そもそもアルトコインとは何か。ビットコイン一強だった時代
冒頭で大塚さんが、ビットコイン以外の暗号資産を指す「アルトコイン」の話を切り出します。西山さんも「ビットコイン以外のやつ」という理解はあるものの、細かい歴史までは知らなかったといいます。
大塚さんによると、アルトコインが生まれた背景には壮絶な戦いがあったといいます。ただしそれは殴り合いではなく、技術の進化をめぐる競争でした。
(アルトコインの歴史は)バトルというか、結局技術の進化だったりするんで。
大塚さんは、暗号資産は多くの人に使われるほど価値が出ると説明します。だからこそ、より使われようと各コインが工夫を重ねてきたのがここ数年の歴史だといいます。
大塚さんが事業を始めた2014年ごろは、暗号資産といえばほぼビットコインでした。マーケット全体の9割以上をビットコインが占めていたといいます。
(2014年ごろは)暗号資産の全体のマーケットに対して9割以上がビットコインですよ、みたいな形で。
ビットコインの登場によって、お金じゃないんだけど、お金のようなものができるとみんなが気づいたのが2010年、2011年ごろだと大塚さんは振り返ります。
フォークから始まった改良版。ライトコインとXRPの登場
どんな技術でも、より良いものを作ろうとする人が現れます。暗号資産も例外ではなく、ビットコインのコードを土台に改良版を作る動きが出てきました。
ビットコインは謎の人物サトシ・ナカモトが作ったとされ、コードはオープンソースで公開されています。そのため誰でもコードを見て、コピーして書き換えられる状態にありました。オープンソース ── プログラムのソースコードを一般に公開し、誰でも閲覧・改変・再配布できるようにする方式。ビットコインのコードもこの形で公開されている。
GitHubとかに上がってたりとかですよね。
大塚さんは、既存のコードをコピーして少し書き換えることを「フォーク」と呼ぶと説明します。西山さんは「カスタマイズしたバージョンを作る」ことだと理解します。フォーク ── 既存のソフトウェアのソースコードを複製し、別の方向に改変して新しいプロジェクトとして開発すること。暗号資産では既存コインを改良した派生コインを生む手段になった。
すでに使われているビットコインには、使いにくい点もありました。それを改良して価値のあるものを作ろうと、多くの人が動き始めます。
最初にそれをやったのが、Googleに勤めていたエンジニアのチャーリー・リーです。彼はビットコインの改良版としてライトコインを作り出しました。
(改良版を出したら、ビットコインより)意味のあるもんだよね、っていう人がみんな言い始める。
続いて、送金に特化したXRPなど、それぞれの考えに基づく派生コインが次々に登場します。「より良い」の定義が人によって違うため、派生系がどんどん増えていきました。
新しいコインに群がる投資家たち。2015年ごろのブーム
ビットコインで先に持っていた人が値上がりの恩恵を受けたことは、多くの人が知っていました。だからこそ、次に出てくる安いコインを先に買っておこうという発想が広がります。
新しいアルトコインにも投資マネーが流れ込み、開発と普及が進みます。大塚さんによると、2015年ごろからこうしたブームが本格化しました。
え?これワンチャンビットコイン超えるんじゃない?みたいな。
当時はTwitterなどのネットで「今度こういうコインができるらしい」という情報が飛び交い、話題が持ちきりになったといいます。超えるかどうかは別として、期待値だけが高まっていく熱狂がありました。
開発に携わる人、投資する人、使って普及に貢献しようとする人が集まり、ビットコイン以外のコインを支えるコミュニティが次々にできていきました。
イーサリアムを支えた思想と、スマートコントラクトという発想
そんな中でも大きく使われ始めたのがイーサリアムでした。西山さんも「アルトコインの筆頭株」というイメージを持っています。
大塚さんは、ビットコインとイーサリアムは同列に扱われがちだが、それぞれ違う意図で作られていると指摘します。ビットコインはお金のようなものとして作られ、カスタマイズを重ねる設計にはなっていませんでした。
