ダンサーではない経営者が21年スクールを続けてきた理由
岩花さんはDOD株式会社を経営し、ダンススクール運営、イベント事業、ウェルネス事業を全国で展開しています。
スクールは沖縄から北海道まで各地にあり、運営はすでに21年目に入っています。
意外なのは、岩花さん自身はダンサーではなく、会社員の経験もないという点です。
もともとはミュージシャンを目指していましたが、自分の身の程を知ったと振り返ります。
自分よりも才能ある人たちは世の中にいっぱいいるので、そういう人たちが自己実現していくことにすごく興味があった。
ダンサーの友達がダンスで飯食っていきたいっていうのは、すごいいいやんと心から思ったので、公民館を借りて「俺ビラ配るからレッスンしてよ」と。そんなところから始まった。
大学1回生のとき、友人のダンサーの「ダンスで食べていきたい」という思いを応援するかたちでスクールは始まりました。
当初はノリと勢いで、これほど長く続くとは思っていなかったと話します。
ダンサーが気づいていない「ダンスの価値」
岩花さんは、ダンサーではないからこそダンスを客観的に見られると言います。その視点で感じているのが、ダンスの価値と可能性の大きさです。
13年ほど前、一緒に育てたダンサーたちとカンボジアの村でダンスショーをした経験が原体験になっています。
村人が集まり「もっと見せてくれ、もっと踊ってくれ」とジェスチャーする光景を、踊れない岩花さんは動画に収めながら第三者の目で見ていました。
そこに映る光景がすごすぎて。これすごいと思ったんだけど、ダンサーの人からしたら「普通、普通」という感じだった。
英語なら学ぼうという風潮はあるのに、ダンスは必須ではない。だからこそ、その価値を当たり前に持っている人ほど気づけないのではないかと考えています。
語学を喋れることに価値を置く人は多いけど、当たり前に喋れる人はその価値がわからない。ダンサーの人たちも、ダンスの価値を当たり前だから感じていない人が多いんじゃないか。
岩花さんは、この価値をより多くの人に広めたいと考えています。その手段の一つが、東南アジアへ行く国際交流ツアーです。
ダンスの価値はスポーツ的な価値だけではなく、教育的な価値、文化的な価値など、もっと幅広くていいと語ります。
一社では届かない場所へ。連盟という発想
ダンス業界は、スクール運営とイベント開催に事業が偏りがちだと、パンチョさんも実感を語ります。教育的な価値の追求は、わかっていても一人では実現が難しい領域です。
岩花さんは、一社だけでツアーをやっても参加できる人は限られると言います。
いま全国に呼びかけているツアーには、鹿児島の徳之島、石川県、群馬県など各地から子どもたちが参加しています。
自分たちのダンススクールの領域を飛び越えて、いろんなスタジオさんと連携してツアーをやることで、日本全国から集まってくる。子どもたちのコミュニティも広がっていく。
この背景には、いまのダンス業界が抱える課題があります。子どもたちが戦いの場でしか友達をつくれない、という現状です。
子どもたちって、戦いの場でしか友達ができないというか。コンテストで仲良くなるとか。でもそれって、子どもたちながらに打算的な繋がりだったりする。
コンテスト中心の環境では、順位をめぐって保護者や指導者がヒートアップし、子どもが疲れて進学を機に辞めてしまうケースも全国であると言います。
岩花さんは、ダンスのゴールは一つではなく、いくつもあった方がいいと考えています。連盟は、同じ思いを持つスタジオ同士をつなぐ役割も担います。
「本当はこういうのがやりたいのに」という考えがあっても近くに仲間がいなかった人が、連盟でたまたま気が合う人と出会って、今は情報交換をたくさんしている。
「みんなのダンス」を、行政や企業とつなぐ
岩花さんは、ダンスはもはや若者だけのものではなく「みんなのダンス」になってきたと感じています。
老若男女、障害のある人もない人も、日本人でもそうでなくても、誰のものでもある。
