未来から逆算して"今"やるべきことを考える──newmo 青柳直樹が語る起業の覚悟とライドシェアの先
ハートに火をつけろ by ANRI第4回は、前回に引き続きnewmo株式会社2024年1月設立。タクシー事業とライドシェア事業の両面から日本の移動課題に取り組むモビリティスタートアップ。代表取締役CEOの青柳直樹さんがゲスト。起業に至った経緯から、規制産業への向き合い方、自動運転時代を見据えた未来構想まで、ANRIの佐俣アンリさんとの対話で語られたその内容をまとめます。
「更地からの挑戦」が一番楽しい理由
佐俣さんが口火を切ったのは、最近の青柳さんの「顔」の話でした。これまで何度も顔を合わせてきた中で、先日の朝食の場が一番楽しそうだったと振り返ります。
今実際楽しいですね。やりたいことを本当に日々やれていて、一つ一つ積み上げていっている手触り感がすごくある
青柳さんは、グリー2004年設立のインターネット企業。ソーシャルゲームプラットフォームで急成長し、2008年に東証マザーズ上場。青柳さんはCFOとして上場を主導した。やメルカリ2013年設立のフリマアプリ運営会社。青柳さんはメルペイ代表取締役、メルコイン代表取締役CEOなどを歴任した。グループでの経験を「とても恵まれていた」と表現しつつも、ライドシェアへの挑戦を見送った場合のことを考えたといいます。2017年に一度挑戦しようとして断念した経験があり、もし誰かが先にやり遂げるのを横で見ていたら、ビジネスキャリアを終えた時に後悔が残るだろう──そう思ったことが起業の決め手になりました。
佐俣さんは、前回のゲストだった松本恭攝さんラクスル株式会社の創業者。その後ジョーシスを立ち上げ、上場企業の経営者でありながら新たな起業に挑むシリアルアントレプレナーとして注目されている。がジョーシスを始めた時にも同じ「ワクワクした顔」を見たといい、「更地からやりたいことをやっている人」に共通する表情があると語りました。
シリアルアントレプレナーの責任と覚悟
青柳さんは、松本さんがラクスル印刷・物流・広告などの産業DXを手がける企業。2018年に東証マザーズ上場。グリーも初期に投資していた。を大きくした上で新たな挑戦に踏み出す姿を見て、自分自身にも問いかけたといいます。「自分はこの後、とても恵まれたコンフォートゾーンにいていいのか?」と。ただし感情は「ムカつく」ではなく、「応援しつつ自分に問いかける」ものだったとのこと。
佐俣さんはシリアルアントレプレナーへの投資で大切にしている点として、「現職に対する責任を守れる人か」と「投資した後に楽しそうか」の2つを挙げました。上場企業の経営者としての責任と、起業家として更地から挑みたい気持ちの両方があってよいが、無責任に抜けるのはなしだという考えです。
後を引き受けてくれる人がいて、この人たちへの感謝はめちゃくちゃ大きい。この人たちが背中を押してくれなかったらこの挑戦はできていない
「最善の辞め時はいつだろう」と問うと、完璧なタイミングはないものの、「コンディション」はあると青柳さんは語ります。松本さんも青柳さんも、後任を引き受けてくれる仲間がいたからこそ踏み出せた。「まず仲間に感謝」という言葉に、二人のシリアル起業家に共通する姿勢が表れていました。
創業期の仲間集め──自分と違うタイプを選ぶ
佐俣さんはシリアル起業家の初期チーム編成に強い関心を持っています。「更地からの勝負で誰を一番身内に置くか」には、その人の人間性が出ると語ります。
青柳さんが意識したのは、「自分と違うタイプを選ぶ」こと。まず共同創業者としてメルペイで一緒に働いていた曽川さんが「自分もメルカリを離れる」と即決してくれました。青柳さんとは全くタイプが違うからこそ、会社の可能性を広げてくれる存在だと感じたそうです。
さらにCOOの春菜さんは、Uber EatsUberが展開するフードデリバリーサービス。日本では2016年にサービス開始。の立ち上げやWoltフィンランド発のフードデリバリーサービス。2022年にDoorDashに買収された。日本でも主要都市で展開していた。での経験を持ち、青柳さんのこれまでのスタートアップコミュニティとは少し異なる人脈です。しかし「この事業をやった時に絶対に必要」で、かつライドシェアへの情熱があった。話をしてから1週間後に「やる」という連絡が来たといいます。
意思疎通が速い反面、視野が狭くなりがち
会社の可能性を広げる。事業に必要な専門性と情熱を重視
規制産業を敵にしない変革のアプローチ
ライドシェアを取り巻く規制環境は、1〜2週間おきにルールが変わるほど流動的だと青柳さんは明かします。佐俣さんは「仮想通貨級のスピード感」と表現しました。
当初はニュースのたびに一喜一憂していたものの、数ヶ月経って「これは振り子のように絶望と希望を行き来するもの」だとチームで腹をくくったそうです。大局としては「今まで止まっていた時計が動いている」──世の中が求める方向には、障害があっても時間をかけて進む。その認識を共有してからは、振り回されずにベストな手を打ち続ける姿勢に切り替えました。
タクシー会社の「中から」変える
newmoのアプローチの特徴は、タクシー会社であり、タクシー配車会社であり、ライドシェア会社であるという三位一体の立場をとっていることです。佐俣さんが「産業のオルタナティブではなく、保守本流も全部持った上での課題解決」と評したこの戦略は、7年間にわたる国土交通省日本の交通行政を管轄する中央省庁。タクシー・バスなどの旅客運送事業の許認可を所管している。との対話の末に辿り着いたものだといいます。
この姿勢の根底には、メルカリで暗号資産やフィンテック事業に携わった経験がありました。2017年頃から暗号資産業界では、マネーロンダリング対策や本人確認といった規制にきちんと対応した会社のほうが結果的に伸びた。「ルールに沿った上で事業をやるほうが勝つ」という学びが大きかったと振り返ります。
