お金と時間の使い方 ── フィジカルな場への情熱
公開収録は観覧者からの質問でスタートしました。最初の質問は「お三方がお金と時間をどんな風に使っているか」というもの。松本さんは、今週だけで3カ国を飛び回っているとし、「お金はフライトに消えています」と笑いながら答えます。一方で、個人的には昔から好きだったアート、建築、工芸などの文化活動に時間を使っているとのことです。
上野山さんの答えは意外なものでした。「基本物欲がない」と前置きしつつ、お金を使うのは「体験や空間、集まる場を作ること」だと言います。リノベーションをしたり、廃ホテルを買ってみたり──最先端テクノロジーAIや自然言語処理などの先端分野を専門とする上野山さん。PKSHA Technologyは、AIエージェントやソフトウェアの社会実装を手がける企業です。を扱う上野山さんが、なぜこれほどまでにフィジカルな場づくりにこだわるのでしょうか。
勝也すごい面白いなと思うのは、最先端テクノロジーを触ってるんだけれど、人間がフィジカルに集まる場を作ることの異常な情熱がずっとあるじゃない。
上野山さんは「焚き火とかめっちゃ好き」と答え、その理由を探ります。一人だと楽しくない、ソフトウェアをプロタイピングするのも好きだけど、結局リアルの方に行く──。「自分の効用分析をめちゃした時に、結局一定の共有のゴール持ってる人と色々喋って酒を飲むのが意外にほとんどの喜び」という結論に至ったと言います。
実は上野山さんは幼少期、建築家になりたかったと明かします。レゴブロックが大好きで、建築の本を見ると「脳からすげえ出てるのがわかって」いたそうです。しかし親から「それだけはダメだ」と言われ、唯一の否定を受けた経験が今の活動につながっているのかもしれません。
AI時代の採用はどう変わったか
次の質問は「AI時代における採用の変化」について。知性の供給制限がなくなった時代に、何を重視して人を採用するのか──という問いです。
松本さんは、「より一緒に長く働くことの重要度が上がった」と答えます。持っている知識やスキルは一日後、一ヶ月後、一年後にはほぼ無効化される時代だからこそ、新しい学習をいかに作ることができるか、組織やミッションへのロイヤリティが重要になると指摘します。
上野山さんは、機能として人を取らなくなったと言います。「機能だったら外注や業務委託でいい」という考え方です。その代わり、最近は「おもろい奴取れ」と人事に伝えているとのこと。具体的には何を指すのか──この問いが、次のセクションでの議論につながります。
「声が大きい人」を採用する理由
「おもろい奴」とは何か──上野山さんは人事との議論の末、「声でかいやつを上げてこい」という結論に至ったと明かします。会場は笑いに包まれましたが、これは冗談ではありません。
なぜ声が大きいことが重要なのか。上野山さんは「要は体験を自分事化してるってこと」だと説明します。他人の言葉ではなく、腹から言葉が出ている──つまり、いろんな自分の経験を他人事ではなく自分事としてやっているから、自然と声が大きくなるのだと言います。
松本さんも声の大きさの重要性に同意します。元三重県知事で現在は自民党の国会議員である鈴木英敬元三重県知事(2011年〜2023年)。2023年の衆議院選挙で初当選し、現在は自民党所属の衆議院議員。世界経済フォーラムのYoung Global Leadersにも選ばれています。さんを例に挙げ、「信じられないぐらい声が大きい」「あれやっぱ特殊なリーダーの才能じゃないか」と語ります。
人が笑うように笑うやつといて、笑いを誘うように笑うやつっているんですよ。僕の師匠の松山大河って天才で、自分で話しながら八割が話した瞬間にもう途中から自分で笑っちゃってるんですよ。
興味深いのは、佐俣さん自身も子どもの一人が「異常に声がでかい才能」を持っているとし、家族内では「鈴木英敬だ」「あれは鈴木英敬の器だ」と呼んでいると明かしたこと。声の大きさは、天然のリーダー向きの資質なのかもしれません。
組織の規模とAI ── メタの戦略をどう読むか
ストアーズの佐藤さんからの質問は、マーク・ザッカーバーグMeta(旧Facebook)創業者兼CEO。AIへの大規模投資を表明する一方で、大規模レイオフも実施しており、その戦略は注目を集めています。の発言についてでした。ザッカーバーグは「これからも人数を増やし続ける」と言いながら、同時に何万人ものレイオフを実施している──この矛盾をどう解釈するか、という問いです。
上野山さんは、PKSHA Technologyでは「そんなに減らすイメージ全くない」と答えます。そもそもAIが進化する中で何かを作ろうとして集まっている会社だから、AIのブースター(加速装置)が速度を上げても「あんま関係ない」と言います。事業も多岐にわたっているため、組織のモメンタムを変えようとは全く思っていないとのことです。
一方、松本さんはより具体的な数字を示します。ジョーシスでは昨年、テックチームでコントラクター110名全員との契約を終了し、代わりに60名を採用したと言います。結果として、リリース速度は確実に倍以上になったとのこと。
正社員40名 + コントラクター110名 = 計150名
正社員100名(60名新規採用)
松本さんによれば、AIを使いこなせるエンジニアやアーキテクトがいればいいという話ではなく、「チームとしてこのAIをベースにした開発ナレッジをどれだけシェアしていけるか」が重要だと言います。新しい人を取るとそのナレッジがリセットされてしまうため、現在の100名前後という規模を維持していきたいと考えているそうです。
