なぜ生き物はアルコールに引き寄せられるのか
今回のテーマはアルコールと恋愛です。あきさんは自身が大酒飲みで失敗も多いと前置きしつつ、動物を使った実験を二つ紹介していきます。
そもそも人間以外にもアルコールを好む生き物は多いと話されています。自然界には果物や花の蜜など糖分が豊富にあり、それを酵母が発酵させることでアルコールが自然に生まれるためです。
つまり、アルコール臭のする場所は、生き物にとって栄養がある目印になっているというわけです。
台所のコバエ、ショウジョウバエという生き物
一つ目の生き物はショウジョウバエです。とみーさんは「不愉快です」と反応しますが、いわゆるコバエの一種で、体長は二、三ミリメートルほどと説明されています。
台所に腐ったフルーツや飲みかけのビール、ワイン、生ゴミを置くと集まってくるあの虫です。彼らがアルコール臭に集まるのは、そこに栄養があると知っているからだと話されています。
ただし狙いは果肉そのものではありません。果物が腐敗し発酵する過程で大繁殖するイーストを食べたいからだそうです。イーストは貴重なタンパク源で、ビタミンも豊富です。
また、メスは好んでアルコール濃度の高い場所に卵を産む習性があります。多くの昆虫には有害なアルコールでも、ショウジョウバエの幼虫は高い耐性を持つため、天敵が来ない安全な環境になるからだと説明されています。
さらに、実験の世界では百年以上にわたって遺伝学の研究材料として扱われてきた歴史があります。白い目の個体や触覚が増えた個体など、さまざまな変異体が作られており、人間と遺伝子が似た部分もあるため病気のモデルにも使われます。
フラれたハエはやけ酒をするのか
このモデル生物を使い、ガリット・ショハット・オフィール博士が実験に取り組みます。彼女はイスラエル人で、学生時代にアメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校へ留学した際に行った研究だと紹介されています。
研究テーマは、孤独や拒絶が脳をどう破壊するのかという問いです。オスのショウジョウバエが失恋するとやけ酒に走るのか、という形で実験が組み立てられました。
なんか急に人みたいな扱いを受け始めてますね。
本当に人の行動のモデルを、ショウジョウバエでやってみようということですね。
実験ではオスを二つのグループに分けます。一つは交尾経験のないメスの中に入れる「天国グループ」です。メスがオスを簡単に受け入れるため、オスは何度も交尾に成功し、ハーレム状態で四日間を過ごします。
もう一つは「地獄グループ」です。一度交尾したメスは数日オスを拒絶するため、その状態のメスの中に入れられたオスは、口説いても足蹴にされ逃げられ、四日間ずっと振られ続けます。
なお、天国・地獄という呼び名は論文にある表記ではなく、あきさんがわかりやすく付けたものだと補足されています。
脳内の報酬物質がやけ酒を左右する
四日間そうした状態に置かれたオスに、アルコール入りの餌とアルコールなしの餌を自由に選べる環境を与えます。
すると、交尾に成功した天国グループはアルコール入りをあまり好みませんでした。一方、振られ続けた地獄グループは、15%のアルコール入りの餌を好んで多く摂取したのです。
脳を調べると、報酬系に関わるニューロペプチドという脳内物質が関与していることがわかりました。
交尾に成功したグループは脳内でニューロペプチドが十分に分泌され満足しているため、酒を必要としません。逆に振られ続けた個体はニューロペプチドが乏しく、ご褒美を求めるストレス状態にあり、それを手っ取り早く埋めるためにアルコールが使われると考えられます。
裏付け実験も行われました。遺伝子改変で脳内のニューロペプチドを減らすと、交尾に成功したハエでも酒を欲しがりました。逆に増やすと、振られたハエも酒を飲まなくなったそうです。
こうしてニューロペプチドがお酒への衝動をコントロールしていることが証明されました。この成果は2012年に有名な科学誌サイエンスに掲載され、博士は世界的な評価を得ました。現在はイスラエルの脳科学研究センターで教授を務めています。
一夫一妻のネズミ、プレーリーハタネズミ
二つ目の動物はげっ歯類のプレーリーボール、日本語でプレーリーハタネズミと呼ばれるネズミの仲間です。体長は12から15センチほどで、北米の草原に生息します。
