所属を超えると「他人」や「敵」になってしまう壁
今回のテーマは、アンケートで阿部さんが書いた「所属組織を超えた途端に他人になってしまうこと」です。
これは土木というより、人間関係の話だと阿部さんは言います。今のコミュニティ活動すべてのベースになっているそうです。
市職員として見ると、市民と市役所が、職場によってはやや敵対関係になってしまうことがあると話します。
市民の方も「市役所この野郎」みたいな状態になったりとか、市役所職員も市民といえば「苦情を言ってくる人」みたいになったりする。市役所と民間企業であれば、受注発注の関係でしかないというか、仲間ではないみたいな感覚を多分誰しも持って生きている。
立場がある以上その通りではあると認めつつ、阿部さんはある前提を大事にしています。
そもそも誰も、この札幌の地を暗黒の地にしたいと思って生きているわけじゃないじゃないですか。だから本当は、一人の人間としては絶対に分かり合えるだろうっていう、性善説が僕にはあって。
仲間なはずなのに、そう思えない構造にあるのがもったいない。だからフラットに出会える場を作り、仲間でいられる状態をどう作るかを考えていると話します。
大島さんは、雪国でスタックした車に人がバラバラと集まり、助けたあと何も言わず去っていく文化を理想として挙げました。その瞬間は肩書きも名前もなく、ただ困っている人がいるから手を貸すだけです。
阿部さんも、そうできない壁があるのは理解しつつ、そうじゃない接点を持てるようにする活動は続けたいと語りました。
20代の努力が30代で返ってきた実感
そうした場作りが達成できた瞬間があったかと問われ、阿部さんは「ありすぎて出てこない」と笑いました。
点と点がつながって線になり面になり、気づいたら今の仕事につながっている。それが自分にとっていい形で返ってくることが多すぎるから続けている、と話します。
特に返ってくる実感が強まったのは、35歳を迎えるこの一年ほどだといいます。
二十代の時はそこまでリターンを感じなかった。でも二十代からずっと三十代前半まで頑張ってきて、三十代中盤に差し掛かった今、いろんなものが返ってくる。今まで打ってきた点が一気に繋がり始めて、シンプルに仕事や成果につながっていくことが最近すごく多い。
だからこそ、今の20代にも伝えたいと阿部さんは言います。その時は短期的な成果にならなさそうでも、点を打つことは絶対にやっておいた方がいい、と。
大島さんは、これを効率化の対極にある「美学」だと表現しました。タイパを求めて自分の生活の中だけで最適化すると、やらないことが最善になってしまう場面があるからです。
市役所を変えたい、諦められない思い
一方で、達成したい場所はまだ全然あると阿部さんは言います。札幌の街をもっと良くしたいという思いが根底にあるからです。
市役所を良くしようと5年以上活動し、メンバーは800人、年間20企画以上を動かしてきました。それでも文化を変えるのは一朝一夕にはいきません。
じゃあ市役所ガラっと変わったかって聞かれたら、最近ネクタイしなくて良くなったけど、スニーカーOKになったけど、みたいな。良くなってるところもたくさんあるけど、自分の理想とするところにはまだ全然達成できてなくて。だからまだ止まれない、諦められない。
ここで、リスナーでもあるおのっちさんが「情弱な札幌市民」として発言します。そういうコミュニティがあると知らずに生きてきた、普通に生きていたら札幌市が何を頑張っているかわからない、と。
クレーム言いにくくなるから。「あ、そうか、税金これに使ってるのか、クレーム言えねえな」みたいな。
阿部さんも、市役所は広報が下手だとよく言われると認めます。ただ、広報部門の知り合いが札幌のあり方を考え直し、SNSや広報番組に力を入れていることも知っていると話します。
顔を出して会いに行く「ドブ板営業」
それでも自分の事業の話は伝わらない。だから阿部さんは、匿名ではなく自分の名前と顔を出したSNSで発信しています。
フォロワーがそんなにたくさんいるわけじゃないんですけど、届けたい人に自分から会いに行って、自分で繋がって、繋がれば自分が投稿した以上は見てもらえる可能性がある。手に届くところを一人一人増やしていくのを、今地道にやってて、それが合ってるのかよくわかんない。
おのっちさんは、AIをめぐる文脈でよく話す「握手する回数を増やす」という考えを重ねます。直接会って自分を知ってもらえば、何をしているかも伝わる。何をするかより、誰が何をするかが大事だという話です。
そういう泥臭さみたいなのが、何をするかよりも誰が何をするかの方がめっちゃ大事なんだなって。でもそれやられてるのがすごいっていう。シンプルに。
ここで話は、市役所側だけでなく市民側の姿勢へと広がります。
大島さんは、変わるべきは市民側ではないかと投げかけました。市民がもっと興味を持てば、市役所の取り組みは勝手に届くという理想論です。
市民の努力不足はもう大前提だと思うんですよ。お互いのその分かり合えないを分かり合う努力がめっちゃ大事だなっていうのはあって。
阿部さんも、お互いが分かり合う努力という意味でその通りだと応じます。数年かけて作った100ページほどの政策も、誰も見ない問題があるからです。
だから相手の土俵に立つ。「やるから来てください」ではなく、いろんな団体のイベントに参加させてもらい、営業マインドで喋らせてもらうのです。その政策の本質を知り、実際に動いてくれる人が最近ちょこちょこ出てきていると話します。
そんな阿部さんの働き方を、先輩は「泥んこスタイル」と評したそうです。
