ジョーシス起業の背景とグローバル前提のフォーメーション
聞き手の佐俣アンリさんは、まずジョーシスがどんな時間軸でスタートしたのかを尋ねます。
松本さんは、きっかけはコロナだったと話します。2020年3月末のロックダウン開始後、「ポストコロナの世界はどう変わるのか」を考えていたタイミングでアイデアを作ったといいます。
コロナ中の2020年の3月末ぐらいからロックダウンが始まって、起業家だったらみんなそうだと思うんですけど、「次、ポストコロナの世界はどうなる?」「どういうチャンスがあるんだろう」というのを、みんなストレスを感じながら考えていたタイミングでした。そのタイミングにアイデアを作りました。
そこから当時のラクスルCTOに声をかけ、インドの開発拠点のカントリーマネージャーだったサンジェイさんを巻き込んで開発を始めます。
2021年4月にベータ版、9月に正式ローンチ。その後すぐ資金調達を開始し、半年後に約40億円を調達しました。
トラクションが良く、2年目にはグローバルへの挑戦のため135億円を調達し、累計179億円に。昨年9月にはアメリカとAPAC40カ国でサービスをローンチし、チームは8カ国に180人、うち日本人は40人という規模になっています。
佐俣さんは、日本発のスタートアップとしては珍しいフォーメーションとスピードだと指摘します。松本さんは、これは意識してやったと答えます。
ラクスルでも途中でグローバル化を試み、ベトナムに開発拠点を作りました。ただ、リーダーシップのレイヤーを非日本人中心にしてグローバル市場へ出るのは、後からやると難しかったと振り返ります。ドキュメントもプロトコルも日本語だったからです。
一回大きくしちゃうと、後から変える方が大変で、ゼロから作った方が簡単だなということで、今回はコファウンダーをインド人にして、グローバルを前提に作るという、ラクスルでできなかったことを今やっているような感じです。
ラクスルの危機と「0→1」への回帰
佐俣さんは、ジョーシスのスタートがラクスル創業期と似ているのではと問いかけます。松本さんは、論理的な説明と非論理的な説明があると前置きします。
論理的な説明の一つは、コロナでラクスルの売上が4割減ったことです。月次で20億円あった売上が5月には12億円まで落ちました。
売上が上場企業で4割減るって、基本的にはもう壊滅の危機に近いですよね。
壊滅です、壊滅ですよ。印刷でお客さんが中小のレストランとかホテルとかリテールの方々が多かったので、みんなストップしちゃったのでかなり厳しかった。
ラクスルが持っていた事業は物流のハコベルやテレビCMなど、いずれもマーケティングに関わる領域で、コロナのピーク時に軒並み絞られました。
物理に依存する事業ばかりで継続性が弱いと痛感し、景気が悪くなっても伸びる事業を作らねばと考えたといいます。当時使われていた「レジリエンス」という言葉で、強い会社を目指していました。
もう一つは、会社が大きくなるにつれ、自分の役割が事業づくりからガバナンスや人事制度づくりへと移っていったことでした。
本当に自分がやりたいことなのかなと。もちろんプロフェッショナルなのでしっかりやるんですけど、義務としてやっている感覚はすごく強かった。本当に情熱を持ってやりたいことは、0から1を作るとか、価値を生み出していくことだなと思っていて。
そんな時、佐俣さんがリード投資家を務めるNOT A HOTELの創業者・濱渦さんが、コロナ禍の那須塩原で土地を見てホテル業を始める姿に触れます。
0から1を作っていくことを、こういう厳しい環境の中でやる人に触れて、それは結構熱として伝染しましたね。
佐俣さんも、ゴールデンウィークに牧場を買うという、誰もが「やってはいけない」と言うタイミングだったと振り返ります。ただ結果的には、牧場も建築費も最も安いタイミングを捉えた大正解だったといいます。
世界同時多発的なDXとIT投資へのシフト
もう一つの気づきは、コロナによる働き方の激変でした。松本さんは、東京都のロックダウン発動の翌日からZoom会議が始まり、4月にはほとんどの会社がフルリモートで回るようになった光景を今でも覚えていると話します。
