ミダスの外で動く、もう一つのライフワークとは
聞き手は経営者と海・山の漁師という三足のわらじを履く川邊健太郎さん。今回のゲストは、前回に続きミダスキャピタル代表の吉村英毅さんです。
吉村さんはまず、ミダスとは別に自分のライフワークとして立ち上げたシンクタンクの話を切り出します。2年前に作った「ネクストジャパンイニシアティブ」です。
これはミダスではないんですけれども、自分のライフワークとしてシンクタンクを作って。
シンクタンクも持ってるんですか?
吉村さんによれば、このシンクタンクは長期衰退傾向にある日本を再び蘇らせることを趣旨に据えています。活動資金の3分の2を吉村さんが出し、3分の1を独立系ヘッジファンド最大手アキトキャピタルの山口代表が出しているといいます。
吉村さんは、失われた30年の主因を、短期的・部分最適な意思決定を政官財が一体となって繰り返してきたことだと捉えています。政官財 ── 政治・官僚・財界(企業)の3者を指す言葉。戦後日本の経済成長を支えた協調関係の枠組みとして語られることが多い。
現代版・松下政経塾「令和政経塾」で何をするのか
シンクタンクの第一の活動として立ち上げたのが、現代版の松下政経塾ともいえる「令和政経塾」です。1年間のプログラムで、毎週さまざまな講義を行っています。松下政経塾 ── 松下幸之助が1979年に設立した政治家・リーダー育成機関。多くの国会議員を輩出してきたことで知られる。
令和政経塾には、政治家志望の応募者が1期あたり200人ほど集まり、そのうち40人ほどを選抜しているといいます。原則40歳以下という若い世代が中心です。
すでに具体的な成果も出ています。おととしの総選挙では1期生から衆議院議員が4人、参議院議員が2人当選しました。2期目には現職の議員も数人加わっています。
吉村さんが強調したのは、輩出した議員が集まって終わりにするのではなく、当選後も長期・全体・グローバルな視点で連携する超党派のコミュニティを育てたいという点です。
当選後も(議員が)長期視点的、長期全体グローバルな視点で日本を前に進めていく超党派のコミュニティを山脈のように作っていきたい。
吉村さんは、プログラムが毎年回ることで、この山脈が積み重なっていくイメージを描いています。シンクタンクとしても、良かれと思う政策を研究・提言し、令和政経塾出身の議員と連携して社会実装したいと語りました。
政府効率化の提言書と、日本衰退の構造
インタビュー中、吉村さんはシンクタンクが先週出した書籍を手渡します。イーロン・マスクさんとトランプ大統領が進めた政府効率化省の日本版を意識した提言書で、新潮社から新書として出しつつ、通常より分厚い一冊になっています。
分厚さにまず志がよく伺えます。
川邊さんも、日本が長期衰退傾向にあり、その要因が政官財それぞれの部分最適・短期思考にあるという吉村さんの見立てに強く同意します。
川邊さんは、戦後直後は長期的視点の中で政官財のトライアングルが機能していたからこそ経済成長を遂げたと振り返り、いまはその逆が起きていると指摘しました。
志ある政治家が「永田町の村」に染まらないために
川邊さん自身も政治家の支援を続けてきた立場から、率直な懸念を投げかけます。志を持ってなった政治家が、永田町のルールに染まって部分最適・短期思考になっていく様子を数多く見てきたというのです。
そうだよねっていう志の中でなった政治家の人たちが、見事に永田町の村のルールに染まり始めて、部分最適、短期思考になっていく様をたくさん見てきた。
これに対し吉村さんは、政治家自身も本来は長期・全体・グローバルにやりたい人が多いはずだと考えています。ただ、目の前の現実がそれを許してくれないことが多いのだといいます。
だからこそ、合法的な形でさまざまな支援をし、政治家が長期的・全体最適的な意思決定をできるようサポートしたいと吉村さんは語りました。
吉村さんが手応えを感じているのは、令和政経塾の塾生の問題意識がほぼ共通している点です。超党派でありながら、日本をなんとかしなければという思いはほとんど変わらないといいます。
一人一人が(変わっていくのは)やっぱりなかなか難しいと思うんですけど、ある意味やっぱりコミュニティをもり上げていきたい。
同級生と1億円ずつ拠出する「1982インパクトファンド」
話題は、吉村さんが関わるもう一つの活動「1982インパクトファンド」に移ります。これはミダスとは別で、1982年生まれの上場企業創業者たちが中心となって作ったファンドです。
