ビットコインマガジンのライターだった天才
大塚さんはヴィタリック・ブテリンヴィタリック・ブテリン ── イーサリアムの創設者。ロシア系カナダ人で、10代のころから暗号資産に関わってきた人物とされる。を「ほんとにすごい天才だと思う」と語ります。
彼はすごい。ほんとね、すごい天才だと思いますね。
大塚さんによると、ヴィタリックはいつも猫柄のTシャツを着ているような可愛らしい雰囲気の人物です。一方でブログを書くと、細かなところまで思考が深いといいます。
そのヴィタリックが最初に携わっていたのが、ビットコインを普及させるためのメディア「ビットコインマガジン」でした。そこで記者から編集作業までをやっていたと大塚さんは話します。
えっ、ライターだったんですか?編集者。
ビットコインを深く理解していくうちに、ヴィタリックは「ビットコインはもっと拡張できるのではないか」と考え始めます。単なるお金ではなく、プログラムで動かせる形へ進化させられるのではないかという発想でした。
スマートコントラクトの構想に集まった賛同者たち
ヴィタリックは、その拡張の構想を文章にまとめて公開しました。スマートコントラクトスマートコントラクト ── 契約や取引の条件をプログラムとして書き込み、条件が満たされると自動で実行される仕組み。イーサリアムの中核とされる。のような仕組みが実現すれば、銀行がいらないような世界も作れるのではないか、というビジョンを示したのです。
これをもっと拡張できるんじゃないかってことを自分で考え始めて。
インターネット上に公開されたその構想には、世界中から賛同者が集まりました。ただし、大塚さんによれば賛同の動機は人それぞれで、大きく2種類に分かれていたといいます。
「めちゃくちゃ金の匂いがする」と、儲けを期待して集まった人たち。
「社会を良くする技術だ」と、技術として携わりたくて集まった人たち。
ヴィタリックはまだ10代でした。手伝ってくれる人、実際にものを作ってくれる人がいることを心強く感じ、プロジェクトが動き出します。
ログハウス合宿で始まった、創設メンバーの衝突
賛同者たちはスイスあたりのログハウスに集まり、合宿のような形で話し合ったと大塚さんは説明します。会ったこともない人々が各国から集まったのです。
スイスに各国から集まるんですか?
渡航や滞在の費用は、儲けを期待する人が飛行機代や部屋代を出す形でまかなわれたといいます。最初のうちは「うまくいくんじゃないか」と、大きな揉め事は起きませんでした。
ところが時が経つにつれ、それぞれの目的の違いから、だんだんと衝突が始まります。儲けたい人と、より良いテクノロジーとして生かしたい人の間で、思想がずれていきました。
上場するっつうから投資したのにNPOになろうとしてるぞ、こいつ。
大塚さんは、そもそもプロジェクトが何のためにやっているのかを最初にはっきり言っていなかった時点で、破綻する未来は見えていたのではないかと振り返ります。
投資家として最初にお金を出した人は「自分は最初の投資家だ」と主張し、別の人は「公共のためのものなのに一部だけが儲かるのはおかしい」と反発しました。信頼関係ができていなかったため、社内政治のような動きも出てきたといいます。
さらに、独自の通貨イーサを発行するという話になると、当時は暗号資産を発行する法律などなく、アメリカの証券法に抵触するリスクも指摘されました。それでもリターンを取りたい人がいて、思想のズレはさらに広がります。
こうした揉め事を経て、現在のイーサリアムファンデーションイーサリアムファンデーション ── イーサリアムの開発や普及を支える非営利の財団組織。という財団の形に落ち着くまでには、堂々とした歴史があったと大塚さんは語ります。
何者でもない時に出会うことの価値
西山さんは、大塚さんがいつ頃からヴィタリックを認知していたのかを尋ねます。大塚さんは、イーサリアムが出てきた頃からこの界隈で注目されていたと答えます。
ただ当時は、天才っぽい新しい人物が何人もちらほら出てきており、玉石混交だったといいます。誰が本物か分からず、最初に飛びつくことには慎重だったと大塚さんは振り返ります。
玉石混合だったので、僕とかやっぱりそういうのはやっぱ最初に飛びつくと本当なのかなみたいな感じで、やっぱり見てましたけどね。
