そもそも暗号資産は誰が始めたのか
この回は「暗号資産って誰が始めたんですか?」という西山さんの素朴な問いから始まります。大塚さんの答えは、いきなり核心を突いていました。
暗号資産はですね、まず誰が始めたかがわかってないっていう、突然怪しさから始まるストーリーが始まります。
大塚さんによれば、誰が始めたかは今もわかっていないものの、本名かペンネームかも定かでないサトシ・ナカモトという人物が、あるメーリングリストに1本の論文を投稿したところから物語は始まったといいます。
peertopeerelectroniccashsystemという論文を投稿した。そこからこの物語は始まる。
大塚さんは、この論文は「一対一の電子的なお金の仕組み」を示したもので、白い紙に書かれた提案書という意味でホワイトペーパーと呼ばれると説明します。
そのメーリングリストとは何かという西山さんの問いに、大塚さんは、当時のインターネット上には掲示板やメーリングリストがあり、技術好きの人たちが「こういう方法があるのか」と議論する場だったと答えます。
技術的なオタクの集まりみたいな感じだった。
そうそうそうそう。
論文に最初はあまり信じてもらえなかったものの、それを見たハル・フィニーという人物が「これはすごい方法ではないか」と気づいたと大塚さんは続けます。フィニーさんは後に病で亡くなったといいます。
論文は投稿されたもののコードとしては実装されていなかったため、フィニーさんたちが実際にコードを書き、ビットコインを作り始めたと大塚さんは語ります。
リーマンショックへの怒りから生まれたビットコイン
作っただけでは普及しない、というのが当時の悩みだったと大塚さんは言います。西山さんは「桃鉄作りましたぐらいで遊びで終わっちゃう」と例えました。
そこで鍵になったのが、サトシ・ナカモトの思想です。大塚さんによれば、ビットコインの最初のコードには、リーマンショックで破綻した銀行が政府に救済されたことを報じる新聞記事の日付とタイトルが書かれていたといいます。
大塚さんは、既存の金融システムが破綻し、それが国民の税金で救済されたことへの疑問が、ビットコインの出発点にあると説明します。
結局銀行っていうものが政府の規制傘下でお金を儲けていたんだけども、既存の金融システムがうまくいかなくて破綻してしまって、それを国民の税金で救済された。おかしくない?みたいな。
うまくいっているときは銀行員が高い給与を得ていたのに、リスクを取って破綻したら国民のお金で救われるのはおかしい、という考えです。大塚さんは国に委ねないお金の仕組みを作ろうという、カウンターカルチャーからビットコインは始まったと語ります。
それのアンチテーゼから始まってんだよね。すごいカウンターカルチャーからビットコイン始まった。
この思想に賛同した人たちが「欲しい」「買う」と動き始め、価格が上がると、思想に共感しない人までもが買うループが生まれた。それが2008年ごろに始まった物語だと大塚さんはまとめます。
インターネットの富豪が注ぎ込んだ「ドッグイヤーの3倍」の速さ
暗号資産の歴史を10年見てきた大塚さんが強く感じたのは、その進化の速さだといいます。インターネット産業は「ドッグイヤー」と呼ばれる速さで進んだが、暗号資産はさらにその上をいったと語ります。
暗号資産はインターネットのさらにドッグイヤー3倍ぐらいのスピードで動くっていうのがあって。
その理由として大塚さんが挙げたのが、インターネット産業で大きな富を得た人たちの存在です。ブラウザを作ったマーク・アンドリーセンのような人物が、資金と技術を暗号資産に注ぎ込んだといいます。
「インターネットの次の発明だ」って言って。
そうなんですよ。
一方で、大塚さんが事業を始めた2012年から2014年ごろは、ビットコインの送金にコマンドプロンプトの黒い画面へエンジニア向けの命令を打ち込む必要があった時代だったと振り返ります。
大塚さんは、それではエンジニア以外には普及しないと指摘します。そこで、誰でもクリックで送れるGUIの画面を作ろうという流れが生まれ、企業が関わり始める時代になったと語ります。
ビットインスタントとウィンクルボス兄弟の登場
大塚さんによれば、ビットコインを簡単に送受信できるソフトを最初に作ったのがビットインスタントという会社でした。西山さんはこれを「PayPayみたいな」ものだと理解します。
この会社に最初に投資したのが、映画にも登場するウィンクルボス兄弟だと大塚さんは明かします。西山さんはすぐに、その名前に思い当たりました。
Facebookを一緒に作ろうってザッカーバーグに持ちかけたけど、(ザッカーバーグが)シカトしてウィンクルボス兄弟と一緒にやらずに一人で勝手に作っちゃったみたいなやつです。
大塚さんは、兄弟がザッカーバーグを訴えて裁判で一部勝訴し、その資金を暗号資産に投資したと説明します。
大塚さんによれば、シリコンバレーではザッカーバーグが大成功者であり、争って負けた側とみられた兄弟は居場所を失っていました。彼らの会社に入るのはザッカーバーグを敵に回すことになり、エンジニアも集まりにくかったといいます。
