「シリコンバレーの縁側で」に込めた意図
この回はまず、番組タイトル「シリコンバレーの縁側で 半歩引いて未来を考える対話」の意図の紹介から始まります。前回はタイトルをつけずに収録を始めてしまったため、名前に込めた考えを共有しておきたいという流れです。
安田さんは、シリコンバレーを最先端が爆速で進む場所だと表現します。1年後、10年後、なんなら100年後の人類まで見据えて動く人がいる世界観だといいます。
イーロンマスクとかで言えばもう100年以上先みたいなものを見据えて、どうやって宇宙生命体になっていくかみたいなビジョンを描いてるような人も全然いるみたいな世界観であるんですけど。
そうした流れは大事だとしつつ、安田さんはあえて一歩引く姿勢を大切にしたいと話します。昔の歴史や哲学の英知をたどると、最先端の議論と実は交わってくるのではないか、という直感があるといいます。
あえて一歩下がることによってすごい本質が見えてくるんじゃないかっていう感覚、直感を結構持つことが多いので、そういったところを話していけるといいのかな。
安田さんはもともと哲学が好きで、元木さんには仏教のルーツがある。さらに元木さんは日本にいるという視点の違いが、うまく交わると面白いものが見えてくるのではないかと狙いを語ります。
元木さんは「シリコンバレーの縁側」という言葉が気に入っていると応じます。古民家に住み始めて2年ほどで、最初に縁側のベンチを拡張したほどの縁側好きだといいます。
縁側を拡張するってこと最初にやったんだけど、それぐらい縁側ってなんか日本風でいいなと思ってたから。
日本的なものとシリコンバレーという、普通は交わらなそうな要素を混ぜ合わせたい。まだ答えが出ていないオープンなトピックを開放的に話す場として、縁側のイメージが合うと安田さんは説明します。
AIから広がる関心と、生まれ始めた「アクセスの格差」
話題はシリコンバレーの空気に移ります。関心はAIを筆頭に、ロボティクス、宇宙、軍事、ドローンといった、よりシリアスで大きな問題にも広がっているといいます。
投資の動きも防衛やフィジカルAIへ一周した印象があると元木さんが指摘します。安田さんは、AIを作る企業が国防とどう付き合うかという論点を例に挙げます。
具体的には、アンソロピックが国からの要請に断るに近い動きを見せた一方、OpenAIのサム・アルトマンは乗ると表明したという対比です。国に歯向かうのかという声も、国が民間に口出ししすぎるのは良くないという声もあり、一枚岩ではない国の側面が垣間見えると話します。
そのうえで安田さんが最近面白いと感じたのが、AIへのアクセシビリティをめぐる格差です。仕事でChatGPTやClaudeの高額プランに課金すると、月に何万円も平然と飛んでいくといいます。
平然となんか月何万って飛んでいくわけじゃないですか。
ビジネスをしていれば払う必然性がありますが、卒業したばかりで職がない人には難しい額でもあります。安田さんは、面接で「AIを使っているか」と問われ、お金がなくてあまり使えていないと答えると弾かれてしまう場面を例に挙げます。
この課題は教育の現場でも議論の途上にあります。子供にそもそもAIへのアクセスがあるべきか、月数万円のプランを持たせるのか、それとも無料で使える軽いAI環境を用意しないと格差が広がるのか、という論点があると安田さんは紹介します。
お金だけではない、リテラシーと文化の壁
元木さんは、格差はお金だけではないと応じます。エンジニアリングの知識がないとClaudeを使いこなすのは難しい、というリテラシーの格差もあると指摘します。
さらに文化的な背景による差にも触れます。安全性を気にする日本ではAI活用が数パーセントにとどまるという調査を目にしたといい、文化的背景でAIを使うか使わないかが分かれること自体も一つの差になっていると話します。
ただし元木さんは、その数字はBCGの調査であり、データによって結果は変わりうるとも付け加えます。
この「私にちゃんと使えるのか」という心理的な壁は、エリートであっても無縁ではありません。安田さんは、スタンフォードやハーバードに学んだ人が、最初はAIに怖さに近いものを感じていた例を挙げます。
エンジニアがゴロゴロいる環境で、自分は非エンジニアだという意識から怖さを抱いたといいます。今では慣れて使いこなしているものの、その感覚は教育格差や機会格差につながっていくという課題意識を強く持つ人だったと話します。
元木さんは、性格による差もあると加えます。新しい技術を何でも試したい派もいれば、徐々に慣れていく人もいるからです。
一方で安田さんは、実際に使ってみれば意外と簡単だとも語ります。自分の親も、簡単だから使ってみなよと勧めたら、旅行の計画をChatGPTに聞いて普通に使いこなしていたといいます。
難しそうなんじゃないかみたいな。でもまあ言ってみれば、ただテキストを送るだけだからさ。使ってみさえすれば意外と簡単なもんだな、うちの親だって使ってるしみたいな。
AI活用は本当にPLに効いているのか
話題は企業のAI活用に移ります。元木さんはまず、シリコンバレーのトップ層がどのレベルで使っているのかに関心があると尋ねます。
