YOUTRUST名物「ぶちあげ」とは何か
前回は岩崎さんの生い立ちやP&Gへの愛を中心に話が進みました。今回はYOUTRUSTという会社でいま何を考え、これから何に挑戦したいのかがテーマです。
まず佐俣さんが切り出したのは、YOUTRUSTが岩崎さんを中心に「異常なテンション」で会社を運営しているように見える、という点でした。あの熱量は一体何なのか。
多分お会いいただくと、アンリさんと波長が合う側の人間なんですよね。一人でめっちゃテンション高いというタイプではなくて、普通にロジカルにしゃべるタイプなんですけど。「ぶちあげ」は、B・U・星・C・H・I・星・A・G・E・星みたいな、正式な書き方まで決まっている社内のお祭りですね。もう祭りだと言っています。
岩崎さんによると、ぶちあげは意識して作っているカルチャーだといいます。社内には「大波・中波・小波」という区分があり、ざわざわさせる年間スケジュールを最初に引くそうです。
1年に1回は大波の「ぶちあげ」、半年に1回は中波、クォーターに1回は小波。何かしらニュースが出ている状態を、年間で設計しているといいます。
この「ぶちあげ」には、大きく2つの意味があると岩崎さんは整理します。
1つ目はすごく分かりやすくて、プロダクトの数字にヒットしやすい。ざわざわしてくれる人たちが直接ユーザーさんや採用企業の方だったりするので、世間を賑わしていると「あそこが本命なんだ」って思ってもらえて、使ってもらいやすくなるんですよね。
2つ目は、あまり世間には見えていない社員向けの効用です。社員が会社を大好きになるタイミングだと岩崎さんは言います。
行ったことないくせによく言うんですけど、徳島県民にとっての阿波踊りみたいな。徳島の人たちってみんな阿波踊りが大好きで、それを誇りに思っていて、それ故に徳島県アイデンティティがあるじゃないですか。全員で一つのことをすると、そのコミュニティへの愛情が深くなって結束力が高まるんですよね。
岩崎さんは、感情的に「この会社大好き」と思える組織ほど、いざという時の踏ん張りが利くと考えています。
毎月1.01倍し続ける組織と、0.99倍し続ける組織だと……。
右肩一直線。
世間を賑わすことでユーザーや採用企業に「本命」と認識され、使ってもらいやすくなる
社員が会社を好きになり、結束力といざという時の踏ん張りが高まる
この「ぶちあげ」の発端は、意外にもDeNAやペロリではなく、岩崎さん自身のTwitter好きにあったといいます。
Twitterでスタートアップを観測していた時に、波があるんじゃないかという仮説を持っていて。一気にその日のタイムラインを染め上げる会社って、上手くいってる会社さんが多いなという感覚があって。その波に乗れるかは序盤から意識してました。
もう一つの原点が、日本の漫画家たちが集った「トキワ荘」でした。トキワ荘1950〜60年代に手塚治虫や藤子不二雄ら若手漫画家が住み、切磋琢磨したことで知られるアパート。才能が集まる場の象徴として語られます。
日本で一番ホットなコミュニティって各業界そんな数ないと思っていて。トキワ荘に入ってしまえば、周りのレベルが異常に高いんで、自分にとって普通でも周りが高いと基準が上がったり、実際引き上げてもらえたりする。まずはスタートアップのトキワ荘に入ろうって思ってたんですよね。その一番簡単な方法が「Twitterで目立つ」ことでした。
好き嫌いを選ぶ「極端なカルチャー」の強さ
佐俣さんが「ぶちあげ」に惹かれる理由の一つは、明らかに好き嫌いを分ける極端な振る舞いだからだといいます。
さらに佐俣さんは、岩崎さんの強みをグランドデザインは緻密でロジカルに決めるのに、決めたら徹底的にやり切る、そのオンオフの切り替えにあると指摘しました。