仕組みは独特で、メンバーが1人1億円ずつ拠出し、ソーシャルビジネスにだけ出資したり、ゼロから立ち上げたりします。現在は7社ほどに投資しているといいます。ソーシャルビジネス ── 貧困や障害、環境などの社会課題の解決を、事業として持続的に行うビジネスのこと。
最大の特徴は、投資先が上場してリターンが出ても、出資者であるLPにはお金が返ってこない点です。回収した資金はすべて再投資に回ります。
NPO的なファンドですね。
川邊健太郎 さんからの質問
慈善事業として、日本で成功するソーシャルビジネスを複数作っていきたいというのが、このファンドでやりたいことだと吉村さんは説明します。
出資先のジャンルはさまざまで、アフリカの井戸開発をする会社、障害者向けの移動サポートをする会社、がんの放射線治療の効果を高める会社などが挙げられました。
吉村さんは、ソーシャルビジネスがうまくいかない理由を2つ挙げます。そもそも普通のビジネスより難しいことと、ビジネス経験を積んだ人がやっているわけではないことです。
だからこそ資金だけでなく、誰かがメンターになり、できる限りのアドバイスやサポートをしていくのだといいます。もともとは同級生の食事会で「一つのプロジェクトをやったほうが面白い」という話から始まった活動でした。
バラバラな活動を「面」でつなぐという発想
吉村さんの活力の源はどこにあるのか。川邊さんは、定期的な集まりを何かの行動につなげてしまうその習性について尋ねます。
なんか意味あることをやっていきたいって。
吉村さんは、点と点をつなぐというスティーブ・ジョブズの有名な話を引きながら、自分たちはむしろ「面」をどんどん作っている感覚だと語ります。点と点をつなぐ ── スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式スピーチで語った「Connecting the dots」。過去の経験が後から意味を持ってつながる、という考え方。
吉村さんによれば、点と面の違いは、ビジョンとコミュニティを持っているかどうかにあります。それぞれの活動にビジョンとコミュニティがあれば、重なったときに立体になり、より大きなインパクトが出せるといいます。
「意味あること」の判断は、自分の中の気持ちにある
川邊さんは、吉村さんが何度も口にする「意味あること」という言葉に注目し、その背景を掘り下げます。
吉村さんにとって「意味がある=有為」という感覚は、はっきりと意識されているものです。掲げるビジョンに意味を感じており、1兆・10兆・100兆といった数字自体に本質的な意味はないと言い切ります。
(数字は)新しい景色を見続けていくために、その目標を設定してるだけ。
吉村さんは、事業で出た収益の一部を、自分たちが心から良かれと思うソーシャル活動に流し込んでいくことに意味を感じるといいます。だからこそ、意味があると思って実は意味のないことをやっている状態を一番避けたいと語りました。
その意味付けをするのは、最終的には自分の中での気持ちですか。それとも客観的な世の中の評価もあると思いますか。
川邊健太郎 さんからの質問
吉村さんの答えは明確で、意味付けの根拠は自分たちの中の気持ちだといいます。ただし川邊さんは、その気持ちを高めるうえで世の中の評価も加算されるはずだと補足しました。
時価総額1000億を作れるか──2つだけの投資ルール
川邊さんは、共演者の小澤さんの勧めもあり、吉村さんの投資に対する哲学とルールを改めて尋ねます。
吉村さんが挙げたルールは2つだけです。ミダスファンドはナイトメンバーがLPで、ミダスが人株であり続けることがこだわりだといいます。業種業態はバラバラで、そこは問いません。
ではどこを見て決めるのか。吉村さんの基準は、その会社単体で時価総額1000億円以上に近づいていけそうかどうかという一点です。
吉村さんは、全体として1兆・10兆・100兆を目指すとしても、企業群の中でいくつ時価総額1000億円以上の会社を作れるかがほぼ全てだと考えています。
具体的には、成長途上で営業利益が50億円を超え始めると、時価総額が1000億円ほどになるケースが多いといいます。ただしメイン事業の自然成長だけでは時間がかかるため、周辺領域のロールアップ買収も含めて判断します。ロールアップ買収 ── 同じ業界の中小企業を次々と買収して束ね、規模とシェアを一気に拡大していく成長戦略のこと。
