大組織をハックする技術──みずほFG・中馬和彦さんが語る、地方創生とスタートアップの本質
みずほフィナンシャルグループ執行役員CBDOの中馬和彦元KDDI オープンイノベーション事業責任者として「イノベーティブ大企業ランキング」7年連続1位を獲得。現在はみずほFGで新規事業を統括。さんをゲストに迎え、地方創生の現場から大企業のハック術まで、幅広く語り合った今回のエピソード。「稲とアガベ」の岡住さんが牽引する秋田・男鹿市の挑戦、豪徳寺の招き猫が生んだ奇跡、そして芦屋市の新卒市長の話から見えてきたのは、**「スター一人で社会は変わる」**という普遍的な真理でした。スタートアップと首長、大企業と国会議員──それぞれが戦うゲームの本質を見極め、自分に合ったフィールドを選ぶことの大切さを、佐俣アンリと中馬さんが掘り下げます。その内容をまとめます。
離島の奇跡──海士町と稲とアガベ
収録はゴールデンウィーク明け。珍しくカレンダー通りに休んだという中馬さんに対し、佐俣は島根・鳥取の離島、海士町島根県隠岐諸島の中ノ島に位置する人口約2,300人の町。プロジェクトXでも取り上げられた地方創生の成功例として知られる。を訪れていたと話し始めます。
人口2,300人の小さな島でありながら、若い移住者がどんどん増えている──その背景には、前町長の強烈な改革がありました。高校がなくなる危機に直面し、「やる気がない町役場の人に辞めてもらう」ところから始めた改革。外からの人材を積極的に受け入れ、役場を変え、町全体を変えていったのです。
数千人の島で役場の人を変えていくって、とんでもないしがらみ。でもやっぱり真ん中の役場から変わって、どんどん全部変わっていったんだって。
中馬さんは即座に反応します。「地方で活性化してるところには、めちゃくちゃ熱量を持ったおじさんとかお姉さんがいる」と。そして話題は、佐俣が次に訪れる予定の秋田・男鹿市秋田県の半島部に位置する市。「稲とアガベ」の拠点として、近年地方創生のモデルケースとして注目されている。へと移ります。
豪徳寺の招き猫が証明した「アイデア一発」の力
中馬さんは、自身の講演で必ず使うスライドの話を始めます。岡住さんのスライドの次に登場するのが、東京・豪徳寺世田谷区にある小田急線の駅。招き猫発祥の地として知られる豪徳寺があり、数千体の招き猫が並ぶ光景がSNSで拡散され、世界的な観光地となった。の招き猫です。
世田谷区の普通の住宅街、小田急線の各駅停車しか止まらない駅。それなのに、外国人観光客で溢れかえっている──理由は、招き猫の聖地・豪徳寺にあります。住職がありえないほど大量の招き猫を境内に並べたところ、海外のインフルエンサーがSNSでシェア。それが世界中にバズり、今や招き猫商店街と化しているのです。
地方で講演に呼ばれると、「うちの町はアセットがない、人がいない、金もない」って言うんだけど、豪徳寺行ってみと。招き猫一つで世界的な観光地になってますけど。
この話に佐俣も深く共感します。地方創生で大切なのは、「同質化しない」こと。海士町では、小学生が町をどう変えるか提案する機会があるそうですが、「スーパーを作ろう」という案に対して、町長が真顔で「それは海士町が海士町じゃなくなるからダメ」と否定するといいます。
新卒市長が挑む、芦屋のプライド
佐俣は、十代・二十代向けの新しい仕事の提案として、地方の首長という選択肢を取材していると話します。その一例が、兵庫県芦屋市兵庫県南東部に位置する高級住宅地として知られる市。神戸市と西宮市に挟まれ、人口約9万人。2024年に史上最年少の26歳で市長が誕生した。の高島市長灘高校からハーバード大学に進学し、26歳で芦屋市長に当選。日本初の「新卒市長」として注目を集める。です。
灘高校からハーバード大学へ進学し、コロナで卒業が遅れた結果、26歳で「新卒市長」として当選──史上最年少かつ、前職なしでの市長就任という異例のキャリアです。
エリートかなと思ったら、本当に公共とか行政が好きな人で。市役所の職員になるか市長になるかにたどり着いたって言ってて。
中馬さんは、「民度が高いね、芦屋は」と評価しつつ、芦屋ならではの課題を指摘します。神戸市と西宮市に挟まれた小さな市であるため、「油断すると取り込まれてしまう」という危機感。そこで高島市長が打ち出したメッセージが、**「芦屋がこのままだと普通の市になっちゃいますよ」**でした。
