リスナーの声から始まる、500万再生と100万人突破のお祝い
今夜のお便りは、ペンネームはづきさんからのものです。以前番組で紹介された『朽ちないサクラ』で柚月裕子作品を初めて読み、続けて『月下の桜』も読んだといいます。
こんなに小説をぐんぐん読めたのは久しぶりです。次に読むべき柚月裕子さんの作品があれば教えてください。
検索するとたくさん出てきて迷ってしまうこと、裏社会やグロテスクな描写は苦手なことも書き添えられていました。
バタやんは、番組が累計500万再生を記録し、同時に累計リスナー数が100万人を突破したことも報告します。
迷読をきっかけにこれ読みました、あれ読みましたっていう、その同じ本を読んだ方が感想を喋れるような、そんな回をいつかできればいいなと妄想しています。
特にミステリーは、読み終えた人同士でなければ話せないことが多いものです。そこでバタやんは「迷読読後お茶会」のような場をいつか開けたら、と語ります。
最新刊『誓いの証言』を選んだ理由と、佐方貞人シリーズの読み方
今夜の「勝手に貸出カード」は、柚月裕子の最新刊『誓いの証言』です。今年3月に発売されたばかりの新刊で、話題の新刊コーナーで手に取りやすいだろうという理由で選ばれました。
本作は人気シリーズ「佐方貞人」の5作目にあたります。気に入れば遡って他の作品も楽しめるため、楽しみが広がるという意味でも選ばれています。
佐方貞人は、検事を辞めて弁護士になった「辞め検」と呼ばれるタイプの人物です。今は東京に弁護士事務所を構え、ロースクールに通いながら事務員を務める小坂千鶴とともに弁護の相談を受けています。
一方で、シリーズは1作目から順に読む必要はないといいます。1作目『最後の証人』は弁護士編ですが、佐方が弁護士として登場したのはこれが最後で、続く3作は検事時代を描いたものだからです。
つまり今回の『誓いの証言』は、1作目以来久しぶりの弁護士編になります。帯によれば16年ぶりの長編で、「帰ってきた佐方弁護士」と呼びたくなる一冊です。
検事時代を描いた作品は短編集なので、とっつきやすさを優先するならそちらから手に取ってもよい、とバタやんは補足します。ただ、はづきさんが小説を読み切る達成感を味わったようだったので、あえて長編をすすめています。
無実を主張する同期の依頼と、同意をめぐる争い
ここからは『誓いの証言』のあらすじです。佐方のもとに、大学時代の同期である弁護士・久保という男が、不同意性交等罪で告訴された事件の弁護を依頼しに来ます。
佐方は無実を主張する久保の言い分を信じて引き受け、調査を始めます。しかし久保は、佐方が抱いていた真面目なイメージとは違い、最近は特に女性関係の評判がよろしくないようでした。
罪状は、行きつけのクラブのホステス・優花という女性から、睡眠導入剤を飲まされて性的暴行をしたと訴えられているというものです。調査を進めるほど、優花に有利な証言ばかりが集まっていきます。
この小説では、行為があったこと自体は認めざるを得ない状況です。争点は、同意の上だったのか、無理やりだったのか、という一点に絞られていきます。
佐方の事務所のアシスタント・小坂は、最初から否定的です。運営面であまり報酬が見込めない事件が多いことに加え、この件は特に「そんなの引き受けるの?」という反応でした。
ヒムパシーというバイアスと、同情しづらい事件を選んだ狙い
無実を信じるという佐方の姿勢に、バタやんは「よくあるパターンでは」と感じます。エリート男性同士のかばい合い、いわゆるヒムパシーが働いているのではないか、という見方です。
バタやんは具体例として、スポーツ選手や著名人、エリート学生の性加害を挙げます。「一度の過ちで輝かしい未来が台無しになるのは不憫だ」という論調です。
この論調には「プロミシング・ヤング・マン(将来性のある男性)」という呼び名もあります。それをもじった映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』を、バタやんはつい最近観たといいます。
キャリー・マリガンが主演のすごいぶっ飛んだ映画で、すごく面白かったので、これもよかったら見てください。
さらにこの論調には、女性側を「アバズレだったのでは」「ハニートラップでは」「金持ちに近づいたのでは」と貶める言説がセットになりやすい、とバタやんは指摘します。近年のスポーツ界や芸能界のニュースにも、まさにそんな攻防があったと振り返ります。
