Rice Capitalが投資するファンドのテーマ
前回は起業家としての話を伺ったので、今回はRice Capitalが何をやっているのか、そしてこの先何を目指すのかがテーマです。
福山さんは37歳。ファンドをファーストクロージングしたのは今年の7月とのことです。
Rice Capitalは日米のスタートアップに投資するファンドで、ファンドの半分をアメリカ、半分を日本に投資します。
アメリカはY Combinatorシリコンバレーの著名なスタートアップアクセラレーター。3か月間の育成プログラムを提供し、AirbnbやStripeなど多数の有名企業を輩出している。の卒業生を中心に投資し、日本はSaaSやマーケットプレイスを中心に、シードからシリーズBまで1社3000万〜1億円ほどを出資します。
LPは日本とアメリカが多いといいます。実際にファンドをやってみての手応えも語られました。
最高に「こんな良い仕事あるんだ」っていうぐらい楽しいですね。
ただし楽かどうかは別だと福山さんは言います。ゼロからの立ち上げで、信頼して資金を預けてくれる人が多いからです。それでも起業のほうが大変だったと振り返ります。
どんな起業家にバリューを返せるのか
今この番組を聴いている起業家のうち、どんな人にバリューを返せるのか。福山さんはまず自身の経験領域を挙げます。
元々SaaSをやっていたので、日本のSaaS系なら「気をつけたほうがいいこと」や「伸びやすいポイント」を伝えられると話します。
アメリカではY Combinatorを中心に投資しており、そこはAIの会社が多いため、これからAI領域を選ぶ人にトレンドを伝えられるとも言います。
そして最大の強みは、元々起業家だったことだと福山さんは考えています。
起業家出身VCという選択肢
アンリさんは、起業家出身のベンチャーキャピタルが日本にまだ少なく、もっと増えたほうがいいと語ります。
福山さんが投資家になると言ったとき、大多数は応援してくれたものの、一部からは「もう一回起業しないの?」というプレッシャーもあったといいます。
もっと投資家として「ちゃんとホームランを狙いに行きます」っていう元起業家のキャリアパスっていうのは、日本でも増えてもいいんじゃないかなと思いますね。
アンリさんは、起業家がVCを「会社としてやる」と発想が全く違うと指摘します。「何がPMFで、どうやってこのマーケットで勝てるのか」という起業家っぽい発想になるからです。
一方で日本のVCは、キャピタリスト出身者が多く「金融っぽい」とも語られます。だからこそ起業家っぽい人にまだチャンスがあり、競争はもっと過熱したほうがいいという立場です。
福山さんは、ソロGPは組織がなくてもいける分、堕落しようと思えばできてしまう仕事だとも言います。だからこそ規律を持ってハードワークすれば、良いファンドが作れるチャンスだと捉えています。
福山さんへのコンタクト方法
福山さんにコンタクトしたいときはどうすればいいのか。答えは、X、LinkedIn、Facebook、何でもありとのことです。
他の投資家や起業家からの紹介であれば、基本的に100%会うといいます。ただし、投資家として返信しづらいメッセージもあります。
アンリさんが「投資家側として、会いたいですという連絡はむしろ返信しづらい」と問いかけると、福山さんは望ましい形を具体的に語りました。
最初のメールで分かりやすく「これぐらいの売上で、これぐらい伸びてて、こういうステージにいて、こういう調達をしようと思ってるんですけど、興味ありますか」みたいに言われると、ちゃんと意思決定がしやすいというか。
守秘義務を恐れて「情報は明かせませんが一度お茶を」という形だと、時間の関係で会えないこともあると言います。赤裸々に言い合ったほうが、良いマッチングが生まれやすいそうです。
福山さん自身から起業家にDMを送ることもあり、直近の投資はDM経由だったと明かしました。
日米で全く違う投資戦略
投資家として日米両方を見ていると、スタートアップの見え方はどう違うのか。まず福山さんは投資戦略の差を説明します。
アメリカは成功時のボラティリティが大きく、100社中99社が失敗しても1社が100ビリオンになればファンドとして大きなリターンが出せるモデルです。
