新人教育係が抱える「仲良くしたいけど、できない」悩み
今夜のお便りは、ペンネーム・pekberさんから。新卒2年目で、初めて後輩ができた教育係の相談です。
後輩は自分より1つ年上で社会人経験もあるため、pekberさんは偉そうにならないよう気をつけて接してきました。後輩もよく懐き、最初は仕事終わりに一緒に食事をする仲だったといいます。
ただ、当初から気になる点はありました。先輩にゴマをするような態度や、失敗をすぐ人のせいにするところです。
決定的だったのは、後輩が同期の男の子の失敗談や悪口を、大勢の飲み会で大々的に口にするようになったこと。悪く言われる同期がかわいそうに思え、pekberさんは後輩と距離を取るようになりました。
先輩に取り入り、同期には見下したような態度を取る彼を見ると、どうしても和気あいあいと話すことができません。
相談の核心は、教育係として仲良くやっていきたい一方で、どうすれば仕事と個人的な感情を切り離して接することができるか、という点にありました。
バタやんはこのお便りが長く印象に残っていたと話します。後輩を尊重しようとする姿勢と、悪く言われる同期への共感、その間で揺れる悩みそのものに好感を持ったからです。
後輩を「一概に悪い奴」とも言えない理由
バタやんは、後輩の彼を単純な悪者とは見ていません。大人数の飲み会にきちんと参加し、盛り上げなきゃという気持ちもあるのではないかと想像します。
誰かを下げて笑いを取るのはよくあること。ただ彼の立場では、下げる相手が同期くらいしかいないのかもしれない、とも考えます。
悲しくもあり、意味軸もあり、彼なりの処世術として、ストラグルの途中って感じなのかなって想像したりして。
一度「その話をするとウケる」と味を占め、その面が強く出てしまったのかもしれない。バタやんはそんなふうに、後輩の背景に思いを巡らせます。
ブリリアント・ジャークとは何か
そこで今夜紹介されたのが、沢渡あまねさんと伊達洋駆さんの共著『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』です。
ブリリアント・ジャークとは、輝かしい・優秀という意味の「ブリリアント」と、嫌なやつ・有害な人を指す「ジャーク」を組み合わせた言葉。優秀だけど有害な人を指すビジネス用語です。
この言葉を一躍有名にしたのはNetflixでした。同社は独特な人材方針で知られ、HR業界で注目されがちな企業です。
Netflixはカルチャーデックの中で、高い成果を上げる一方で傲慢な態度や協調性の欠如で悪影響を及ぼす人材を「ブリリアント・ジャーク」と呼び、そうした人物に居場所はないと明言しました。
経験豊富なチームの中では何人かのブリリアント・ジャークが存在するかもしれないが、私たちの見解では、彼らはチームワークに支払わせる代償が大きすぎるんだと。
どんな天才でも、周囲を萎縮させ心理的安全性を奪う人材は、結果としてチームの生産性を大きく下げてしまう。だから採らない、という考え方です。
人事の仕事をするバタやんは、これを企業として明言できることのすごさとして受け止めています。
採用の現場で感じる「わかるけど言えない」難しさ
面接の短い時間でも、とても優秀だと感じる一方で、人を小馬鹿にしそうな気配や、皮肉屋な一面が見えることはあるといいます。
面接官には丁寧でも、控室や道中で案内する女性に上から接する。そうした振る舞いは、意外と伝わってしまうものだとバタやんは話します。
ただ、華やかな経歴や優秀な受け答えを上書きしてまで、有害かもしれない可能性を理由に採らないと決断できるか。これは相当に難しいと本音を明かします。
この本の価値は、優秀だけど一緒に働くと疲弊する人を、心理学や組織論の知見から解き明かそうとしている点にあります。
困った人を実例で挙げつらうのではなく、そういう人を重宝してしまう組織の土壌や、優秀な人が闇落ちしていく構造を分析する。叩いて終わりにしない本だと紹介されます。
ブリリアント・ジャークの6つのタイプ
本書では、ブリリアント・ジャークが6つのタイプに分類されています。どの組織にも多少はいそうだと、バタやんは整理して紹介します。
| タイプ | 特徴 | 目立つ層 |
|---|---|---|
| 王様 | 過去の実績や権威でマウントし、周囲を萎縮させ支配する | ベテラン・主任 |
| テリトリー防御 | 業務をブラックボックス化し、聖域を守ろうとする | ベテラン・主任 |
| 暴走エース | 圧倒的なスピードと正しさで独走し、協調性を乱す | 若手 |
| 猛烈 | 悪意なく長時間労働で周囲を追い込む | - |
| 現実逃避 | いい人だが、リーダーとして重い判断や責任から逃げがち | - |
| ネグレクト職人 | 専門実務は完璧だが、後輩育成や組織貢献を放棄する | ベテラン |
王様タイプとテリトリー防御タイプは、業務が止まるリスクを人質に「口出しするな」と迫る構図で、ベテランに多いとされます。
一方で若手にも起こり得るのが暴走エースタイプ。優秀ゆえに、上司も若手へのハラスメントを恐れてビシッと注意できず、悪循環に陥ります。
これらのタイプは、職場のあの人にも、あるいは自分自身にも当てはまるかもしれません。仕事に限らず、習い事や推し活、PTAなど、どんな組織にも起こり得ると話されます。
誰もが「ジャーク」になりうるという視点
バタやんは、後輩がこの6つのどれかに当てはまると言いたいわけではない、と明確に断ります。
