心も一緒に動く「Well-Moving City SAPPORO 2045 ビジョン」とは
この回では、阿部さんが担当する札幌の都市政策「Well-Moving City SAPPORO 2045 ビジョン」がテーマになりました。三月にリリースされたばかりの政策です。
これは具体的な整備計画というより、札幌の二十年後の都市空間をどうしていくかという「ビジョン」を定めるものだと説明されています。
具体的にどことどこをどう整備してどうします、というよりは、どういった姿にしていくのがいいのかというのを、二年間いろんな方々と実証実験やワークショップ、シンポジウムをやったりして考えて、たどり着いた札幌独自の都市空間のビジョンです。
コンセプトは「春夏秋冬、地上も地下も、市民も来訪者も、いつでもどこでも誰もが心地よく、心も一緒に動く街、札幌」。ややエモめな表現だと阿部さんは笑います。
わかりやすい例として挙げられたのが、道庁赤レンガ前の広場「赤プラ」です。ここは元々車道空間でしたが、二千十四年に広場になりました。
うちの六歳の娘が人生で初めて映画を見た場所が、あの外の赤プラなんですよね。でもそれって多分、車道のままだったらそんな経験は絶対にしてなくて。都市空間を変えていったからこそ生まれたこと。まさに心も一緒に動く街になったということだと思っています。
車が中心の街から歩行者が中心の街へ大胆に転換していく。その「MOVING」には、都市の中で感動する気持ちが込められていると話されています。
なぜ「ウォーカブル」ではなく「Well-Moving」なのか
国は「ウォーカブル」なまちづくりを推進しており、国内では四百二都市が推進都市になっているそうです。約四分の一にあたる数です。
ただ、ワークショップを重ねる中で、「ウォーカブル」という言葉には課題も見えてきたといいます。
ウォーカブルと言ってしまうと、物理的に歩けない人とか、自転車や公共交通を使うところが少し意識から外れてしまう。それは課題だよねということで、国が言ってるウォーカブルじゃダメだ、札幌独自のものを考えるぞと。
そこで、NoMapsのコピーを手がける若菜さんと何度もコピーを練り、たどり着いたのが「Well-Moving City」だったと語られました。
ちなみに横文字にしたことで、議会では副市長がこの名称を噛んでしまい、「自分で読めない政策作るんじゃねえ」と言われたという裏話も明かされています。
日本の先進事例として、大阪の御堂筋が挙げられました。幅広い道路の車を全面的に排除して歩行者だけの空間にする「フルモール化」を進めており、すでに側道から車線を潰しているそうです。
もう一つ、大阪駅前の「うめきた広場」は、本来ならビルを建てて儲けられる場所を全面芝生公園にした事例として紹介されました。
車社会の北海道で歩行者中心の空間をどうつくるか
おのっちさんは、北海道は意外と車社会で、郊外に出ると車がないと生きていけない面もあり、歩行者中心は難しそうだと投げかけます。
阿部さんも、海外には車を手放すよう強く促す都市もあるが、北海道札幌ではなかなか難しいと認めます。子どもが三人いる自身も、車がないと生きていけないといいます。
車を必ずしも手放せと言っているわけではなくて、車じゃなくてもいいところにも今は車で行ってたりする。そこを、車じゃない方が便利だったり心地よかったり、そういう選択肢をちゃんと作っていく、というところなんです。
具体例として、大通公園の横を走る三車線道路が挙げられました。この道路の八割が、都心に関係のない「通過交通」だといいます。
大通公園はシビックプライドの集まる場所なのに、そこに関係ない車が走り抜けている状況だと指摘されました。
車がちゃんと違うところをスムーズに走れる道路も考えた上で、大通公園の周辺はより歩行者中心に。可能性の一つとしては三車線を二車線、一車線にしていく。そういったこともやっていくことによって、将来の世代が心も一緒に動く街になっていく。
これは短期的には伝わりにくく、何十年単位の政策になると阿部さんは話します。
都市空間を良くするのは行政だけじゃない
おのっちさんは九州出身で、オーストラリアにも住んだ経験があるそうです。それでも札幌に戻ってきたと語ります。
街と山、大きい公園のバランスがすごく好きで、それは本当になくして欲しくないし、なんかもっと行きたいしとやっぱり思います。
これを受けて阿部さんは、都市空間をもっと良くできると普通の人はあまり思っていないが、実は誰でも関われると強調します。
