そもそも暗号資産は「支払いの手段」から始まった
今回のエピソードで西山さんが聞きたかったのは、暗号資産の税制の話でした。Xやニュースで「規制が進んで少し良くなってきた」といった情報は見るものの、実際に何がどうなっているのかがわからないと切り出します。
大塚さんはまず、税制の前に金融の規制から話したほうがわかりやすいと説明します。規制と税制は表裏一体だからです。
大塚さんによれば、暗号資産はもともと何のルールもないところから始まりました。行政や国会議員と10年ほど話し合った結果、資金決済法 ── 資金の移動や支払い手段に関する法律。暗号資産はビットコインなどが「支払いの手段」として使われることを前提に、当初この枠組みで扱われたという枠組みの中で事業ができるようになったといいます。
自分がやってる事業とか自分たちの働き方で法律ができるんだってことは結構自分の中では衝撃で。
大塚さんは、世の中は法律でいろいろなことが決まっていると思っていたけれど、意外と決まっていないことも多いのだと気づいたと振り返ります。
資金決済法は「資金を決済する方法」に関する法律です。ビットコインはもともと支払いの方法として作られたため、暗号資産も支払い手段として捉えられていました。
じゃあ資産の話じゃないですね。
そう、資産の話じゃ。なぜならば、ビットコインはもともとキャッシュ、支払いの方法として作られたものがあるから。
投資対象になり「金商法」へ、そして税制の話へ
時間が経つと、暗号資産は支払い手段というより、多くの人が投資対象として使っている実態が見えてきたと大塚さんは言います。当初はビットコインを持つ人が国民の1%以下でしたが、大きく普及したことで状況が変わりました。
そこで、支払いの手段ではなく、国民の資産を守る法律が必要だという流れになります。ついこの間閣議決定され、株式や債券と同じ金商法 ── 金融商品取引法。株式や債券などの金融商品を対象にした法律。暗号資産をこの枠組みで扱うことは、投資対象として株などと同様のルールに則らせることを意味するの枠組みの中でやることになったと説明します。
大塚さんは、多くの人が持つことで「これは国民の資産だ」と国としても認めた、というより実態がそうなったのだと表現します。
ここから、規制と表裏一体の税制の話に移ります。これまで暗号資産は支払いの手段と考えられていたため、売買しても明確なルールがなく、税の区分としては雑所得 ── 所得税の区分の一つで、給与所得や事業所得などに当てはまらない「その他」の所得。給与などと合算され、累進課税の対象になるという仕組みになっていました。
メルカリの売上ぐらいのノリなんですかね。
大塚さんは、雑所得は所得税と合算されてしまい、累進課税 ── 所得が多くなるほど税率が高くなる課税方式。暗号資産の利益が大きいほど、税負担の割合も重くなるの対象になると説明します。その結果、売買で大きな利益が出ると最大55%まで課税されてしまいます。
わー、高いやつ。
高い税金に「黙って納めない人」も、そして海外へ
大塚さんは、大きな利益を出した人の多くはこの税制に困っているだろうと話します。困った人の反応は2つに分かれるといいます。
- しょうがないと納税する人
- 黙って納税せず、後で追徴課税を払うことになる人
後者は、いわゆる脱税です。バレると追徴課税として、より多くの金額を払わなければなりません。
西山さんが海外も同じ状況なのかと尋ねると、大塚さんは、日本に住んで海外取引をするのか、その人自身が海外に住んでいるのかで全く違うと答えます。
まずは日本に住んでれば、もちろん日本、どの取引所を使おうが、日本の居住者なので、日本の法律に従って税金を納めなきゃいけない。
だからこそ、税を嫌ってシンガポールやドバイに行く人がいるわけですが、それは健全ではないと大塚さんは指摘します。日本に住んでいる人に向けて税制を整えていくべきだという考えです。
その方向として今議論されているのが分離課税 ── 給与などの他の所得と合算せず、その所得だけを対象に一定の税率で課税する方式。株式などの金融商品と同じ扱いになれば、暗号資産の利益にも適用されうるです。雑所得ではなく、金融商品としての課税率でやろうという話が進んでいます。ただし、まだ確定はしていないと補足します。