当然、こうしたカルチャーを嫌う人もいます。「なんでプライベートアカウントで拡散しないといけないのか」という反発です。ただ、いまはそうした声は出なくなったと岩崎さんは話します。
うちのカルチャーは外にもかなり伝わっているので、入ってくる段階で、そういうものに対して「嫌だ」と思う人は受けに来ないんじゃないかなっていう仮説ですね。もはや観測されないので分かんないですけど。
佐俣さんは同じく極端なカルチャーを持つ会社として、投資先のNOT A HOTELを挙げました。福利厚生は「年間100万円で好きなところに旅行できる」の一つだけで、社員はみなプロダクトを本気で好きだといいます。
投資家目線で言うと、中の人たちが自分たちの会社のことを大好きかどうかは、どこまで遠くに行けるかの大きなKPIになると思ってて。「グレートカンパニー」にするなら、どんだけ熱狂したコミュニティを作れるか。私は「健全な宗教や」って言ってるんですけど、中の人たちがここが大好きで楽しいって思えてないと、大したところまで行かないんじゃないかなって。
創業者が消えても成長する会社の条件
佐俣さんは、DeNAの社員が誰しも「私と南場智子」というエピソードを持ち、飲み会で披露する話を紹介しました。ソフトバンクにも同様の「私と孫さん」があるといいます。
「めちゃくちゃなんだよ孫さん」って言いながら、すごい楽しそうにしゃべる。こういう会社って多分強いんだろうなって。
岩崎さんは、熱狂したコミュニティを長く持続させるヒントは宗教にあると考えています。
学ぶべきはキリスト教とか仏教なんじゃないかなと思ってて。私は天寿を全うするまでこの会社をでかくするつもりでいますけど、いつか死ぬじゃないですか。教祖、創業者がいなくなっても成長し続ける会社って考えた時に、キリスト教と仏教が一番強いんですよね。
ここで佐俣さんは、実質的な創業者が早く経営から退いた会社ほど、その教義が語り継がれると指摘します。リクルートの江副さんが例に挙がりました。
リクルートって、実質的な創業者である江副さんが元気な時までで逆にバツッと消えているからこそ、教義がリフレインされているんだと思う。「あの時、江副さんならどうしたんだろう」みたいなものを、みんな一生懸命考えてるんですよね。キリストも腹心たちがピーク時のキリストを見てるから、逆に神格化されたんじゃないかなと。
岩崎さんは、教祖から直接薫陶を受けた人が次にどれだけ伝播するかが重要だと応じます。YOUTRUSTでも、社長が言わなくてもカルチャーが自己発生的に広がっているそうです。
私、全員に「Twitterをしろ」って一言も言ってないんですよ。プライベートアカウントかもしれないから言えないじゃないですか。でも新卒5年目でマネージャーの吉野さんとかが「Twitterは仕事です」って言ってくれるんですよね。社長が言わなくても自己発生的にどんどん拡大してやっていってくれる。これが数珠つなぎになったら、すごくグレートカンパニーにできるんじゃないかなと。
組織を強くする「あだ名」の効用
佐俣さんは、リクルート1年目に古い社史を読み込んだ経験から、社内制度の面白さを語ります。数多くの制度が積み重なった結果、最後は「なぜやっているか誰も分からなくなる」といいます。
その例が、入社初日に最初に声をかけた人が「なんて呼べばいい?」と尋ねる文化です。理由は分からないまま、全員が当たり前にやれているといいます。
制度だったものが高次元に昇華されると、なんでやってるかみんな分かんなくなっちゃうの。なんでやってるか分かんないんだけど全員当たり前にやれてるっていう、その企業の倫理観に近いものに刷り込まれちゃってる。
岩崎さんは、コミュニティ内でのあだ名や呼び名が非常に重要だと言います。呼ばれ方によって人の人格が切り替わるからです。