イーサリアムは、自分で書いたプログラムで操作できるようにすればもっと使いやすいという思想のもとで作られたプラットフォームです。そのためエンジニアからの支持が厚かったといいます。
大塚さんは、ビットコインとイーサリアムの支持層の違いを説明します。ビットコインは、政府に依存しないお金という思想を支持するリバタリアン層に強く支えられていました。リバタリアン ── 個人の自由を最大限に重んじ、政府による規制や介入を極力避けるべきだと考える立場。ビットコイン支持層に多いとされる。
反骨精神大きめの。
一方でイーサリアムには、そうした思想性はあまりありません。これを使えば世の中がもっと便利になる、という実利的な期待が支持の中心でした。
その象徴が「スマートコントラクト」です。通常、送金は銀行という会社が指示に従って口座間のお金を動かします。イーサリアムでは、この役割をプログラムが自動で担えると大塚さんは説明します。スマートコントラクト ── あらかじめ定めた条件に従って契約や取引を自動で実行するプログラム。イーサリアム上で動かせることが大きな特徴とされる。
(銀行のような役割を)プログラムが自動でやってくれるという。
西山さんは、これを「メールを送るのに飛脚がいらなくなった」ようなものだと例えます。人を介さず自動でやり取りできることは、インターネットの本質だと大塚さんも同意します。
不毛な信者バトルと、「どちらも正しい」という結論
ここで面白いのが、ビットコインを強く信じる人たちと、イーサリアムを信じる人たちが対立し始めたことです。互いに「こっちの技術のほうがすごい」と主張し合う、いわば推し活のようなバトルが起きました。
(この戦いは)思想の戦いだから、あんまり僕は不毛なんじゃないかなって見てて思ってました。
大塚さんは、どちらが正しいという話ではないと考えています。どちらにも良さがあり、それぞれの信じる道とともに進化していけばいいという立場です。
「イーサリアム」か「イサリアム」か。和製英語という落とし穴
西山さんが、大塚さんの言う「イーサリアム」は「イーサリアム」ではないのか、と発音の違いに気づきます。ここから話は表記と発音の脱線に入ります。
大塚さんによると、海外では「イサリアム」に近い発音が使われるといいます。日本で初めて解説した大石さんがブログでカタカナ表記した際に「イーサリアム」と書いたため、日本ではその読み方が広まったそうです。
日本ではイーサリアムって一般的に伝わってるけど、海外の人と話すと多分伝わんない。
話はウイルス(virus)など、他の和製英語にも広がります。大塚さんは、小さな頃に間違った発音を刷り込まれてしまうことを困り事の一つだと話します。
小さな頃に間違った発音を刷り込まれてしまうという、和製英語って僕の中で困り事の一つですね。
分散と合意形成。イーサリアムの弱点を突いたソラーナ
話を戻すと、イーサリアム自身にもいくつかの特徴があります。その一つが、開発方針を一社で決めるのではなく、みんなで議論して合意しながら決める「分散」の重視です。
民主主義的な合意形成。
この分散には良い面と悪い面があると大塚さんは説明します。みんなで合意するから納得感のあるものができる一方、合意までに時間がかかり、バージョンアップのスピードが失われてしまいます。
みんなで合意するため、多くの人が納得できるものができる
合意に時間がかかり、バージョンアップが遅くスピードが失われる
この弱点を突く形で、民主主義的にみんなで決めるのではなく、より速さを重視したソラーナのような別のコインが登場します。基本的な考えは同じでも、意思決定の速さで差別化を図りました。
新しいソラーナのほうが速くて便利だとなると、エンジニアがそちらで開発を始めます。大塚さんは、当時は開発者の取り合いのような戦いが起きていたと振り返ります。
通貨を配ってエンジニアを誘致。エコシステムの作り方
どのコインが人気になるかは、結局どれだけのエンジニアが使い、開発するかにかかっています。だからこそ開発者の獲得競争が激しくなりました。
