長尺一本か、分割配信か?
佐々木亮さんとの1時間の本編収録を終えた直後、かねりんさんは「時間を見ていなかったからすぐだった」と振り返り、そのままアフタートークが始まりました。
佐々木亮さんの番組は、宇宙の番組が10分から15分、AIやデータサイエンスの番組が1エピソード30分です。最近は3本分ほどのボリュームになる話が多く、まとめて録ったものを切って前編・中編・後編として出しているそうです。
佐々木亮さんは、効率よく録る方法を探した結果この形になったと説明します。コテンラジオ ── 歴史をテーマにした日本の人気ポッドキャスト。深く掘り下げたシリーズ構成で知られ、1つのテーマを多数の回に分けて配信していますも話の途中で回が切れるので、ポッドキャストのリスナーはそれほど違和感を持たないのではないか、という考えです。
一方、おちつきAIラジオは90分ほどの収録を切らずにそのまま出しています。しかも毎週月曜の夜10時から深夜1時ごろまでかけて2本録りをしており、かねりんさんは収録後すぐに編集に入り、翌朝に配信しています。
最近ちょっと寝落ちしてて。朝8時になって起きて、あ、(編集を)やらなきゃ。
佐々木亮さんはこの熱量に驚きますが、かねりんさんとしぶちょーさんは「楽しい」と口をそろえます。かねりんさんは、伸びが見えてくればもっと楽しくなる、とも話しています。
まとめて録り、30分ほどで切って前編・中編・後編として分割配信する
毎週2本録りし、90分ほどの収録を切らずにそのまま出す
ポッドキャストドリームは来るのか。1年で3冊を書いたAI執筆術
佐々木亮さんは本編の講演の最後に「ポッドキャストは来る」と話していました。アフタートークでは改めて「来るんですかね」と問いかけます。
(ポッドキャストドリームは)来させますよ。
佐々木亮さんによると、アワードを受賞した配信者たちと半年ほど前に飲んだ際、みんな業界の先行きに悲観的だったそうです。しぶちょーさんは、トップ番組の人たちこそ「ポッドキャストドリームだ」と積極的に打ち出してほしいと話し、アメリカはそういう雰囲気なのではないかと推測しています。
では、どうすればポッドキャストを盛り上げられるのか。佐々木亮さんは、科学系・ナレッジ系の発信の正解の1つは本だと考え、2025年に宇宙の本を2冊、AIの本を1冊、合わせて3冊を出すと明かしました。
1冊書くのに2年かかったというしぶちょーさんも、今年初めて書籍の話が来たかねりんさんも、この冊数に驚きます。佐々木亮さんは、AIの波に合わせて執筆が進み、自分の中でどんどん「AI化」できている感覚があるそうです。
佐々木亮さんが楽になったと話すのは、ゼロから書き出す体力のいる段階です。勉強し始めの面倒くささに耐える時間がなくなり、10万字ほどのドラフトがあれば、そこから自分の温度感を乗せて大きく編集していけるといいます。
かねりんさんも、noteなどに書いてきたものを組み合わせれば、ある程度の分量にはなりそうだと話します。これまで体系立てていなかった自分の考えを、今の時点でまとめるよい機会だと捉えているようです。
「情報に価値はない」時代に何を届けるか
佐々木亮さんが「かねりんさんらしさをどう出すのか」と尋ねると、かねりんさんは、ビデオか音声かといった思想的な部分も本に入ってくると答えました。空気感を大事にしたいので、スタジオのマイクではなくピンマイクを使う、といった判断もしているそうです。
佐々木亮さんはここで、ナレッジ系の発信について持論を語ります。AIの話も含め、情報そのものは調べれば出てくるので価値がない、という見方です。
佐々木亮さんは、本編で出たReplit ── ブラウザ上でコードを書いて実行できる開発環境。AIによるアプリ生成機能でも注目されていますリプリットをとことん使ったエピソードが最後まで聞けるのは、実際にやっているからだと話します。調べたことを話されても響かない、というわけです。
コテンラジオが流行っている理由についても、佐々木亮さんは「歴史が学べるから」ではなく、作り手がどういう思想で歴史を捉えているかがハマっているのだろうと見ています。
一次情報か、その人を通した翻訳を聞きたいっていうことじゃないですか。
プロデューサーに退いて気づいた「プロ素人」の役割
かねりんさんは、一度はプロデューサーに退いて、自分は出演をやめようとした時期があったと打ち明けます。そうした番組をいくつか始めようとしたものの、一旦やめたそうです。
つまんなかったんですよ。僕が出なくなって、面白いなと思った人たちを企画作ってぶち込んで、どうぞってやっても面白くなくて。
かねりんさんによると、台本まで作り込むラジオ番組のようなやり方でなければ、出演者を集めるだけでは面白くならないと仲間から指摘されたそうです。かねりんさんがやっていることは普通の人にはできない、とも言われたといいます。
そこでかねりんさんは、まず自分が出て面白くする形を作ることにしました。AIエンジニアを呼び、素人の立場で翻訳して届けるおちつきAIラジオがその形で、今後はクラシック音楽など別の文脈にも広げ、ブランドにしていきたいと考えています。
プロデューサーに退き、面白い人を企画に集めて任せる。出役はやめる
自分が質問役として出演し、専門家の話を素人目線で翻訳して届ける
佐々木亮さんは、コテンラジオの樋口さんも「プロ素人」と言われていると重ね合わせます。そのうえで、この役割は難しく、自分にはできないと話し、しぶちょーさんも「僕もできないと思う」と同意しました。
田村淳さんの「聞き手パワー」に何を感じたのか?
