テセウスのダイソン、そして産業機械の話
つねぞうさんはまず、テセウスの船というパラドックスを紹介します。
これは古代ギリシャの思考実験です。船の傷んだ部品を少しずつ新しいものに交換し、最終的に元の部品が一つも残らなくなったとき、それは同じ船と言えるのか、という問いです。
この話を、つねぞうさんは自宅のダイソンの掃除機を見て思い出したそうです。
五年以上使う中で、まずヘタったバッテリーを社外品に交換したと言います。
その後、回らなくなったヘッド部分も社外品に変更しました。
さらに、本体とヘッドをつなぐシャフトの接続部がふにゃふにゃになり、それも新しいものに変えたそうです。
とうとう最初に買った時から残っているのは、ダイソンのダイソンたる部分というか、モーターが入ってる部分だけとなっている。
部品の割合としては、もう半分以上が当初のものではありません。まさにテセウスの船みたいだ、というわけです。
ここから話は、つねぞうさんの専門である産業機械へと移ります。
機械も使い続ければ故障します。主軸をぶつければ新しいものに変え、ボールネジやリニアガイド、サーボモーターも寿命が来れば交換します。
一方で、鋳物でできた本体そのものを交換することは、ほぼありません。車のボディを事故以外で替えないのと同じです。
つまり、全部品がまるっと入れ替わることは現実にはほとんどない、と話されています。
それでも管理台帳では同一の設備として扱われ、現場の人も同じ機械だと認識し続けます。
物理的な部品の連続性ではなくて、機能とか役割、あとは置かれてる場所が同じであれば、それは同じものだよという認識なのかな。
町工場をテーマにしたブックヌックを作りたい
二つ目は、ブックヌックを作りたいという話です。
ブックヌックとは、本棚の本と本の間に挟んで飾るジオラマのようなミニチュア作品です。
奥行きのある箱の中に街並みや部屋の一角を作り込み、本棚に差し込むと、本の隙間に別世界があるように見えます。
SNSで写真を見かけたり、DIYのキットが売られていたりするそうです。本屋では、木の板をレーザーでカットしたキットもあったと言います。
つねぞうさんが作りたいのは、一般的な街並みやファンタジー世界ではなく、町工場をテーマにしたブックヌックです。
小さな旋盤とかフライス盤があったり、切りくずのバケットが置いてあったり、作業台があったり、CADのパソコンがあったりするのかな。
壁には工具がずらっと並び、油の染みたウエスや古びたポスターがある。照明はLEDではなく蛍光灯で、エアコンはなく古いタイプの扇風機がついている、という昭和っぽい雰囲気を思い描いているそうです。
ただ、つねぞうさんは手先が器用ではなく、プラモデルもパテで隙間を埋めるような作業は苦手だと言います。
そこで、木工や紙工作ではなく、自分の得意な手段を取ろうと考えています。
私がやるとすると、やっぱりCADで設計して、それを3Dプリンターで出力して作る、そういう手段を取るかな。
今はチャットGPTにイメージを伝えて画像を作ってもらっている段階だそうです。その画像はSNSにアップされているとのことです。
「治具」と訳した人は誰か
三つ目は、少し前に読んだ本からのトリビアです。
『工作機械産業の職場史』という本の中に、面白い話があったと紹介します。
それは、jigという英単語を「治具」と訳したのは、元陸軍技師の長沢スミトという人らしい、という記述です。
つねぞうさんは、治具が英語jigの訳語だったことは言われてみればそうだと思いつつ、誰が訳したのかは知らなかったそうです。
そのうえで、漢字の当て方に注目します。「治」には治める・整えるという意味があり、「具」はおそらく道具の具だろう、と話します。
治める道具という意味合いで治具という字を当てたんだとすると、単なる音の訳じゃなくて、機能をちゃんと汲み取った上での意訳になってると思う。
軍の技術畑にいた人が工業用語の翻訳にも関わっていたのは面白いエピソードだ、と語られています。
普段使う専門用語も遡ると、昔の誰かが翻訳した地点に行き着く。それがものづくりの歴史として面白い、というわけです。
内径止まり加工が嫌、というXの生の声
最後は、Xで見かけた投稿の話です。
町工場戦略室さんというアカウントの「内径止まり加工が嫌だ」という率直なポストが、とても参考になったそうです。
内径止まり加工とは、旋盤で穴を貫通させず、途中で加工を止める内径加工のことです。
貫通穴なら工具の逃げがあり、切りくずの排出や工具への負荷の面で問題は起きにくいと言います。
しかし止まり穴では逃げ場がなくなり、バイトのチップが欠けたり、「へそ」が残ったりする問題があるそうです。
つねぞうさんは設計する側の人間です。これまでは、必要のない加工はしない方がよいと考えていたと打ち明けます。
丸棒から部品を削るときに、必要ない加工をさせる必要がなければ貫通させない方がいいんじゃないか、という浅はかな考えをしてしまう。
ところが実際は、あえて貫通させた方が加工も楽で工具の欠けもない場合があると知り、新鮮な驚きだったと言います。
工具の逃げがあり、切りくずも排出しやすい。工具への負荷も小さく、加工しやすい。
穴の途中で止めるため逃げ場がなく、バイトのチップが欠けたり、へそが残ったりしやすい。
こうした投稿を見て、つねぞうさんはいつも思うことがあると言います。
教科書や技術書には出てこない現場のノウハウや肌感覚が、とても参考になるということです。
4つの小話をふりかえって
この回では、テセウスのダイソン、町工場のブックヌック、治具という訳語、内径止まり加工という4つの話題が語られました。
いずれも日常やXで見つけた小さな気づきが、設計や製造の視点とつながっていく内容でした。
まとめ
身近なダイソンの部品交換から哲学の思考実験へ、そしてXの一つの投稿から加工のノウハウへ。日常のちょっとした話題が、ものづくりの理解を深めていく回でした。
- 部品を交換し続けても同一の設備とみなされるのは、機能や役割、置かれた場所が同じだから、と考えられます。
- つねぞうさんは、手先の器用さに頼らずCADと3Dプリンターで町工場のブックヌックを作ろうとしています。
- 治具は英語jigの訳語で、機能を汲み取った意訳になっている可能性があると話されています。
- 止まり穴はチップ欠けなどの問題が起きやすく、あえて貫通させた方が楽な場合もあると学べます。
- 教科書に載らない現場の暗黙知が、Xで言語化されて共有されることの価値が語られました。