そのうえでバタやんが最初に抱いた疑問は、なぜ著者がこれほど同情しづらく、没入しづらい事件を設定したのか、というものでした。
物語の主人公は佐方弁護士です。読者としては佐方に勝ってほしい。しかしこの事件で佐方が勝つとは、弁護している男性側が無罪になることを意味します。
多くの人がこれを読んで、被害者側の女性に同情したいな、応援したいなっていう気持ちになるような作りになってると思うんです。
勝っても負けてもすっきりしない、その落としどころ
ここに、この小説の難しさがあります。主人公に勝ってほしい気持ちと、主人公が勝てば女性が負けるという構図が、読者の中でぶつかるからです。
バタやんは、著者がこの物語のジャッジの落としどころをどう持っていくのかを見守る380ページだった、と読後の感覚を語ります。
最後まで読んで「なるほど、圧巻の結末だ」と思うのか、「えー、そうなの?」と思うのかは、意見が分かれるかもしれないといいます。だからこそ、冒頭で触れた読後お茶会があれば語りたいタイプの作品だと話します。
法廷シーンはなかなか来ない、それでも待った甲斐がある
バタやんは、リーガル・ミステリー(法廷ミステリー)というジャンルが好きだと明かします。海外ドラマや韓国ドラマの、弁護士事務所を舞台にした群像劇も好みだといいます。
リーガルドラマの最大の見せ場は法廷劇だと思うんですよ。「異議あり」「異議を認めます」とか、そこをすごく楽しみに見ているわけです。
ところが本作は、その法廷シーンがなかなか出てきません。「あれ、弁護士ものだよね」と思うほど、調査の場面や、過去の別のエピソードが合間に描かれていきます。
その一つが、香川県のある村で石を削る職人たちのいざこざです。これが事件とどう繋がるのか、じれったさを感じながら読み進めることになります。
そして終盤、ついに法廷シーンがやってきます。詳細は伏せつつも、バタやんは焦らされた甲斐があったと表現します。貯めて貯めてドーンと放つ、見どころたっぷりの応酬が待っているといいます。
ここまで描ききるには、短編集ではなく長編が合っていたのだろう、というのが読後の実感です。
「事実と真実は違います」——この一行に込められたもの
最後に、バタやんは本作から「神フレーズ」を紹介します。目に見える事実だけでなく、事件の動機や真実がわからなければ、本当に解決したとは思えない、という佐方の言葉です。
事実と真実は違います。私は藤本さんにこの事件の事実でなく真実を知って欲しかったんです。
「事実と真実は違います」というフレーズは帯にも書かれており、強く押し出されている言葉です。
バタやんは、柚月裕子がインタビューで語ったことを紹介します。どの本にも「これを書きたかった」という一行が必ずあり、そこには自身の価値観が埋め込まれている、という趣旨です。
この本にとってどの1文かは想像に委ねます、とおっしゃっていたんですよね。
バタやんは、帯にもある「事実と真実は違います」だと少しあからさますぎるかと迷いつつ、後半の「事件の事実ではなく真実を知って欲しかった」こそが核心ではないかと考えます。
これは佐方の言葉です。誰に向けられたかは伏せられていますが、この長い長い小説を通して言いたかったことなのではないか、とバタやんは受け止めています。
読まれた方はどの1行かなと思ったのか、お話ししたいところです。
まとめ
今夜は、リスナーの「次の柚月裕子作品は?」というリクエストに応え、佐方貞人シリーズ最新刊『誓いの証言』を紹介する回でした。同情しづらい事件をあえて選び、勝っても負けてもすっきりしない読者の気持ちを、著者はどこへ連れていくのか。その落としどころと、「事実と真実は違います」という一行が語りの中心でした。
- 『誓いの証言』は佐方貞人シリーズ5作目で、16年ぶりの長編・久しぶりの弁護士編。最新刊から読み始めても問題ない
- 不同意性交等罪の男性側を弁護するという同情しづらい設定に、ヒムパシーというバイアスを重ねて読み解いている
- 法廷シーンはなかなか来ないが、調査や過去のエピソードを貯めた末の終盤の応酬が本作の見どころ
- 帯にもある「事実と真実は違います」を軸に、著者が書きたかった一行はどこかを読者に問いかける一冊





