舞台監督から見たダンス公演というテーマ
後編のテーマは「舞台監督目線から見たダンス舞台公演の魅力」です。
映画、演劇、テレビ、そしてダンスと、さまざまな現場を見てきた吉川さんから、ダンスの舞台公演がどう見えているのかを聞いていきます。
これ難しいですね。
ダンスとの出会いは「二大巨頭」だった
吉川さんがダンスと出会ったのは、20代前半で舞台監督を始めた頃にさかのぼります。
きっかけは1990年の花博で生まれた「ミクルの国」というパビリオンでした。花博後も「ミクル劇団」として活動が続き、吉川さんは大道具として関わり、やがて舞台監督になっていきます。
その劇団で振り付けをしていたのが、栗原恵さんと小沢奈津子さんという2人でした。ダンサーであれば知る人ぞ知る存在だと吉川さんは言います。
だからまあ僕の中でのダンスの始まりは、なんかその2人っていう。
すごいもういきなりですね。
吉川さんによれば、この2人は後に宝塚でも振り付けを手がけていったそうです。当時の吉川さんは、まだ「若い兄ちゃん」として認識される立場だったといいます。
表現者はスタッフにも挑戦してくる
吉川さんは、小沢奈津子さんの作品に個人的なファンとして通っていた時期があったと振り返ります。
なかでも「Get Lost&」という作品には強く心を動かされたそうです。何かを得て何かを失う日々の連続を描き、その先をどうするのかを問う内容だったと語ります。
普段の生活って何かを得て何かを失っての連続で、その後どうするか。そしてどうするんや。
発表会の現場でも、小沢さんの姿勢は際立っていたといいます。常に本気で殻を破ろうとし、スタッフにも挑戦を投げかけてくる存在だったと話します。
うまくいかないこともある一方で、終わったあとには最大限の感謝を伝えてくれる。だからこそ「やってよかった」と思えると吉川さんは語ります。
加藤さんから教わったストリートの世界
もう1人、吉川さんが名前を挙げたのが加藤さんです。ストリートダンスやヒップホップがわからなかった自分に、多くを教えてくれた人だと振り返ります。
吉川さんは表現者に寄り添うことを基本にしており、加藤さんが頭の中で考えていることを一緒に形にしていく過程が面白かったといいます。
加藤さんも毎回「え?こんなことできるか?俺」みたいな。その中で最後できたんは、あ、よかったなと。
そうした人たちがいるからこそ、今の若いダンサーが出てきていて、その世代と一緒に仕事ができることが励みになると語ります。
さらに、加藤さんはヒップホップのダンサーでありながら、かなり前に宝塚の振り付けも手がけていたそうです。ダンスがまだ今ほど市民権を得ていない時代だったこともあり、その早さに2人とも驚きます。
ヒップホッパーが宝塚の振り付けやってるんですか?すごいですね。
演劇とダンス、その違いと共通点
他の舞台と比べて、ダンスの舞台公演はどう見えるのか。吉川さんは「違いはあるけどない」と答えます。
ダンスの公演のほうがよりストレートに届く一方で、言葉がない分、知的なゲームのように感じられるといいます。
ダンスの公演の方がよりストレートな気がしますけどね。でもストレートやけど、知的なゲームというか。言葉がない分。
吉川さんが好きな演劇は、踊っていなくても「ダンスっぽい」ものだそうです。セリフだけでなく、流れやうねりのような譜面ができているものに惹かれると話します。
そのため、演劇もダンスも同じような見方をしていて、好きなものは似ていると語ります。
ダンサーがつくる演劇の新しさ
吉川さんは、ダンサーはみんな器用だと感じているといいます。とくに転換が流れるように進むのは、ダンスで培われた感覚だと話します。
その象徴として挙げたのが、劇団「四畳半帝国」の作品です。踊り場Qの1回目の公演にも出演したこのカンパニーが、2026年の別の演劇祭にダンスカンパニーとして初めて選ばれたといいます。
どんな作品するんやって思ったら、ダンス全くないみたいな。めっちゃ会話劇やんみたいな。
内容は、引っ越し前夜のマンションの一室が舞台で、元カップルとその友人たちが登場する会話劇でした。
セットは基本的に段ボールだけ。話しながら段ボールを動かすうちに、いつのまにか次の場面の形ができあがっているという構造でした。
引っ越しの段取り
話しながら段ボールを移動していく
動かすうちに
いつの間にか次の設定の形が段ボールで組み上がる
場面転換
転換をほぼせず、部屋から車やコンビニへと流れるように移る
この転換のスムーズさこそ、ダンサーの感覚だと吉川さんは言います。ポジション取りがうまく、ダンサーが演劇をつくるとこうなるのかという新しさを感じたそうです。
吉川さんは公演後のトークセッションにも飛び入りで参加し、四畳半帝国の「準会員」を名乗るほど、すっかりファンになったと明かします。
その上で、演劇とダンスがもっと融合していけばいいのにと語ります。今はダンスと歌が切り分けられ、乖離してしまう場合が多いと指摘します。
今ダンスのコーナーです。はい、歌のコーナー始まりましたっていうのを、もうちょい綺麗な流れができたらええのにな。
TENに感じた可能性と、次の世代への環境づくり
話は、踊り場Qが去年行った公演「TEN」へと移ります。吉川さんは、去年一番心を動かされた公演だったと振り返ります。
10人が10分間ずつ踊るこの公演に、吉川さんは人生やエンターテインメントそのものを感じたといいます。
あれめっちゃ良かったんですよ。10人の10分間。魂みたいな。
ホールならではの一体感や客席の入り方に、大きな可能性を感じたと語ります。そして、こうした舞台を目指す人が増えたら面白いと話します。
その手応えは、次の公演のエントリー状況にも表れていました。ソロ枠は募集開始から36分で10人が埋まったといいます。
参加理由を聞くと、前回の現場を見て「なぜ私はこっち側じゃないんだ」と思ったという声や、前回のリベンジを誓う声など、全員が熱い動機を持っていたとパンチさんは語ります。
なんとなくエントリーとかじゃなくて、全員が何かをここに見つけに来るというか、探しに来るというか。
最後に、番組が全ゲストに問いかけている「宣言」を吉川さんが語ります。テーマは、吉川さんが以前から大切にしている「環境づくり」でした。
ダンサーの場所があるからこそスタッフも働ける。その環境を次の世代のためにつくっていきたいと話します。
その次の世代たちが働くような場所作りっていうのは、やっぱりこれが宣言なのかな、それはしていきたいなと。
学校でも教えている吉川さんは、夢や希望を持った子たちが社会で破れてしまう姿を見るのは悲しいと言います。だからこそ、場所づくりや環境づくりを続けていきたいと締めくくりました。
まとめ
舞台監督として長くダンスと演劇を支えてきた吉川さんの視点からは、ダンサーの表現力の高さと、その可能性を広げていくための環境づくりの大切さが浮かび上がりました。
- 吉川さんのダンスとの出会いは、花博由来の劇団で出会った栗原恵・小沢奈津子の2人だった
- 本気の表現者はスタッフにも挑戦を投げかけ、その挑戦を受けることが舞台監督の仕事になる
- ダンサーは転換や場面のつなぎが器用で、演劇をつくると独特の流れが生まれる
- 公演「TEN」は大きな一体感を生み、次の公演のソロ枠は36分で満員になった
- 吉川さんの宣言は、次の世代が働ける場所と環境をつくり続けること
