シーズン4は坂口志文特集、参考にした書籍
今回からシーズン4がスタートします。取り上げるのは、制御性T細胞を見つけた免疫学者・坂口志文先生です。
坂口先生は2025年のノーベル生理学・医学賞を受賞したばかりで、ニュースでも大きく取り上げられています。
めちゃめちゃホットですね。
解説の参考にしたのは、坂口先生とジャーナリストの塚崎麻子さんの共著『免疫の守護者 制御性T細胞とは何か』です。講談社ブルーバックスから出版されています。
この本は坂口先生自身が書いているため、発見に至った経緯を詳しく知ることができます。日本語で読める坂口先生の本はほぼこれくらいしか見当たらないとのことです。
他にはYouTubeの記者会見や文藝春秋のインタビュー記事などを元にスクリプトを作成しています。
日本人のノーベル生理学・医学賞受賞者はこれで6人
ノーベル生理学・医学賞を受賞した日本人は、坂口先生でちょうど6人目になります。
過去の受賞者で知っている人はいますか。
とみーさんが挙げたのは、iPS細胞の山中伸弥先生と、京都大学の本庶佑先生でした。どちらも京都大学の研究者です。
一番最初に受賞したのは、1987年の利根川進先生です。日本人で初めての生理学・医学賞でした。
そこから少し飛んで、2012年に山中伸弥先生が受賞しています。
利根川進と山中伸弥、遺伝子と細胞をめぐる発見
利根川進先生は、体に入ってくる無数の抗原に対して、なぜ無限に近い種類の抗体を作れるのかという長年の謎を解いた研究者です。
利根川先生は、免疫細胞が成熟する過程で、抗体を作る遺伝子の断片がダイナミックに入れ替わっていることを発見しました。
番組では、いろんな種類の車両が組み合わさる電車のように、遺伝子の配列が入れ替わるとたとえて説明されています。
当時は、生命の中で遺伝子がそんなにダイナミックに入れ替わることはありえないと考えられていました。その常識を覆した発見だと話されています。
2012年の山中伸弥先生は、ジョン・ガードン博士との同時受賞でした。ガードン博士は、成熟したカエルの皮膚などの細胞から取り出した核を、核を壊した別のカエルの受精卵に移植し、そこからおたまじゃくしを発生させました。
一度皮膚の細胞になったら巻き戻せない、というのがそれまでの基本的な考え方でした。ガードン博士は動物細胞で初めて、細胞の「巻き戻し」を起こしたことになります。
この研究に刺激を受け、山中先生は哺乳類でも同じことができないかと挑みました。マウスの皮膚の細胞に「山中因子」と呼ばれる4つの遺伝子を外から導入すると、細胞が巻き戻り、さまざまな細胞になれる大元の状態に戻ることを発見しました。
これがiPS細胞です。番組では、山中先生の発見のおかげでガードン博士の研究が再評価され、二人同時受賞になったのではないか、という主観的な見方も語られています。
大村智と大隅良典、微生物と細胞のリサイクル
3人目は2015年の大村智先生です。細菌などの中から医学的に有用な物質を見つける、いわゆる細菌ハンターと呼ばれる研究者です。
大村先生はゴルフ場の土壌から採取した放線菌から、エバーメクチンという物質を発見しました。これが改良され、抗寄生虫薬のイベルメクチンになります。
コロナの時にイベルメクチンを打つとコロナにかかりにくくなる、というデマがありましたけど、あれはデマですね。
イベルメクチンは、アフリカで川の寄生虫によって失明を引き起こすオンコセルカ症などに使われ、寄生虫を殺せる薬がなかった状況を変えました。どれほどの命を救ったか分からないほどの薬だと話されています。
同時受賞したのは、エバーメクチンを人の感染症対策に使えるイベルメクチンへ改良したウィリアム・キャンベル博士と、抗マラリア薬アルテミシニンを発見した中国の屠呦呦さんです。
屠呦呦さんのアプローチは特に興味深いものでした。古い漢方の文献を調べ、マラリアに使われていた植物の抽出液を見つけたのです。
