スタートアップの開発力×大企業の営業力。生まれたシナジーの先に目指すものとは
株式会社medimoの代表取締役で医師の中原楊さん、代表取締役で共同創業者の馬劭昂さんが、スズケングループへのグループイン後の展望について語りました。医療スタートアップと医薬品卸大手という異色の組み合わせは、どのようなシナジーを生み出し、どんな未来を目指すのか。二人の起業家が抱く個人的な野望も含め、その内容をまとめます。
グループイン決断の理由
medimoがスズケングループにグループインを決めた最大の理由は、スケール事業を急速に拡大すること。medimoの場合、全国の医療機関への導入を短期間で実現することを指す。の速度でした。中原さんは「起業家気質の自分たちが、新しいものを作って世の中に届け、それで世の中が変わるのを見届けたい」と語ります。
自分たち単体で医療という巨大産業の中でスケールしていくのはあまりにも時間がかかるなっていうのが正直一番大きかったところなんですよね。
医療機関向けサービスは、一般的なBtoBサービスとは大きく異なります。ToCサービスならCMやデジタルマーケティングで認知を取れますが、医療機関は購買決定時にインターネットをほとんど見ません。営業の主流は今でもテレアポと訪問営業という、極めて伝統的な手法です。
中原さんは「プロダクト開発は超ハイテクノロジー、デリバリーは超ローテクノロジー」と表現しました。いくら良いものを作っても、使ってもらわなければ意味がない。そこで、長い目線で医療に根差し、巨大な営業網を持つスズケンと組むことが、最速で日本の医療にインパクトを与える道だと判断したのです。
グループイン後に生まれたシナジー
グループイン後、medimoには具体的な変化が訪れました。まず、営業シナジーが予想以上に大きかったこと。スズケンの社長から「今年予定の3倍ぐらい伸ばせる」という言葉をもらい、それに向けた準備が始まりました。
仕事が増えました。時間の7割ぐらいをずっと採用に使ってるんですけど。
実際、取材時点で今月だけで10人の内定を出すという、極めてアグレッシブな採用計画が進行中でした。これは単にmedimoの既存プロダクトを拡大するだけでなく、スズケングループ全体での新規事業開発も視野に入れたものです。
馬さんは「スズケンの圧倒的な顧客基盤、営業体制とmedimoの開発力を使って、新しい医療機関向けの事業をどんどん作っていこう」と話します。medimoのプロダクトだけにとどまらず、グループ内の様々なアイデアをプロダクトに落とし込んでいく役割も担い始めているのです。
スタートアップと大企業が組む意味
佐俣さんは、日本のVC市場がピーク時でも約8,000億円規模であるのに対し、アメリカではOpenAIChatGPTを開発した人工知能研究企業。2023年時点で評価額10兆円規模に達し、1社だけで日本のVC市場全体を上回る資金を調達。一社で10兆円の調達を行うなど、桁違いのスケール感があると指摘します。日本で素晴らしいスタートアップが成長するには、300億円規模の資金が必要なケースもありますが、年間8,000億円のマーケットでは数字が合いません。
そこで鍵となるのが、大企業との協業です。中原さんは「若くて勢いのあるスタートアップと、全国に基盤があって資金力も信用力もあるが新規事業に苦労している大企業」の組み合わせが、今後の一つの型になると語ります。
大企業側から見ると、自社でできそうなことは自前でやりたくなります。しかし距離感があることで、「これは自社でやるより買った方が早い」という判断ができるのです。また、M&Aで入ってきた人材は従来の人事制度の枠外にいるため、結果を出していれば年齢や社歴に関係なく上にあげやすいという利点もあります。
・プロダクト開発力
・スピード感
・柔軟な意思決定
・営業ネットワーク
・資金力・信用力
・顧客基盤
戦時と平時のアントレプレナーシップ
佐俣さんはリクルート創業1960年の人材サービス大企業。社歴45年以上ながらスタートアップ的な組織文化を維持し、Indeedなど大型M&Aで成長してきた。時代の上司だった出久保さん(現Indeed Japan社長)の話を例に、「戦時と平時では求められる人材が違う」と語ります。出久保さんは会社のお金1,000億円を使ってIndeedを買収し、自ら社長となってグローバルカンパニーに育て上げました。
安定的に保っていって、既存のクライアントさんをハッピーを毎年3パーセントずつ向上させましょうみたいなことは向いておりません。
中原さんも同意します。「戦時と平時は違う。基本的に我々は戦時型人材で、平和になったら首切られる」。見たこともない顧客を作ることにアドレナリンが出る人種と、既存の勝ちパターンを安定的に回す人種は異なるのです。
佐俣さんは、スズケンが約5年前から「我々は戦時である」と定義し、スタートアップとの協業やM&Aに取り組んできた点を高く評価します。中原さんも「最初からその危機意識を素直にお伝えいただいていて、戦時の状況をいかにサバイブしていくか、若くて思考能力も高くて時代がわかる人たちを中核に置いてやっていくフォーメーションを作りたいとお話をいただいている」と語ります。
