作品評ではなく「背景と裏側」を語る回
冒頭でまず、この感想回のスタンスが説明されます。個別作品の良し悪しを論じるのではなく、TEN全体を俯瞰して見えたことを届けるという立ち位置です。
作品そのものは、見た人がどう感じるかに委ねる。ポッドキャストでは、その裏側にあるメッセージや背景を補う役割を担う、という考え方が示されます。
今回お話ししたいのは、TENの全体観の話と、個別のエピソードや背景を総合して俯瞰して見えてきたところ、あとは制作の裏側の話です。
初開催のDUO部門で見えた面白さと難しさ
今回は初の試みとしてDUO(2人組)部門が設けられました。もともとはSOLOがコンセプトでしたが、前回開催の時点でMIKIHOさんとの間で「DUOも面白い」と話し、次回実施が決まっていたといいます。
野村さんは、2人だからこそ出せるユニゾンの美しさや、リンクする瞬間、離れる瞬間といった表現が際立っていたと振り返ります。チームメイト、姉妹、戦友など、組み合わせも多様だったそうです。
一方で、DUOならではの難しさも感じたと話します。審査員も指摘した「なぜ2人なのか」をどう伝えるかが、今後のDUO部門の重要なテーマになると考えられています。
SOLOが1人の人生を背負ったダイレクトなメッセージを持ちやすいのに対し、DUOは2人だからこそ「何を見せたいのか」がブレやすい。その難しさを、むしろ攻略しがいのある楽しみとして受け止めています。
SOLO部門で涙腺がゆるんだ理由
SOLO部門について、野村さんは「一言でも泣ける」と表現します。今回はほとんどが初対面の出演者でしたが、ほぼ全員の思いを受け取ってしまい、ずっと涙腺がゆるんでいたといいます。
その理由の一つが、制作サイドとして全過程を見届けていることにあります。前日のゲネから当日のゲネ、本番まで、1人あたり計3回踊る様子をすべて見ているためです。
過程のなかで、どんどん気持ちが溢れ、魂がさらけ出されていく瞬間を目の当たりにする。踊る理由や人生を知ることで芸術が心に残る、というのが野村さんの実感です。
観客のInstagram投稿でも涙ぐむ人が多かったといいます。目の前のダンサーとの関係性を持つ人が、踊りを通して一気に気持ちを受け取ったことが大きかったと考えられます。
出演者が語った「参加した理由」
打ち上げで、出演者一人ひとりに参加理由を聞いていったところ、大きく3つの傾向が見えてきたといいます。
バトルやコンテストに馴染めず悶々としていた人。社会人や挫折などでダンスから離れていたが、TENなら自由に踊れると感じて参加した人。
音楽で踊れることの幸せを届けようとする、恍惚とした表情の作品を作る人。ポジティブな気持ちがダイレクトに伝わる。
特に印象的だったのは、20代の若い出演者が「自由に踊れない」ことに悩んでいたという声でした。レッスンやイベントの選択肢が広がる現代で、逆に詰め込まれてパンク寸前になる人がいることに、野村さんは気づかされたといいます。
こうした背景は打ち上げで初めて知ったため、「だからあの踊りだったのか」と見え方が変わったそうです。事前に知ってから作品を見ると、より伝わるものがあると勧めています。
新導入したオンライン投げ銭投票の手応え
今回からTENに、そして踊り場cueとして今後も続ける新企画として、オンライン投げ銭投票とオンライン配信が導入されました。まず投げ銭投票の結果が共有されます。
この金額はTEN単独ではなく、翌週の公演や踊り場cueプロジェクトへの投げ銭も含んだ合計値です。前回開催前の時点では10万円前後だったため、ほぼ3倍に伸びたことになります。
集まった金額の80%が報酬として、およそ22万円ほどがダンサーへ還元される形になったと説明されます。もともとギャランティー設計はない企画のため、この還元は新しい形といえます。
投げ銭に添えられたコメントの温かさも印象に残ったといいます。仲間内の冗談、保護者らしきメッセージ、遠くから見に行けない人の応援など、さまざまな形で「あなたのダンスを楽しみにしている」という存在が届けられました。
さらに、告知していなかった踊り場cueプロジェクト自体への投げ銭も4件あったといいます。うち1件は、ダンスにあまり関わりのなさそうな人からの長文コメント付きで、前回のTENに感動し、この理念に共感したという内容でした。
一方通行だった思いが「つながった」瞬間
ここで野村さんは、踊り場cueを運営するなかで抱えてきた違和感を打ち明けます。良い世界を作りたいという思いが、押し付けのような一方通行になっていたのではないか、という葛藤です。
踊り場からの思いが空回りして、ちゃんと踊ってる方々に届いてたのかな、思い描いた舞台ができたのかなって、一個歯車が噛み合ってない感覚をずっと思ってました。
