考えすぎフラグメンツ、1年やってみてどうだった?
株式会社クラシコムの青木耕平と株式会社ツドイの今井雄紀が、世間の「唯一解」に「それって本当?」と問いかける考えすぎフラグメンツ。配信開始から1年が経ち、毎週1万人以上が聴く番組へと成長しました。二人は数字で振り返りながら、ポッドキャストが変えた日常、リスナーとの距離感、そしてこれからの可能性について語り合います。その内容をまとめます。
数字で振り返る1年
2025年4月23日の配信開始から1年。考えすぎフラグメンツは毎週欠かさず、52回の配信を続けてきました。今井は用意した数字を見せながら、この1年の軌跡を振り返ります。
登録者数は合計で1万1518人。内訳はSpotifyが4965人、Apple Podcastが5609人とほぼ半々です。YouTubeが500人ちょい、Amazonも300人ほど。青木は「武道館のツーデイズ毎週やってるみたいな感じ」と例え、その規模に改めて驚きを見せます。
さらに印象的なのは再生回数です。最新話は1週間で平均1万4500回再生され、全エピソードの累計再生数は52万回に達しています。累計再生時間はちょうど10万時間。青木が「暗算苦手」と笑いながらも、この数字が意味する「毎週確実に聴いてくれる人たち」の存在を実感していました。
毎週一万人以上が聴いてくれている。武道館のツーデイズ毎週やってる感じですよ。
興味深いのはリスナーの属性です。Spotifyでは女性が69%、男性が22%。YouTubeに至っては女性が91%を占めています。青木は「五十代と四十代のおじさん二人で喋ってるのに、すいません」と恐縮しつつ、北欧、暮らしの道具店株式会社クラシコムが運営するライフスタイルメディア。インテリアや雑貨、ファッションなどを扱い、女性を中心に支持を集める。経由でサジェストされることが影響していると分析します。
ただし、イベントで見た客層は逆でした。実際に顔を合わせたオーバーシンカー(リスナーの愛称)は、体感で男性が7割ほど。データと現実のギャップに、二人は「面白いね」と首をかしげます。
ポッドキャストが変えた日常
青木が今井に問いかけます。「この1年で何か変わったことある?」
今井の答えは明確でした。「久しぶりに会う人には『久しぶりって感じがしない』と言われ、初めて会った人には『初めて会った気がしない』と言われる」。毎週声を届けることで、物理的な距離を超えた親近感が生まれていたのです。
今井にとっては、初めて会う人にも「僕より僕のことを知ってくれている」ことがあり、会話がスムーズに始まる楽さを感じていました。青木も社内のエレベーターで「恥ずかしそうに『聞いてます』と言ってくれる社員」の存在から、リモートワーク中心の会社で自分の素顔を見せる機会になっていると気づきます。
ただし青木は「1年やっても、相方の正体がわからない」と笑います。奥が深い今井の人柄に、まだ探る余地を感じているようです。そして密かに抱いている野望を明かします。「今井さんを、斜めから見る人からマジレス側に引き込んでやろうと思ってる」。
今井さんがマジレスしか言わなくなったら、それが面白いなと。斜めをまっすぐに変えてやろうと思ってる。
一方の今井は、青木のような「投げられたテーマに即興で経験や知識を交えて話す力」にもっと熟達したいと感じていました。「すごく勉強したいな、もっと本読まなきゃなと思うようになった」。番組を通じて、自分の成長欲も刺激されていたのです。
ポッドキャストは新しい「パブリッシュ」
今井は編集者として、この番組に独特の意義を感じていました。「編集者の仕事の一つは、まだ十分に知られていない才能を広めること。でも20年前は本を作ることでしかそれができなかった。今は『ポッドキャストやりましょう』という提案ができる」。
ポッドキャストは、本の種類(エッセイ、ビジュアル集、写真集)を選ぶように、才能を世に出す新しい手段の一つになったのです。今井は「うちの青木面白いでしょ」というマネージャー的な喜びを感じていると明かします。
青木も「ポッドキャストって何なんだろう」と1年間考え続けたことが財産だと語ります。「盛り上がってるとされているけど、なぜ盛り上がっているのか。これからどうなっていくのか。自分がやってるからこそ考えられた」。
自分がリスナーとして聴く理由も振り返ります。「情報目的の番組は早期に聴かなくなる。でもバーチャル友達感のある番組はずっと聴いちゃう」。酒も飲まず、友達と長時間ゆっくり雑談する機会が少ない青木にとって、ポッドキャストは「そういう場に参加できてる感じ」を手軽に得られるメディアでした。
情報より関係性
役立つ情報だけなら早期に離脱される。長く聴かれるのは「友達と雑談してる感覚」を提供できる番組。
耳だけで参加できる気軽さ
YouTubeのように画面を見続ける必要がなく、車の運転中や家事の合間に「その場にいる感覚」を持てる。
息子や妻が聴いてくれていることにも、青木は複雑な感情を抱きます。「息子が『この間面白かったよ』って言ってくる瞬間は恥ずかしい」。ただ、YouTubeよりは気軽に聴けるポッドキャストだからこそ、家族も手を伸ばしやすいのかもしれません。
経営の話、するべきだった?