佐々木亮さんは、ポッドキャストが伸びたときや本を出したときにラジオ番組へ呼ばれる経験から、聞き手の力には際限なく上がいると感じているそうです。
最近の例として佐々木亮さんが挙げたのが、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが文化放送で持つ番組です。PHP研究所から本を出したことがきっかけでオファーが来たといいます。
田村淳さんはABEMAの企画で人工衛星を打ち上げた経験があり、宇宙の背景知識を持っています。佐々木亮さんは、そのうえでの聞き直し方や質問のされ方が「よだれが出るぐらい気持ちよかった」と表現しました。
事前の質問のすり合わせはゼロで、作家らしき人が本を読んで台本を書いてはいたものの、「そんなに守らなくてもいい」という形で1時間ほど話したそうです。佐々木亮さんのラジオ出演をほぼすべて聞いている妻からも、異常に聞きやすかったと褒められたといいます。
そういうのを勉強したいですね。
芸人の凄さは「観客の視点」を持っていること
佐々木亮さんは、お笑い芸人は基本的にすごいと話します。自分が話す力で有名になった人たちが、聞き手としてもあれほどすごいのは、総合的なコミュニケーション能力なのではないかという見立てです。
かねりんさんは、芸人さんにはリスナー視点があるのだろうと言い換えます。リスナー視点がなければ面白く話せないので、「今ここでこの話だな」と常に判断しているのではないか、という考えです。
どう聞かれるかとか、どう見られるかみたいな視点が結構強いってことですよね。
かねりんさんは、芸人さんの頭の中には常にお客さんがいるのだろうと話し、そこがポッドキャスター出身の人と芸人さんとでまったくレベルが違うところではないかと述べます。
ポッドキャスター(には)リスナー見えないからね。基本見えないよね。
かねりんさんが「独り言を聞かせてやっているぐらいの開き直り方」と笑うと、しぶちょーさんも同意しました。佐々木亮さんは、自分にはまだ見えていないものの、ラジオ仕込みとは違うポッドキャストならではの聞き方もあるのかもしれない、と話しています。
ラジオとポッドキャストを分ける「トゥルース感」とは?
ラジオとポッドキャストは何が違うのか。佐々木亮さんは、二人が知り合った「ポッドキャストの学校」のコンさんコンさんの考えを紹介します。コンさんはラジオ制作からポッドキャスト制作に移ってきた人で、その違いを言語化しているそうです。
佐々木亮さんが紹介したコンさんの見方では、ラジオは素が出ているとはいえエンターテインメントのパッケージとしてのショーになっている一方、よりその人が出るのがポッドキャストだといいます。
素が出ていても、エンターテインメントのパッケージとしてショーになっている
よりその人自身が出る。作り込みすぎない素に近い形
佐々木亮さんは、ポッドキャストを始めて数か月のころから、コンさんともう1人とオンラインで勉強会をしていたそうです。そのもう1人が、コテンラジオや小泉進次郎さんのポッドキャストに関わるフビの直也さんフビの直也で、3人とも今もそれぞれ番組を続けています。
佐々木亮さんによると、直也さんは6、7年続けてきて見えたポッドキャストの本質を「トゥルース感」と表現し続けているそうです。しぶちょーさんとかねりんさんも、コンさんの番組でその話を聞いたと応じました。
直也さんは、小泉進次郎さんの番組で初めて出演者として声を出したといいます。佐々木亮さんは、政治の素人という目線で気になるところを探る姿勢が、自分が出たほうがよいと考えたかねりんさんの感覚に近いかもしれないと話しました。
本の企画で聞きたい「走っている人たち」の話
佐々木亮さんが、かねりんさん目線の「トゥルース感」のような言葉が本にあったら面白いと話すと、かねりんさんは本の構想を語り始めました。出版社から声がかかったものの、自分の考えだけを書いても面白くないので、先を走る人たちに話を聞きたいそうです。