「いわやん」って呼ばれる時と「ゆかちゃん」って呼ばれる時と「岩崎さん」って呼ばれる時で、多分答え方が違うんですよね。そのコミュニティにおける人格を作る方法で一番簡単なのが「あだ名をつける」なんですよね。
ここで佐俣さんは、自身の「性格の悪い心理実験」を明かしました。誰かにあだ名をつけ、それを真似して同じ呼び名を使い始める人との親密度を測るというものです。
僕と親密度やリスペクトが高い人は、僕と同じ呼び名で呼ぶようになるんです。自分が誰に対して影響度が強く出ているのかを実験してるんですよ。
いや、まんまとはまってますね、私。
佐俣さんは、こうした仕組みの背景に、話すのが得意ではなかった創業者の存在があるのではと推測します。江副さんは東大で心理学を学んでおり、それをベースにルールを作ったといいます。
話すのが上手じゃない人の方が、仕組みとか伝わり方とか、自分の考えを誰かが代わりに話してくれる設計をしようと一生懸命考えるんでしょうね。
「何か変」と思わせる熱狂が偉大な会社を作る
佐俣さんは、GMOの熊谷さんが明確に宗教的な設計をしていることに触れます。教義『スピリットベンチャー宣言』を作り、いまでも週一でコアの経営陣が読んでいるといいます。スピリットベンチャー宣言GMOインターネットグループの理念や行動指針をまとめた企業文書。グループの価値観を共有する役割を担うとされます。
その結果、買収でグループ入りしたメンバーが辞めないのだと佐俣さんは評価します。
岩崎さんは、かつて自分が宗教的なカルチャーを斜に構えて揶揄する側にいたと振り返りました。
揶揄してる側にいるうちって何にも生まないんですよね。冷静に左脳で考えると素晴らしいんですよね。非の打ちどころがなくて、ただ僻んで斜に構えて石投げてるだけなんですよね。それに気づいた瞬間に、組織作りもバーンって方向転換して。だから最初からうちの会社が今のカルチャーだったわけではないんですよね。
佐俣さんは、YOUTRUSTが「合う合わない」がはっきりした会社になったことを高く評価します。みんなが働きやすいだけの会社は、グレートカンパニーになりにくいという見立てです。
平均的な就労環境の中で平均的な振る舞いをしてたらスタートアップは失敗するはずなので。収束するものは基本的には失敗なんで。
岩崎さんも、リーダーはスタンスを取らなければならないと同意します。
別にどっちの方向でもいいんですけど、スタンスを取ってない人はリーダーシップを全うできないし、人はついてこないんですよね。
佐俣さんは言い方を変えて、YOUTRUSTは「賢い人が馬鹿にしやすい会社」になっていると表現します。伸びていた頃のサイバーエージェントを引き合いに、社内は熱狂しているが外からは分かりにくい、その差分こそが強さの源だと語ります。
社員は熱狂してるけど、外から見ると「まあよう分からんな」っていう。それが外の人から見ると「うわ、なんか盛り上がっちゃってるわ」って見えれば見えるほど、「ここに差分が生まれてんだな」って。
10年前の自分は、今の会社を社会から見たら、多分馬鹿にしてる側の人間なんですよね。「私、ああいう会社やだ」とか「なんでリツイートしまくってんだよ」とか思う側だったんです。だからこれは、自分の中の新しい価値観をゲットしたなっていう喜びがありますね。
岩崎由夏が見据える未来
話は広報戦略にも及びました。岩崎さんは、無名のスタートアップをメディアが最初から取り上げるはずがない、という前提から出発します。
メディアが最初から無名のスタートアップなんて取り上げるわけないじゃないですか。まずは「By myself」でトレンドのもの・人になるしかないんですよね。自分でなんとかしてなると、メディアから「出てもらえませんか、旬だから」って声がかかる。その旬で出たメディアでまた箔がついてを繰り返してるうちにスタンダードになっていく。