じゃあ分離課税にしてくれると、その55パーとか取られることがない。
まあ普通に言う金融商品、株とかと一緒になる。
大塚さんによれば、この間の税制改正で閣議決定されるところまでは来ています。今後は、どの暗号資産が対象か、国内取引所と海外取引所で扱いは同じかといった細かい点を、法律から規則へ具体的に落とし込んでいくフェーズになっているといいます。
なぜ起業家はドバイやシンガポールへ行ったのか
西山さんは、日本のクリプト起業家が税制の遅れを理由にドバイやシンガポールへ行っていた印象があると話し、それはお金を多く取られるからかと尋ねます。
大塚さんは、それは今の税の話とは別だと答えます。当時の起業家はWeb3 ── ブロックチェーンを基盤にした新しいインターネットのあり方。トークン発行など、従来の枠組みにないビジネスが含まれるの事業で自らトークンを発行する必要があり、その発行に対する税のルールがなかったといいます。
大塚さんによれば、会社が発行したトークンを多く保有していると、その保有時点で課税されるような扱いになり、収益も出ていないのに先に税を納めることになりかねませんでした。
なんかまだ収益も出てないのにいきなり課税だけ先納めるみたいな感じになるんで。
そっか、1億円分発行しましたってなった時に、じゃあ何千万円納めてくださいとか言われたら無理無理みたいな。
この税のルールを作り続けたのが数年前までの話だと大塚さんは説明します。ただ、税の改正には、声を上げてから税制審議会にかけて1〜2年かかってしまいます。
彼らからするとそんなスピードじゃ動いてらんないから。
そのため、待てずに海外へ行った起業家が多かったと大塚さんは言います。ただし、海外で事業がうまくいくとは限らず、税だけの問題ではないと付け加えます。言葉の通じないグローバル市場での事業は簡単ではなく、ご飯や気候の問題もあって引き揚げてきた人もいるといいます。
現在は、日本国内でも上場企業がトークンを発行できるように整ってきていて、大塚さんたちがIEO ── Initial Exchange Offering。暗号資産取引所を介してトークンを発行・販売する仕組み。書き起こしでは「IO」と発話されているが、文脈上この仕組みを指すとみられるを手伝っていると話します。
ICOの次のやつですよね。
そうです、そうです。
「法律や税制は変えられる」起業家への一番のメッセージ
大塚さんは、若い起業家にこそ理解しておいてほしいこととして、法律や税制は自分たちが頑張れば変えられると語ります。
え?変えられないですよ。
変えられる。だってそれは民主主義で、自分たちが議員を選んで、その議員の人たちが議論をして法律が変わる。
大塚さん自身も、かつては法律は守るべきもので、自分で変えたり作ったりするものだとは1ミリも思っていなかったと明かします。それでも事業を続ける中で、論理的に説明して理解してもらえれば法律は変わるという経験を何度もしてきたといいます。
大塚さんは、法律も税制も、さらにその後の会計基準も変えられるので、それを理由に事業をやめるのはやめたほうがいいと話します。むしろ、それを変えるくらいの姿勢で起業家はやっていくべきだと続けます。
世の中を変えるには技術だけでは足りず、世の中を形づくっているルールである法律を変える必要がある、というのが大塚さんの実感です。そこまでやりきれば、大きな機会もチャンスもあると語ります。
法律を変える第一歩は「既存の法律との差分を知る」こと
西山さんが、法律を変えようと思ったら最初の一歩は何かと尋ねると、大塚さんはまず既存の法律を理解することだと答えます。
大塚さんによれば、自分たちがやりたいことや理想の世界と、既存の法律との差分をまず理解します。何が足りないのかを見極めることが出発点です。
既存のルールに従うべき部分は従い、新しい技術が出てきたことで議論すべき点を絞り込みます。そのうえで一社ではなく、同業の人たちと産業として意見をまとめていくのが重要だと説明します。
よくあるのが一社がこうやっていうと、結局あなた一社の優遇のために言ってないみたいな感じに捉えられちゃうから。産業としてこうだなということをまとめていく。
