ワクチンを打つのは「自分の子」だけを守るためではない
1歳になるまでにも、子どもは多くのワクチンを受けます。とみーさんは、その本数の多さに驚いたと話します。
近年は新しいワクチンが増える一方で、BCGのように接種が1回だけになったものや、五種混合のように複数を1回にまとめたものもあります。
ただ、注射はどうしても痛みを伴います。子どもが病院で泣き叫ぶ姿を見ると、親が悪いことをしているような気持ちになることもあります。
自分がなんか悪いことをしてるような、子供に対して悪いことしてるような気分になっちゃうのもあるかなとは思うんですけれども。
SNSではワクチン接種をやめたという声もあります。これに対して、とみーさんは目先の苦しみと、打たなかったことで病気になった時の苦しみを比較する必要があると話します。
あきさんは、もう一つ大切な視点として集団免疫を挙げます。ワクチンを打っても免疫がつかない人は一定数いるためです。
自己免疫疾患などでワクチンそのものを打てない人もいます。周囲が接種することは、そうした人たちを守ることにもつながります。
私もあなたも打っているからこそ、打ったけど免疫がつかなかった人のこともまとめて守れるよって話ですね。
ワクチンが「好きじゃない」とみーと、「打った方がいい」あき
この回で特徴的なのは、夫婦であるふたりが同じ意見ではない点です。とみーさんは、そもそもワクチンが好きではないと率直に語ります。
きっかけの一つは、経口接種の生ワクチンで起きた「先祖返り」の話でした。とみーさんは、それを聞いてから経口ワクチンに手放しで賛成はできないと話します。
これに対してあきさんは、経口接種と生ワクチンはイコールではなく、注射で打つ生ワクチンもあると切り分けます。
その上で、先祖返りは過去に起きた問題であり、現在は新しく作った株を観察して先祖返りが起きていないか確認するようになったと説明します。
新しいワクチンは逆にこれから進化していくじゃん。だからまだまだ事故も起きるのかなみたいな不安はあるかな。
あきさんも、科学は積み上げであり、今のやり方が将来間違いだったとわかる可能性はあると認めます。
だからこそ、大規模な治験などでそうした事態をなるべく減らす枠組みを人類は積み上げてきたと話します。
本当に科学は積み上げなので、このやり方が実は間違ってたっていうのは将来的には出てくる可能性はもちろんあると思います。
1歳から受けるワクチンと、MRワクチンの中身
1歳を過ぎてから受けるワクチンは、MR、水ぼうそう、おたふく風邪、肺炎球菌、五種混合の5種類ほどで、そのほとんどが注射です。
今回取り上げるのは、MR混合ワクチンのうち麻疹です。MRは麻疹と風疹の混合で、どちらも生ワクチンです。
麻疹は別名はしかとも呼ばれますが、この回では統一して麻疹と呼んでいます。
インフルエンザの約10倍、どの経路でも感染する麻疹
麻疹はウイルス性の病気で、感染力が非常に強いことで知られています。インフルエンザの約10倍とも言われます。
免疫がない集団では、一人の患者から12人から18人に感染が広がるとされます。
麻疹が厄介なのは、その感染経路です。空気感染、飛沫感染、接触感染のどれからでも感染します。
空気感染
乾燥した飛沫からウイルス単体が空気中を漂い、それを吸い込んで感染する
飛沫感染
咳やくしゃみのしぶきに含まれるウイルスで感染する
接触感染
ウイルスが付着したドアノブなどに触れ、目や口から入って感染する
あきさんは空気感染をタバコの煙にたとえます。喫煙者がいた部屋の匂いが後まで残るように、ウイルスも感染力を保ったまま漂い続けると説明します。
アルコール消毒は有効ですが、空気中にアルコールをまくわけにもいかず、対策は簡単ではありません。
江戸時代の「命定め」と、麻疹の怖さ
麻疹は人類の歴史の中でずっと存在してきました。江戸時代には死亡率が高く、生き残れるかどうかという意味で「命定め」と呼ばれていました。
子どもは麻疹にかかるものとされ、そこで生き残ればその後は元気に育つ、というレベルの病気だったと話されています。
背景には、当時の栄養状態の悪さや、熱冷ましの薬や点滴といった対症療法の技術がなかったことがあると考えられます。