今井が切り出します。「青木さんがポッドキャスト始めるって聞いた時、みんなが期待するのは経営とかビジネスの話だったと思う。でも今あんまりそれをしてない」。
青木は率直に答えます。「もっと絞ってたら、聴いてくれる人が増えてたか減ってたかは何とも言えない。『お前にそれ求めてないよ』って言われてた可能性もある」。ただ、自分が経営の話を体系的にまとめることに面白さを感じないのも事実でした。
わかってる話するって一番つまんない。今やってることは、ほぼ手ぶらで来て、その場で考えるから面白い。
青木にとって、番組の魅力は「答えがわからないまま話す」ことにあります。「いいこと言おうと準備してわかってることをいつ言おうか考えてたら、苦痛になっちゃう」。経営の話をまとめて発信するなら、それは「どううまく伝えるか」がメインの課題になり、思考の喜びが失われます。
本を書こうとした時も同じでした。「自分の経験を書くことを求められると、もう一番つまんない。自分の経験だから、わかってるから」。一方で、最近出した本のように「与えられたテーマで考えながら書く」のは、答えがわからないまま進むから楽しかった。
・講演(正解を再生するだけ)
・経営ノウハウの体系化
・自分の経験を振り返る執筆
→ 「うまく伝える」が課題に
・対談(予期せぬ展開)
・即興でのテーマ応答
・答えを探しながらの執筆
→ 「考えながら進む」が魅力
とはいえ、青木は可能性を完全には閉じていません。「クラシコムの経営ポッドキャストみたいなのを『やろう』って言われたら、最初はきついってなってたと思う。でも1年やったからこそ、あり得なくはないかも、とは思うようになった」。ただし、今のフリートーク形式の楽しさを知った今、簡単には踏み切れないのも事実です。
「このままでいいのかな」を軽くする場所
青木は、番組の根底にある思想を語り始めます。「北欧、暮らしの道具店っていうプラットフォーム全体でやりたいことは、『このままでいいのかな』っていう気持ちに対してソリューションを提供すること」。
その「このままでいいのかな」は、暮らし、メイク、料理、子供との付き合い方など、大小さまざまなレベルで存在します。ソリューションも二軸あります。「このままでもいいって思える」ことと、「変化するためのファーストステップや心構え」を共有することです。
青木は、リスナーがこの番組に期待していることも、おそらくそこにあると考えています。「気心知れた友達に『このままでいいのかな』って答えを求めずに言ってみる。何も答え出てないんだけど、その気持ちがちっちゃくなって、今日よく寝れそうだなってなる」。番組はそういう役割を果たしているのではないか、と。
だからこそ、今後の企画も「どんなモヤモヤを多少軽くする感じ?」という軸で考えたいと語ります。タエコさんのドロドロ不倫回(架空)のような、期待を裏切る企画は避けたい。サザエさんのように、安心感のある世界観の中で、ちょっとしたドキドキ(同窓会で昔好きだった人に会うけど、やっぱり今の夫が良かったと思う)くらいがちょうどいいのです。
Appleに褒められた日
1年の歩みを振り返ります。開始直後、既存のTwitterフォロワーへの告知効果で、Appleのビジネスランキングで一位を獲得。ただし青木は冷静に「変化率で取られてるから、実際の再生数はそんなに多くなかった」と分析します。
3ヶ月後、北欧、暮らしの道具店での告知開始で、週の再生数が3000〜5000から一気に1万前後へ。さらに1ヶ月半後、チャポンと行こう株式会社クラシコムが制作する人気ポッドキャスト番組。リスナーからのお便りに答える形式で、幅広い層に支持されている。でほんの一言触れられたことが転機となり、再生数は1万7000〜1万9000へ急上昇。Spotifyランキングで最高13位を記録しました。