大人になっても続ける人、出産を経て習いたい人、そしてシニア層まで、踊る人はあらゆる世代に広がっています。
シニアにとっては、健康のためのトレーニングよりも、面白いから踊りたくてやる結果として健康や予防医学につながる点が魅力だと語ります。
こうした広がりを進めるには、自治体や企業との連携が欠かせません。ただし、一つのスクールだけで行政とつながるのはハードルが高いのが実情です。
業界団体であれば、役所や自治体からしても不公平さがない。個人店じゃなく、ダンススクールが集まった業界団体なんですよ、ということが繋がりやすさになる。
企業にとっても、一つのスクールより業界団体と組む方が魅力的です。実際にドラッグストア企業からシニアダンスを応援したいという話も出ていると言います。
岩花さんは、行政、企業、教育など多方面で大きなパイをつくることが連盟の一番の狙いだと説明します。
既存の協会と何が違うのか
パンチョさんは、これまで立ち上がっては消えていった団体もある中で、この連盟は何が違うのかを尋ねます。
岩花さんは、協会には一社の利益のためというイメージや、飲み込まれるのではという懸念がつきまといがちだと指摘します。
ダンススタジオオーナーさんやダンサーの方々が発展しないと、多分うまくいかない。だから企業から案件が生まれ、仕事につながるお話をつくるために手をつなぎましょう、というロジック。
岩花さん自身がダンサーではなく、ダンスやダンサーへのリスペクトから連盟を立ち上げている点が、これまでの団体と異なる根幹だとパンチョさんは受け止めています。
発足準備会を回る中でも、みんなで高めていこうというピュアな空気を感じたと言います。
すでに動き出した具体的な取り組み
連盟が掲げるコンセプトは「誰もが」。すでに動いている取り組みも複数あります。
一つは、障害者のダンスバトル「ユニークゾーン」を企業とマッチングして広げる動きです。イオンモールと連盟が提携し、全国予選から世界大会までをサポートする話が進んでいます。
イオンモールは地域連携も重視しており、連盟としては自治体との包括提携も視野に入れています。
自治体との連携では、中学校の部活動の外部委託が例に挙がりました。
ダンススクールはどこにでもある。でも障害のある子たちを受け入れられるかというと難しい。そういうところをお願いできませんか、という相談が教育委員会からある。
自治体と組めれば、シニア向けダンス、中学高校、幼稚園へと広がる可能性があると岩花さんは語ります。
もう一つの柱が、講師の認定制度です。行政や企業は、子どもを扱う上でのモラルやハラスメント対策を重視するため、勉強していることを示す認定が必要になると考えています。
この認定は、副次的にインストラクター教育の意味も持ちます。社会人経験のないままインストラクターになる若者が多い中、マナーや常識を学ぶ機会になるからです。
朝いきなり「先生が来てません」と電話がかかってくる。全国のオーナーさんも経験したことがあるんじゃないか。そういうことや、親御さんからのクレームも解決できる可能性がある。
全国の失敗事例やトラブル事例を共有できることは、大きな予防策になると二人は話します。
キャスティングとインフラとしての連盟
すでにキャスティング案件も連盟にお願いできるものが増えてきています。関西でもキャスティングの数は限られる中、連盟がその窓口になれると岩花さんは言います。
仕事する側からすると東京の方がいい理由は交通費だけ。でもたくさんのダンサーから選べた方がキャスティングする側もプラス。チャンスをつかみに行きたいダンサーにとってもプラスになる。
岩花さんは連盟を「インフラ」と表現します。全国の業界団体という肩書きが、各スタジオオーナーの新しい武器になるという発想です。
ここを作らない限り、いつまでたっても一ダンススタジオという武器でしかない。違う業界の人たちと話すときの、一つの武器として持ってもらえないか。
連盟はまだ発足準備中です。企業や自治体と話すには、100スタジオが集まっているという説得力が必要だからだと岩花さんは説明します。
