2025年のVCはファンドレイズが大変になる?
佐俣さんはまず、ベンチャーキャピタルの世界に絞ると、2025年はファンドレイズがかなり大変になりそうだと話します。
背景として、VCが活発になったアベノミクス以降の2015、16年ごろに立ち上がったファンドの結果が問われる時期に来ていると指摘します。
結果を出したVCと出していないVCの差が見え始めている、というのがまず一つの論点です。
ベンチャーキャピタルの出し手は、大きく言うと日本には2つあって、事業会社と機関投資家なんですけれど、事業会社に関しては、自社のCVCと自社の単独投資の方がかなり強くなってきた。
大企業のラーニングが進み、資金の流れが変わる
佐俣さんは、事業会社が外部VCに任せず自社の知見で内製化していく流れが増えていると言います。
これはVCへのLP資金の流入が減る要因になる一方で、大企業のラーニングが進んだ結果であり、基本的には良いことだと捉えています。
機関投資家側も、プライベート・エクイティやバイアウトが強く、そちらに予算が向かいやすい状況だと分析します。
さらに機関投資家の行動原理として、新規のVCに出すより既存のVCに追加で出す方が合理的なため、新規VCへの資金は増えにくい構造になっていると話します。
佐俣さんは15、16のVCを調査し、自社のLPともディスカッションした感触として、予算を大きく増やす流れはなさそうだとまとめます。
唯一の展望として挙げたのが、海外のLPです。
地政学的に中国向けのVCマネーがほぼゼロに向かう中、アジアの中で日本市場が比較的温まっていると認識され、海外機関投資家の関心が高まっているといいます。
ただし、その資金の多くは強い大手VCや個別に伸びるスタートアップが吸収するため、VC産業全体への恩恵は限定的だろうと見ています。
投資は減る?増えるM&Aと大企業の前のめり
スタートアップへの投資が落ちていってしまうのか、という不安が出てくるのでは?
佐俣さんは、VCという視界で見ると明るい感じはないと認めます。
一方で、事業会社が大きく出資したり、子会社化したりする動きはかなり増えるのではないかと感じていると話します。
具体例として、投資先のAppBrewがマツキヨココカラ&カンパニーのグループになったディールを挙げます。
大きな事業会社が投資先に対して前のめりに比率を持ちたいというオファーが、格段に増えてきているといいます。
この領域のここに関しては、私たちが100%持った方が良いみたいな。新規事業を私たちがやるよりも、スタートアップを吸収してその力でやった方がいいみたいな、切り分けができる大企業が、すごく増えた。
M&Aはスタートアップにとっても良いことだと感じているか?
佐俣さんは基本的に全て良いことだと答えます。
起業家は特定産業で大きな価値を生みたいのであって、自社だけでやるか大企業の技術を借りるかは、より大きく早くインパクトを出せる方を選べばよい、という考えです。
大企業とスタートアップの相互理解はなぜ進んだか
佐俣さんは、この5年ほどで大企業の経営陣が入れ替わり、優秀な人が事業ポートフォリオを考えながらスタートアップ買収を選ぶケースが増えたと話します。
スタートアップに明るい人が増えたのか、大企業からスタートアップへの人の流動で理解が深まったのか?
佐俣さんは人の交流も間違いなくあるとしつつ、最も大きかった要因として「スタートアップ育成5か年計画」を挙げます。
国が応援し、メディアでも大きく取り上げられたことで、大企業側も「産業を作る人たちがいる」と認識するようになったと言います。
よく話を聞くと、自社と同じ考え方をしていたり、自社が持ちたかったアセットを持っていたりすることが見え、相互理解が進んだという流れです。
ANRIも2023年から積極的に大企業へヒアリングを重ね、この1年ちょっとで300、220、230社ほどに投資戦略を聞いてきたといいます。
小売り流通ですごく強い企業でも、デジタルやユーザー接点が近い部分は、今の自社の人材とカルチャーではできないので、ゼロから作るよりスタートアップと一緒にやりたい、というテーマが多くの企業で伺えるようになってきた。
そこでANRIから「この会社に出資しながらプロジェクトをやりませんか」と提案することも増え、これがものすごく面白いと語ります。
大企業とスタートアップというのは、スタートアップが大企業を打倒するんだという世界観で見るのはあんまり意味がないと思っている。
2025年に伸びる領域と、生成AIでの戦い方
2025年、どの領域が伸びていきそうか?