日本にはイーサリアムを開発するようなエンジニアがあまりいなかったといいます。そこでイーサリアムやソラーナは、自分たちで発行した通貨を配るという手を使いました。
(新しいアプリを作ってくれたら)助成金みたいな形であげますよ、みたいな感じで。
新しいアプリケーションを作ってくれた開発者に、発行した通貨の一部を助成金のように渡します。VCがファンドで資金を集めるように、通貨を元手に開発者を誘致していきました。VC ── ベンチャーキャピタルの略。成長が見込まれる企業やプロジェクトに出資し、価値向上後の売却で利益を狙う投資会社やファンドを指す。
配られた通貨は円やドルにも交換できます。まだ人気のない安い段階で受け取り、開発したプロダクトがヒットすればその価値が上がる。こうしたエコシステムが暗号資産のコミュニティを加速させました。
通貨を配る
開発者に、発行した通貨を安い段階で助成金のように渡す
開発する
受け取った通貨を元手に新しいアプリケーションを作る
ヒットする
プロダクトが普及し、通貨の価値が上がる
価値が上がる
開発者の資産が増え、さらに人と開発が集まる
ミームコインの登場。価値の本質があいまいになっていく
日本発のコインとしては、モナコインの名前が挙がります。ここから話は「ミームコイン」へと移っていきます。
通貨に価値が出るのは、みんなが欲しいと思うからです。だとすれば、インターネット上のミーム、たとえば犬や猫のネタ画像のようなものをコインにしてしまうこともできます。ミーム ── インターネット上で模倣・改変されながら広まるネタや画像、動画などの文化的な流行。SNSで半分ネタとして共有されることが多い。
モナコインは2ch由来のアスキーアートのパロディーから生まれ、それでも人気が出たといいます。西山さんは、TikTokで次々に生まれる流行フォーマットに近いイメージだと受け取ります。
この頃から、価値がつこうがつくまいが、誰でも勝手に暗号資産を発行できてしまう状況が生まれます。本質的な価値の有無とは別に、人気だけで価値がつくコインが乱立し始めました。
それが本質的に価値があろうがなかろうが別として、人気があるコインっていうのが乱立する時代ができ始めて。
ICOバブルの熱狂と崩壊。誰でも数百億を集められた時代
最も加熱したのは2017年、2018年ごろです。「こういうコンセプトのコインを作る」という文章を全世界に公開し、資金を集める動きが広がりました。
その資料は論文というより、起業家がピッチで見せるような資料に近いものでした。次のビットコインの一角を狙って、そこに膨大なお金が集まったといいます。
資金の集め方はこうです。「イーサリアム上のネットワークで作るからETHを送ってください」と呼びかけ、世界中からお金を集めます。これがICO(イニシャルコインオファリング)です。ICO ── イニシャルコインオファリングの略。新しい暗号資産を発行し、その購入と引き換えに資金を集める手法。2017〜2018年に急拡大したが、詐欺的な案件も多く社会問題化した。
問題は、何の免許もなく誰でも資金を集められたことでした。1つのプロジェクトに数百億円が集まり、集める側も締め切りを設けて「早く送ったほうが得」と煽るのが上手だったといいます。
マーケティングノウハウが生かされてしまって。
簡単に数百億円が集まるとなれば、怪しい人も出てきます。資金だけ集めて何も作らないケースも現れ、モラルの崩壊とともに社会問題化していきました。
結局モラルが崩壊していって、人間の欲がすごい高まっていくので、それによってもう社会問題化してしまって。
ICOからIEOへ。法整備で「まっとう」になった資金調達
こうした問題を受けて、ICOのようなやり方は違法だと整理され、法整備が進みました。今は暗号資産交換業者を通じたIEOという形で資金調達ができます。IEO ── イニシャルエクスチェンジオファリングの略。暗号資産交換業者が発行体の審査を行った上で、その取引所を通じてトークンを販売・資金調達する仕組み。ICOより投資家保護が図られている。