5年10年かけて起きるDXが、やれば1週間でできるじゃんと。たった1週間、2週間で世界がガラッと変わって、これすごい感動だったんですよ。「こんなに人って変われるんだ」と。
そしてこの変化を支えているのはITだと気づきます。クラウドやパソコン環境がなければ仕事は進まず、経済が動き続けているのはITのオペレーションがコアにあるからだと考えました。
さらに松本さんは、オフィスに投じられていたお金がITへ移ると見立てます。人にオンサイトで来てもらうか、リモートで働いてもらうかは、環境整備という点でオフィス代とITコストが同じ予算だという発想です。
人に来てもらいオンサイトで働く環境を整備する
リモートでクラウドから働く環境を整備する
一方で、このリモートを管理するITはラクスル自身も大いに困っていた領域でした。多くの人数のアウトソーシングを抱え、基本的に手作業でIT化が進んでいませんでした。
アメリカやシンガポールの友人にZoom飲みで聞いても、全員が同じ状況で、ソリューションがないと分かります。1週間でDXが起きたからこそ、世界中で同時に発生した課題でした。
これを解決することができればグローバルビジネス作れるんじゃないかと。景気がどれだけ悪くなってもパソコン使う人は増えてるし、クラウド使う人は増えてるし、需要が大きくなり続けている領域だからこそやろうと。
トップダウン経営と「ワンプロダクト」への集中
佐俣さんは、松本さんが新規事業のモードから起業家モードへ変わり、田町時代の15人規模だった頃のラクスルの松本さんに戻っていく感覚があったと語ります。
事業を作るの好きなんだなと。空中戦ではなくて、本当にプロダクトを見たいし、営業をしたいし、テクノロジーの議論にも入りたい。1人が全部やらなきゃいけないなっていうのがラクスルでの学び。
松本さんは、ラクスルではラクスル・ノバセル・ハコベルそれぞれにリーダーとチームを置き、遠心力を効かせるポートフォリオを取ったと振り返ります。その結果、自分は管理の仕組みを作る人になり、事業を持てなくなったといいます。
各事業が単体のスタートアップのようにオーナーシップを持って動くこの形は、ラクスル経営で成功した点でもありました。ただ遠心力が働きすぎ、シナジーや大きなチャレンジが起こしづらくなったとも話します。
そこでジョーシスでは、レポートラインを明確にし、CEOが絶対的な権力を持つトップダウンの会社に変えたといいます。
佐俣さんは、ラクスルが複数の事業オーナーを持つ形を多くの起業家が目標にしている一方で、松本さんはその一歩先でワンプロダクト・ワンオーナーシップの会社を作っていると興味深く受け止めます。
今クォーター、この1年に対する最適化をするんだけど、本当に産業を変える大きなビッグピクチャー構想が出るかというと結構出づらくなるし、リソースも分散しちゃう。
松本さんは、規模の発想も語ります。ジョーシスは180億円を集めましたが、NASDAQでIPOしたグローバルソフトウェア企業は平均で約6.5億ドルを調達しているといいます。
何千億円という単位でシングルポイントに投資するプレーヤーがいる中で、集中しなければ大きなインパクトは生めない。だからこそ「何をやらないか」を決め、やることに全てをフォーカスすると話します。
信頼という最大のアセット
佐俣さんは、ラクスルの成長と合理性を保ったまま0→1をもう一度始められる人はなかなかいないと、心からの尊敬を語ります。
松本さんは、そうした信頼をしてもらえることが大きなアセットだと応じます。今回の大きな資金調達も、ほとんどが前回ラクスルに投資した投資家だったといいます。
信頼は本当に、これは多分シリアルが持てる最大のアセットだと思うんですけど、この信頼の蓄積をしていくことが、より大きなチャレンジをしていくことにつながるなと思います。
佐俣さんも、シリアル起業家への投資では、その人がビジネスマンとして誰に何を約束し、それを守ってきたかを過去に遡って見ていると明かします。
本当にちゃんと約束を守ってきた人に対しては、基本的にバリュエーションとかもあんまりこだわらない。なぜかというと、これも約束だから。約束を守ってきた人は約束を守るための提案をしてくれる。
松本さんは、信頼の積み重ねの原点として、佐俣さんに昔言われた言葉を挙げます。けんすうさんに会った後、お礼メールをすぐ送れと言われたことです。2009年頃、nanapiが最も人気のサービスだった時期の話でした。