佐俣さんはYahoo! JAPAN電脳隊(現ZOZOの前身事業)を買収し、創業者の川邊健太郎氏を経営幹部に登用。川邊氏は後にYahoo! JAPAN社長に就任し、ペイメントやコマース事業への大転換を主導した。やCiscoネットワーク機器大手。社員が起業→買収→幹部登用→新たな起業、というサイクルを繰り返し、外部の成長エンジンを取り込んで拡大してきた。の例も挙げ、「起業家を買って成長エンジンにする」文化が日本でも広がる可能性を示唆しました。中原さんは「一つの世代交代」とも表現し、M&Aで入った人材が従来の人事ルートとは違う形で上にあげられる、新しいキャリアパスの可能性を語ります。
今後の挑戦と個人の野望
佐俣さんは「医療、ヘルスケア、ウェルネスに1ミリでも絡んでいれば、一旦話は聞きたい」という中原さんの言葉を引き出しました。スズケンは「健康創造カンパニーであり続ける」というミッションを掲げており、健康・ヘルスケアに貢献できることは全てやっていく方針だといいます。実際、グループイン後、多くの医療系起業家から声がかかり、M&Aの可能性を探る動きも始まっているそうです。
個人的な野望について、中原さんは意外にも「正直、自分探しフェーズ」と語りました。目標にしてきたグループインが実現し、「受験終わった直後みたいな気持ち」になったといいます。しかし、徐々に自分が大事にしたいことを思い出してきたとも。
人間がいかに人間らしく生きれる世の中作れるかっていうのはすごい感じていて。
medimoの根底には、医療従事者が自分たちらしく本当にやりたいことをやれる環境を、AIというツールを通して実現するという思いがあります。そしてそれは医療だけでなく、ほぼ全ての分野で起きてくることだと中原さんは考えています。労働がAI・自動化・ロボティクスで自動化されていく中で、人間に残された仕事、人間の役割、作るべき文明の将来の姿とは何か。さらに、世界が分断されブロック化されていく中で、いかに平和で全人類が仲良くやっていける環境を作るか。環境問題、AIとの付き合い方、宇宙への進出など、全人類として向き合うべきことにリソースを割ける環境をどう作るか──企業活動とはまた違う、社会慈善活動的な領域に興味があると語りました。
一方、馬さんは「人生で一番大きい山に登りたい」と語ります。高校生の頃から「なぜ人は働くのか。働くより家族と幸せに暮らす方が幸せでは」と考え、どうせ働くなら一番意味のあることをやりたいと思ったといいます。それが医療でした。人の生きる死ぬという重大なテーマで事を成したい。
馬さんが最終的に達成したいのは、「病気という概念が過去のものになる世界」です。ワクチン感染症を予防する医薬品。天然痘根絶など、人類の医療史における最大級のパラダイムシフトの一つ。馬さんはこれを「感動したもの」として挙げた。の発明で天然痘やペストによる死を回避できたように、これは人類にとってのパラダイムシフトでした。最近では肥満も慢性疾患として管理可能になってきており、人間の生物学的な限界が拡張していくトレンドは今後も続くと馬さんは考えています。「全ての人が最適な医療を受けられる状態を作って、病気で悲しい思いをする人がいなくなったらいいな」──これが馬さんの野望です。
まとめ
medimoのスズケングループへのグループインは、医療スタートアップと医薬品卸大手という異色の組み合わせながら、双方の強みを活かした理想的なシナジーを生み出しています。プロダクト開発力と営業力、スピード感と信用力、新しい発想と既存の基盤──こうした補完関係が、日本の医療に大きなインパクトを与える可能性を秘めています。
中原さんは「改めて言語化して、今回はすごい良かった。もっともっと頑張らないとな」と語り、馬さんは「学生起業を踏みとどまってる方や、何かチャレンジしたいけどどうしようかなと思ってる方が勇気を出してくれるきっかけになったら嬉しい」と締めくくりました。
二人の起業家が描く未来は、単なる事業の成功にとどまりません。人間が人間らしく生きられる世の中、病気という概念が過去のものになる世界──そんな壮大なビジョンに向かって、彼らの挑戦はこれからも続いていきます。
- medimoはスズケングループへのグループインにより、自社の開発力と大企業の営業網を組み合わせ、従来の3倍速での成長を目指している
- 医療機関向けサービスは営業がボトルネックになりやすく、全国30万施設への導入には自前だと5〜10年かかる。大企業との協業でこれを短縮できる
- スタートアップと大企業の組み合わせは、お互いに理解がない「いい距離感」があることでリスペクトが生まれ、うまく機能する
- 大企業が「戦時」と「平時」を正しく認識し、戦時にはアントレプレナー型人材を中核に置くフォーメーションが重要
- 中原さんは「人間が人間らしく生きられる世の中」を、馬さんは「病気という概念が過去のものになる世界」を個人の野望として掲げる