一方、日本は上場時の時価総額が100億〜300億円のレンジが多いといいます。100社に投資して1社が300億円で上場するだけではリターンが出ません。
ちゃんと絞って投資して、そのうちの半分がそれこそ上場する、みたいな形でモデルを組まないと、リターンは出せないんじゃないかなと思って見てますね。
だからRice Capitalは、投資方針も件数も金額もサポートスタイルも、日米でガラッと変えていると福山さんは言います。
100社中1社が巨大化すればリターンが出る。多数に薄く投資し当たりを狙う
上場は100億〜300億円が中心。少数に絞り、半分が上場する設計でリターンを出す
サポート体制と「定例の多さ」
サポート体制も日米で大きく異なります。アメリカは元起業家の投資家が多く、1回の調達で何十人からも集めるため、株主1人あたりの期待値がそこまで高くありません。
基本はメールベースの株主報告で、何かあれば質問するというスタイルです。対して日本は株主を多く集める機会が少ない分、1社1社への丁寧なサポートが求められると話します。
アンリさんは、日本も株主レポートをしっかり出せば定例ミーティングはやらなくていいのではと問いかけます。ここから話は「定例の多さ」へと移ります。
日本は月1回、1時間か2時間やってる会社が多いんじゃないかなと思うんですけど、アメリカは最初は2ヶ月に1回、大きくなってくると3ヶ月に1回になってくるんで。
アンリさんは、社外取締役を務めるジョーシスでは取締役会が3か月に1回、その代わり3時間で、実績説明7割・今後3割という形だと紹介します。アメリカに近いフォーマットです。
最近アンリさんは「起業家に時間を返す」というテーマを話しているといいます。投資家の社内メモのための打ち合わせでは、お互いアンハッピーだと福山さんも同意します。
今辛いんですけど、5分後電話できますかってときにすぐ電話できて、なんならそのまま3、4時間その起業家と話してられる、みたいな関係値のほうが逆にいいんじゃないかなって気がしますね。
アンリさんは、投資家として一番バリューを出せたのは、プライベートの悩み相談に乗り、最適な弁護士を紹介して一緒に解決したときだと振り返ります。定例で良いことを言えた経験はないそうです。
トラブルにこそ燃える投資家の役割
一番燃えるのは、ろくでもないトラブルだと二人は口を揃えます。起業家時代に「もう終わるかも」と思った問題も、何社かで同じことを見ていれば「何とかなりそう」と見えてくるからです。
アンリさんは、担当する起業家によくこう伝えているといいます。
トラブルがあったらまず連絡してもらえれば、大体のトラブルはいける。400億円以上盗まれたことがある投資家はあんまりいないから、多分あんまりびっくりしないと思う。
新しい種類のトラブルはもうないから驚かなくなった、と語ります。冷静に切り分けてカバーできることで「ここだけ強くなった」と捉えられるといいます。
目指すは世界一のソロGP
起業家として明確なエグジットを果たした福山さんに、VCとして「これができたらやったと言える」ポイントを尋ねます。
福山さんの人生のテーマは「世界で挑戦する」こと。このファンドでアメリカのトップリターンを出し、投資家として挑戦するのが今回のテーマだといいます。
日米を通じて、エグジット数が世界で一番多いソロGPのファンドを、今目指してやってますね。
アメリカでもソロGPを続けてエグジットが非常に多いファンドはあまりない、と福山さんは見ています。IPOの数が多い日本と組み合わせれば、世界でも堂々と戦えると考えています。
ステップアップとしてファンドを大きくするのかと問われると、答えは「大きくしたくない」でした。組織のマネジメントをしたくないこと、そしてもう一つ理由があります。
ファンドが大きくなるとリード投資が必要になります。アメリカのVCでも、リードを取り出した瞬間に投資家同士の情報交換ランチをしなくなったと聞いたそうです。
僕はみんなと仲良くしたいタイプなんで、今のファンドサイズでリードは取らず「日米やってます」みたいなスタイルでいいんじゃないかなと思ってますね。
アンリさんも、日本のVCが10年前より競争的になり、リードの取り合いやプロラタ(持分比率維持)の権利をめぐるバトルが増えたと指摘します。その究極系がプライベート・エクイティだと語ります。
