運営を引き継いだ美術館で見えた違和感
この回で西野さんは、川口市の音楽と森の美術館の運営を少しずつ引き継いでいる状況を語っています。
まず着手したのは財務とオペレーションの見直しでした。持続可能な経営体制を築くことを最優先に、最初の二ヶ月は現場を走り回りながら改善を重ねたと話しています。
その過程で、エンターテインメントを生業とする立場から気になった点があったと言います。
たとえばミュージアムショップの商品には、明確な設計思想が見えなかったそうです。展示とは関係のないコスメが突然並んでいるなど、来館者が疑問を持ってしまう状態があったと振り返ります。
美術館っていう空間は、展示からショップまで含めて一つの体験だから。だからこそ、展示を見て心が動いて、その余韻のまま商品と出会うという、この流れを、動線を丁寧に設計する必要があるなと思っています。
広すぎるお土産コーナーという課題
一方で、新たなコンテンツを二つほど加える準備も進めていると語っています。
一つ目はチムニータウンの最新インスタレーション「千年砦」です。インスタレーション空間全体を作品として体験させるアート表現のこと。西野さんは放送内で「空間アート」と補足しています。
これは美術館の倉庫や廊下の片隅に眠っていた、歴史的価値のあるオルゴールを一同に集めた展示だと説明されています。
異なる時間を生き抜き、多くの時間を内包した存在であることから、その時間が守られる場所という意味を込めて「千年砦」と名付けたそうです。
この名前は映画『えんとつ町のプペル 約束の時計台』に登場する異世界の名前でもあり、世界観やコンセプト、ビジュアルが近いことから同じ名前を付けたと話しています。
そしてもう一つが、ミュージアムショップの一角に誕生する「ボトルジョージシアター」です。
西野さんがこの美術館を初めて歩いたとき、最も強く感じた違和感は、展示コンテンツの量に対してお土産コーナーが広すぎることだったと言います。
商品数を絞り、その分だけ見るもの読むものを増やしたい。けれど、パフォーマーを常駐させて空間を埋めると人件費が積み上がり、長期的には経営を圧迫してしまうと考えたそうです。
そこで、人件費を必要としない展示コンテンツで空間価値を高めることが重要だと判断したと話しています。
短編映画が抱える「出口」の問題
都合のいい展示があるのか、という問いに対する答えを、西野さんは二年ほど前から準備していたと語ります。
それが短編映画の出口についての構想でした。
現在も世界中で数え切れないほどの短編映画が制作されていますが、その多くは完成後にどう届けるのかという課題を解決できていないと指摘します。
映画館で短編を上映しても、わずか十分ほどの作品のためだけに劇場へ足を運ぶ人は多くありません。かといってオンラインに公開しても、膨大なコンテンツの中に埋もれてしまいます。
結果として、米アカデミー賞を受賞した作品でさえ、多くの人に見てもらえる場所を持ててない。つまり短編映画は、クリエイターの名刺としては機能しても、それ以上の商業的な価値を生み出す出口を持てていないんですね。
映画として売らず、展示作品として生かす
この課題への一つの答えとして取り組んだのが、短編映画「ボトルジョージ」だと語られます。
この作品は世界各国の映画祭で数多くの評価を受けた後、スタッフにはDVDもブルーレイも配信もしないと伝えたそうです。
一般的には機会損失に見える判断ですが、西野さんには考えがありました。
この短編映画を、映画として売るのではなくて、展示作品として生かす。短編映画を映画館ではなくて美術館に展示する。そうすれば、美術館に人が訪れ続ける限り、その作品は見られ続けるじゃないですか。
作品のカテゴリーを変えることで、寿命そのものを延ばすという考え方です。
この方法は長編映画では成立しないと言います。十分前後だからこそ、館内を歩きながら気軽に鑑賞できる美術館の展示として機能する、という前提があるからです。
十分ほどの作品のためだけに劇場へ足を運ぶ人は多くない
館内を歩きながら気軽に鑑賞でき、人が訪れる限り見られ続ける
ボトルジョージシアターは翌日プレオープンし、美術館の入館チケットがあれば追加料金なしで何度でも観られると案内されています。
目先の利益より、未来の可能性を残す
ここでのポイントは、ボトルジョージが公開から二年を経てようやく回収を始めたことだと西野さんは言います。
もしあの時点で焦ってDVDや配信へ展開していたら、今回の選択肢は存在しなかったと振り返ります。
目先の小さな成果を手放してでも、未来の大きな大きな価値を育てる。今回の取り組みが、その考え方を共有する一つの実例になれば嬉しいなと思っています。
まとめ
短編映画の出口という課題に対し、西野さんは「映画として売る」のではなく「美術館の展示として生かす」という発想を語りました。作品のカテゴリーを変えることで寿命を延ばし、目先の利益より未来の可能性を残すという考え方が示された回です。
- 美術館は展示からショップまで含めて一つの体験であり、動線の設計が重要だと語られた
- 人件費のかからない展示コンテンツとして、短編映画を美術館に置く発想が示された
- 短編映画は映画館やオンラインでは埋もれやすく、出口の課題を抱えている
- ボトルジョージはあえて配信せず、二年後に美術館の展示として回収を始めた
- 目先の利益を急ぐより、未来の可能性を消さない選択を積み重ねることが大切だと話された