そんな兄弟が、パーティーでアルゼンチン出身の人物と出会いビットコインに気づき、当時シリコンバレーで怪しいと見られていたビットコインに、あえてカウンターとして賭けたと大塚さんは語ります。ビットインスタントへの投資もその一環でした。
ところが、ビットインスタントの社長は投資を受けて遊んでしまい、事業をほとんど進めなかったと大塚さんは言います。住所確認をせずに送金できたことから不正やマネーロンダリングに使われ、社長は共謀の疑いで逮捕されてしまいました。
クソ野郎じゃないですか。
マウントゴックス事件と「盗まれたのに得をした」逆転劇
ビットインスタントは送受信はできても売買ができなかったため、株のように売り買いできる取引所が求められました。そうして作られたのがマウントゴックスだと大塚さんは説明します。
大塚さんによれば、マウントゴックスは日本のマーク・カルプレスさんに渡り、渋谷を拠点にビットコインの売買ができる、当時世界で唯一といえる取引所になりました。
しかし、ハッキングにより大量のビットコインが失われ、預かり残高と実際の残高が合わなくなったと大塚さんは語ります。この事件が大きく報道されたことで、世の中に初めてビットコインが知れ渡ったといいます。
日本でいうマウントゴックス事件っていうのは日本にあったから、渋谷にあったので、すごい注目。それによって、世の中にそこの時点で初めてビットコインってものが知れ渡ったっていう。
会社は経営破綻し、カルプレスさんは逮捕されます。ここまでで、ビットインスタントの社長に続く2人目の逮捕でした。
ところが、ここから奇妙な逆転が起きます。大塚さんによれば、マウントゴックスには盗まれずに残った分があり、破綻に伴い凍結されていました。その間にビットコインの価格が大きく上がったのです。
清算より民事再生でお金を返したほうがよいと判断され、凍結されていた分が持ち主に戻り始めました。大塚さんは、もともと数万円だったものが今では1500万円ほどになっていると語ります。
もともと万円ぐらいだったものが、今1500万とかになってるわけ。っていうリターンを享受してる状態。
各国に取引所が生まれ、通貨どうしの戦争が始まる
マウントゴックスの成功を受けて、各国に取引所が生まれる時代が来たと大塚さんは語ります。国ごとに交換したい通貨が異なるためです。
大塚さんによれば、アメリカではコインベース、香港ではビットフィネックス、ヨーロッパではクラーケンといった取引所が生まれました。大塚さん自身も、日本円で扱えるコインチェックを始めたといいます。
やがてビットコインだけでなく、ライトコインやイーサリアム、XRPなど、似た技術で作られた通貨が次々に登場し、通貨どうしの戦争になっていったと大塚さんは説明します。
大塚さんは、ビットコインの二番煎じで通貨を発行すれば儲かるため、発行する人が大量に出てきたと言います。西山さんも仕組みを理解しました。
俺が直哉コインですって言って、この紙を(1枚)万円とします、って言ったら万円で買ってってくれるみたいな。
そう。ようなことが無法地帯で行われた。
この過熱により詐欺が横行し、大変なことになったと大塚さんは振り返ります。そこで、金融のルールに基づいて事業を行う人だけが許される形へと、規制が整っていったといいます。
盗まれたビットコインが100倍で戻ったビットフィネックスの奇跡
規制の話の流れで、大塚さんは香港の取引所ビットフィネックスの事例を挙げます。中国のユーザーにも人気だったこの取引所が、当時のレートで70億円ほどのハッキング被害に遭ったといいます。
大塚さんによれば、返すお金がなかったビットフィネックスは、被害者に対して独特の提案をしました。
もしお金が返ってくる分の3分の1を諦めれば、3分の2は返しますと。
大塚さんは、その3分の2も自社発行のビットフィネックストークンで返すという条件だったと説明します。さらに、もし盗まれたビットコインが将来戻ってきたら全額返す、という約束も付けられました。
ユーザーがこれを受け入れた8年後、犯人が捕まり、盗まれたビットコインが戻ってきたと大塚さんは語ります。しかも、その8年でビットコインの価格は100倍になっていました。
被害者は3分の2のトークンを受け取ったうえに、8年間凍結されていたおかげで100倍になったビットコインまで戻ってきた。西山さんは、投資で寝かせておくのがよいという話の「最強版」だと表現します。
(取引を)全然せずにずっと寝かせとくのがいいんだって言ってる人を見ることもありますけど、それの最強版が図らずも。
大塚さんによれば、ビットフィネックスはこの経験から「自分たちでトークンを発行できる」と学びました。そしてドルと同じ価格のステーブルコインであるテザーを世界で初めて発行したといいます。
ドルと同じ価格なら「ドルでいい」のではという西山さんに、大塚さんは、テザーが今や世界一のステーブルコインになったと答えます。ハッキング被害から編み出したトークンが、より大きな利益を生んだのです。
「知的アドレナリン」と、消えていった取引所たち
大塚さんは、こうした出来事を10年間目の前で見てきたことについて語ります。
そういう形でなんか僕はなんか10年見てて、こんなことが起こるのかみたいなことが目の前ですごい起こっていくわけなんですよ。
