作曲家がテレビに出る理由
作曲家としてもタレントとしても脂が乗っていた時期、どんな気分でやっていたのか。川邊さんの問いに、ヒャダインさんはまずテレビっ子だった自分の背景から語り始めます。
京都大学出身という経歴からクイズ番組に声がかかり、そこがテレビ出演の入り口になったといいます。
何よりやっぱりテレビっ子だったので、どこのコミュニティにも属さず、家に帰ってゲームしてピアノ弾いてテレビ見てる少年だったので、テレビの世界に入れることの興奮が大きかったんです。
一流のエンターテイナーと一緒にいることのフィードバックも大きかったと話します。加えて、メディアに出る作曲家は名前を売ることができるという実利もありました。
ヒャダインさんは、メディアに出る作曲家がかつてはどの時代にもいたのに、最近は少ないと指摘します。
みんなやればいいのにと思うんですよ。
一方で、肩書きだけで代表作がわからない人もいると釘を刺します。自分の場合はテレビに出ながらちゃんと仕事もしており、クライアントの信頼も得ているという自負を語りました。
自分のメディアを持つという武器
コロナ禍にYouTubeで個人がメディアを持ったように、作家も自分のメディアを持つことが重要だとヒャダインさんは考えています。
今回の曲はヒャダインの作曲でということで、一枚やっぱりドラが乗ると思うんですよ。自分で言うのもなんですけど。
自分が持つ音楽番組やラジオで曲を紹介できる可能性が、作家としてのバリューになると説明します。だからこそ今もメディアに出ることが多いといいます。ただし出演する番組はかなり選んでいるそうです。
こもる作業と外に出る作業
作曲というこもる作業と、共同作業やメディア出演という外に出る作業。性質の違う仕事を同時にやって疲れないのか、と川邊さんが尋ねます。
いい気分転換ですよ。全然。
小中の頃は陰キャだったというヒャダインさん。それでも、不特定多数の前で驚いたり喋ったりすることに痛みはなかったと振り返ります。
小中の頃、あんな陰キャだったんですけど、陰キャだからかもしれないですけど、不特定多数が見てるところで驚けたり喋ったりすること、何の痛みもないというか。
出役としては最初はボロボロだったものの、実践でトライアンドエラーを積んで上達したと語ります。
量が先にあり、それが質に変わっていく。川邊さんの言葉にヒャダインさんも同意します。
考えるよりやれと思います。
ただし本当は一度反省会を開いたほうがいいとも認めます。振り返らないタチのため、その場で得たものだけでやってしまうことは良くないと自省していました。
伝わらなければ意味がない
話は「伝わらなければ意味がない」というテーマに移ります。社長のスピーチも伝わらなければ意味がない、という川邊さんの例に、ヒャダインさんは強く共感しました。
歌詞では聞き間違いの可能性がある言葉や、聞こえにくく歌いにくい表現を最初に排除するといいます。
自分は結構わちゃわちゃしていろんな展開がある曲が多いんですけど、けど聞きやすいように絶対にするんですね。要点がわかるようにっていうところをすごく真剣に考えて作ります。
展開の多さと聞きやすさを両立させる。その姿勢が、ヒャダインさんの曲づくりの核にあります。
作者の考えを書くという仕事
仕事上こだわること、逆に絶対にやらないことは何か。川邊さんの問いに、ヒャダインさんは自分のメッセージを曲に入れないと答えます。
自分はシンガーソングライターじゃないので、自分が思ってることはほぼ入れることはないです。実際、歌で伝えたいこと何もないですし。
これを、国語の大学受験にたとえます。問われるのは自分の気持ちではなく、作者の考えだというわけです。
あるアーティストが「笑顔って最高、泣いてもいいんだよ」と言っていたとして、Bは「泣くもんか」と言っていても、どっちも書けるんです。同じ作家が書いたとしても、それは違うアーティストに書いているわけで。
だからこそ、一貫性を保ち続けるシンガーソングライターはすごいと感じるといいます。
ミスチルとかすごいなと思うんですよ。ずっと怒り続けてて。あんなに社会的に成功して、何を怒ることがあるんだと。
Mr.Childrenの桜井さんや浜崎あゆみさんを例に挙げ、言うことがなくならないことへの驚きを口にしました。ヒャダインさん自身は発注書の通りに書くと語ります。
自分の主観を書く。一貫性を保ち、過去の自分と矛盾しないようにする必要がある
依頼されたアーティストのテーマを書く。自分の気持ちは入れず、冷静に作者の考えを表現する
ライブに残す「余白」の設計
今は「こと消費」が多く、ライブで盛り上がる曲を前提に作るとヒャダインさんは言います。ただしコールアンドレスポンスのさじ加減は今も難しいそうです。
公式が供給過多になると、客に「なめられている」と思われてしまうという懸念があります。
自発的に、それこそ「モレミアモーレ」のコールとかの裏で「はっ、はっ」ってみんな言ったりとか、ああいうのって自分たちで考えたからこそ楽しいわけで。