通常のマウスやラットはアルコールを本能的に嫌います。高濃度のアルコールは強い苦味や喉を刺す焼けるような感覚を伴い、毒として認識されるためだと説明されています。
ところがプレーリーハタネズミは例外で、アルコール入りの水と普通の水を置くと、必ずアルコール入りを飲むという習性があります。糖度が高く栄養価の高いものとして好むと考えられます。
もう一つの特徴が、一夫一妻制を厳格に守る点です。哺乳類全体では一夫一妻はわずか数パーセントで、人間を含め多くは浮気をするとされる中で、このネズミは強い絆を守ります。そのため夫婦の絆を研究するモデルとしてよく使われています。
夫だけが飲むと絆が壊れる理由
この一夫一妻性を利用して、アンドレイ・リビニアンという研究者が実験を行いました。
まず夫婦に強い絆を作らせた後、同じケージの真ん中を金網で仕切ります。姿は見え、匂いや声もわかるものの行き来はできない状態です。そのうえで、オスメス両方に酒を与えるグループと、オスだけに酒を与えるグループに分けます。
一週間後、オスのケージに新しいメスを入れました。夫婦で同じように飲んでいたグループは、元のパートナーにだけ愛着を示し、見知らぬメスには寄り付きませんでした。
ところがオスだけが飲んでいたグループは、見知らぬメスにばかり近づき、夫婦の絆が崩壊してしまったのです。
オスの脳を調べると、愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンが鍵を握っていました。
夫婦で同じように飲んでいる場合はオキシトシンのシステムが正常に働き、愛が維持されます。一方でオスだけが飲んですれ違いが起きると、オキシトシンの働きが低下し、愛着の回路が麻痺していくと考えられます。
重要なのは、これは酒を飲んだこと自体ではなく、夫婦の間で飲む量にすれ違いが起きたときにだけ起こる点です。環境の不一致が愛着システムを麻痺させると示されています。
メスは愛を守り、オスは走る
では、メスだけに酒を飲ませてオスに飲ませない場合はどうなるのか。この場合、メスはちゃんとオスを愛し続けたそうです。オスとは対照的な結果でした。
男は自分勝手ってことですかね。
自分一人で酒を飲んで、勝手に嫁さんとすれ違ったことに腹を立てて他の女に走るみたいな。
ここでとみーさんは、自身が妊娠中で飲めず、あきさんが日々飲んでいる二人の状況に触れます。「夫婦の絆が試されている」と冗談を交わしつつ、あきさんは「自分はそうならない」と話しました。
そのうえで、哺乳類で浮気をしないのはプレーリーハタネズミくらいだと補足され、掛け合いが続きます。
浮気をしない俺は偉いでしょ、ってこう言ってる。
意志の問題ではなく、脳の問題として見る
二つの実験から見えてくるのは、生き物がアルコールに溺れたり関係が壊れたりする現象が、単なる意志の弱さやモラルの問題ではないということです。
その背景には脳内の化学物質や神経回路が深く関わっている、とまとめられています。
もっとも、だからといって腹が立たなくなるわけではない、とも率直に語られています。
人間の脳を直接調べるのは難しいため、動物実験の結果を人間の理解に返していくことに意味があります。無理に我慢を強いるのではなく、「ならどうすればいいか」を考える手がかりになると話されました。
まとめ
フラれたハエのやけ酒も、一人だけ飲むネズミの浮気も、その裏には報酬系のニューロペプチドや愛着に関わるオキシトシンといった脳内の仕組みがありました。アルコールと絆の問題を、意志やモラルだけでなく脳のメカニズムとして冷静に見つめ直すヒントになる回です。
- 振られ続けたショウジョウバエは、報酬物質ニューロペプチドが不足しやけ酒に走ることが実験で示された。
- ニューロペプチドを人工的に増減させると酒への衝動も変わり、脳内物質が衝動を左右することが証明された。
- プレーリーハタネズミでは、夫だけが飲み量がすれ違うとオキシトシンが低下し、絆が崩壊した。
- 同じ実験でメスだけが飲む場合はパートナーへの愛着が保たれ、オスとの違いが見られた。
- アルコールや関係の問題は意志の弱さだけでなく脳の仕組みが関わり、動物実験が人間理解の手がかりになる。