業種は問わない
LPはナイトメンバー、ミダスが人株を保持
時価総額1000億円
その会社単体で近づけるかを見る
営業利益50億円
成長途上でこの水準を超えると1000億が見えてくる
自然成長+買収
周辺領域のロールアップも含めて期間内に到達できるか
興味関心は3つだけ──普段考えていること
川邊さんは、自らを「多動に近いくらい気が散る」と表現しつつ、吉村さんが普段何を考えているのかを尋ねます。
吉村さんの興味関心は、ほぼ3つに集約されているといいます。ミダス企業群を100兆円にすること、ミダス財団で1億人の人生に関わること、そしてシンクタンクで日本を蘇らせることです。
吉村さんによれば、この3つ以外のことはかなりそこに集約されており、プライベートや遊びも結局は同じ仲間と一緒にやっているといいます。
実家の会社を買い戻した、家族の物語
話題は吉村さんの家族に移ります。吉村さんは、実家の会社を買い戻した経緯を語りました。
もともと実家の会社は7割を外部の人が持っており、いつか買い取れたらと思っていたといいます。それをエアトリの上場後、その資金を使って買い取ったのだそうです。
その時、親はどういう感じだったんですか。
川邊健太郎 さんからの質問
吉村さんは、一定は喜んでもらえたのではないかと振り返ります。自分としては実家の会社も上場させたらいいと思っているものの、父親は息子に嫌なことを言われるのが嫌なので、しばらくは上場しないようだと笑いを交えて話しました。
父親との関係について、吉村さんは、厳しかったのは小学生の頃までで、中学以降はほとんど何も言わなくなったと語ります。最初の会社を作ったときは金銭的な支援もアドバイスももらったといいます。
川邊さんは、幼い頃にしっかり育てたからこそ「こいつには投資できる」と踏んだのだろうと解釈します。外部の7割を買い戻した息子の姿を、内心はうれしく思っているだろうと語りました。
怒らない性格と、数か月に一度訪れる「景色が変わる」瞬間
川邊さんは、吉村さんの内面に踏み込み、最近怒ったことがあるかと尋ねます。
僕は全く怒んなくて、怒ったことほぼないです。
吉村さんは、その理由を「基本的に自分に向いているから」だと説明します。20歳で会社を作って23年ほど、会社で怒ったことは一度もないような気がすると語りました。
最近、嬉しかったことは何ですか。
川邊健太郎 さんからの質問
吉村さんが挙げたのは、ミダスの企業群で「景色が変わる」瞬間です。一つの会社なら数年に一度の出来事が、企業群がたくさんあることで数か月に一度訪れるといいます。
吉村さんによれば、良い絵本が出る、スーパースターがジョインするといった喜びを、自分だけでなく企業群全体の幹部と一緒に共有しているといいます。これがみんなで喜び合える点だと語りました。
トラックレコードと、孫正義というベンチマーク
川邊さんは、どのゲストにも尋ねているという質問として、現時点での自分のトラックレコードを問います。
吉村さんは、バイセルとジェンダーという会社がうまくいったこと、財団やシンクタンクが立ち上がってきていること、そしてミダスの全体構想がうまく回り始めたことを挙げました。
その手前には、ペア取りをずっとやったことによる学びがあったといいます。そこで得た経験と最初の元手、そして支援してくれた機関やパートナーへの感謝を口にしました。
ベンチマークにしている人物を問われると、吉村さんは日本では孫正義さんを挙げます。見えない景色を見続けているという意味で圧倒的だと語りました。
吉村さんは、孫さんのように追いつき、場合によっては追い越すことができれば素晴らしいとしつつ、それは自分一人ではできないことだと認識しています。仲間と一緒にたどり着き、違う景色を見つけたいと語りました。
孫正義はなぜ高値でも買うのか──川邊が語る投資の思想
ここから吉村さんが川邊さんに質問を投げかける展開になります。孫さんが買収時の金額にあまりこだわらないように見えるのはなぜか、というのが1つ目の問いです。
吉村さんは、もう少し交渉すれば安く買えそうなのに気にしない様子や、膨大な案件の中でアームやOpenAIに大きく張れる理由、割高に見えるディールがなぜ結果的にうまくいくのかを尋ねました。アーム ── 半導体の設計を手がけるイギリスの企業。ソフトバンクグループが2016年に約3.3兆円で買収した。