2026年5月のスタートを目指しており、賛同するスタジオはすでに100が見えてきているとパンチョさんは補足します。
5年後、10年後に描く世界
岩花さんは、連盟が国と交渉できる存在になることが重要だと語ります。背景には、少子化と貧富の格差による教育格差への危機感があります。
習い事にお金をかけられる家庭とそうでない家庭がある中で、大阪などで始まっている習い事助成が、その格差を埋める手段になると考えています。
兵庫県伊丹市では、新しい市長の公約として習い事助成が掲げられましたが、当初は学習塾に限定される予定でした。岩花さんは商店連合会の副会長として、より多様な使い方ができるよう提言し、それが通ったと言います。
一ダンススクールが国の人に「それはダメだ」と言っても聞いてくれるはずがない。でも束になれば、いい意味で政治に対しても力を持てるかもしれない。
さらに岩花さんは、ダンスの価値を世界へ広げたいと語ります。国際交流ツアーで訪れたカンボジア、ベトナム、ラオス、フィリピン、モンゴルなどのスタジオオーナーとつながりが生まれています。
段階として、まずアジアダンススタジオ連盟、最終的には世界ダンススタジオ連盟を構想しています。
FIFAは加盟国が200カ国ぐらい、国連でさえ180ぐらいらしい。ダンスってもっとサッカーぐらいの可能性があるんじゃないか。
情報交換だけでも価値があると岩花さんは考えます。地域おこしや自治体・企業との連携事例を世界でシェアすれば、他の地域が真似でき、世界規模の影響力が生まれるという見立てです。
子どものダンス国際交流ツアーだけでなく、シニアの国際ツアーも実現できると二人は盛り上がります。
連盟に関わってほしい人と、二人の思い
岩花さんは、連盟は入れば終わりではなく、参加者のやりたいを実現する仕組みにしたいと語ります。声を上げ、手を上げることで実現していくものだという考えです。
すでに「連盟価格」でイベント箱と提携する、発表会Tシャツの大量発注で価格を下げるといった、規模の経済を活かしたメリットも構想されています。
ダンスコンテストの出口問題として、優勝者の全国ワークショップを連盟がコラボで実現し、大会の価値を上げるアイデアも話す中から次々に出てきます。
岩花さんが関わってほしいのは、ダンススタジオオーナーに限りません。ストリート、クラブ、メジャーなど、あらゆるダンスカルチャーを大事にする人に開かれています。
ダンスが大好きだという皆さんは、ぜひ何かしら関わっていただけないかと思っている。
具体例として、幼児ダンスに危機感を持つある先生の話が挙がりました。幼児ダンスは初めてのダンスとの出会いであり、そこが面白くなければダンスを始めないという考えです。
だからこそ、子どものことを勉強した人が教えることが重要で、保育や子どもの学びを連盟で広めたいという企画も生まれています。
最後にパンチョさん自身も思いを語ります。中学2年からダンスを続け、ダンサーを目指して大阪に来たものの、食えない現実を知り銀行員を経て、今はスタジオ運営や不動産の仕事に携わっています。
これまで自分だけで目指していたダンサーが食える世界が、連盟での出会いをきっかけに、関東や福岡へと一気に広がりそうだとパンチョさんは実感を語ります。
岩花さんは普段は影で動きたい性格だと言いつつ、考え方が変わり、もっと発信していく必要があると話しました。
まとめ
日本ダンススタジオ連盟は、競争から共創へと業界を変えるための「インフラ」を目指す構想です。ダンサーではない岩花さんの客観的な視点が、その根幹にあります。
- 岩花さんはダンサーではないからこそ、ダンスの教育的・文化的な価値を客観的に見出している
- 一社では届かない行政・企業との連携も、業界団体なら公平性が生まれ実現しやすくなる
- 認定制度や失敗事例の共有で、インストラクター教育やトラブルの予防策にもつながる
- 2026年5月のスタートを目指し、100スタジオの賛同が見えてきている
- 最終目標はアジア、そして世界ダンススタジオ連盟。関わり方はオーナーに限らず開かれている
