「百合本の野望」というテーマの背景
この回は前回に続き、グローバル・ブレイン株式会社 代表取締役社長の百合本安彦さんがゲストです。
佐俣さんは、この番組の初回に出演したジョーシスの松本さんと大学時代からの親友で、土日はいつも一緒にいると話します。
その松本さんが、百合本さんについて「脂が乗ってる」「起業家としての野望がある人だ」と評していたそうです。
(松本さんが)「あれはね、脂が乗ってるよ」って。起業家としての野望があって、脂が乗ってる人だと。これは松本さんといつも話すんで、一番の褒め言葉だと思っていて。
佐俣さんは、百合本さんの「めちゃめちゃ起業家っぽい部分」はあまりメディアに出てこないと指摘します。
グローバル・ブレインの戦略や投資は語られても、「百合本の野望」そのものは表に出にくい。そこを聞いていきたいと切り出します。
世界一のVCを目指すための指標
佐俣さんが「グローバル・ブレインは世界一のVCを目指しているのでは」と問うと、百合本さんは本音を語ります。
世界一というか、「世界で一番尊敬されるVCになりたい」というのが実は本音ですかね。もちろん資金量とかいうと、アンドリーセンなんかに勝てないわけじゃないですか。彼らって1兆円ファンドを作ってるんで。
百合本さんは、資金量ではなく複数の指標で世界の上位につけていると説明します。
年間の投資件数は150件で、アンドリーセン、セコイアに次ぐ世界3位か4位。社員数は145名だといいます。
拠点数はアンドリーセンを抜いて世界第2位。投資後の支援チームは30名で第4位だと具体的な数字を挙げます。
佐俣さんは、百合本さんが自社の各指標の世界順位を常に把握し、追い続けている点に注目します。
この辺の指標で世界トップと今どういう差がついてて、何でビハインドを跳ね返すのかとか、たぶんずっとそれを考えてるんだろうなっていう。
個人商店ではなく組織で勝つ
佐俣さんは、ファーム経営で油断すると「少人数の精鋭」というプロフェッショナル像に誘導されがちだと言います。しかし百合本さんには拡大欲が強いと評します。
百合本さんは、メルカリやラクスル、BASEへの投資で得た資金を、個人で受け取らず会社に入れたと明かします。
それが今の採用の原動力になっているといいます。
今まではVCって個人商店、まあいわゆるプロフェッショナルファームという、非常にカッコいいんですけど、一方でそれだと勝てないなと思ってて。(ディープテック領域が盛んになり、時間軸も短くなり)これ一人で全部できませんよね、基本的に。
そこで2019年、香港で全員を集めて「個人商店経営をやめ、組織力で戦う」と宣言したそうです。
以降、毎年20数名を採用し、組織を一気に拡大してきたといいます。
佐俣さんは「人で勝つか箱で勝つか」は難しいテーマだとしつつ、百合本さんの経営スタンスの明確さを評価します。
グローバルへの挑戦と日本のチャンス
百合本さんは、シンガポールのライセンスを取得し、グローバルのどこでもファンドレイズできる体制になったと語ります。
日本発VCではあるんだけども、もう日本のVCというのにこだわってるわけではなくて、できれば全世界のスタートアップに対して同じように投資育成をしていきたいというのが実は最終的な野望なんですよね。
現在日本に140〜150名いる体制を、東南アジアとヨーロッパにも同規模で置いていくのが最終目標だといいます。
佐俣さんは、ブラックロックやEQTのような海外の巨大ファンドを引き合いに、事業として拡大する姿に痺れると話します。百合本さんもブラックロックを研究していると応じます。
さらに欧米のVCがこの2〜3年動きを止めていることが、日本にとって大きなチャンスだと百合本さんは見ています。
これは日本のスタートアップにとってグローバルの大きなチャンスでもあるし、日本のVCにとっても実は非常に大きなチャンスが横に広がってるということなんですよね。
百合本さんが目指す「世界で一番尊敬される」の核心には、起業家という人種への愛情があると語ります。
起業家というやっぱり人種っていうのが僕大好きで。彼らってやっぱり人生を賭して起業しようとしてるわけじゃないですか。(そういう人たちに)どれだけ我々がそれに寄り添って支援ができるかみたいなこと常に考えていて。
逆張りとシリコンバレーの現状
