なぜ中小企業でも退職金を作った方がいいのか
前回から3回にわたり、経営者が知っておきたいインセンティブ設計について話が続いています。今回のテーマは退職金です。
吉田さんは、退職金でとくに重要なのは「最後にもらう」という点だと話します。
その理由として、自身の父親が定年退職するときの様子を挙げています。
私の父が定年退職するときは、退職金が入金されるまではとにかく行儀よく会社でしておこうと言っていました
定年退職に限らず、退職金があるかないかで、従業員が引き継ぎに協力してくれるか、会社が希望する退職時期に寄り添ってくれるかが変わってくるといいます。
さらに、採用面でも影響があると指摘します。求人ページに「退職金あり」と書けるかどうかで反応が変わり、在職中の従業員が安心して働けるかどうかにも関わるためです。
こうした点から、中小企業であっても退職金は作った方がいいと吉田さんは話します。
退職金は自由に設計できる。よくある「最後の給与に連動」方式
安田さんは、退職金がどういう制度なのか、勤めるほど多くもらえるのか、何年勤めればもらえるのかといったイメージがわかっていないと率直に打ち明けます。前回の賞与と同じように、退職金も自由なものなのかと尋ねました。
吉田さんは、退職金も基本的に自由に設計できると答えます。制度を作るか作らないかも自由で、辞め方によって金額が増減するケースもよくあるといいます。
たとえば定年退職なら退職金が多いが、自己都合や一身上の都合で辞めた場合は減額される、といった設計はよく見られます。
退職金には年金型など幅広い種類がありますが、一般的なイメージは、退職時に一気に支給される一時金です。
この退職一時金制度で最もメジャーなのは、退職時の給与、つまり基本給に連動して金額が決まる方式だと吉田さんは説明します。多くの会社がこの設計を採用しているといいます。
最後の給与に連動する退職金の「落とし穴」とは
ここで吉田さんは、最後の給与に連動する退職金制度には落とし穴があると切り出し、安田さんに問いかけます。
最後の給与に連動する退職金制度の落とし穴とは何か
吉田さんは具体例で説明します。20歳で入社し60歳で退職するとして、入社直後からずっと活躍してきた人と、長く活躍できずに50代後半でようやく芽が出た人を比べます。
前者は早い時期から退職時まで給料50万をもらい続け、後者は長く低い給料で、最後に昇給して同じく50万になったとします。この2人のうち、会社に貢献したのはどちらかという問いです。
前者ですかね。ずっと成果を出し続けてきた人の方が、貢献年数は長い気がします
吉田さんも同意します。退職時の給料が同じでも、会社が評価すべきなのは入社直後から活躍してきた人だと考えられるからです。
ところが最後の給与に連動する方式では、途中の過程は関係なく、最後にいくらもらっていたかだけで退職金が決まってしまいます。
安田さんは、言われるまで想像もしなかったと驚きを見せます。今があるのはいろいろなケースの積み重ねだからです。
平等性・納得性を高めるポイント制のしくみ
では、どうすれば平等で納得感のある退職金制度を作れるのか。吉田さんが挙げる定番の答えがポイント制です。
これは、毎年その頑張りに応じて「あなたは何ポイント」と決めていく仕組みです。仮に10点満点で、10点から0点までがあるとします。
入社直後からずっと活躍してきた人は、毎年10点前後を取り続け、ポイントが着実に貯まっていきます。
一方、大器晩成型の人は、最初のうちは1点2点と低く、50代後半で10点をもらったとしても、累計では早くから活躍してきた人ほど貯まりません。
この貯まったポイントに応じて退職金を支給すれば、平等性のある制度ができると吉田さんは話します。
大手の会社は、規模が大きくなるほどポイント制に移行している傾向があるといいます。
中小企業では、ポイントの管理が面倒に感じられるかもしれませんが、そこまで難しいものではないと吉田さんは言います。毎年何ポイントかを記録し、退職時に精算する形にすれば、納得性のある退職金制度になるためです。
退職時の基本給だけで金額が決まる。設計はシンプルだが、途中の貢献を評価できない。最後に給料が下がった状態で退職すると過小評価になりうる
毎年の頑張りをポイントで積み立て、累計に応じて支給する。在職中の貢献の積み重ねを反映でき、平等性・納得性が高まる
評価の積み重ねが従業員の納得とやる気につながる
安田さんは、ずっと頑張り続けた人だけでなく、最初は勢いがよくても途中から下がる人など、さまざまなケースがあると指摘します。
そのすべてに目を通して点数がつくことは、本人にとっても納得できると話します。良い部分だけ、あるいは悪い部分だけを切り取られることがないためです。
吉田さんも、前半に活躍して後半は活躍できなかった人の場合、最後の給料で決めると今までの頑張りが過小評価されかねないと補足します。だからこそ、導入できるならポイント制がよいと考えられます。
安田さんは、前回の賞与の回と同じく、従業員のやる気や「認められている」という感覚を大事にする制度は、働くうえで良いと感じたと述べます。
自由であるが故に、いい加減な決め方をしている会社が多いので、ここはこだわりを持って決めると、他の会社との差別化につながる
大事にされていると従業員が感じられることは、うれしいことだと2人は話し、退職金の回を締めくくりました。
まとめ
退職金は自由に設計できるからこそ、決め方に会社の姿勢が表れます。最後の給与に連動する方式には途中の貢献を評価できない落とし穴があり、吉田さんはポイント制を平等性・納得性の高い方法としてすすめています。
- 退職金は中小企業でも作った方がよく、引き継ぎ協力・採用・在職者の安心に影響する
- 退職金は自由に設計でき、辞め方によって金額を増減させる設計もよくある
- 最後の給与に連動する方式は、途中の貢献を評価できないという落とし穴がある
- ポイント制なら毎年の頑張りを積み立てて精算でき、平等性・納得性が高まる
- 自由な制度だからこそこだわって決めることが、他社との差別化につながる