安田さんは、こちらでも差が大きいと答えます。何十万円も課金してフル稼働させ、その様子を発表する人もいるといいます。
なかには会社の全従業員の役割ごとにプランを契約し、自分は会長のようなロールだけを担い、あとは全部AIが動かすという実験を耳にすることもあるといいます。ただし、それが本当にうまくいっているのか、実験として価値があるのかは判別が難しいと話します。
こっちだとなんかすごいうまくいってるようにみんながみんな言うからさ。本当のところどうなの?みたいなところは。
これを受けて元木さんは、経営視点で最も大事なのはPLに効くかどうかだと語ります。人件費や繁閑費が削減されたり、売上が上がったりして初めてPLが変わる、という指摘です。
ニュースは何時間削減されましたという記事が多いものの、それだけでは人が減ったのかどうかまでは見えにくいと元木さんは指摘します。
これに対し安田さんは、シリコンバレーでは自分のポジション柄もあってか、全部AIに任せたらどうなるかという新しい試みの話を耳にすることが多いと応じます。
Metaの社内AI活用と、AIの影のリスク
一方で安田さんは、Metaの社内活用はすごいと語ります。中の人から聞いた話として、チャットでポンと伝えれば、ほとんどの社内ツールにアクセスできる状態だといいます。
もう全て仕事のインターフェイスはもうそのチャットのAIに話すって感じになってるよみたいな。
具体例として人事評価が挙がります。評価の時期が近づくと、自分が今期やった情報をさらってレビュー用のレポートを作らせ、あとは少し書き換える程度で済むため、評価にかける時間が圧倒的に減ったという話です。
ただし安田さんは、こうした活用にはセキュリティの重要性が伴うとも指摘します。よく使われる議事録収集ツールで重篤な情報のリークがあり、公開されてはまずいものが表に出てしまっていないかが問題になった例に触れます。
元木さんも、AIによってセキュリティを突破する能力が上がっている点に懸念を示し、そうしたリスクは今後増えるだろうと話します。
AIと「自分にもできた」という手応えの設計
最後は、番組が扱おうとしているテーマにも重なる話題へと進みます。安田さんは、教育に携わる人たちが特に気にしているのは、AIを使って自分が何をできるようになったかという「セルフエフィカシー」だと紹介します。
わからなかったものがわかるようになった、制作に影響を与えられたといった手応えがあると、その先の熱意が格段に上がるといいます。
逆に、AIが勝手にやってくれるから自分は負けている、だから何もやらなくていい、という方向に働くとネガティブになります。だからこそ「AIを使ってこんなこともできた」という成功体験をどう増やすかが大事だと話します。
元木さんは、これは子供だけでなく組織にも言えると応じます。ちょっとした成功体験がないと使い続けられず、やってみたら行けそうだという感覚のサイクルをどう回すかが、組織導入でも重要だといいます。
安田さんは評価の話に戻り、評価は全部見られて嫌だと感じられがちだが、逆に自分の貢献を適切に見てくれる助けにAIがなりうると語ります。貢献が見える化され、こうやっていけばいいと分かることで、成長感ややりがいにつながる未来像を描きます。
元木さんは、多くの人がAIを完璧なものと思って使い、ジャッジが早いことを課題に挙げます。「使えない」のではなく「使いこなせていない」が正しい表現だといいます。
使いこなせてないの方が多分正しくて、表現は。使えないではなく。
ハンズオンで隣について補助線を引くと、みんな一気に使いやすくなるといいます。ただ、AIの解像度が高い人はまだ世界でも多くないため、そこに非対称性が生まれていると社内推進の実感から語ります。
完璧なものと思い込んでジャッジが早く、「わからない」「使えない」で止まってしまう
ハンズオンで補助線を引き、小さな成功体験を重ねてポジティブなサイクルを回せる状態
元木さんは自社の状況にも触れます。評価への導入はこれからで、まずは業務フローに組み込む段階だといいます。採用人数を減らす省人化は進みつつあるものの、売上増の側は課題で、今後の半年はマーケティングを軸にAIでテコ入れしたいと語ります。
これに安田さんは、前職の事業経験からも、コストを下げるより売上に効くソリューションの方が売る力が強いと同意し、AIと人間の協業の設計が今まさに注目されていると話します。
まとめ
AIが広がるほど、お金・リテラシー・文化という複数の格差が静かに生まれつつあります。それを乗り越える鍵は、AIを完璧なものと構えず、「自分にもできた」という小さな成功体験を積み重ねられる設計だと語られました。
- 番組名は、最先端のシリコンバレーからあえて半歩引き、歴史や哲学の知恵と交わらせる意図で名付けられた。
- AIの高額プランへの課金力、エンジニアリングの素養、そして文化的な心理障壁が、それぞれ新しい格差を生み始めている。
- 企業のAI活用で本当に問われるのは、時間削減の見出しではなく、PL(利益)に効いているかどうか。
- Metaでは社内ツールへの入口がチャットのAIに統合され、人事評価などにかかる時間が大きく減っているという。
- AIを自己効力感や成長実感につなげる成功体験の設計が、個人にも組織にも重要になる。