自らトレンドの椅子に座る最初の一歩は、形振り構わずパワーをかけるしかないと岩崎さんは言います。
佐俣さんは、盛り上がっている会社が外野から「ムカつくから失敗しないかな」と思われる現象を、成功のフラグだと捉えます。かつてのソフトバンクやサイバーエージェント、いまの楽天がその例だといいます。
ぶちあげって遠くまで行くと、一定ネガティブなコメントが出てくるんですよ。うちの人たちは人間性がいいので「知らない人傷つけちゃったかも」ってなるんですけど、「そこまで届いてるってことは成功の証だよ」ってめっちゃ言ってて。仲いい人たちだけが騒いでてもダメで、「あいつらなんとかして転ばんかな」って思う人たちがつぶやくぐらいになって、やっと遠くまで届いている示唆かなと。
そして佐俣さんは、YOUTRUSTと岩崎さん個人が目指すものを尋ねました。
偉大な会社を作ることっすね、やっぱり。
私たちは「サイバーエージェント、リクルート経由、GAFA見」って言ってるんですけど。時代の経済成長を牽引するような会社にならないと意味がないんじゃないかと思ってます。
さらに岩崎さんは、偉大な会社を「女が作る」ことに意味があると語ります。
起業する前の自分は、起業は自分の選択肢じゃないと無意識下で思ってたんですよね。それが例えば1億2000万人のうちの半分だとすると、すごいキャップじゃないですか。その半分の人たちが「自分たちでもあんなでかい会社を作れるかもしれない」って思ったら、この国力めっちゃ上がるんですよね。だから岩崎由夏がやる意味があるなと思って、めっちゃ楽しい人生のゲーム見つけた!って思ってるのが今です。
岩崎さんは、失敗を恐れる学生からの相談によく答えているそうです。その特技が「全部成功だったことにする」ことでした。
私、P&Gに行きたかったけど行けなかったんですけど、それも全部成功だったってことに今してるんですよ。「このためにP&G落ちたんだ」みたいな。
師と仰ぐ南場さんの言葉も、岩崎さんの背中を押しているといいます。
南場さんが「私がした人生の意思決定のうち、2番目によかったのが起業である」って言ってて。ちなみに1番は旦那さんと結婚することなんですけど。それが結構刺さってて、私も本当に7年前の自分には感謝してますね。
佐俣さんは、火の中心にいるからこそ自分が楽しまないと失礼だと締めくくります。岩崎さんも、すべては心持ちの解釈の問題だと応じました。
極論、最終的にめちゃくちゃ萎んだとしても、私はグレートカンパニーを作ったって言ってるかもしれないですし。自分の心が決めることだから、やりたいようにやりきっていこうっていう。
最後は、いつかP&Gを買収するかもしれないという冗談で盛り上がり、和やかにエピソードを閉じました。岩崎さんは「ぶちあげのノウハウを全部喋っても真似できるかしら」と語り、真似の難しいカルチャーこそが本当の競争優位だと確認し合いました。
まとめ
YOUTRUSTの「ぶちあげ」は、単なるハイテンションではなく、対外的な認知と社内の結束を同時に高めるために緻密に設計された文化でした。好き嫌いを分ける極端なカルチャー、創業者不在でも語り継がれる仕組み、そして「全部成功だったことにする」姿勢が、偉大な会社を目指す岩崎さんの根底にあります。
- 「ぶちあげ」には対外的な認知向上と社内の結束強化という2つの狙いがある。
- 中の人が会社を大好きかどうかは、どこまで遠くに行けるかの大きなKPIになる。
- 創業者から薫陶を受けた人が伝播役になることで、カルチャーは自己発生的に広がる。
- 平均的な振る舞いはスタートアップの失敗につながり、賢い人に馬鹿にされるほどの熱狂に差分が生まれる。
- 岩崎さんは「女が偉大な会社を作る」ことで国力を上げるという未来を見据えている。