そのうえで、イーサリアムがここまで普及したことには感慨深いものがあると語ります。ここから話は、黎明期に事業をやる意味へと広がっていきます。
大塚さんは、黎明期に事業をやると強い繋がりができると話します。お互いが何者でもない時に出会うからこそ、よこしまな気持ちなしに信頼関係を築けるというのです。
自分が何者でもない時に会っていくっていうのはいい信頼関係もできる。
成果を上げたあとに出会うと、どうしても「自分のお金に興味があるのでは」と勘繰り合ってしまいます。大塚さんは、そのぶん大学時代の友達のような利害のない関係は重要だと話します。
親日家ヴィタリックと、日本を繋いだ人物
西山さんは、ヴィタリックが日本に来ていないのかと尋ねます。大塚さんによれば、一時期は日本にも来ていたそうです。
結構日本はまあなんだかんだ彼も好きだし、アニメとかそういうの好きだったりするから。
2017年ごろの日本は暗号資産が大きく盛り上がり、暗号資産でビリオネアになった人々も日本に来ていたと大塚さんは話します。当時はまだみんな何者でもなかったといいます。
その日本との繋がりを担った人物として、大塚さんは宮内綾子さんの名前を挙げます。当時、暗号資産取引所クラーケンクラーケン ── ヨーロッパなどで展開している暗号資産取引所。書き起こしでは日本には拠点がないと語られている。の日本のカントリーマネージャーを務めていた人物です。
その宮内さんは、現在イーサリアムファンデーションの理事のような立場で、ヴィタリックとニコイチのように活動していると大塚さんは説明します。
めっちゃすごいですね。日本人の人がやってるんだ。
大塚さんは、ヴィタリックはピュアだからいろいろな人が寄ってくると話し、信頼できる宮内さんがそうした人を諭す役割を担っているのではないかと推測します。
ETHを送ると見られるドキュメンタリー
西山さんはヴィタリックの人柄を表すエピソードを求めます。大塚さんは、まずYouTubeの動画や、イーサリアム財団あたりが公開したドキュメンタリーを見ることをすすめます。
このドキュメンタリーは、ETHを送ると鍵のようなものがもらえて視聴できる仕組みだったといいます。大塚さんは、Web3らしい体験ができて良かったと語ります。
そのドキュメンタリー見るにはETHを送って、そうすると鍵みたいなのがもらえて、それで見れるみたいな。
費用は数千円ほどで、作った人たちへの寄付のような感覚だったといいます。ドキュメンタリーでは密着形式でヴィタリックの素顔が映され、ギフテッドギフテッド ── 生まれつき突出した才能を持つ人を指す言葉。のような人物だと感じたと大塚さんは話します。
ヴィタリックは幼い頃から数学に秀でていたと、父親も証言で語っていたそうです。壮大なイーサリアム構想を進める彼は、ピーター・ティールのフェローシップに採択され、資金の一部を得ていたといいます。
大学より情熱に賭けよ、ピーター・ティールの哲学
西山さんは、ピーター・ティールピーター・ティール ── PayPalの共同創業者として知られる起業家・投資家。若者に大学中退を促す奨学金プログラムを立ち上げたことで知られる。を「天才投資家みたいな人」と表現します。大塚さんは、そのティールの思想を紹介します。
大塚さんによれば、ティールの考えは「大学を卒業する価値より、自分が思い描くプロジェクトに全てを賭けたほうが価値がある」というものです。最初の資金がないなら自分が出す、という感覚だといいます。
めっちゃ金出すから大学中退して頑張れやみたいなことですか。
大塚さんは、頭が良くチャレンジ欲もある人が、卒業のためだけに4年間を過ごすのは縛られた世界観だと話します。違う選択肢を提示するという点が面白いと評価します。
西山さんは「アメリカだなあ」と反応し、日本にもそういうものがあってもいいと2人は語り合います。ただし日本では炎上しそうで、大々的にはやりにくいかもしれないと大塚さんは付け加えます。
ブログで世界を動かす思想家という生き方
西山さんは、最近のヴィタリックの様子を尋ねます。大塚さんは、イーサリアムはまだ完成形ではなく、今後どう進化すべきかを発信していると答えます。
