難しい本が読み進められない、というお便り
今夜のお便りは、ペンネーム粟田さんから寄せられました。以前番組で紹介された『会社と社会の読書会』が面白そうで、図書館から借りて読み始めたそうです。
ところが、いざ読み始めると内容が難しく、なかなか読み進められないといいます。
普段興味のある小説や軽めの文体の新書ならスラスラ読めるのですが、内容が難しめだったり、勉強目的の読書となるとかなり時間がかかります。期限内に読み終えるコツなどを話していただけたら嬉しいです
バタやんさんは、編集者だった頃を振り返ります。限られた時間でたくさんの本を読む必要があったり、誰かにインタビューする前に、その日までに何冊も読まなければならないことがよくあったと話します。
図書館で借りた本には返却期限もあります。そうした状況で実践しているコツを、この日は3つ紹介していきます。
コツ1・とにかく本を持ち歩く
1つ目のコツは、とにかく本を持ち歩くことです。まとまった時間に読もうと思いがちですが、バタやんさんが行き着いたのは、大人にまとまった時間は一生やってこない、という気づきでした。
まとまった時間は幻想で、すべては断片的な隙間の時間の積み重ねだと考えています。読めるかどうかは置いておいて、待ち時間や移動時間に数ページだけでも文字を視界に入れる。それを繰り返すのだといいます。
面白くなって乗ってきたら、夜にゆっくり時間を取って読む。家の中でも、リビングから寝室、寝室からお風呂場へと本を持ち歩くそうです。
持ち歩くための「本の過保護アイテム」も紹介されました。通勤リュックの中では、本のページの間にリップクリームやペットボトルが挟まり、ページが折れたり濡れたりするのがストレスだったといいます。
そこで最近は、タイ旅行で見つけたブックポーチを愛用しています。チャックがちょうど本の大きさになっていて、閉じて持ち歩けば、間に物が挟まってページが折れることもなくなったそうです。
いろんなブランドからこういうポーチが出ればいいのになって思ってます
さらに、asoというブランドのクリアカバー・fogタイプも使っています。すりガラスのように少しだけ透ける素材で、タイトルは読める程度の透け具合がちょうどいいのだといいます。
人に何を読んでいるか見られること自体は恥ずかしくないものの、ミステリーなどで帯の煽りが強い本は、病院の診察待ちで読むには少し配慮が要ると感じてカバーをかけるそうです。お風呂やポテトチップスを食べながら読むときにも、汚れなくて便利だと話します。
コツ2・読了を目標にしない
2つ目のコツは、読了を目標にしないことです。1ページ目から最後まで一言一句すべて理解して読み切ることが読了だと思うと、つまずいた箇所で脳がフリーズしてしまうといいます。
特にビジネス書の場合は、目次を見て面白そうな章や自分に関係しそうな章から、飛び飛びで読むことが多いそうです。
6章に分かれた本でも、1つの章で「なるほど」と思える箇所があれば、その読書は成功だと考えるようにしているといいます。
小説はそうもいきませんが、多くの小説にはメインのストーリーとサブのストーリーがあります。追っている事件と過去の事件、主人公と婚約者の話に対する元彼や家族の話、といった具合です。
バタやんさんは、先を知りたいメインのやりとりを追いかけるように読み、サブの部分を飛ばすこともあると話します。一方で、犯人を追い詰めるシーンや恋人に別れを切り出すシーンなど、大事な場面は一言一句なぞるように読むそうです。
あらすじやネタバレはネットでも追えますが、それだけでは読んだ楽しみは味わえません。クライマックスの一シーンだけでもじっくり読み、その作家の味が出ている部分が気に入れば、読み返したり別の本を読んだりする。そこに買った意味があったと感じられるといいます。
コツ3・文脈をつなげる
3つ目のコツは、文脈をつなげることです。バタやんさんは、これがこの日一番のポイントだと話します。
例として挙げたのが英会話です。予備知識のない2人の会話を途中から聞いても聞き取れないけれど、TEDのトークのように「この人はこういうことで成功し、こういうテーマで話す」という予備知識があれば、多少専門的でも聞き取れるといいます。
それは頭の中で言葉と言葉を文脈で補っているからだ、とバタやんさんは考えます。背景がわかっていれば話が入ってくる。これは読書でも同じだといいます。
著者がなぜこのテーマに興味を持ったのか。もとは医師や弁護士だった人がこの小説を書いた、実際の事件に憤りを感じてこの本を書いた——そうした背景が少しでもわかると、頭に入りやすくなるそうです。