佐俣さんが最大のテーマに挙げたのは生成AIです。
OpenAIのような基盤・インフラレイヤーは、500億円からスタートするような資金勝負になっており、ANRIのファンドでは現実的に参入できないと言います。
一方で、日本やクライアントのデータと組み合わせる角度なら「意外と世界トップに届くかも」という投資先がいくつか出てきているそうです。
自動運転の領域では、創業から一緒にやっているTuringを挙げます。
自動車産業の大変革の中で、Turingが日本の自動車産業にとって意味のある会社になれるかもしれない、という気配を感じていると話します。
もしかしたら世界トップかもしれないし、明日自分たちが作ってきたものがゼロ価値になるかもしれない、というタイプの、すごくタイトロープな投資なんですよね。
競合が世界に500社ほどいるかもしれない中で、答え合わせは誰にもわからない。
その緊張感を、佐俣さんは投資家冥利に尽きると表現します。
投資家の一番の価値は「大きく、早く出す」
「あと一歩」という時に、投資家としてどうサポートしたいか?
佐俣さんは、今の生成AI領域では、起業家が3億円調達したい時に「うちだけで5億出すから考えて」とオファーすることが大事だと話します。
世界中に見えない競合がいる中で、最速かつ単独で、必要額より大きい金額を出すことがこの領域で最も意味を持つ、という考えです。
今すぐにお金を出すのが勝負を決める。なぜかというと1週間後には敵がパワーアップしてる可能性が高いから。
一方で、ディープテックのように無理に急がない方がよい領域もあり、産業や起業家のタイプに合わせて調整すると付け加えます。
急ぐべきところは早く、スローダウンすべきところはランウェイを調整して末長く、という使い分けです。
2025年のANRIの展望と佐俣アンリの野望
最後の話題は、2025年のANRIの展望と野望です。
佐俣さんは、やりたいことを話すと尊敬するGPの河野さんにずっと苦笑されていると明かします。
今年はビジョンやバリューを再定義しており、対外的に発表できる見込みだと話します。
創業から13年、14年目を迎え、あと30年ファンドをやると考えたときに「これもできるのでは」という起業家マインドがムクムク出てきたといいます。
刺激になった出来事として、親友の起業家であるLayerXの松本さんとメドレーの瀧口さんが、新事業のためほぼ単身で海外に行っていると聞いたことを挙げます。
自分は起業家としてめちゃめちゃ無理な挑戦をしてるんだっけ、と思ったときに、なんかぬるいなと思って。
半年考えた末、最近は「めちゃくちゃやればいいんだ」という結論に至ったと語ります。
やりたいことを松本さんに話すと「それはいい」と即答され、「この人がいいと言うことは、つまり大変なんだな」と受け止めたそうです。
私が挑戦し続けることが、ベンチャーキャピタルのANRIとしても意味があるし、だからいい投資ができるというサイクルが回っている。
まとめ
2025年はVCのファンドレイズが厳しくなる一方で、大企業とスタートアップの相互理解が進み、M&Aや共同事業の動きが具体化していく年になりそうです。生成AIのような激戦領域では「大きく早く出す」ことが投資家の価値になり、佐俣さん自身も新たな挑戦に踏み出そうとしています。
- VCへの資金流入は増えにくく、結果を出したVCと出していないVCの差が問われる
- 大企業のラーニングが進み、M&Aや子会社化のオファーが投資先に増えている
- スタートアップ育成5か年計画などを背景に、大企業とスタートアップの相互理解が進展
- 生成AIやディープテックでは、産業に応じて「急ぐ」「待つ」を使い分ける
- ANRIはビジョン・バリューを再定義し、佐俣さん自身も新たな挑戦を掲げている