ペクバーさんの後輩さんがこの6つのどのタイプに当てはまるとか、若手エースのブリリアント・ジャークに違いないっていうことを言いたいわけじゃないんです。
転職して決まったのなら、それだけブリリアントな一面がある。誰しもがブリリアントな一面とジャークな一面を併せ持ち、何かのきっかけや蓄積で有害な面が強く出ることがある。それがこの本を読んで強く感じたことだといいます。
6つのタイプの背景には、勤勉さや、組織に貢献したい、役に立っている感覚を保ちたいという気持ちがあります。だからこそ排他的になったり、自分の聖域を守ろうと保守的になったりしがちです。
難しいのは、上の人にはきちんと仕事をする側面しか見えづらいこと。裏の陰湿な側面はマネジメント層に認識されにくいのです。
pekberさんの悩ましさは、現場の教育係だからこそ、一生懸命な一面と陰湿な側面の両方が見えてしまう点にある、とバタやんは指摘します。
しかも指導の仕方を間違えれば、ペクバーさんの方が厳しすぎる、意地悪だと言われるリスクもある。だから難しいのだと寄り添います。
個人ではなく「構造」に目を向ける
この本を今夜あえて紹介したのは、ブリリアント・ジャークを個人の性格の問題で片付けず、なぜその振る舞いが許され強化されるのかという組織の構造に目を向けているからだといいます。
pekberさんが悩んでいた「感情と仕事の切り離し方」への一つの答えも、ここにありました。その人のせい、自分のせいではなく、構造というレイヤーに目を向けることです。
人は名前がつくとホッとする面があります。一方で「あの人はブリリアント・ジャークだ」とラベリングして溜飲を下げるだけで終わる危うさもある、と功罪も添えられます。
大切なのはその先。なぜジャーク化してしまうのかに、少しだけ思いを馳せてみることだと語られます。
悪口は「商品」に伝播する
今ここにいない人の悪口は、距離を詰める最大の特効薬。良くないとわかっていても、盛り上がり、次の話が展開しやすいから効果覿面でやめられないとバタやんは言います。
本書には、ブリリアント・ジャークが新たなミニ・ブリリアント・ジャークを生むという話が出てきます。憧れの人の振る舞いを、人は無意識に真似て内面化してしまうからです。
関連して、バタやんは昔の編集部での言葉を紹介します。
編集者やスタッフが読者の悪口ばっかり言うようになったら、その雑誌は終わりに近づいているんだ。
お客さんの悪口は、格好の酒の肴になりがちです。日々のストレスを晴らす面はあっても、それが職場のコミュニケーションとして恒常化すると、悪口は商品やサービスに伝播してしまう、という話です。
代えが利かない人を作る怖さ
本書は各タイプの解説のあと、ある会社の上司をケースとして紹介します。複数の人物や会社の話を混ぜたと思われるそのケーススタディは、池井戸潤さんの小説を読むようなリアルさだったといいます。
描かれるのは、ブリリアント・ジャーク本人が失敗するというより、その人を良しとする会社の風土が問題を上層部にエスカレーションしづらくし、大きな不祥事につながる構図です。
その人が売上や重要顧客との関係、専門知識を一手に握っていると、代わりがいないために問題行動を指摘できなくなります。結果、異物混入やリコール隠し、工場事故といった、会社の存続を揺るがすリスクが生じやすくなると理解されます。
余人をもって代え難いは余人をもって代えましょうって、つい最近私もある人に言われて、そうかって思った。
人は誰でも何かのきっかけで弱さが出たり闇落ちしたりする。だから「余人をもって代え難い」という状況は、どんな人であってもリスキーなのだと締めくくられます。
人を守るためのマネジメント
最後に、本書から神フレーズが紹介されました。
マネジメントとは個人の強みを最大限に活かすことだけではない。人間ゆえの弱みを仕掛けや仕組みでカバーし、人が過ちを犯さずに済む環境を整えることもまた重要なマネジメントである。
この文章の前には「人は魔が差しやすい生き物である」という言葉が置かれています。
品行方正な人でも、ストレスや思いがけない配置転換で弱さが出て、防御反応としての強さや攻撃、他者の排除に変わることは誰にでもある、とバタやんは受け止めます。
では、pekberさんに何ができるのか。直接注意するのが難しい場合は、マッドな会話に乗っからないこと。面白くなさそうな顔をして助長しない、そこからではないかと提案します。
それでも本当に邪悪だと感じたら、距離を取るのもあり。自分がその邪悪に染まる前に、と付け加えられました。
pekberさんも後輩さんも、今は楽しく活躍していてほしい。そんな願いとともに、この回は結ばれます。
まとめ
ブリリアント・ジャークという言葉は、優秀さと有害さが同じ人の中で両立しうることを教えてくれます。相手を個人の性格で断罪するのではなく、それが許され強化される組織の構造に目を向けること。それが、感情と仕事の間で揺れる悩みをほんの少し軽くする視点になりそうです。
- ブリリアント・ジャークとは、優秀だが有害な人を指すビジネス用語で、Netflixが明言したことで広く知られた
- 王様・テリトリー防御・暴走エース・猛烈・現実逃避・ネグレクト職人という6つのタイプがある
- 誰もがブリリアントとジャークの両面を持ち、きっかけや蓄積で有害な面が強く出ることがある
- 本書の要点は、個人の性格ではなく、その振る舞いが許され強化される組織構造に目を向ける点にある
- 直接注意が難しければマッドな会話に乗らず、本当に邪悪だと感じたら自分が染まる前に距離を取る
