明けましての年始特別回、2024年を振り返る
この回は2025年最初の放送となる特別回です。ANRI代表の佐俣アンリさんが、広報の興梠桂子さんと一緒に2024年のスタートアップ市場を振り返っていきます。
興梠さんは2018年からANRIにジョインし、広報と投資先のPR支援を担当しています。以前は佐俣さんの秘書も務めていたと話されています。
今回は途中から興梠さんがMCを担当し、佐俣さんに2024年がどんな1年だったかを問いかけていく形で進みます。
2024年はAIで下のレイヤーから全部ひっくり返る1年
興梠さんの「2024年を一言で言うと」という問いに、佐俣さんは久しぶりにモメンタムが変わった年だったと振り返ります。
久しぶりにモメンタムチェンジというか、産業のかなり下のレイヤーから全部ひっくり返るような1年だったなという感じがして、シンプルに言うと本当に「AIで何が変わるか」っていう1年だったなと思います。
象徴的な出来事として挙げられたのが、動画生成サービスの競争です。OpenAIの「Sora」やGoogleのGeminiによる動画生成が、ほぼ同じタイミングで登場したと話されています。
佐俣さんが驚いたのは、その更新スピードです。スタートアップの世界を14〜15年見てきて、これほど激しいアップデートは見たことがないと語ります。
サービスの出す競争が1週間ぐらいの単位で競争してデベロップしてまして、こんなに激しくアップデートが続く世界なんて見たことないなっていう。
Web3との違い、AIは無関係な産業がない
佐俣さんは、2022年から23年にかけて盛り上がった「Web3」の波と比較します。ブロックチェーンを軸に、所有や統治、会社のあり方を書き換えるかもしれない面白いトレンドだったと振り返ります。
ただし、期待したほど全てのスタートアップを巻き込む流れになるには、もう少し時間がかかりそうだと話されています。
一方で生成AIは、関係ないスタートアップがほとんどないと佐俣さんは言います。量子、核融合、半導体、そしてライフサイエンスまで、あらゆる分野に関わってくると語ります。
例として挙げられたのが、がんを見つける技術を持つ「Craif」です。マイクロRNAを抽出し、AIで解析してがんの予測につなげる技術だと説明されています。
「ある日突然」に代替される感覚
佐俣さんは、AIの波を過去の大きな技術革新になぞらえます。インターネット、パーソナルコンピューター、半導体、そしてモバイルの波です。
自分たちの世代にとってはスマートフォンとアプリの波が大きかったと言います。あらゆる仕事や生活にそのパーツが入り込み、全部が変わるような出来事はそう多くないと話します。
象徴的だったのが、佐俣さん自身が毎日続けている英会話の勉強です。便利なサービスを探すと、評価1位がChatGPTだったと言います。
今までっていろんな英会話の勉強の方法とか、英会話ってこういうサービスがありましたよねとかやってるんですけど、今ChatGPTっていう汎用のサービスが英会話で一番いいものになってる。
翻訳も同様で、今もっとも精度が高いのはLLM系だと話されています。個別に用意されていた便利なサービスが、汎用のAIに集約されていっていると語ります。
佐俣さんは、イノベーションの面白さは「気付いたら済んでいる」点にあると言います。翻訳や英会話は、いつの間にか生成AIでほぼ完結し始めたと振り返ります。
さらに、NotionやSlack、オフィスの受付サービスすら「なくてもいいのでは」という瞬間が来ると話します。バーティカルなSaaSも、かなりの部分が食べられていくのではという議論があると語ります。
あらゆるものが生成AIで大体済んじゃわない?っていうのが近い。ある日このポイントで振り返ってみると、「あれ、5年前にあったものがもう要らなくなってる」みたいな。
この感覚を、佐俣さんは子供の頃に見たドラえもんの道具にたとえます。音楽が流れ、通話ができ、電気が点く箱は、今のスマホそのものだと言います。
当時の音楽プレイヤーや懐中電灯、財布が、スマホに全部集約されていった。終わってみないと気付かない変化だと語ります。
広報の仕事でも同じ変化が起きていると興梠さんも同意します。画像制作はPhotoshopやIllustrator、Canvaの進化でどんどん楽になったと話します。
僕たちの世代だとパワーポイントの作り方って結構四苦八苦したんですけど、僕たちが下手に作るものよりも生成AIが一発で作るスライドの方が結構きれいだったりしてくる。
コンサル出身のメンバーとの会話では、納品レベルにはならないが、社内で使うツールとしては十分なものが出来上がると語られています。
佐俣さんはこれを「店で出す料理は作れないが、家庭用なら作れる」瞬間にたとえます。ドキュメンテーション制作はそのあたりまで来ていると話します。
自動車業界の再編とスタートアップにとってのチャンス