青木は感謝を込めて言います。「本当にあのオーバーシンカーの方が、チャポいこにお手紙くださってるよね。そういうこと言ったからまたお手紙いっぱい来ちゃったじゃんって怒られちゃうかもだけど、ほんとありがたかった」。
11月には、2025年に始まった全ポッドキャストの中から選ばれる「Apple Podcast テン」に選出されます。今井は「人生でAppleから褒められる日が来るとは」と感慨深げに振り返りました。長文のお祝いメッセージと共有用動画が送られてきた時の喜びは、二人にとって忘れられない瞬間でした。
同じ11月に開催した初の公開収録イベント「オーバーシンカーズナイト」は、学びの多い経験でした。「一気に埋まるわけではなかった」と今井。「抽選にするんでって言ってたのに」と青木も恥ずかしさを隠しません。ニーズの見極めの難しさを痛感しつつも、このイベントをきっかけに公式グッズが誕生し、ファンとのつながりも深まりました。
グッズまで作って臨んでるっていう寒さがある。なのに抽選に足りないみたいな。
2026年2月にはビデオポッドキャストを開始しましたが、「期待してたほど伸びなかった」と青木。プラットフォーマーに優遇されるという情報はあったものの、「ショート動画とセットでやらないと効果が薄いのかも」と分析します。
オーバーシンカーはなぜ聴いている?
青木の最大の疑問は「オーバーシンカーの人たちって、なんで聞いてくれてるのかな」ということです。「武道館ツーデイズぐらい聴いてもらえてるの、なんでなんだろう」。
興味深いのは、特定の回だけが反響を呼ぶわけではないことです。今井も「お手紙はいただくけど、特別反応の多い回とか、みんなが言及する回もない。割と淡々と、どの回も聴いてくれてる雰囲気」と語ります。バラつきのなさが、かえってリスナー像を掴みにくくしていました。
青木は「直接感想を聞くこともあんまりない」とも明かします。社内でもエレベーターで数人に「聴いてます」と言われた程度。さらに、今回初めて知ったリスナーの7割が女性という統計データにも驚きます。「なんとなくおじさんに向けて喋ってる気持ちがあったけど、女性の方も聴いてくれてるんだ」。
一方で、実際にイベントで会ったリスナーは体感で男性7割。データと現実の逆転に、二人は首をかしげます。北欧、暮らしの道具店経由で女性リスナーが多く、イベントには別の層が来るのかもしれません。
青木は「オーバーシンカーの人たちってどんな人たちなのか、自分なりにバクッと掴みたい」と語ります。ただし「イベントでもニーズがあんまりなかった」ことを踏まえ、生配信でコメントをもらったり、電話をつなぐラジオ的な企画を検討する余地もありそうです。
これからの可能性
今後の展開について、二人はいくつかのアイデアを交わします。
まず、ゲストの計画的な招待です。青木は「ゲスト呼ぶの、俺あんまり得意じゃない。よく喋るから、ゲストに申し訳ない」と躊躇しつつも、喜々会会のTaiTanさん人気ポッドキャスト「喜々会会」のパーソナリティ。幅広い層に支持され、ポッドキャスト界で影響力を持つ。と対面で話した際に「一回ゲストに来てください」と打診したことを明かします。「考えてることが面白いから、いろいろ聞いてみたい」。
ただし青木には独特の基準があります。「近い人を呼んでもしょうがない。近くないんだけど、ちょっとストレスなんだけど、でもいい化学反応ありそうみたいな人」。お互いウォッチしていた者同士ではなく、普通に考えたら興味も持たなそうだが、何か一生懸命やってきたことがある人。そういう距離感の相手と話すと、「ああやっぱなんか通じるとこありますね」という出会い方ができて、それが好きなのです。