子どもたちへのメッセージ ── 偏愛を育てる
最後の質問は、10歳の娘さんを持つ方からのものでした。「AIが仕事を奪っていくからダメなんだ」と考え、「私は女優になる」と言っている娘さんに、どういうメッセージを投げかけるか──という問いです。
松本さんは、「女優に娘がなってくれたら嬉しい」としつつ、テクノロジーに振るなら真ん中を避けない方がいい、逆に振るなら思いっきり文化の方に行くべきだと答えます。自身の娘さんが琴を習っていることを挙げ、「琴全振り」を推奨していると言います。「AIには取って代われないからいいと思う」──中途半端なインテリジェンスワークが一番危ないという指摘です。
上野山さんの答えはより根本的なものでした。AIが奪う仕事もあるかもしれないが、新しくなる仕事も大量にある。だから「AIがどうだからって言って動き方を変える必要あるのか」と問いかけます。特に子どもや十代までの人たちは、変わる必要はないのではないかと。
上野山さんは、エンターテインメントの多くは不合理だと指摘します。人が喜んでいるものはほぼ不合理──だとすると、人の喜び側のマーケットは全部合理の外側にいる可能性が高い。だから「AIってそんな大した話じゃない可能性もある」と言います。
その上で、社内では「偏愛を育てるPKSHA Technology社内で使われている言葉。自分が努力せずとも無限に伸ばせるパラメータを見つけて深めること。上野山さんは「ない人は探しに行ったりとか、意外にこれ別にAI関係ない」と語ります。」という言葉をよく使うと明かします。その偏愛に気づいて深めたり、ない人は探しに行ったり──これは別にAI関係なく、昔からそうだと言います。
松本さんが「偏愛を育てるのめっちゃ得意じゃないですか」と水を向けると、佐俣さんは「結局その自分自身の問題」だと答えます。「私は愛するものを愛していいのである」と本人が思うかどうか──それが偏愛を育てる鍵だと言います。
愛するものを愛していいっていう感覚を本人が持っているかって、で、これが要は積み上がって、で、周りよりバグってくると偏愛って呼ばれるんですけど。
佐俣さん自身、子どもの頃は一日中ゲームの攻略本を読み続けるという特殊な癖があったそうです。親が否定しなかったのはよかったが、特別めちゃくちゃ肯定もしなかったと振り返ります。大切なのは、子どもが「愛するものを愛していい」という感覚を持つこと。それが積み上がって、周りよりバグってくると偏愛と呼ばれるのだと。
佐俣さんの子どもの一人は、4〜5歳の頃からダイスタッキング(コップの中でサイコロを立てる技)を2時間くらい無限にやれる子だったそうです。当時は「変わったことに興味を持つんですね」と思っていましたが、5年後にけん玉で開花。後から聞くと、ずっとそういうパフォーマンスに情熱があって、パフォーマンスであれば無限に練習ができて、それを努力と思わない子だったのだと。
子どもは言語化できるほどうまくはないし、大人だって「なぜ私はこれを好きか」を言語化できている人はあまりいません。だから「緩やかに地下鉄でつながってるのかもね」くらいで、否定せずに「好きなんだったら好きでいいんじゃないでしょうか」と褒めてあげる──それが偏愛を育てる秘訣だと佐俣さんは語ります。
まとめ
公開収録という形式で、観覧者からの質問に答えながら進んだ今回の対談。事前に何も考えずに適当に話せばいいと思っていたそうですが、結果的には全体的な共通テーマが生まれ、充実した内容となりました。
AI時代における採用戦略、組織づくり、そして子どもたちへのメッセージ──一見バラバラに見えるこれらのテーマには、実は共通する軸がありました。それは「自分事として生きる」ということ。
声が大きい人を採用する理由も、偏愛を育てることの重要性も、根底にあるのは「体験を自分事化しているか」という問いです。他人の言葉ではなく、腹から言葉が出ているか。自分の経験を他人事ではなく自分事としてやっているか──。
AI時代において、知識やスキルはすぐに陳腐化します。しかし、自分が努力せずとも無限に伸ばせるパラメータ、愛するものを愛し続ける力は、決して無効化されることはありません。むしろ、AIが合理的なことを得意とするからこそ、非合理な領域、人の喜び側のマーケットにこそ、人間の活躍の場があるのかもしれません。
最後に、佐俣さんの子育て方針が印象的でした。「好きだと無限にやれるものを無限にやらせ続けた先に何が見えるか」──それが見つかった子は幸せだし、見つからなかった場合は親がチューターとして一緒に探索していく。そして何より大切なのは、「愛するものを愛していい」という感覚を子どもに持たせること。
AI時代の不安に飲まれることなく、自分が本当にやりたいこと、無限にやれることを見つけ、それを深めていく──三人の経営者が語ったメッセージは、子どもたちだけでなく、私たち大人にとっても示唆に富むものでした。
- AI時代の採用では、知識やスキルよりも「一緒に長く働ける仲間」「組織へのロイヤリティ」が重要になる
- 「声が大きい人」を採用する理由は、体験を自分事化しているから──他人の言葉ではなく、腹から言葉が出ている人が優秀
- AIは合理的なことが得意だからこそ、非合理な領域、人の喜び側のマーケットに人間の活躍の場がある
- 「偏愛を育てる」ことが重要──愛するものを愛していいという感覚を持ち、努力せずとも無限に伸ばせるパラメータを見つける
- 子どもたちへのメッセージ:AIの不安に飲まれず、自分が本当にやりたいことを深めていくことが大切