百合本さんは、2021年の第4四半期にバブルが弾けたと振り返ります。インフレと金利上昇で、投資件数や金額、IPO、M&Aが軒並み9割ほど落ち込んだといいます。
リーマンショックのときはシリコンバレーが1年で回復したのに対し、今回は2年半経ってもまだ回復していないと指摘します。
VCの資金が供給されず、採用も止まり、開発や営業が遅れ、結果として成長が止まっている状況だと分析します。
僕ね26年間初めてですね、これ開いたのが。でおそらくこれ数十年に1回ぐらいあるかないかだと思うんですよね。
佐俣さんは、松本さんも「今だけが開いているウィンドウ」と話していたと補足します。ソフトウェア開発のベイエリアの牙城を、今なら崩せるかもしれないという見立てです。
その鍵は資金と人材にあると二人は語ります。資金が止まっているだけで人材は消えていないため、資金を持ち込めばトップ人材を採用できるというロジックです。
シリコンバレーの競争の源泉って資金と人じゃないですか。これが今崩れちゃってるんで。
百合本さんは、ジョーシスの松本さんだけでなく複数社の支援をすでに始めており、これを一斉に仕掛けようとしていると明かします。
10年後のグローバル・ブレインと逆張りの哲学
10年後にどうなっていれば「そこそこやったな」と思えるかと問われると、百合本さんは意外な答えを返します。
このまま順調に、まあまあ地道に、目立たずにやっていくってのがいいんじゃないかなと思うんですよね。
佐俣さんは、この局面でそう言えるのが百合本さんの恐ろしいところだと笑います。
百合本さんは、投資後の支援チームをアンドリーセンよりもさらに機能ごとにブレークダウンしていると話します。知財チームなど、機能面ではグローバル・ブレインが勝っている部分もあるといいます。
自身の直下には優秀なリサーチチームがあり、世界中のスタートアップのシリーズAの時価総額などのデータを手元に持っていると語ります。
個人としての当面のゴールは、2027年を区切りとする5ヵ年計画にあるといいます。
日本型のVCモデルで、世界に通用する形にしようというのが、まあ一番僕の当面のゴールなんで。これをとにかくやり切るっていうのが今のゴールというか目標ですね。
百合本さんは、日曜日は仕事をしないと決めていて、朝からジムに行き、油絵を描いていると明かします。最近は若手の美術家アーティストを支援する趣味も加わったそうです。
事業の歩みについては、1998年から2013年まで10年以上苦戦したと振り返ります。その後の伸びは、アベノミクス以降お金が回るようになった環境要因が大きいと冷静に見ています。
そして今は転換点であり、逆張りこそが勝利への道だと繰り返します。
とにかく逆張りが全てだと僕は思ってるんで。この世界はね逆張りしないと絶対勝てないですね。ファンドレイズもそうだし、投資もそうだし、全部逆張りでいかないといけないですね。
佐俣さんも、周囲のGPが「景気の変わり目だからファンドを小さくする」と話し始めているのを見て、逆が正解かもしれないと感じていると語ります。
百合本さんは、今年最大のファンドレイズを行い、700億円を調達したと明かします。この停滞局面は早ければあと1年半で閉じる可能性があるため、時間がないと危機感を語ります。
佐俣さんと百合本さんは、健康と体力が事業を続ける資本だという点でも一致します。真剣勝負の相手である起業家と向き合い続けるには、体力が欠かせないという考えです。
体力ないと絶対できないですよ。(起業家との仕事は)真剣勝負じゃないですか、結局ね。
まとめ
百合本さんが目指すのは資金量の世界一ではなく、「世界で一番尊敬されるVC」です。組織で勝つ経営、全世界規模への展開、そして停滞期にこそ仕掛ける逆張りの哲学が、その野望を支えています。
- 百合本さんの本音は「世界で一番尊敬されるVCになる」こと。投資件数や拠点数など複数指標で世界上位を追い続けている。
- 2019年に個人商店経営をやめ、毎年20数名を採用して組織力で戦う体制へ転換した。
- 欧米VCの停滞は日本のスタートアップとVCにとって大きなチャンスであり、資金を持ち込めばトップ人材を採用できると見ている。
- 1998年から2013年までの苦戦を経て、今は逆張りの局面と捉え、700億円のファンドレイズで攻めに出ている。
- 体力は事業を続ける資本であり、起業家との真剣勝負を続けるために欠かせないと二人は語った。