利害関係者のところに、僕は絶対一人一人会いに行って、顔を見て、「こういうことを手伝ってほしくて、あなたにはこういうメリットがあると思ってて、だから一緒にこれやってくれませんか」みたいなのを全員にやる。そうしないと人が動かないってわかっているから。めちゃくちゃ時間かかるんですよね。
それを全員がやったら世界が変わりそうだと大島さんが言うと、おのっちさんも、そこまで見せられたら市民側も受け取り方や見せ方を変えざるを得ない、と応じました。
苦情対応から気づいた「寄り添う」力
相手がどう思っているかを一ミリでも想像することが大事だと阿部さんは言います。それは窓口でクレームを入れる市民側にも通じる話です。
阿部さん自身、現場で苦情対応をしていた頃は、最初は怒られてばかりでした。しかし相手の背景を想像して寄り添うようにすると、日々が変わったといいます。
四年目ぐらいの時には、毎日ありがとうってたくさん言ってくれる日々になって。相手に寄り添う気持ちを持つことで、こんなに変わるんだっていうのは、すごく他の人にも伝えたい。
大島さんは飲食店の経験から共感しつつ、違いも指摘しました。飲食店は価格帯などで来る客をある程度コントロールできますが、市役所は誰も拒否できません。
その中でありがとうと言ってもらえるようにするのは努力であり、培ってきた美学だと大島さんは評しました。
その頑張りの源を問われ、阿部さんはシンプルな答えを返します。
僕が何事も頑張る全ての源って何なの、ってよく聞かれる時にいつも言うのが、シンプルに自分のことを嫌いになりたくないっていうのがすごく強くて。自分のことを好きでいたいからもっと頑張る。もうほんとただそれだけ。
毎日怒鳴られる自分は嫌だから、毎日ありがとうと言ってもらえる自分でいたい。愛は人に渡すと増えて返ってくる、というイメージも重ねて語られました。
次の世代に残したい「希望」
これからどんな札幌を作りたいか。阿部さんが最後に語ったのは、違いを認め合える街の姿でした。
どんな立場の人であっても、お互いを尊重し合えて、お互いに協力し合える。そうすることで、今日よりも明日が良くなるような、希望みたいのを持って毎日生きていけるような、そういう街にしていきたい。
それは何かを成し遂げるというより、そういう状態を作ってこの世からいなくなりたい、という思いだといいます。
背景には、6歳・4歳・2歳の3人の子どもの存在があります。自分がいなくなった後、この子たちがどんな街でどんな気持ちで歩くのかを考えるそうです。
土木系の仕事は、道路や横断歩道、広場、花壇といった形で街を実際に変えられます。だからこそ、次の世代に何を残すかを意識していると話しました。
おのっちさんは、キャリアやコーチングに関わる立場から、希望を持つ力には格差があると感じているといいます。子どもたちに希望を渡せるのはいい仕事だと共感しました。
公務員は「天使の仕事」
阿部さんは、公務員という仕事は楽しくて素敵だと語ります。むしろそう思って目指す人が増えてほしいと言います。
公務員だからできることを問われ、街のグランドデザインを作れることを挙げました。加えて、民間との違いにも触れます。
民間企業だと、まず企業の利益を出さなきゃいけない。でも札幌市の場合は、利益というよりは札幌市民の幸福を作っていく仕事なので、その人の幸せみたいなところにフォーカスできるのはすごく尊いなって自分では思ってて。
尊敬する先輩の言葉も紹介されました。公務員は「天使の仕事」で、法律に「人を幸せにしなさい」と書いてあるのだ、という話です。
公務員は天使の仕事だよって言ってる先輩がいて。人を幸せにしなさいって、法律に書いてあるんだよみたいな。それってすごくない、みたいなことを言ってて。確かにそれはすごいなって。
阿部さんは、想像される公務員のタイプとは違うとよく言われるそうです。前日にも視察に来た名古屋市議会の議員から「初めて見るタイプの公務員ですね」と言われたと明かしました。
話は公務員の可能性へと広がります。担当者がそこでやめるか、もう一歩先に進むかで札幌の未来は変わる、と阿部さんは言います。
「あ、この人はここで諦めたから、札幌市としてはここで止まるのか」って思ったりとか、「今このポストにこの人がいるから、札幌のこの分野はこうやって進んでるんだ」って結構あるんですよね。
予算の配分を変える権限を持つポストもあり、働く人によって札幌の未来は本当に変わると語られました。
一方で、中には「公僕だから」「我々は歯車だから」と言う優秀な職員も多いといいます。歯車が突然大きく動くと全体が回らなくなる、という考え方です。阿部さんは、そこは自分とは考え方が違うと話しました。
最後は、市役所にいい人が増えてほしい、市民は札幌に興味を持ち、窓口の人には優しく、という掛け合いで締めくくられました。
まとめ
所属を超えると人は他人や敵になりがちです。その壁を溶かすため、阿部さんは顔を出して一人ずつ会いに行くドブ板営業を続けています。その根底には、自分を嫌いになりたくないという思いと、次の世代に希望を残したいという願いがありました。
- 所属を超えると分断が生まれるが、一人の人間としては分かり合えるという性善説が活動の土台になっている。
- 20代で打った点は、30代中盤になって仕事や成果として一気に返ってきた。短期的でも点を打つことが大切。
- 政策は待つだけでは伝わらない。相手の土俵に入り、一人ずつ会って想いを伝える泥臭さが人を動かす。
- 相手の背景を想像し寄り添うと、苦情対応は「ありがとう」に変わる。頑張る源は「自分を嫌いになりたくない」こと。
- 市役所の仕事は市民の幸福を作る「天使の仕事」であり、担当者の一歩が街の未来を左右する。