しかし今回、その感覚が変わったといいます。オンライン投票だけでなく、出演したダンサーから「こんなにあたたかい現場をありがとう」という言葉を何度も受け取り、手紙を書いてくれる人もいました。
スタッフ側からの反応も印象的でした。舞台監督の佐藤さんは、ゲネの間に後方の席から最前列の地べた、逆サイド、PAブース正面へと移動しながら、のめり込むように見ていたといいます。
エネルギーがやばいですね、これはちょっとハマります。
さらに、普段はスクールのアルバイトや社員が運営を担うなか、頼まれてもいないのにスタッフが「素敵なダンスをたくさんありがとうございました」と書いたホワイトボードを控室の廊下に貼り出していたといいます。それを舞台監督が撮影していたことも含め、野村さんは一番嬉しかったと語ります。
一方通行だと感じていた思いが、ダンサー、外部スタッフ、身内のそれぞれから返ってきた。その循環こそが、この回で得た大きな手応えとして語られます。
初のオンライン配信と、そのクオリティ
もう一つの新企画がオンライン配信です。導入を決めた背景には、キャパシティの課題がありました。フロア形式での開催では座席が最大110〜120人ほどに限られ、見てもらえる人数が絞られてしまうためです。
撮影は、告知動画などを手がけてきたエイトスクリエイトのShotaさんが担当。配信面ではハクトさんが加わり、踊り場cueとして今後も配信に力を入れていく体制になりました。
野村さんは、配信とは思えないクオリティに驚いたといいます。広角の綺麗なカメラワークでSOLOを一本のカメラで追い続け、拍手や声援といった現場の環境音も入れることで、映像でありながら臨場感が伝わる仕上がりになったそうです。
この手応えから、まだ配信が決まっていなかった関東開催についても、赤字覚悟で配信する方向で進めたいと、収録中にその場で決意を語っています。
投げ銭1位のダンサーに学んだ「稼ぐ姿勢」
投げ銭で1位となったのは、コンテンポラリーを踊る大賀ノ村さんでした。1人で96口を集めており、その理由を野村さんは前日ゲネの後に本人へ尋ねています。
大賀さんは自主公演を4〜5回手がけており、お金の大切さを熟知していたといいます。その行動は徹底していました。
QRポスターを掲示
働く神戸のバーに、投げ銭用のQRコードのポスターを自作して貼り出す。
制服にもQRを付ける
自分の制服にQRコードを付けて営業する。
接客で直接呼びかける
常連客や来店客に企画を説明し、読み取りを促す。
「お酒を一杯奢ってくれるなら、こっちに投げ銭してください」と客に選ばせることもあったといいます。野村さんはこれを、ダンサーとして生き残るために稼ぐ姿勢の表れとして受け止め、自分にできているかを問い直す衝撃的なエピソードだったと振り返ります。
続いていく物語としてのTEN
野村さんは、本番だけで別人のように変わる出演者の姿にも触れます。前日・当日のゲネではパッとしなかった人が、全エネルギーを本番に注ぐ戦略で度肝を抜く変化を見せたケースがあったといいます。
一方、挑戦を避けてきた人や緊張していた人も、本番では感謝や達成感をまとって殻を破る瞬間を見せたそうです。「今この人は絶対ダンスやっててよかったと思っている」という表情だったと語られます。
さらに、前回の出演者が今回も多く参加していることも特徴です。関西に3名、関東に4名、前回SOLO出場の10名のうち7名が再挑戦する形になりました。
現場には、関東に出る出演者や別の元出演者も足を運び、出演メンバー全員に投げ銭で応援していたといいます。横のつながりと連続性が2回目にして生まれていることが強調されます。
野村さんは前回をシーズン1、今回をシーズン2にたとえます。始まり方は同じでも内容がまったく違う続編のように、TENが物語として続いていく手応えを語りました。
まとめ
この回は、勝ち負けを競わせないダンスイベント「TEN」の2回目を、作品評ではなく背景と裏側から振り返る感想回でした。新企画の手応え、出演者の思い、そして続いていく物語としての可能性が語られています。
- 初開催のDUO部門は、SOLOにない美しさと「なぜ2人なのか」という難しさの両面が見えた。
- オンライン投げ銭投票は147名・382口・291,300円が集まり、約8割がダンサーへ還元された。
- 一方通行だと感じていた運営の思いが、ダンサー・外部スタッフ・身内から返ってくる循環へと変わった。
- 初のオンライン配信は臨場感の高い仕上がりで、関東開催も赤字覚悟で配信する方向が示された。
- 前回出演者の多くが再挑戦し、TENは横のつながりと連続性を持つ「続いていく物語」になっている。