さらに、職場で感じたもやもやや、夫との関係とこの話は似ているかもしれない、というように、自分の生活や知っているニュースと本の文脈が結びつくと、理解のスピードが一気に上がるといいます。
誤読や曲解の可能性はあるものの、合っているかどうかは別として「自分はこの本をこう理解した」ということにはつながる、とも話します。
今夜の一冊・山口周『コンテキスト・リーダーシップ』
この文脈という話の流れで、この日の「勝手に貸出カード」として紹介されたのが、山口周さんの新刊『コンテキスト・リーダーシップ 「最高の上司」と「最悪の上司」は文脈で決まる』です。
リーダーシップ論の本ですが、バタやんさんは、なぜ物語や教養に触れる必要があるのかという読書の意味が、自分の読んだ中で一番しっくりくる形で書かれていたと話します。
本の趣旨はこうです。理想の上司として褒められがちなのは「部下に仕事を任せる」という行為ですが、同じ行為でも、状況や意図、普段の信頼関係といった文脈次第で、意味が正反対になるといいます。
任せてもらえている最高の上司だと思われることもあれば、丸投げして放置する最悪の上司だと受け取られることもある。つまり、事実があって解釈があるのではなく、先に解釈の枠組みである文脈があり、そこに事実が流し込まれて意味が生まれる、という論理です。
同じ「これはあなたに任せるよ」という言葉でも、難しい局面になったら巻き取ってくれる過去があるのか、取引先に激怒されても部下のせいにする人なのか。その関係性の文脈によって意味が生まれる、というわけです。
多くのリーダーシップ論は行為をレクチャーしがちだけれど、大事なのは行為ではなく、そこに至る文脈を作ることだ、とバタやんさんは理解したと話します。
さらに本では、コンテキストに3つの階層があると説明されています。
山口さんは、これらのコンテキストを読み解いた上で、参加したくなるような物語=ナラティブを編める人が優秀なリーダーだと述べているといいます。
ビジョンをただ上から発表するのではなく、組織や個々人の文脈を読み解いた上で、自ら参加したくなる物語を提供する人が優れたリーダーだ、という内容の本でした。
なぜ忙しくても物語に触れる必要があるのか
バタやんさんは山口さんの本が好きで、新刊が出るたびにチェックしているといいます。山口さんは、経営者にはアートや教養が必要で、ビジネス書だけでなく小説や物語も読んだ方がいいと度々語ってきました。
とはいえ、忙しいのになぜ小説や映画やドラマや漫画に触れる必要があるのか、と思うところです。その答えが今回明確に示されていた、とバタやんさんは話し、この本の一節を「神フレーズ」として読み上げます。
人が生成する物語は、その人がそれまでに触れてきた物語に大きく影響されることになります
物語の中で疑似的に体験したコンテキストを自分の中に溜め込むことで、自分の人生という物語のコンテキストを理解しようとします
数多くの物語に触れるということは、それだけ人が共感する物語のコンテキストのパターンを自分の中に溜め込んでいくことに他ならない
現実のマクロコンテキストは複雑です。昔は許されたことが今は許されない、国同士が一触即発になっている背景、大統領が変わって前提が覆る——それらすべてに文脈があります。
そのすべてを理解するのは難しいけれど、小説や漫画、映画、ドラマで疑似的に体験した文脈がたくさんあれば、現実の文脈を解釈したり共感したりする助けになる、とバタやんさんは受け止めます。
それは、違う文脈で生きてきた人たちを理解しようとする補助線になります。考えの合わない上司や取引先、義理の家族がいても、それぞれの文脈があってその考えに至っていると思えるだけで、完全には共感できなくても、ある程度納得できることがあるといいます。
だからこそ、たくさんの物語に疑似的に触れることは、自分の人生の解釈の幅を広げてくれる、有意義で価値のあることだと改めて感じたと締めくくりました。
まとめ
難しい本を期限内に読むコツは、まとまった時間を待たずに持ち歩くこと、読了だけを目標にしないこと、そして背景や自分の経験と本の文脈をつなげることです。その先に、なぜ忙しくても物語に触れるのかという答えが見えてきます。
- まとまった時間は幻想。隙間の時間に数ページずつ視界に入れることを繰り返す
- 一言一句読み切ることだけが読書の価値ではなく、「なるほど」と思える箇所が1つあれば成功と考える
- 著者の背景や自分の生活と本の文脈が結びつくと、理解のスピードが上がる
- 山口周『コンテキスト・リーダーシップ』では、行為ではなく文脈が意味を生むと説かれている
- 疑似的に多くの物語に触れることは、違う文脈で生きる人を理解する補助線になり、人生の解釈の幅を広げる