1862年の文久2年には「文久の大流行」が起こり、江戸だけで約24万人が死亡したと言われています。
大人が感染してもそれほど重くならないことが多い一方、乳幼児が感染すると重篤になる場合があります。
乳幼児では40度近い高熱、強い咳、鼻水、発疹が出て、多くはそこで回復します。ただし合併症を起こすことがあります。
合併症には中耳炎や肺炎があり、さらに千人に一人ほどの割合で脳炎になる人がいます。脳炎になると、麻痺などの後遺症が残ることがあります。
十分怖いですね。
現在でも麻疹に対する抗ウイルス薬はなく、対症療法が基本です。今は栄養状態が良く治療法もあるため命を落とすことは少ないものの、感染を広げてしまう病気であることに変わりはありません。
11歳の少年から生まれた株と、ワクチン改良の積み重ね
麻疹は発疹と高熱を伴うため、同じような症状の天然痘と長く混同されていました。それを区別したのが9世紀のラーゼスでした。
1954年、ポリオウイルスの培養でノーベル賞を受賞したジョン・エンダース博士が、若手のトーマス・ピーブルス博士とともに麻疹ウイルスの分離に挑みます。
ピーブルス博士は流行していた小学校を訪れ、11歳の少年デビッド・エドモンスンから喉の粘膜を採取します。この株から培養に成功し、エドモンスン株と呼ばれるようになりました。
この株からワクチン開発が始まりますが、道のりは平坦ではありませんでした。まず不活化ワクチンと生ワクチンの2つが試されます。
ホルマリンでウイルスを殺して打つ。副作用は少ないが免疫が長続きせず、後から感染して重症化する問題が出てすぐ中止された
ヒト、サル、鳥の卵へと宿主を変えて培養を繰り返し、弱毒化した株を打つ。当初は弱毒化が不十分で高熱などの副反応が強かった
生ワクチンは、宿主を変えながら継代培養することでウイルスの人間への毒性を下げる「弱毒化」を利用します。
ただ初期の生ワクチン(エドモンストンB株)は副反応が強く、麻疹にかかった人の血液からとった抗体を同時に打つ必要があり、扱いが面倒でした。
さらなる改良のカギが「低温での培養」でした。ウイルスは熱に弱いため、低い温度で培養を繰り返すと、より熱に弱く弱毒化した株が生まれると考えられました。
これは、体が発熱してウイルスを殺そうとする仕組みの裏返しの発想です。低温培養から、より安全な株が次々に生まれていきました。
| 株名 | 開発・年 | 特徴 |
|---|---|---|
| シュワルツ株 | アントン・シュワルツ/1965年 | 鶏卵の胚細胞で32度で80回以上継代し、副反応が低く免疫がしっかりつく |
| モーテン株 | モーリス・ヒルマン/1968年 | エドモンストン株を低温で繰り返し培養して開発 |
| AIK-C株 | 日本・北里研究所 | 羊の腎臓細胞で33度で継代し、温度感受性が強く安全性が高い |
| CAM70株 | 1964年・大阪/田辺株 | アメリカとは別起源の日本独自の株を鳥の胚で継代し弱毒化 |
モーテン株を開発したモーリス・ヒルマン博士は、20世紀で最も多くの命を救った科学者として知られ、40種類以上のワクチンを開発しました。
麻疹、おたふく風邪、風疹、MMR混合ワクチン、B型・A型肝炎、水疱瘡、肺炎球菌、ヒブなど、子どものワクチンに大きく貢献しています。
子供のワクチンにめっちゃ貢献してる感じ。
こうした技術革新の積み重ねによって、抗体を同時に打つ必要のない、安全な医薬品へと進化しました。
まとめ
麻疹は感染力が非常に強く、乳幼児では重い合併症を起こすこともある病気です。ワクチンは自分の子だけでなく、免疫がつかない人や打てない人を含めた社会全体を守る手段でもあります。そして今の安全なワクチンは、多くの科学者が失敗を乗り越えて改良を積み重ねた成果だと語られました。
- 麻疹はインフルエンザの約10倍の感染力を持ち、空気・飛沫・接触のどの経路でも感染する
- 乳幼児では千人に一人ほど脳炎を起こし、後遺症が残ることもある
- ワクチン接種は集団免疫を通じて、免疫がつかない人や打てない人も守る
- 11歳の少年由来のエドモンスン株から、低温培養などの工夫でより安全な株が生まれた
- 今の安全なワクチンは、科学者たちの改良の積み重ねの上に成り立っている