当時は営業っぽい心得のように感じたものの、人を紹介してもらった後にきちんとお礼を言うことは大切で、今の信頼づくりの延長線上にあると振り返ります。
世界で使われるサービスと成功の解像度
佐俣さんが5年後10年後に実現したい未来を尋ねると、松本さんはラクスルで一番嬉しかったのはお客さんが使ってくれていることだったと語ります。
今みんなZoom使ってるじゃないですか、Slack使ってるじゃないですか、Notion使ってるじゃないですか。同じようにアメリカ人もブラジル人もフランス人もドイツ人もみんなジョーシスを使ってくれている状態に、7年ぐらいかけてなっていきたい。
具体的には、初めてニューヨークの会社と打ち合わせをした時に「ジョーシス、使ってますよ」と言われる状態を作りたいといいます。近い領域では、アクセス管理のOkta(オクタ)ほどの知名度と利用を目指すと明言します。
さらに手前の目標として、Asana(アサナ)ぐらいのイメージはかなり解像度高く「行ける」と感じていると話します。松本さんは、成功の解像度を高めることの重要性を強調します。
その方法は、うまくいった人がいるコミュニティに入り、実際にファウンダーに会って話を聞き、成功のイメージを持つことだといいます。ウェブ検索やYouTubeではうまくいかないとも語ります。
やった人と仲良くなっていろいろ教えてもらって、そのイメージを具体的な映像も含めて持てるところまで行こうと。今1年の半分ぐらい海外にいて、シリコンバレーにいるとそういうコミュニティがあって、巻き込んでアドバイザーになってもらう。
参考にしている先輩企業として、チェンナイ発でグローバル展開したFreshworks、Asana、そしてOktaの手前にあるBill.comを挙げます。Bill.comはニッチを攻めてARR10億ドルに到達したといいます。
Asana水準
まず手が届く目標として解像度高くイメージ
Bill.com水準
ニッチを攻めてARR10億ドル規模へ
Okta水準
IT担当者なら誰もが知る世界的な普及へ
松本さんは、マーク・ベニオフが学生時代にジョブズと出会いApp Storeの構想を聞いたからこそSalesforceが生まれたという例を挙げ、自分もその世界の中に入っていくことで自分のイメージを変えられると考えていると話します。
情熱の源泉は「自分が楽しいこと」
佐俣さんは、正解のイメージの解像度を上げる活動をずっと続けられるのが松本さんの強みだと語ります。ロケーションもマインドも変えていくことを楽しめる点です。
知らないことを知れるようになるとか、見たことのない景色を見れるってのは、すごい楽しいことだなと。アメリカのホテルのワンルームでずっと半年過ごしてても楽しくて仕方がないですね。
松本さんは、人からどう見られるかはどうでもよく、自分の中で楽しいという状態を作れないことへのストレスが強いと明かします。楽しいと思う生き方をファーストプライオリティにしているのかもしれないと語ります。
佐俣さんも、多くの人は楽しいと思えないことをやるとパフォーマンスが上がらないため、自分のモチベーションが何かを理解することは大事だと応じます。松本さんはそこに率直だと評価します。
まとめ
コロナ禍での危機と気づきをきっかけに、松本さんはラクスルという大きな会社を作った後、再びゼロから起業しました。グローバルを前提にした設計と徹底したフォーカス、そして信頼の蓄積を武器に、世界中で使われるサービスを目指しています。その根っこにあるのは「事業を作るのが好き」という率直な情熱でした。
- ジョーシスはコロナ禍のDX加速と世界同時発生の課題を捉え、グローバルを前提にゼロから設計された事業です。
- ラクスルは遠心力を効かせる複数事業体制だったが、ジョーシスはワンプロダクトへの集中とトップダウン経営を選んだ。
- 大きな挑戦を可能にするのは信頼の蓄積であり、約束を守り続けることが最大のアセットになる。
- 成功の解像度は、実際にやり遂げた人と会い、そのコミュニティに深く入ることで高められる。
- 松本さんの情熱の源泉は「自分が楽しいと思える生き方」を最優先にする姿勢にある。