かねりんさんが名前を挙げたのは、佐々木亮さん、直也さん、コンさん、そして本を出している野村さんです。自分はまだポッドキャスト業界では門外漢で、インフルエンサー出身の色物だという意識もあるといいます。
佐々木亮さんは、業界にはまだ「この人」という代名詞のような存在がいないと話します。かねりんさんは、個人で楽しくやりたい人と事業にした人の間に、微妙な派閥や分断感がありそうだと感じているそうです。
佐々木亮さんは、自分はポッドキャストの友達が相当多いほうなので、いくらでも紹介すると申し出ました。かねりんさんは、いろいろなスターを俯瞰して紹介するコラムのようなものも本に入れたいと考えています。
企画の打ち合わせには出版社の社長も同席し、「かねりんさん色を出してください」と言われたそうです。単なるHowto本なら誰が書いても同じで、AIに聞けばわかる、という点で3人の意見は一致しました。
佐々木亮さんは、「情報に価値はないと思う」という話がピンとくる編集者とそうでない編集者がいて、「喧嘩を売ってるんですか」と言われることもあると明かしています。
映像はよそ行きになる? 弱っている時ほど届く音声
佐々木亮さんに「ポッドキャストの何が好きか」と聞かれ、かねりんさんは素が出てきやすいところだと答えました。
かねりんさんは、カメラがあると、横を見なければいけないか、光の当たり方がおかしくないかといったことばかり考えて話が飛ぶと説明します。だからこそ生感を出せるのが音声のよさだと話しました。
佐々木亮さんも、ポッドキャストは生感や素の感じで伸びると考えています。さらに、日本だけかもしれないとしつつ、自分のメンタルが弱っている時ほど番組が伸びることを何度も経験してきたそうです。
素が漏れ出る
仕事の大変さや疲れが、番組の語りに出てしまう
リスナーが心配する
途切れてしまうのではないか、大丈夫か、と気にかける
生存確認で聴く
次の日も番組を聴いてくれるようになる
新規事業の激務と、リスナーが10倍になった時期
佐々木亮さんは最近、仕事がかなり忙しくなっているそうです。DeNAが社員の半分で新規事業を次々に作るという方針のなかで、早めに新規事業を任された側だといいます。
佐々木亮さんの担当は、Devin ── アメリカのCognition社が開発したAIエージェント。ソフトウェア開発の作業を自律的にこなすことをうたっていますを日本に広めることです。ほぼ1人で進めてきた取り組みがうまくいきそうになり、組織の中で「部」にまで持っていったそうで、チームは手続き担当を含めても10人いないといいます。
佐々木亮さんは、面白いと思いながらも、家に帰って「疲れた」と感じながら録ることが多いと話します。さらにしんどかったのが博士論文を書いていた時期で、その時は毎日録っていて、リスナー数が10倍に伸びたそうです。
ささきりょうが弱ってるらしいぞ。(と)噂が広がって。見に行くかみたいな。
佐々木亮さんによると、当時はアクセスが2桁ほどだったのが3桁ちょっとになった程度で、5倍から10倍に増えた時期があったそうです。
佐々木亮さんは、ほかのポッドキャスターが面白がって紹介してくれたことも大きかったと振り返ります。ポッドキャストを聴く人は少ないので、ほかの番組で名前が出るだけで伸びるといいます。
確かにポッドキャストを聞く人がポッドキャストを聞きますもんね。聞いてない人に聞かせるのは結構ハードルが高い。
佐々木亮さんは、みんな外からリスナーを連れてこようとするが、それは難しいと指摘します。ポッドキャストの界隈の中でつながっていけば、リスナーの奪い合いにはならないという考えです。
この番組聞き始めたからこの番組聞かなくなったって、あんまリスナーとしてないよね。
一方で、おちつきAIラジオは週3時間分を配信しているため、リスナーから「時間が足りない」と言われることもあるそうです。しぶちょーさんによると、聴ききれないので通勤で少し遠回りしている人もいるといい、佐々木亮さんはそれを「行動変容」だと面白がりました。
深掘り回より速報回が面白いのはなぜか?