大塚さんによると、ICOは技術的には今も可能ですが、あまりに怪しく、さすがに誰も投資しないだろうといいます。
IEOでは、取引所である大塚さんたちが事業計画や開発スケジュールを審査します。無理のある計画を詰め、協会にも諮った上で、必要な金額を適切に集める仕組みが整いました。
大塚さんは、金融庁が入ることそのものより、まっとうにビジネスをやることが投資家にも事業者にも良いと考えています。持続的に動く仕組みになったことを前向きに捉えています。
まっとうにビジネスをやる方が投資家にとってもいいし、事業やる人にもいい。
技術よりネットワーク効果。淘汰の末に残ったもの
現状のアルトコイン業界について、大塚さんは、多くがビットコイン、イーサリアム、ソラーナ程度しか大きくは残っていないと語ります。他のコインはマーケットの規模がかなり小さくなりました。
そこから大塚さんが得た教訓は、技術の進化そのものよりも重要なものがある、というものです。みんなが持っているというネットワーク効果、知られているブランド価値のほうが価値として高いといいます。
これはインターネットの歴史の常識に反するものでした。かつては、より効率的で優れた実装が勝つと考えられていたからです。西山さんも当時から見抜くのは難しかったのかと尋ねます。
大塚さんは、そこには一定の閾値があるのではないかと考えています。ある規模を人が超えると、別のサービスに移るコストが高くなり、後発が巻き返しにくくなるという見立てです。
西山さんは、Xと後発SNSの関係を例に挙げます。思想が合わないと別のSNSを使う人もいるが、結局ほとんどの人がXにいるため、後発は育ちにくいといいます。
大塚さんは、一定の閾値を超えてしまうと、いくら技術がすごくてもまくることは難しいと語ります。LINEやPayPayも同じで、より便利な後発が出ても既存の規模を覆せないのと同じ構造です。
エンジニアの動きこそ先行指標。オープンな世界の面白さ
大塚さんは、後発が巻き返せた限界は2020年ごろまでだったと振り返ります。当時はイーサリアム、ソラーナ、アバランチェのどれが勝つか、自身でも読めなかったといいます。
その勝敗を占う上で大塚さんが見ていたのが、エンジニアの動きでした。毎年、通貨ごとにGitHubへのコミット数がグラフで公開され、どのエコシステムが伸びているかがわかったといいます。
(勝敗は)エンジニアがどこに動くかみたいなのを見てた。
大塚さんは、投資判断では投資金額よりも、エコシステムのエンジニア数がどう移動しているかを見るほうが先行指標として有効ではないかと考えています。
暗号資産の世界の面白さは、GitHubを含めて多くがオープンソースで公開されている点にあります。誰でも調べられ、AIに分析を依頼すれば、自分の努力で正しい意思決定に近づけると大塚さんは話します。
その辺は自分の努力でどうにもなるかなと思うのは面白いかなと思いますね。
西山さんは、知らない話ばかりで面白かったと感想を述べます。ICOやIEOなど、当時よく見かけたものの正体がようやくわかったといいます。
老害ですね。昔を知ってる僕ぐらい、だいぶいなくなりましたね。
まとめ
この回は、ビットコインから派生したアルトコインが、思想と技術のバトルを経てどう淘汰されたかを振り返る内容でした。技術の優劣だけでは勝敗が決まらないという大塚さんの見立てが核になっています。
- アルトコインはビットコインのコードをフォークした改良版として次々に生まれ、2015年ごろからブーム化した
- ビットコインは政府に依存しない思想を持つリバタリアン層に、イーサリアムはスマートコントラクトに期待するエンジニア層に支持された
- 各コインは発行した通貨を配って開発者を誘致し、エコシステムを加速させた
- 2017〜2018年のICOブームは誰でも数百億円を集められた結果モラルが崩壊し、法整備を経てIEOという形に整えられた
- 淘汰の末に残ったのはビットコイン、イーサリアム、ソラーナ程度で、技術の優劣よりネットワーク効果やブランド価値が勝敗を分けた