金曜ロードショーで「バルスってみんなで言いましょう」って公式が言った途端に冷めるみたいな。
自発性のための余白を残しつつ、誘導するところは誘導する。そのバランスに気を配っていると話しました。
サウナと健康麻雀──居場所と老後の設計
話題はプライベートに移ります。サウナ、そして「中年の危機対策」としての健康麻雀。その背景には、独身40代としての居場所づくりがありました。
サウナは今のブームの前にハマったといいます。旧来からあるものを再発見する感動に加え、独身男性が一人で堂々といていい場所という意味がありました。
独身の40代にとって居場所って本当になくて。独身の男性が一人で堂々といていいんだよっていう場所がサウナでもあるので。
さらに先を考え、社会的に孤立していく老後を避けたいと語ります。
このまま一人で生きていったら、いわゆるフレイルっていう状態、社会的に孤立していく老人みたいな感じになっていく。特に男性は多いらしいんですけど。
その対策として始めたのが健康麻雀でした。知らない老人同士でも楽しく時間を忘れ、頭の体操にもなるといいます。
念願のおじいちゃんおばあちゃんがいる健康麻雀サロンに行ったんですよ。92歳のおばあちゃんがハネマンとかやって。
自分がその立場になった時もそうありたいと思える人が多く、この道は間違っていないと感じているそうです。
川邊さんもハロプロのライブに通うようになり、健康ライブ的な感覚があると共感します。振りコピをする高齢のファンを見ると朗らかな気持ちになると、ヒャダインさんは応じました。
代表作と、すごいと思った人たち
インタビュー終盤は恒例の質問へ。まず自身の代表作について、ヒャダインさんはためらいなく答えます。
先ほど言ったみたいに、やっぱりピカピカブーですね。全ての日本の子供がこれを聴いて育ったという自負もありますし。
一般的に言われるのは「気合を入れて、いくぜ回答!」だそうです。どちらもコンペで勝ち取った曲で、ドラフトを作った後の詰めが大変だったと明かします。
続いて、今まで会った中ですごいと思った人を挙げていきます。
まずミュージシャンとして挙げたのは小林幸子さん。中川翔子さんとのデュエット曲で、マイクのボリュームチェックの一声からすでに完成されていたといいます。
歌っていただいた時にもう完成されてて、解釈がすごいんですね。仮歌なんてほぼ聞いてないんじゃないかというぐらいの。
デコーディング、二回ぐらい歌って終わりでしたね。エグかったですね。
作詞者や作曲者が思ってもみない解釈で言葉を膨らませてくれた。これが歌手なんだと痛感したそうです。
他にもバカリズムさん、東映の松岡社長、Adoさん、椎名林檎さんの名前が挙がりました。
東映の松岡社長。会話がテニスみたいだったんですよ。すごい速度で返ってきて、しかも全部クリティカルで、頭の回転やばっていう。
Adoさんについては、小林幸子さんと同じような解釈力に加え、歌へのアプローチの豊富さと声量に驚いたと語ります。椎名林檎さんは普段おしとやかで謙虚ながら、音楽性の幅広さと奥深さがエグいと絶賛しました。
目標を立てず、流れに身を任せる
最後に今後の抱負を問われると、ヒャダインさんは一貫した人生観を語ります。
今まで流れるままに、目標を設定することもなく面白いことになってきたので、これからも目標を設定することなく、流れるまま面白いことがどんどん来ると思うんです。
攻めっ気のある受け身というか、で生きていければなと思いますね。
自分からこれをやりたいという欲がなく、来るものをガンガン打ち返す積極的な受け身だと説明します。
この考え方に、川邊さんはテック業界の教科書『イノベーションのジレンマ』の著者、クリステンセン氏の別の本を重ねます。
前半で実績を作れば誘いが来るようになり、その誘いに乗るほうがレバレッジの効いた人生になる。まさにヒャダインさんが自然にやってきたことでした。
同じこと言って。読む必要もないです。
なぜ自然とそうなったのか。ヒャダインさんは、ひねくれて斜に構え、常に客観の位置にいるからかもしれないと分析します。
シンガーソングライターの方々はもう主観であるべきだと。自分はずっと斜に構えているので、結果そういった自己啓発本に書かれてるような動きになってしまうのかもしれないですね。
まとめ
ヒャダインさんの流儀は「伝わらなければ意味がない」に集約されます。展開の多い曲もわかりやすく、ライブには余白を残し、作家として作者の考えを書く。そして目標を立てず、流れに身を任せて面白いことを打ち返してきた人生観が語られました。
- 展開が多い曲でも、聞き間違いや歌いにくさを排除し、要点がわかるように作る
- 作家として自分の主観は入れず、依頼されたアーティストの「作者の考え」を書く
- ライブでは自発性のための余白を残しつつ、誘導すべきところは誘導する
- サウナや健康麻雀は、独身男性の居場所づくりと老後の孤立対策でもある
- 目標を立てず、実績をもとに来るものを打ち返す「積極的な受け身」で生きる