おちつきAIラジオには、しぶちょーさんが台本を作り込んでくる深掘り回と、トピックだけ挙げてあとは雑談する速報回があります。かねりんさんは、速報回のほうが面白いと感じているそうです。
技術的なトピックを説明する上で、歴史とか前提とか、リスナーさんに伝えたい前提知識を話しているときは、(かねりんを)かなり一回止めなきゃいけない時があって。
しぶちょーさんによると、深掘り回ではかねりんさんが理解に脳のリソースを使う時間ができ、かねりんさんの声がなくなってしまうそうです。かねりんさんも「波形を見ると俺が全然ない」と笑います。
しぶちょーさん自身も一人喋りモードになり、交流感のない回が最初にいくつかあったといいます。トピックを挙げて話していく回のほうが楽しく、数字やリスナーの意見にもそれが表れていたそうです。
台本を作り込み、前提知識を説明する。しぶちょーさんの一人喋りになりやすく、交流感が薄れる
トピックだけ挙げて雑談する。生感が出て、聴いていて楽しいと感じられている
しぶちょーさんは、その兼ね合いに悩みながら撮り方を変えてきた結果が今の1時間半だと話します。脱線にこそ価値があると考え、「脱線が本線」とまで言うほどです。佐々木亮さんは共感しつつも、「でも長い」と笑っています。
映像がないとYouTubeには嫌われる? 編集ツールの悩み
おちつきAIラジオはYouTubeにもRSS連携で配信していますが、映像がないためあまり回らないそうです。佐々木亮さんは、映像が付いていない時点でYouTubeというプラットフォームでは伸びにくいと話します。
対策として佐々木亮さんが挙げたのは、収録中に画面収録をして雑に出す方法や、編集の段階で動画にしておく方法です。かねりんさんは、ノー編集版として出す案も口にしました。
編集ソフトの話題では、音声の編集にAdobe Audition ── アドビが提供する音声編集ソフト。同社の動画編集ソフトPremiere Proと連携して使えますを使っていることがわかります。ポッドキャストの学校でコンさんが勧めていたことがきっかけで、動画編集はDaVinci Resolveを使っていたためAdobeの沼から抜け出せない、という悩みも語られました。
佐々木亮さんは、編集済みの音声を入れれば、波形が合うところに合わせて動画を切ってくれるAIができないかと話します。ただ、ビデオポッドキャストの人は映像を中心に編集するため、音声メインで編集するのは日本のポッドキャスターくらいで、需要がないだけかもしれないとも述べています。
ビデオポッドキャスト再開と、玄関のトロフィー
佐々木亮さんは、引っ越したらビデオポッドキャストを本格的に再開するつもりだと明かしました。吸音材やLEDを入れて見え方を整え、ポッドキャストアワードのトロフィーもきちんと置こうと考えているそうです。
佐々木亮さんによると、アワードのトロフィーはメインのプロデューサーが変わってからデザインが変わり、昔のワールドカップ風のものは今は手に入らないため貴重がられているそうです。そのトロフィーは今、玄関に置かれ、ネックレスや鍵の置き場になっているといいます。
佐々木亮さんは、ショート動画としてそのまま出せるクオリティを目指したいと話します。かねりんさんは、それはポッドキャストの外から人を連れてくる動きだと受け止めました。
2026年を「来させる」ために、つながれる場所を
かねりんさんは、2026年にポッドキャストを盛り上げるために何かをやりたいと話し、ポッドキャスターがつながれる場所はあるのかと問いかけます。佐々木亮さんの答えは「ないですね」でした。
佐々木亮さんも、ポッドキャストをやっている人とは個人的に飲みに行く程度だといいます。かねりんさんは、小さな交流の場所のようなものが欲しいと話しました。
佐々木亮さんは、人をつなげるのが好きな人がどこかにいればよいと話します。そのうえで、レンさんレンさんとウシオカさんウシオカさんの「ポッドキャスト研究室」、野村さんの「ポッドキャスト総研」、コンさんの番組など、それぞれがポッドキャストのイズムを発信してきた例が挙がりました。
最後に、このアフタートークは本編とは別の回として出す方向で話がまとまりました。映像のデータは佐々木亮さんから送られ、扱いはかねりんさんに任されています。
まとめ
本編後のアフタートークでは、AI執筆や聞き手の技術といった具体的な話から、ポッドキャストの価値は情報ではなく、話す人の思想や素が伝わる「トゥルース感」にあるという共通認識が浮かび上がりました。そのうえで、業界を盛り上げるにはポッドキャスター同士がつながる場が必要だ、という課題も共有されています。
- 佐々木亮さんは、AIでドラフトを作ってから自分の温度感を乗せて編集する方法で、2025年に3冊の本を出すと明かした
- 情報は調べれば手に入るため、リスナーが求めるのは一次情報や、その人を通した翻訳だという見方で3人は一致した
- 田村淳さんとの経験から、聞き手の力とは観客の視点を持ち続けることではないか、という話になった
- 映像はよそ行きになりやすく、弱っている時ほど番組が伸びるなど、素が出る音声ならではの強さが語られた
- リスナーは奪い合うものではなく、ポッドキャスターがつながるほど増えるとして、交流の場づくりが課題に挙がった