さらに、産業の人たちだけの意見では自分たちの利益のためと見られてしまうため、学者や行政の人も巻き込んでいくといいます。アカデミックな観点、行政の観点、社会の観点から見ても正しいと言えるかを確かめていくプロセスです。
既存の法律を理解する
自分たちの理想との差分、何が足りないかを見極める
産業として意見をまとめる
一社ではなく業界団体などで方向性を統一する
学者・行政を巻き込む
アカデミック・行政・社会の観点で正しいか確認する
国会のプロセスに乗せる
議論・委員会・国会提出のスケジュールに合わせて働きかける
大塚さんは、法律を変えるには国会のルールとプロセスがあると強調します。年に一度の議論のタイミングを逃すと、七月に言っても「もう五月に終わったから来年ね」となり、一年を無駄にしてしまうといいます。だからこそ、行政や立法の人たちの思考を理解し、必要な委員会を開いてもらうところから働きかける必要があると話します。
競合と週一で集まる、業界団体での意見のまとめ方
最初は同業他社と業界団体を作って進めたと大塚さんは振り返ります。ある意味で競合にあたる人たちと週に一度集まって議論していたといいます。
西山さんが「狩野さんとか」と名前を挙げると、大塚さんはそうだと応じます。暗号資産業界全員が「これはこうだ」とOKと言える話と、各社の事業内容によって対立してしまう話があったといいます。
大塚さんによれば、まず合意できる部分は議論せずに置き、資本金をいくらにするか、レバレッジをいくらにするかといった議論の余地がある点を一つずつ深掘りしていきました。そうして業界としての意見をまとめ、行政や議員に話していったといいます。
気が遠くなる話だ確かに。
議員も官僚も「得意分野」で見分けて説明する
西山さんが、片っ端から議員に会って説明するのかと尋ねると、大塚さんは議員にも得意分野と苦手分野があると答えます。国土交通省を専門にする議員に金融の話をしても「僕じゃない」となってしまうからです。
大塚さんは、ITに明るい議員、金融に強い金融族、税に強い税務族など、それぞれの強みを読み分けて説明を変えていたと話します。
資金決済法を作るときには金融審議会 ── 金融庁が主催し、金融制度のあり方などを議論する会議体。弁護士や大学教授、関係省庁の担当者などが委員として参加するが開かれました。金融庁が場を設定し、選ばれた委員が議論しますが、いきなり議論しても話はまとまりません。
そこで大塚さんは、狩野さんと手分けして委員一人ひとりに説明しに行ったといいます。委員は意見を言えても、判断のもとになるファクトを持っていないため、ファクトを説明していく作業が必要だったと語ります。
相手を否定しない、怒らない。折衝で守っていたこと
西山さんが、説明をする流れの中でやってはいけないことはないかと尋ねると、大塚さんは相手の言うことを否定してはいけないと答えます。
相手が言うことを否定しちゃいけない。
大塚さんは、こちらは言いたいことが固まっているので主張しすぎてしまいがちだが、相手にも相手の意見があると話します。相容れない意見でも否定して対立しても何の利益にもならないため、まずその視点を受け入れたうえで別の観点を示すべきだといいます。
大塚さんは、時間をもらえただけでもありがたいと考える姿勢が大事だと語ります。相手はフラットに見て意見を言っているだけだからです。
印象的な例として大塚さんが挙げたのは、旧大蔵省OBの80代の方々にビットコインを説明したときのことです。説明を始めると激しく怒られたといいます。
こんなものを許している政府は、今の政府は何やってるのか。けしからん。
大塚さんは、そのOBたちは大蔵省として国の税制や金融の安定に人生を捧げ、それがアイデンティティになっていると受け止めます。真っ向から否定すればイデオロギーの戦いになり、何も生まれません。
実際の国民としてユーザーとしてビットコインを持ってる人がいて、それを、いるという事実は変えれない。
大塚さんは、自分がいい悪いを言うのではなく、事実に基づいて話し、感情を乗せないことが大切だと語ります。無理に理解してもらおうとはせず、普及するか、法律が変わるかは歴史が証明すると考えているといいます。
大塚さんは、起業家は思いを持って事業をやるが、それに思いを乗せすぎず盲目にならないことが重要だと話します。常にフラットでいれば、感情的にならずに済むといいます。