川邊さんはまず、根本には孫さんが情報革命を信じていることがあると答えます。情報革命に通ずる道であれば、高くても買うのだといいます。
川邊さんによれば、孫さんが情報革命を信じる背景には、生まれの差別的な環境があるといいます。技術こそが人の差別を乗り越えフラット化するものだから、技術に立脚したものは素晴らしいという志が根本にあると語りました。
川邊さんは、高くても本物であれば付加価値を出せるし、売っても大損しないが、安くても本物でなければ価値がゼロやマイナスになると孫さんの考えを説明します。
その感覚の原体験はAmazonだと川邊さんは語ります。2000年ごろにAmazonへ出資できるチャンスがあったものの、上場企業の壁の中で実現できず、20年後に当時のバリュエーションが目じゃないほどになった経験です。
(本物なら)今高値から見たってみんな言うかもしれないけど、超お買い得だったじゃんって思っている。
川邊さんは、OpenAIも孫さんにはAmazon的に見えているのだろうと解釈しました。案件を見つけてくるのは孫さんが多く、そこからみんなで議論して叩き、最後に決めるのは孫さんだといいます。
大きな失敗をしても求心力が落ちない理由
吉村さんは追加で、孫さんが強引に進めて大きく失敗しても、社内の求心力が失われないように見えるのはなぜかと問います。
川邊さんは、まず37%というオーナーシップの大きさを挙げます。あの規模になってもオーナーシップを持っていることが大きいといいます。
川邊さんによれば、うまくいってもいかなくても一生懸命やり、ダメなときは素直に反省するから、周りが憎めない人だという点も理由です。夢のデカさが桁違いだった、という弁護士のエピソードも紹介されました。
川邊さんは、孫正義という物語にみんなが乗っていることも求心力の源だといいます。ジェットコースターのような展開は、見ている側にとって面白いというわけです。
さらに川邊さんは、この機会にとして孫さんの「逃げ足の速さ」を挙げます。ダメだと思ったときに、それまで恋するように信じていたものをパッと忘れて逃げ始める感情の切り替えと手練手管は、他では真似できないといいます。
川邊さんによれば、市場はむしろその点を信頼しているといいます。稀代のリスクテイカーでありながら、ぬかるみにははまらず、逃げるときはパッと逃げて別のもので取り返す人だという絶大な信頼感が社内外にあると語りました。
本人は出てこない話なので、すごい勉強になります。ありがとうございます。
目標は生涯変わらない──過程を楽しむという結論
インタビューの最後に、川邊さんはここまでの人生を振り返っての思いと、今後どうしていきたいかを尋ねます。
吉村さんは、孫さん以上にうまく今の地点まで来られたと感じており、同じことをもう一度やっても同じようにできるかわからないほど、仲間のおかげでここまで来られたと語ります。
この目標自体を変えることはおそらく生涯ないと思うので、目標に向けて引き続き仲間と一緒に向かっていきながら、その過程を楽しんでいきたい。
2050年に時価総額100兆円、1億人にインパクトを与えるという目標に向けて、吉村さんは仲間とともに過程を楽しんでいく姿勢を最後に示しました。
約2時間にわたるインタビューを終え、川邊さんは自分のことをこれだけ話す体験について尋ねます。吉村さんは、2時間ずっと話すことはないので大変光栄だったと応じ、対談は締めくくられました。
まとめ
この回は、吉村英毅さんが企業づくりの外側で動かすシンクタンクや慈善ファンドの狙い、そして時価総額1000億円という明快な投資基準を語り、後半では孫正義さんの投資思想へと踏み込む展開になりました。長期・全体・グローバルという一貫した視点が全体を貫いています。
- シンクタンク「ネクストジャパンイニシアティブ」と令和政経塾で、長期視点の政治リーダーを育て、超党派のコミュニティを作ろうとしている
- 1982インパクトファンドは1人1億円を拠出し、リターンを再投資し続ける慈善型のソーシャルビジネス支援である
- バラバラな活動も、ビジョンとコミュニティがあれば「面」として重なり、大きなインパクトになるという発想を持つ
- ミダスの投資基準は2つだけで、核心は「その会社単体で時価総額1000億円に近づけるか」にある
- 川邊さんは孫正義さんについて、情報革命への信念、オーナーシップ、憎めなさ、そして逃げ足の速さが求心力の源だと語った