大塚さんによれば、ヴィタリックはイーサリアム上のDeFiDeFi ── 分散型金融の略。銀行などの仲介者を介さず、ブロックチェーン上のプログラムで金融サービスを実現する仕組み。など、アプリケーションのレイヤーで何ができるかも発信しているといいます。
興味深いのはコミュニティマネジメントの仕方です。ヴィタリックは話すことが得意ではないのか、自分の考えをブログにまとめて発信し、それを読んだ人が実装していくという流れになっていると大塚さんは説明します。
へー、ヴィタリクがめっちゃプログラミングしてるわけじゃないんですか。
どちらかでビジョンを示しながら、こういう世界観とか、こういうことができるってことを発信してる。
思想家なんですね。
大塚さんは、イーサリアム財団やコミュニティの人は会社に雇われているわけではないと話します。ヴィタリックの言うことに同意すれば貢献し、そうでなければ無視するという、緩やかな繋がり方だといいます。
この関わり方はオープンソースの考え方に近く、言われてやらされる形ではないと大塚さんは語ります。営利法人で働く人からすると、少し不思議に映るかもしれないと付け加えます。
有名になった象徴、そして命の危険
西山さんはヴィタリックの小ネタを求めますが、大塚さんは直接会ったことはないとしつつ、彼が有名人になってしまったことに触れます。本人にそのつもりはなくても、会えば誰もが写真を撮りたがる象徴になっているといいます。
大塚さんは、ヴィタリックが登壇などにあまり興味がなさそうで、それが顔に出てしまっていると観察します。それをまた周囲に突っ込まれ、有名になって大変そうだと話します。
さらに深刻なのは資産の問題です。ヴィタリックは立ち上げ当初から膨大な量のイーサリアムを持っており、そのアドレスが特定されてしまっているといいます。
それを特定されちゃってるから、命の危険もあるし。
大塚さんは、暗号資産はアドレスが特定されると資産状況が常に見えてしまうと説明します。売却すればそれも分かってしまい、良い面でも悪い面でもあると語ります。
テクノロジーはツール、飲まれない心を持てるか
大塚さんは、暗号資産もツールであり、それをどう使うかは人間次第だと話します。人間の悪意次第でもあり、結局はそこに尽きると語ります。
ただ、やっぱりそれをどう使うか、人間の悪意とか人間次第だったりするから、結局はそこに尽きちゃうかなって気はしますね。
そのうえで、暗号資産はモラルを高く持ってやらないと危ない世界だと強調します。気づかれずに儲けられそうな機会がものすごくあるからです。
儲け話みたいなのとか、ちょっとなんかこれやったら気づかれずに儲けれるんじゃないみたいな機会っていうのがものすごくあるから。
大塚さんは、そうした話に興味を示さないようにしていると話します。テクノロジーの会社だと思っていたが、実際は金融ライクで、怪しい話が出てくる世界だったと振り返ります。
欲だけでお金持ちになろうとすると飲まれてしまう、と大塚さんは語ります。実際に飲まれた人を周りでたくさん見てきたといいます。欲に飲まれないことが、この世界で長く続ける条件だと話します。
そうじゃないと長く続けないってなりますね。
西山さんは、これからイーサリアムが発展するパターンも衰退するパターンもあり、まだ分からないと受け止めます。2人はヴィタリックの回を締めくくり、番組が今後も続くことを願い合いました。
まとめ
この回は、イーサリアムの創設者ヴィタリック・ブテリンの人物像と、黎明期の暗号資産界隈のリアルを、コインチェックの大塚さんと西山さんが語り合う内容でした。天才の素顔だけでなく、信頼関係の作り方や、この世界で欲に飲まれないことの重要さまで話が広がりました。
- ヴィタリックはビットコインマガジンの記者・編集を経て、ビットコインを拡張するスマートコントラクトの構想を公開した
- 世界中から集まった賛同者は「儲けたい人」と「技術に携わりたい人」に分かれ、立ち上げ期は衝突が絶えなかった
- 日本との繋がりには宮内綾子さんがおり、現在はイーサリアムファンデーションの理事として活動していると語られた
- ピーター・ティールのフェローシップは「大学より情熱に賭けよ」という思想で、ヴィタリックも支援を受けた
- ヴィタリックはブログでビジョンを示す思想家型で、コミュニティはオープンソースのように緩やかに繋がっている