ずっと見てました、みたいな人とは会いたくない。お互いそこまで興味持ってなかったけど、話したら通じるとこありますねって終わる方が好き。
今井は「青木さんは三十分喋らない」というルールを提案します。ゲストと今井が三十分話し、その間青木はウズウズしながら黙っている。「決められてたら安心して黙れる。それは面白いかも」と青木も乗り気です。
書籍化の可能性も話題に上ります。ただし青木は「ポッドキャストの本って、音の方が面白いはずだから、ファングッズになっちゃう」と指摘します。そこで考えたのが「切り抜き集」。「全部聴かないと聴けないっていう不便さがあるから、名場面集みたいに、これってどこだっけ?に答えられる本があれば、ファングッズとしては有効かも」。QRコードで該当箇所に飛べるガイドブック的な本なら、意味があるかもしれません。
今井は「番組の放送作家、ノジくんを呼ぶ」ことも提案します。青木は即座に賛同します。「世代が違うから対話する価値がある。二十九歳の若者とおじさんで対話するにはめちゃくちゃいい相手。そこに上司としてのイマイさんもいて、ある種の気まずさも出るのがコンテンツとして面白そう」。
最後に青木が今井への要望を語ります。「余計なこと考えないでやってほしい。うまくやろうとかよりも、本当に思ってることを言ってほしい。相手を傷つけそうだから言わないのはありだけど、うまいことっちゅうよりは本当のことを」。
そして、客観的な視点を求めていることも明かします。「『あ、自分ってそう見えてんだ』っていう発見が、毎回結構おもろい。全然自分のことわかってないなと思う時もある」。匿名で誰かが語った青木像を今井から聞いた時、「へー、確かに。ちゃんと伝わってる」と安心感を覚えることもあれば、「いや、俺そんなでもないけどな」と意外な発見もあって、それが面白いのです。
まとめ
今井が締めくくります。「本当のことを言うっていうのは、まあ基本的に気をつけているというか、まあそのつもりです」。そして番組開始前に堀井ミカさんフリーアナウンサー。久米宏など著名パーソナリティの相手役を務めた経験を持ち、聞き手としての技術に定評がある。から得たアドバイスを振り返ります。「とにかく聞いて思ったことを話すっていうことに集中する。進行とか、気の利いた返しとか、そんなことは絶対考えない」。
青木は「さすが名人のアドバイス」と感心し、「堀井さんみたいな名人にもゲストで来てほしい」と夢を膨らませます。接点がなさそうな人だからこそ、「話してみたらこういう共通点あったね」という展開が生まれるのではないか、と。
最後に今井がリスナーに呼びかけます。「これからもいろいろ外しながら試していきますが、もしよかったら聴き続けてもらえると嬉しいです」。青木も「これだったか、みたいなやつが、何個も試してるうちにあるかもしれない」と期待を込めます。
- 配信開始1年で登録者1万1518人、毎週1万4500回再生される番組に成長。リスナーの7割が女性という意外な構成も明らかに
- 「初めて会った気がしない」と言われる距離感。ポッドキャストは才能を世に出す新しい「パブリッシュ」の手段となっている
- 経営の話よりも即興で考える楽しさを優先。「わかってる話をするのは一番つまんない」という青木の姿勢が番組の核に
- 番組の役割は「このままでいいのかな」というモヤモヤを少し軽くすること。答えを出すのではなく、友達と雑談して安心する感覚を提供する
- Apple Podcast 2025年テン選出、チャポンと行こうでの言及など節目を経験。今後はゲスト企画や書籍化、生配信なども視野に