自ら運転席に座る当事者性
青柳さんは実際に運行管理の試験を受け、大阪のタクシーセンターに通って乗務員証を取得。一日だけですが、実際にお客様を乗せる体験もしたそうです。タクシー運転手になるまでのプロセスを自分で経験してみることで、「必要なエッセンス」と「オンラインでいいもの」「昔の名残で残っているもの」の区別がつくようになったと語ります。
佐俣さんは「レガシーを敵にするのは、特にこの国では良くない」と、さまざまな産業に投資してきた経験から指摘します。既存プレイヤーの努力や責任を見ずに否定すれば反発を招くだけ。一方で青柳さんは、日本に5,000社以上あるタクシー会社の多くが家族経営で、アプリ開発のような大きな投資はできず困っていると語ります。「最後はむしろ困った人たちがお客様になる可能性もある」──敵にするのではなく、一緒にやれるやり方を見つけることで、見えていなかった景色が変わるかもしれないという視点です。
移動の先にある社会を変える長期ビジョン
「5年後10年後に目指す世界観は?」という問いに対して、青柳さんは「日本の風景を変えたい」と答えました。人が移動するということは、その先に行きたい場所や人と会う目的がある。移動は必ず何らかのアクティビティやトランザクションに結びついているので、観光・飲食も含めた街の風景全体に関わっていきたいという構想です。
5年単位ではライドシェア・モビリティ・タクシーの事業をしっかりやりつつ、その先はUber2009年設立の米国企業。配車サービスから始まり、Uber Eatsなどの派生サービスで「スーパーアプリ」化を進めている。がUber Eatsを展開したり、Grab東南アジア最大のスーパーアプリ。配車サービスを起点に、フードデリバリー、フィンテック(決済・保険・投資)など複合的なサービスに展開している。がフィンテックまで含めた複合的サービスになっているように、移動を基盤にして新しいサービスを提供していくことを見据えています。
短期(5年)
ライドシェア・タクシー・配車事業の確立
中期
移動データを活用した複合サービス基盤の構築(フィンテック、観光、飲食など)
長期(20年視野)
自動運転との融合、地域交通と生活インフラの再設計
青柳さんはまた、地方の公共交通が消滅すれば住めなくなるエリアが出てくる問題にも触れました。補助金だけでコミュニティバスやオンデマンドバスを維持するのは財政的に限界があり、パブリックセクターと民間がうまく役割を分かち合いながら効率化していく必要があると。「東京にいると見えないが、地方では切実な問題」──その現場で経済活動もできるような仕組みを作ることに、大きなやりがいを感じているそうです。
自動運転時代への「健全な焦り」
話題は自動運転の未来に及びました。青柳さんは、人手が自動運転やロボットに置き換わる時代が「思っているよりもある時にポンと変わるのではないか」と予測します。昨年の生成AIChatGPTに代表される、テキスト・画像・音声などを自動生成するAI技術。2022年末の登場以降、産業構造を急速に変えつつある。のブレイクスルーのように、ある日突然やってくる可能性があると。
それまでに移動についてのデータを持って、活用する基盤を作っておかないと、日本でやる企業が本当に出なくなってしまう
ここに青柳さんの「未来から逆算する」思考が明確に表れています。ライドシェアとフィンテックと自動運転が組み合わさった時にリープフロッグ段階的な進化を飛び越えて一気に次世代の技術・サービスに移行する現象。新興国でPCを経ずにスマホが普及したケースなどが典型例。が起きかねない。2020年代後半から2030年の間にそれが来るとすれば、今のうちにモビリティのデータ基盤を作っておかなければ間に合わない──そこに「ワクワクとともに健全な焦りがある」と表現しました。
佐俣さんも「2015年にぼんやりイメージしていたものが、2024年の今見ると油断すると1年で来かねない」と応じます。テスラが自動運転タクシーの構想を打ち出しているように、車の所有と利用の関係が変わり、不動産だけでなく車がトークン化資産をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現し、分割所有や流通を容易にする手法。不動産や美術品での事例が増えている。されていく未来もあり得ると語りました。各パーツはすでに存在しており、それらが再構成された時に一気に風景が変わる──二人の対話からは、そのタイミングに備えて「今」動くことの重要性が強く伝わってきました。
まとめ
グリー、メルカリグループと恵まれた環境でキャリアを積んできた青柳さんが、あえて更地からライドシェアに挑む理由。それは「やらなかった後悔」を消すためであり、未来から逆算して「今」動かなければ間に合わないという確信からでした。規制産業を敵にせず当事者として中から変えるアプローチ、自分と異なるタイプの仲間を集めるチームビルディング、そして自動運転時代を見据えたデータ基盤の構築。すべてが「ワクワクと健全な焦り」の両輪で動いている姿が印象的な回でした。
- 青柳さんがnewmoを起業した最大の動機は「このテーマに挑まなかったら人生で後悔する」という確信だった
- シリアルアントレプレナーには「現職への責任を果たした上で踏み出す」という筋が求められる
- 創業メンバーは「自分と違うタイプ」を意識的に選び、会社の可能性を広げている
- 規制産業では二項対立を作らず、タクシー業界の中から当事者として変革する戦略をとっている
- 暗号資産業界の経験から「ルールに沿った上で事業をやる会社のほうが伸びる」という学びを得た
- 自動運転・フィンテック・ライドシェアが融合するリープフロッグに備え、今のうちにデータ基盤を作ることが不可欠
- 「未来が来るところから逆算して絵を描く」ことが、newmoの経営思想の根幹にある