当時面白かったかと問う西山さんに、大塚さんは「面白いというより知的なアドレナリンがすごい出る」と答えます。ビットフィネックスの件も、8年後に戻ってくるまで見続けられるのは、長く関わっていた人だけだといいます。
一方で、規制が整うなかでも、それを嫌ってケイマン諸島などのオフショアに登記する取引所が有象無象に出てきたと大塚さんは語ります。
大塚さんによれば、ビットコイン一強だった時代から新しい通貨が増えたことで、規制を無視した取引所にもニーズが生まれました。しかし、その多くは急成長と急失速を猛スピードで繰り返したといいます。
FTX崩壊まで、逮捕され続けた覇者たち
大塚さんは、消えていった取引所と経営者の例を次々に挙げます。中国のBitMEXは人気を博したものの、CEOがアメリカでマネーロンダリング容疑で逮捕されました。
その後に登場したFTXは「天才が作ったようなもの」だったと大塚さんは語ります。ところが、FTXは自社発行のトークンを大量に保有しており、それが崩壊の引き金になりました。
大塚さんによれば、そのトークンを一部持っていた競合会社が「市場で売る」と表明したことで価格が急落。自社トークンで資産を持っていたFTXは、一気に破綻したといいます。
一日で破綻しちゃう。
FTXの社長も資金を使い込んで逮捕され、競合であったバイナンスの社長もアメリカに指名手配されて逮捕されたと大塚さんは続けます。西山さんは思わず声をあげました。
全員逮捕されてるんじゃないですか。
そうなんですよ。
大塚さんは、こうした逮捕の連続を経て、業界はむしろ健全化していったとまとめます。
国に縛られない思想と、金融規制下という矛盾
大塚さんは、物語の最初に立ち返ります。ビットコインは国に縛られたくないという思想から始まったのに、今はそれを扱う会社が金融規制の傘下に置かれている、と指摘します。
国に縛られることが嫌だということで始まったはずのビットコインのものは、今はそれを扱う会社、僕らの会社も含めて非常に国の傘下、金融規制下に置かれてるっていう、非常に矛盾してる状態にはなっている。
この矛盾について、大塚さんは、思想の面では矛盾していても、世の中の安定という意味では規制はあるべきだと考えを述べます。西山さんも金融庁が管理しているほうが安心だと応じました。
大塚さんは、自社が扱う資金が今や1兆円規模であり、規制のなかで資産を守り、ガバナンスを効かせて一人の暴走を止められる仕組みが必要だと語ります。
大塚さんは、分散と中央集権は揺り戻しであり、今は中央集権の側に振れている状況だといいます。それは悪いことではなく、健全化とも言えると西山さんは受けました。
ただし、国によらないお金を理想とした人からすれば、思い描いた時代とは違うかもしれない、と大塚さんは付け加えます。今は思想よりも、価格が上がる、送りやすい、24時間動くといった利便性に振れているといいます。
西山さんは、多くの人が戦い、逮捕されてきた歴史を「フグの毒を食って実験してくれた人みたい」と例えます。その積み重ねの上に今があると知ることで、ビットコインの時間的な熟成を理解できるのが面白いと大塚さんは語りました。
急に愛着湧いてきますね。そんな頑張ってくれた後だと思うと。
暗号資産の歴史をもっと知りたい人へのおすすめ
最後に西山さんは、暗号資産ものといえばこれが面白いというコンテンツを大塚さんに尋ねます。大塚さんはまず、NHKの未解決事件でマウントゴックスのドキュメンタリーが放送されていたことに触れました。
そのうえで、大塚さんはおすすめの本を3冊挙げます。まず『デジタルゴールド』は、ウィンクルボス兄弟やビットインスタントの話が当事者の証言をもとに描かれているといいます。
2冊目はFTXのサムが逮捕される前後を描いた本で、3冊目は『クリプトピア』というイーサリアム誕生をめぐる本だと大塚さんは紹介します。
大塚さんによれば、『クリプトピア』では、イーサリアムを営利法人でやりたい人と、公共財として非営利でやりたいビタリック・ブテリンの思想がぶつかる人間ドラマが描かれているといいます。
西山さんは「一個映画を見たような回だった」と感想を述べ、大塚さんは、一つひとつの物語でNetflix番組が作れるほどだと応じて締めくくりました。
まとめ
この回は、国家に依存しないお金という思想から始まった暗号資産が、ハッキングと逮捕を繰り返しながら金融規制下に落ち着くまでの十年を、事件簿としてたどるものでした。盗まれたのに得をしたという逆転劇の裏には、長く関わり続けた人だけが見てきた歴史があります。
- ビットコインはサトシ・ナカモトの論文と、リーマンショック後の金融救済への反発から生まれた
- マウントゴックスやビットフィネックスでは、凍結・被害の後に価格が高騰し「盗まれたのに得をする」逆転が起きた
- 取引所や通貨の覇権争いは猛スピードで進み、多くの経営者が逮捕されていった
- 国に縛られない思想から始まった暗号資産は、今は安定と利便性を重視して金融規制下に置かれている
- 今の利便性は、実験のように挑戦し失敗していった人たちの歴史の上に成り立っている



