そもそも傷病手当金とは何か
この回では、社会保険労務士の吉田優一さんが傷病手当金を取り上げています。まず、傷病手当金とは何かという基本から解説が始まります。
傷病手当金は、業務外の怪我や病気が原因で欠勤や休職をしている人に出る給付金です。お金は健康保険から支払われます。
受給の条件は、連続3日間休んだ翌日からです。一般的な会社では欠勤中に給料は出ないため、休んで4日目から傷病手当金が出るイメージだと説明されています。
支給期間は、もらい始めてから1年6ヶ月です。途中で中断した場合の例外はありますが、基本は1年半もらえます。
いくらもらえるのか、なぜ計算が面倒なのか
金額について、吉田さんは「ここが一番重要」としたうえで、ざっくり言うと普段の給料の3分の2がもらえると説明しています。
ただし「普段の給料」の計算が面倒だといいます。過去12ヶ月の標準報酬月額の平均値をもとに決まる仕組みです。
そのため、先月もらった残業代込みの給料そのものではなく、あくまで12ヶ月分の等級の平均値で決まります。
なぜこんな面倒な決まり方なのか。吉田さんは「端的に言うとズルをした人がいたから」と、その背景を語ります。
かつては、休職や受給を始める時点の標準報酬月額で金額が決まっていた時代がありました。すると、それを悪用する人が出てきたといいます。
例えば無職の人が病気になった。そしたら、じゃあなんか会社でも作って、自分が代表取締役とかになって、傷病手当金をもらおう。
健康保険の等級には上のグレードだと100万円以上のものもあり、そこにわざと加入して高額をもらっていた人もいたそうです。
現在は、12ヶ月の平均値というルールと、標準報酬月額が30万円という低い方の上限が設けられたことで、こうした脱法的な受給はできなくなっていると説明されています。
連続して休まないともらえない待機期間
ここから実務的な注意点に入ります。まず、受給には連続3日間の休みが必要だという点です。
4日目から受給できるため、休みが連続していないと条件を満たせません。
2日休んで、1日出社、2日休んで、1日出社とかになると、それだけで待機期間っていう3日、連続3日間のお休みっていう条件が満たせないので、もらえないんです。
吉田さんは、傷病手当金をもらうのであれば、休むときはちゃんと休んだ方がいいと述べています。中途半端に出社を挟むと、いつまで経っても受給条件を満たせないからです。
退職後ももらえる「資格喪失後の継続給付」
もう一つのポイントが、退職した後ももらえる制度です。正確には、健康保険を資格喪失した後も受給できる仕組みがあります。
これは資格喪失後の継続給付と呼ばれます。1年以上健康保険に加入してきた人が資格喪失、多くの場合は退職した場合に、退職後も傷病手当金がもらえるルールです。
ここに大きな注意点があります。資格喪失の前日に傷病手当金を受けているか、受けられる状態でないと、退職後の傷病手当金はもらえなくなるのです。
最終出勤日で数十万円を失う制度の落とし穴
このルールが引き起こす問題として、吉田さんは生真面目な人の例を挙げています。病気で傷病手当金をもらいながら退職する人のケースです。
お世話になった会社だから、退職日だけでも出社して、皆に挨拶をしてやりきって辞めたい。そう考える人がいるといいます。
最後の日ぐらい出させてやるかみたいな感じで出るとですね、どういうことが起こるかっていうと、資格喪失の前日に出社していて、なおかつ給料を受け取ってますから、傷病手当金が受け取れない状態になってるわけです。
その結果、資格喪失の前日に出社して給料を受け取っている状態になるため、退職後の傷病手当金がもらえなくなってしまいます。
吉田さんはこれを制度の落とし穴と表現しています。最後の花道のつもりで最終出勤日に出てくると、退職後の傷病手当金がもらえなくなるというのです。
場合によっては何十万、何百万円という金額を受け取れるかどうかの分岐になるため、注意してほしいと呼びかけています。
労務担当者がまず案内すべきこと
ここからは労務担当者の視点で、何をすべきかが整理されます。
4日以上連続で欠勤した人がいたら、傷病手当金の対象になる可能性が高いといいます。労務担当者はつい欠勤控除の給与計算に意識が向きがちですが、それだけではないと指摘されています。
欠勤した従業員に対して、傷病手当金の条件に該当していること、会社がその手続きをお世話することを伝えられると、従業員満足度が上がると吉田さんは話します。
案内してないと、実はもらえたじゃんみたいなのが従業員さんから後で気づくと、会社ってちょっと不親切だよねみたいな話になっちゃうんで、気をつけてください。
一般的には会社が案内することが多いため、案内漏れは不親切だと受け取られかねないと注意を促しています。
給与計算期間ごとに申請する理由
一度もらい始めた後は、給与計算期間ごとに申請していきます。末締めの会社なら1日から末日まで、15日締めの会社なら16日から翌15日までを1サイクルにするイメージです。
なぜこの単位なのか。傷病手当金は、会社に出社しておらず給料も出ていないことを会社が証明する必要があるからだと説明されています。
その証明は、1つの給与計算期間が終わらないとできません。そのため、月ごと、つまり給与計算期間ごとの申請が一般的になります。
余談として、3ヶ月分などまとめて申請することも可能ですが、普通はしないといいます。まとめると入金が遅れ、休んでいる人の生活が立ち行かなくなるケースが多いためです。
給与計算期間ごとにしまったら速やかに申請みたいな形にすることがほとんどですね。
申請の際は医師の証明も必要になるため、そうした書類を集めながら月ごとに申請していく流れになります。
傷病手当金と一緒に必要になる休職の手続き
給与計算だけでなく、労務担当者は休職の手続きも行う必要があると吉田さんは付け加えます。傷病手当金をもらう人は、多くの場合休職するためです。
休職の手続きは会社ごとに異なります。一般的には就業規則に基づいて休職辞令を出し、休職に入ってもらう流れになります。
こういった手続きも忘れないようにしてください。
休職については、それだけで1本のテーマになるため、次回のエピソードで取り上げる予定だと案内されています。
まとめ
傷病手当金は普段の給料の3分の2を最長1年半受け取れる健康保険の給付ですが、連続した休みや退職前日の状態によって受給できるかどうかが変わります。労務担当者は、対象者への案内と手続きを丁寧に行うことが求められます。
- 傷病手当金は業務外の病気・怪我で連続3日休んだ翌日から、最長1年6ヶ月支給される
- 金額は過去12ヶ月の標準報酬月額の平均をもとにした、普段の給料の約3分の2
- 休みが連続していないと待機期間の条件を満たせず、いつまでも受給できない
- 退職前日に出社・受給すると、資格喪失後の継続給付がもらえなくなる落とし穴がある
- 労務担当者は対象者への案内、給与計算期間ごとの申請、休職手続きをセットで行う