道路とか公園とか広場とかを活用していくのって誰でもできるんですよね。にぎわいを生んだり、にぎわいじゃなくても、自分の居場所だと感じられるような空間に変えていくのは誰しもができることで。
七月二十三日のシンポジウムでは、道路・公園・広場などパブリックスペースの使い方をまとめた「パブリックスペース活用ガイドライン」を、攻略本のようなものとして公開する予定だと紹介されました。
さらに、産学官民みんなで都市空間を良くしていくためのプラットフォームとして「Well-Moving Network」を立ち上げ、チームづくりを進めていると話されました。
世界の歩きやすい街と、インフラの違い
大島さんはこれまで三十カ国ほどを旅してきたそうです。その経験から、歩きやすい街と歩きにくい街が実際にあると語ります。
Googleマップで出して同じ二十分なのに、なんか遠い街と、すごい楽しい街と。それはあって。
その違いは、お店やカフェの有無だけでなく、信号の間隔、車の量、日射量や木陰の多さなどにも表れると分析されました。
おのっちさんは歩道が広い街が好きだと話し、タイでは歩道が狭く車が近くて怖かったこと、電線の量に衝撃を受けたことを挙げます。一方、オーストラリアのゴールドコーストやシドニーでは、車が入れない歩行者中心の道が多く歩きやすかったといいます。
車のスピードを抑える工夫も話題になりました。阿部さんはバルセロナ視察で、時速十キロ制限の道や、速度を出しすぎると車を壊しかねない「バンプ」が多く設置されていたと紹介します。
札幌でも一昨年、通学路でバンプの実証実験を行ったそうです。ただ雪の除雪があるため、常設ではなく取り外せる「可搬式バンプ」にしたといいます。
速度を落として安全性を高める流れは国内のトレンドで、今年から生活道路の最高速度制限が一律三十キロになるはずだと説明されました。
オーストラリアの厳格な交通ルールも話題になりました。カメラでスピード違反や運転中のスマホ操作を検知し、通知が家に届く仕組みがあるそうです。
オーストラリアと日本で速度制限に対する考え方が全然違って。日本って十キロ二十キロオーバーは感覚的に全然OKじゃないですか。オーストラリア、僕の知り合いは七キロオーバーで取られてたんで。
ウィーンの市営交通が示す、思い切った選択肢
大島さんが住んでいたウィーンの市営交通は、思い切った料金設計だったといいます。
一ヶ月の定期券が五十ユーロだったんですよ。当時七千円ぐらいで、トラムとバスと地下鉄が全部乗れる。物価を考えるとめちゃくちゃ安くて。でも一回券は五百円ぐらいする。観光客からはバリバリ取るけど、住んでる人はめっちゃ安い。
日本のように点と点を結ぶ定期ではなく、エリア内ならどこでも乗れる仕組みが便利だったと振り返ります。犬も自転車も乗れるため、散歩や山へのお出かけにも使えたそうです。
トラムの車両幅の広さも話題になりました。日本とは事情が違って難しいものの、自転車がそのまま乗り込めるほどの広さがあると語られています。
自転車の走行環境については、札幌の課題も率直に語られました。交通事故件数自体は減っているものの、自転車対歩行者の事故は増えているといいます。
車道に青い矢印があるじゃないですか。矢印はあるけど、路駐してる車にもぶち当たるし、横でビュンビュン走ってるし、そこと一緒に走りなさいというのはやっぱり無理があったりとか。
おのっちさんも自転車利用者として、雪でボコボコの路面の穴を避けて走ると、後ろから来る車が怖いと共感します。
ヨーロッパでは自転車専用レーンや自転車用の右折レーン、歩行者・自転車・車それぞれの信号が整備されている点が対比されました。パリでは渋滞する車の横を、大量の自転車が専用レーンを走っていたといいます。
札幌では冬に乗れないことや除雪の問題で踏み込みにくいものの、ビジョンの中には自転車空間を物理的に確保していく方針が書かれていると明かされました。
日本人は日陰が好き?文化で変わる「心地よい場所」
ウィーンでは夏になると、カフェのテラス席が車道にまで大きく広がるそうです。椅子や机、パラソルを収納する専用の会社があり、春から準備が始まるといいます。
おのっちさんは、夏の北海道は日本で一番住みやすいのに、なぜテラス席を活用しないのかと熱く語ります。一方で阿部さんは、文化による違いにも触れました。