興梠さんが「怯える企業も出てくるのでは」と問うと、佐俣さんは強い堀を築いてきた企業ほど崩されるかもしれないと答えます。
具体例として挙げられたのが、日本の自動車業界の再編です。背景には自動運転とEVがあると佐俣さんは見ています。
自動運転は完全にAIの独壇場だと言います。センサーとルールで何とかするという世界から、ディープラーニングで解決する世界へのパラダイムシフトが2024年にあったと語ります。
スタートアップにとっては恐ろしい側面もあります。5年かけて作ったものですら、汎用の生成AIに丸ごと代替される恐れが出てきたと話されています。
恐ろしいことにスタートアップで5年作ったものですら、ある日ゼネラルな生成AIに丸ごと代替される恐れが出てきた。楽しいんですよ。
それでも佐俣さんは、大きな変化はスタートアップにとってチャンスだと捉えます。興梠さんも、AIをかませることで新しく生まれてくるスタートアップに手応えを感じると話します。
佐俣さんは、2013年に投資した翻訳クラウドソーシングの会社エニドアの例を挙げます。上場企業にM&Aされて成功し、今年サービスを終了したと振り返ります。
翻訳が人間の手でやらなければならなかった最後の瞬間に立ち会ったと言います。一つの産業ができたと思った矢先に、AIで一気に切り替わったと語ります。
興味深いのは代替の順番です。ルールが厳然と決まっている工業翻訳の方が早く置き換わり、落語や漫才のような行間の面白さを扱うものは今も難しいと話されています。
すごくニュアンスが難しいもの、今でも例えば落語とか、また漫才みたいな、すごくニュアンス、行間の面白さとかで共有しなきゃいけないものに関しては、今でも結構難しい。でもそれもそんなに長く時間掛からないかもしれないねって言われている。
VCの仕事もAIに代替される?残る2割の「匂い」
佐俣さんは、ベンチャーキャピタルの仕事もAIに代替されうると社内で話していると明かします。
キャピタリストのスキルの8割は、マーケットやトラクションを見るベーシックなデューデリジェンスだと言います。この部分は遅かれ早かれAIに代替されうると語ります。
問題は残る2割です。それは極めて感覚的な部分で、起業家の発言の変化率や、これまで見たことのない兆候から生まれるものだと話します。
この先にある2割が極めて感覚的な、「でも何か起業家が1週間前からこういう風に言うことが変わっていて、この変化率っていうのはちょっと今まで見たことない感じがするんですよね」とか。簡単に言うと「これ匂うんです」っていう話で。
この「匂い」を、結果を出してきたGPと、これから結果を出すメンバーでどうチューニングしていくか。それが今のキャピタリストの重要テーマだと語ります。
なぜ8割で差別化できなくなるのか。理由は2つあると言います。AIによる代替と、VCに入る人材があまりに優秀で同じキャリアになったことです。
佐俣さんは280社へのシード投資で得た「この感覚でうまくいった」という記録を社内に綿々と貯めていると言います。それを共有しながらチューニングしていると語ります。
GPが今投資している案件についても、勝負どころや追加投資の意図をなるべく細かくメンバーに共有していると話されています。
2025年はキャピタリストの淘汰の年
話は次年への展望に移ります。佐俣さんは、2025年はベンチャーキャピタル全体にとって淘汰の年になりそうだと予想します。
若手VCのGP向け勉強会でも、2025年は苦戦しそうだという不吉な予言をしたと明かします。
背景には、VCの価値が出資者に問われ始めている状況があります。あるサイドからは資金が集まりにくくなっているという声も来ていると語ります。
ベンチャーキャピタルというものの価値を出資者に問われる時代が2025年に来る。お金の集まりにくさがだんだん目立ってきているので、2025年はそれが巡り巡って、投資側がかなり厳しくなる予感がしております。
この2025年の見通しについては、次回の後編で詳しく語られる予定だと案内されています。
まとめ
2024年は、生成AIが産業の下のレイヤーから全部を書き換えた1年だったと振り返られました。翻訳や英会話、資料作成、そして自動車業界までが影響を受け、VCの仕事すら代替されうるという議論に至ります。それでも大きな変化はスタートアップにとってのチャンスであり、残る「感覚」をどう磨くかが問われる時代だと語られました。
- 生成AIは業界を問わず関与し、5年かけた事業も汎用AIに代替される可能性がある
- 翻訳や英会話は、いつの間にか汎用のAIに集約されていった
- ルールが決まった工業翻訳は早く代替され、落語や漫才のニュアンスは今も難しい
- VCの仕事の8割は代替されうるが、投資判断の「匂い」という2割に価値が残る
- 2025年はVCの価値が出資者に問われ、淘汰が進む年になると予想されている