文献には「熱をかけずに抽出する」という趣旨が書かれていました。その通り熱をかけない方法で抽出すると、マラリアに見事に効いたと紹介されています。
4人目は2016年の大隅良典先生です。細胞が自らの成分を分解して再利用するオートファジーの仕組みを、酵母を使って初めて分子レベルで解明しました。
大隅先生の研究は他に類を見ないものだったため、利根川先生と同じく単独受賞になっています。
単独受賞と同時受賞、ノーベル賞のしくみ
単独受賞と同時受賞はどちらがすごいのですか。
あきさんは、単独受賞のほうがすごいと感じてしまうと率直に話します。一方で、研究は積み重ねなので簡単には比べられないとも語られています。
ノーベル賞は一つの賞に最大3人まで受賞でき、同じ分野の関連する研究がまとめて称えられることが多いと説明されています。
山中先生の研究も、ガードン博士の研究がなければ生まれなかったと考えられ、一つの流れとして評価されたのではないかと話されています。
さらに賞金の話題にも触れられました。賞ごとに決まった金額を受賞者で分ける仕組みで、人数が増えるほど一人あたりは減るとのことです。
一億もらえたとしても、ここまで研究されている先生たちはお金じゃないような気はしますけどね。
本庶佑と坂口志文、免疫のブレーキをめぐる発見
2018年の本庶佑先生は、免疫細胞であるT細胞の表面にあるPD-1というタンパク質を発見しました。これが免疫のブレーキ役として働いていることを明らかにします。
がん細胞は本来、異常な細胞として免疫細胞に攻撃されるべき存在です。ところが、がん細胞はPD-1を巧妙に利用し、「攻撃しないで」と信号を出して免疫の攻撃を回避していたのです。
この仕組みを再び機能させるために作られた薬がオプジーボです。
聞いたことあるぞ。結構有名な薬ですね。
同時受賞したジェームス・アリソン博士は、PD-1とは別の経路の免疫回避機構を発見しました。こちらもがん治療薬に応用され、二人の同時受賞につながっています。
そして今回の主役、坂口志文先生です。特定のT細胞の集団が、自己免疫疾患を防ぐブレーキ役として働くことを発見しました。
これが制御性T細胞で、英語ではRegulatory T cell、略してTregと呼ばれます。自己免疫の自己寛容機構という概念にあたります。
共同受賞したメアリー・ブランコさんとフレッド・ラムズデル博士は、Tregの原因遺伝子がFOXP3であることを突き止めた研究者です。坂口先生の発見をもとに、その遺伝子を明らかにした形になります。
6人中3人が免疫学、北里柴三郎から続く系譜
6人の日本人受賞者のうち、3人が共通して取り組んでいた研究テーマは何でしょう。
答えは免疫学です。利根川進先生、本庶佑先生、坂口志文先生の3人が、いずれも免疫学の研究で受賞しています。
その源流として、シーズン2で取り上げた北里柴三郎先生の名前が挙げられます。破傷風菌の純粋培養と血清療法を開発した人物です。
利根川先生の抗体の研究、本庶先生のPD-1、坂口先生の制御性T細胞と、日本は免疫学のスーパースターを出し続けているとまとめられています。
さらに、感染症を治す薬を見つけた大村智先生は北里大学の出身でもあります。あきさんは北里柴三郎先生からの流れを勝手ながら感じてしまう、と主観として語りました。
まとめ
今回は坂口志文先生の受賞を入り口に、日本人ノーベル生理学・医学賞受賞者6名の研究を振り返りました。次回はさらにノーベル賞にまつわる余談が続く予定です。
- 坂口志文先生の受賞で、日本人の生理学・医学賞受賞者は6人目となった。
- 利根川進・本庶佑・坂口志文の3人は、いずれも免疫学の研究で受賞している。
- 山中伸弥先生のiPS細胞は、ガードン博士のカエルを使った細胞の巻き戻し研究の流れの上にある。
- 大村智先生のイベルメクチンや屠呦呦さんの抗マラリア薬は、多くの命を救った感染症治療薬である。
- 日本の免疫学の系譜は、細菌学者・北里柴三郎から脈々と続いていると語られた。