芦屋に住む人々の強烈なプライドに訴えかけるこのメッセージは、選挙で大きく刺さったといいます。佐俣は、首長の仕事がスタートアップと似た戦いをしていると分析します。
直接的なフィードバック
顧客からの反応がすぐに返ってくる
意思決定の速さ
自分で判断し、すぐに実行できる
成果の可視化
数年で明確な変化が見える
直接選挙
住民から直接支持を得る
決定権の強さ
トップダウンで施策を実行できる
任期内の変化
2期8年で街が明確に変わる
スタートアップと首長、大企業と国会議員──ゲームのルールを見極める
佐俣は、面白い対比を提示します。**「スタートアップは地方の首長に近くて、大企業は国会議員に近い」**と。
スタートアップや首長は、直接的なフィードバックを得て、意思決定も速く、成果も見えやすい。一方、大企業や国会議員は、変数が多く、簡単には変わらないが、苦行の果てに大きなインパクトを生み出せる──そんなゲーム性の違いです。
大企業って、嘘と欺瞞の、あと愛と憎しみの凝縮された我慢比べレースの中で、でもちょっとずつ変わっていくんですよね。しかもダイナミックにね。独特の世界ですよ。
佐俣は自身が大企業で「偉くなるルート」を2年で放棄したと振り返りつつ、中馬さんに「大組織をハックするノウハウ」があると指摘します。
大組織をハックする技術
中馬さんは、自らを「大組織ハッカー」と称します。大企業の中で生き抜くには、独特のノウハウがあると語ります。
すべてのものってゲームじゃないですか。ルールをちゃんと理解していて、ルールをハックできるやつって常に勝つでしょ。
中馬さんが指摘するのは、多くの人が「表面的なルール」にとらわれすぎているということ。会社の目標、中期戦略、KPI──これらは「その他大多数の人たちにそれっぽくやってもらうための仕組み」でしかなく、実際はそんなことでは動かないのです。
佐俣は、KDDIの大企業向けカンファレンスで中馬さんが語った「押しボタン」の話を引き合いに出します。大企業には共通の「押しボタン」──つまり、動かし方のパターンがあるというのです。
中馬さんは、これを「好き嫌いの問題」だと語ります。パターン認識と行動様式を身につければ、誰でもできる。ただ、それを好むか好まざるかは、人それぞれの生き様だと。
社会を変えるのは局所か、全体か
話題は、中馬さんの根本的なスタンスへと移ります。地方創生やスタートアップに対しては肯定的でありながらも、中馬さん自身はそこに人生を賭けるつもりはないといいます。
局所的な変化でどこまで人を救えるのか。僕は社会全体を大きく救いたい、変えたいっていうタイプの人だから。
KDDI時代よりも会社における「序列」は下がったと認めつつも、自分がやりたいこと、やるべきことの視点でいえば、みずほFGに移って「圧倒的にやれることとかの幅は広がっている」と語ります。
移籍してちょうど1年。中馬さんは、自分のフィット感の高さを実感しているようです。
まとめ
海士町の前町長、稲とアガベの岡住さん、豪徳寺の住職、芦屋市の高島市長──いずれも、**「スター一人で社会は変わる」**ことを証明しています。
中馬さんが講演で伝え続けているのは、施策やフレームから入るのではなく、「やりたいことがあって、その場所に意味があって、それに集う人たちがいる」という順番の大切さ。そして、自分がどのゲームに向いているか、どのルールが好きかを見極めることの重要性です。
スタートアップか、首長か、大企業か、霞が関か──それは優劣ではなく、自分の「好き嫌い」と「使命感」の問題。自分に合ったフィールドを選び、そのルールを理解し、ハックすること。それが、社会を変えるための第一歩なのかもしれません。
- 海士町や男鹿市など、熱量を持った一人のリーダーが地域を劇的に変えている
- 豪徳寺の招き猫のように、「アイデア一発」で観光地化することも可能──資産がないは言い訳
- 芦屋市の新卒市長のように、若くても直接民主制で街を変えられる
- スタートアップ・首長は「直接的フィードバック型」、大企業・国会議員は「長期我慢型」──どちらが向いているかは好き嫌いの問題
- 大組織をハックする技術:表面的なルールではなく、本質的なメカニズムを理解し、パターン認識で動かす
- 局所的変化と全体的変化、どちらに使命感を持つかでキャリアの方向性が決まる