資金決済法までの2年、たらい回しにされる官僚の事情も汲む
西山さんが、資金決済法になるまでにどれくらいかかったのかと尋ねると、大塚さんは話を始めてから2年ほどではないかと答えます。
その前段階では、暗号資産を経済産業省が管轄するのか金融庁が管轄するのかがなかなか決まらなかったといいます。西山さんは「たらい回しにされそう」と反応します。
大塚さんは、たらい回しにする官僚を批判する人もいるが、そう言っても仕方がないと話します。意味のわからないものを担当して失敗し、昇進がなくなったら困る、という官僚側の理論も理解できるからです。
その人たちはそういうルールの中でこう競争してるからっていうのを汲み取って。
大塚さんは、それでも決めなければ話が進まないため、官僚が決められないなら議員側で決めて采配してもらうよう依頼するといった働きかけをすると説明します。
大塚さんは、起業家には社会にインパクトを与えたい人が多く、それがテクノロジーで全部できるように感じる人もいるが、そんなことはないと語ります。技術のわからない人まで巻き込んで理解してもらい、世の中を動かすことが、本当に大きなインパクトを出すには必要になるからです。
本業とロビイングの両立を支えたCo-founderの存在
西山さんは、自分なら誰かがやってくれるだろうと思って自分の仕事に集中してしまいそうだと本音を漏らします。
大塚さんは、まさにそこが難しいと応じます。行政を動かす活動は、自分の本業をやりながら進めなければならないからです。
大塚さんは、本業をせずに行政対応にばかり夢中になる人もいると指摘します。すると、法律はできたのに会社は赤字でうまくいかない、という事態が起こりうると話します。プロダクトがPMF ── プロダクトマーケットフィット。製品が市場に受け入れられ、needsと合致している状態。スタートアップが目指す重要なマイルストーンとされるしていないのに法律を変えることに情熱を燃やしすぎるのはバランスが悪い、というわけです。
大塚さんは、だからこそCo-founderでやることが重要だったと語ります。共同創業者の和田さんがプロダクトと事業を担い、大塚さんが行政向けの外交を担っていたことで、両方を同時に進められたといいます。
一方一人だと両方やるって結構難しくて、やっぱりそこはね、Co-founderがいるっていうのの重要性はとてもあるなと思いますね。
大塚さんは、その一方でCo-founderを見つける難易度は非常に高いと付け加えます。自分と違うケイパビリティを持ちながら、価値観が一緒である人を見つける必要があるからです。
最後は「なんとかなる」楽観で締める
大塚さんは、社会を動かし法律を変える動きと、自分の事業を伸ばすことの両面をバランスよくやっていくことが重要だと締めくくります。
西山さんは、税制の話から始まって、法律にアプローチする手段の話になったと振り返ります。
大塚さんは、コインチェックはそれをやらなければならなかったから必要としてやっていただけだと話します。一社目でそれをやったので、自分にとっては当たり前だったといいます。
基本何でもなるってどうにでもなるだろうみたいな、なんとかなるっていう気合いでね、なんとかなるっていう。あんまり深く考えちゃいけない。
最後は、目の前のことを頑張ろう、とりあえずなんとかなる、という楽観的な言葉で会話は締めくくられました。
まとめ
この回は、暗号資産の税制と規制の変遷を入り口に、起業家がどうやって法律を変えていくかを大塚さんが語った内容でした。税制の話は、そのまま「世の中のルールは変えられる」というメッセージへとつながっています。
- 暗号資産は当初、支払い手段として資金決済法で扱われ、その後、投資対象として金商法の枠組みへ移ってきた
- 税制上は雑所得として累進課税の対象で最大55%課税されうるが、株などと同じ分離課税への改正が議論されている
- 法律や税制は、既存法との差分を理解し、業界・学者・行政を巻き込んで国会のプロセスに乗せれば変えられる
- 折衝では相手を否定せず怒らず、感情ではなく事実に基づいて説明する姿勢が重要とされた
- ロビイングと本業の両立にはCo-founderの存在が大きく、最後は「なんとかなる」という楽観で締めくくられた



