明細区分してしっかり計算した上で出してるっていう会社が大企業だったら多いかなと思いますね。
安田さんは、その方がチーム性も失われず、個々も頑張れるので、どちらのよい面も残せると評価します。
吉田さんは、会社がどういう基準で賞与を出しているのかを先に明示しておいたほうが、みんなが理解しやすいと補足します。
基本給を下げても、賞与も残業代も自由にはならない
ここで吉田さんは、賞与でよくある勘違いを一つ紹介します。中小企業の経営者と話していると、基本給をすごく下げたがる人が多いというのです。
その理由は2つあります。1つは残業代の計算を安くしたいから、もう1つは賞与の金額をコントロールしたいからです。
- 基本給しか残業代の計算に入れなくてよいと考えて、基本給を下げたがる
- 基本給に賞与が連動すると考え、基本給を下げて賞与も抑えようとする
しかし、残業代については「基本給だけで計算すればよい」というのは間違いで、意味がないと吉田さんは結論づけます。
賞与についても、必ず基本給に連動させなければならないというルールはありません。安田さん自身も「賞与は給与の1.5倍」など、給与を基に決められるものというイメージを持っていたと話します。
変に基本給を下げるぐらいであれば、そもそもの賞与設計というのを見直して、基本給と賞与の連動っていうのを断ち切った給与設計にすれば、経営者の人も自分がどう評価したいのかっていうのを、その賞与の中で自由に表現できると思うので。
自由だからこそ、慣習と就業規則には注意する
安田さんは、経験則で「賞与とはこういうもの」と思い込んでいたものは、ほぼすべて思い込みで、自分で設計していけるものだとよくわかったと話します。
一方で吉田さんは、自由とはいえ注意点があると付け加えます。就業規則の書き方や、これまでの慣習は無視できないという点です。
ずっと基本給1ヶ月分支払ってきたのに、ある年から賞与ゼロですってなったら、これは場合によってはルール違反っていうことになるので、その点は注意していただきたいなと思います。
安田さんは、あくまで会社としての方針や、これまでの慣習を大事にしながら設計していくことが必要だとまとめます。
まとめ
賞与は法律上の定義もなく、出すかどうか、どう決めるかまで会社が自由に設計できるものです。「正社員なら必ずもらえる」「基本給の何ヶ月分」という思い込みを外し、会社の業績で決めるのか個人の成果で決めるのかという方向性から考えることが、経営者にも従業員にも納得感のある賞与制度につながります。
- インセンティブに法律上の定義はなく、頑張りに報いる仕組み全般を指す。賞与はその代表例
- 賞与は支給の有無から金額の決め方まで自由に設計でき、正社員でも出さない会社もある
- 設計の軸は「会社の業績で決めるか」「個人の成果で決めるか」。大企業は内訳を明細で区分している
- 基本給を下げても残業代は安くならず、賞与も基本給に連動させる必要はない
- 自由といっても、就業規則やこれまでの慣習を無視すると、賞与ゼロがルール違反になる場合がある