だからこそ、リードを取らず、グローバルであることと元起業家であることというユニークバリューを活かし続ける戦略は理にかなっている、というのが二人の見立てです。
日米をつなぐ存在になりたい
その先にどんな会社が生まれたら「いい仕事をした」と言えるのか。福山さんは、日本とアメリカを繋げる存在になれたらエコシステムに影響を出せると語ります。
日本の会社に海外投資家を紹介したり、逆にY Combinatorの会社から「日本の事業会社と提携したい」という相談を逆紹介したり。どんな会社かよりも、その橋渡しを担うことを意識しています。
バイネームで「あの人に投資してもらいたい」っていうのを、Y Combinator内でも一番に言われたいですし、日本のエコシステムでも一番に言われたい。
それを結果で測るなら、ソロGPとしてのエグジット数が一番分かりやすい、と福山さんは締めくくります。
Rice Capitalという名前の由来
アンリさんが不思議に思っていたのが、なぜ「Rice Capital」という名前なのかということです。
福山さんいわく、アメリカでも分かりやすい日本のものを探した結果だそうです。当初は流行の寿司にちなもうとしたものの「寿司ベンチャーズ」はさすがにと断念したといいます。
寿司において、起業家のみんなはネタでいう魚ですと。で、僕はRiceのように皆さんを支える存在になりたい、っていう。
ソロGPにファンドの屋号は要るのか、という話にもなります。「タロウフクヤマ・キャピタル」でもよかったが、分かりやすい名前のほうが覚えてもらえると考えたそうです。
10年後の答え合わせと、それぞれのVC像
アンリさん自身は、完全にソロGPのつもりで始めたためファンド名を付けず「ANRI」にしたといいます。当時ちょうどAndreessen Horowitzが出てきた時期でもありました。
メールアドレスの頭を「me」にしたのも、一人でやり続けるつもりだったからだそうです。ところが人が増えてしまい、今に至ると笑います。
アンリさんは、自分がソロGPと箱の中間で、キャピタリストの「アク」を残しつつ複数人のソリッドなVCを育てる方向にチューンナップしたいと語ります。その選択の背景には、正直な自己認識がありました。
自分は投資家としての才能がないけど、なんかいい投資家を見つけられるっぽい、みたいなほうにチェンジして、「じゃあそっちで行きましょう」みたいな。
その判断が正解だったかは今も分からないと言います。それでも、いろんな形のファームがあるほうが起業家の選択肢が増え、エコシステムにとって良いと二人は合意します。
この対談は10年ぶり。10年前のインタビュー動画を見返した福山さんは、自分の声の高さに驚いたと明かします。今日は声を低く、言葉を選んで話すのがテーマだそうです。
話は最後に福山さんの野望へと戻ります。世界一のソロGP以外に何かあるのかと問われ、ドラッカーの言葉を引きながら答えました。
死んだときにどう思われたいかって言ったときに、僕はやっぱり「アメリカで挑戦してた人だね」って少しでも多くの人に思ってもらえたらいいなと思ってるんで。
その原体験は、アメリカ留学時にいじめられたことだといいます。日本人がマイノリティの中で一矢報いたい、という思いです。
アンリさんは「ちょっと今かっこいいと思った」と反応します。福山さんが「僕のハートの火が伝わりましたか?」と尋ねると、返ってきたのは「低温で伝わりました」でした。
まとめ
起業家出身のVCという立場から、福山さんは日米で全く異なる投資戦略とサポート体制を使い分け、「世界一のソロGP」を目指しています。ファンドを大きくするのではなく、グローバルであることと元起業家であることを武器に、日米をつなぐ存在になろうとしている姿が印象的な回でした。
- Rice Capitalは日米に半分ずつ投資し、アメリカはY Combinator卒業生、日本はSaaSやマーケットプレイスを中心とする
- アメリカは多数に薄く、日本は少数に絞る。投資戦略もサポート体制も日米で完全に分けている
- 起業家出身VCの強みは、PMFやマーケットの発想と、トラブルを「何とかなる」と伝えられる経験にある
- 福山さんは組織を持たずリードも取らず、エグジット数世界一のソロGPを目指している
- 名前の由来は「起業家が魚、自分は支えるRice」という寿司の比喩からきている