日陰と日なたのゾーンがあって、その状況で日なたに座ってる人がいたんですよ。ヨーロッパの方に。机の上全部日光が当たって、ソフトドリンクの氷が一瞬で溶ける環境で。信じられなくて二度見しちゃった。
公園の使い方も文化によって異なると語られました。ヨーロッパでは休日に公園でスケッチする若者がいたり、川沿いのパブリックなジムで筋トレする文化があったりするそうです。
同じ設備を日本に置いても使われないことがある、という視点が示されました。社会実験でテラス席を作っても、あまり座る人がいない事例もよく見られるといいます。
心地いい場所の条件は文化的なものや人生経験によるものもあると思うので、その都市に合ったものをやっていかなきゃいけない。日本人が集まる場所ってどこなのか、その地域の人たちがこれまで集まってた場所に近い存在になる、という考え方をした方がいいのかな。
日なたを好む人が多い。公園でスケッチしたり、川沿いのパブリックなジムで筋トレしたりする文化がある。
日陰に入りたがる人が多い。同じ設備を置いても使われないことがあり、地域が元々集まってきた場所に近づける発想が必要。
パブリックスペースは「あなたの場所」。50年後の街をつくるのは
都市空間をどうするかという仕事には正解がないと阿部さんは語ります。仮に正解だったとしても、それがわかるのは五年後、十年後かもしれないといいます。
大島さんは、文化に乗っかって空間を作るのも、自分たちで文化を作っていくのも大事だと感じたと話します。
阿部さんは室蘭工業大学の出身で、もともと建築士を目指していましたが、大学二年生で土木という世界を知ったそうです。土木という選択肢を前向きに知ってほしいと語ります。
インフラの老朽化も話題になりました。今は作る時代から維持管理する時代に入って久しく、橋やトンネル、道路を守るだけでも精一杯だといいます。
だからこそ、今ある都市空間の魅力を再認識し、活用を変えていくパブリックスペースの利活用を進めたいと話されました。大島さんは、このビジョンから強いメッセージを受け取ったといいます。
「五十年後の札幌を作るのはあなただよ」っていう。誰かに作ってもらうんじゃないんだよっていうのが、このガイドブックを渡されるっていうところにすごく感じますね。
組織でモヤモヤしている人へ。「NoMaps CAREER」の案内
最後に、九月に札幌で開催される都市型フェス「NoMaps」の中で、阿部さんが引っ張るカテゴリーが紹介されました。
阿部さんが活動するONE HOKKAIDOが運営する新カテゴリー「NoMaps CAREER」が、今年度新設されるそうです。日程は九月二十五日金曜と二十六日土曜です。
働くを変えられるのはきっと自分自身だ。北海道で働くことをもっと面白くする二日間ということで、組織に所属しながらも越境していく、その先で共創していく、みたいなところをみんなで考える一歩を踏み出すセッションがたくさんあります。
運営は北洋銀行と組んでおり、ONE HOKKAIDOの運営メンバーと、北洋銀行の公募で集まった若手行員が一緒にキャリアを運営しているそうです。その過程自体が面白いと語られました。
さらに、NoMaps本番の前後にも学びをつなぐ「キャリアコンパスプログラム」があり、九月十四日と十月九日にも実施されると案内されました。
組織の中でモヤモヤしている人に来てほしいと話されています。
組織の中でモヤモヤしている人に来てほしいと話されています。阿部さん自身もモヤモヤ勢だったといい、何か違うと感じる人や、もう少し違う自分を見てみたい人、他の人と一緒に何かしてみたい人に、いろんなロールモデルが見えるはずだと語られました。
まとめ
札幌の都市ビジョン「Well-Moving City SAPPORO 2045」は、車中心から人が中心の街へと、二十年、五十年単位で街を転換していく取り組みでした。パブリックスペースは行政のものではなく「みんなの場所」であり、街をつくるのは私たち一人ひとりだというメッセージが語られました。
- 「Well-Moving City」は、歩きやすさに加えて心も動く街を目指す、札幌独自の都市空間ビジョン
- 車を手放させるのではなく、車じゃない方が便利で心地よい選択肢を作るのが狙い
- 道路や公園などパブリックスペースの活用は行政だけでなく誰でも関われる
- 心地よい場所の条件は文化や人生経験で異なり、その都市に合った形を探る必要がある
- 組織にモヤモヤしている人へ、越境と共創の場「NoMaps CAREER」が九月に新設される
