ビール会社ではなく「エンターテインメント事業」という定義
ヤッホーブルーイングは1997年創業。来年で30周年を迎える、クラフトビールのメーカーです。
番組冒頭で三浦さんが戸惑ったのは、名刺の肩書きと実際の呼び名が違ったことでした。渡部さんは「ヤッホー広め隊のジン」、河津さんは「ごらく課のまるちゃん」と名乗ります。
これはうちの社風でして、クラフトビールって嗜好品なので、私たちも楽しく仕事をしようと。
社内ではニックネーム制で呼び合っているし、ユニット名もちょっと一捻りしようってことで、そんな名前に。
同社が掲げるのは「ビール会社」ではなく「ビールを中心としたエンターテインメント事業」という定義です。製造して終わりではなく、その先の体験までを事業と捉えています。
製品スペックでの比較になっていくと、そこでの競争になってしまう。そうではなくて、体験の中にクラフトビールがあるっていうのが、お客様に楽しんでいただける要因なのかなと思っている。
8年の赤字と、排水溝に捨てたビール
ここまで順調に見える同社にも、大きなピンチがありました。地ビールブームが崩壊し、8年にわたって赤字が続いた時代です。
作ったビールが余り、売ることもできない。当時営業担当だった現社長の井手さんは、そのビールを排水溝に捨てる作業をしていたといいます。
なんで捨てるかっていうと、酒税が返ってくるんですよ。捨てないと税金を払わなくちゃいけないので、もう売ることができない。愛情込めて作ったビールを一つずつ捨てていく。
転機は通販でした。創業時に開いたまま休眠していた楽天のネットショップを、本格的に動かし始めます。
きっかけは、楽天の三木谷さんから届いていた直筆の手紙でした。ロッカーにしまわれていたその手紙を後から見つけ、火がついたそうです。
楽天がこんだけ成長してるのに、うちが成長できないわけないって。
そんなことないよね。インターネット産業とビールだから。創業年しか同じじゃないよ。
「ショッピングイズエンターテインメント」から生まれた企画力
楽天の営業担当から教わったのは、ただ商品を説明するのではなく、こだわりや企画を軸にメルマガを配信するという方法でした。
言われた通りに実践すると、ビールが売れ始めます。当時取り組んだのが、商品を安売りするセールではなく、ユーザーと一緒に楽しむフォトコンテストでした。
セールとかやっても全然反応ないのに、フォトコンテストってやると反応がくるんですよ。
安く買えることよりも、少し手間のかかる参加型企画のほうが反応が良い。この発見が、後の数々のユニークな企画につながっていきます。
「ぞっこん度」という独自指標
同社のマーケティングを支えるのが、ファンがどれだけブランドに夢中かを測る「ぞっこん度」という独自指標です。
既存ユーザーを5段階に分け、最上位は「ブランドを愛している」層、最下位は「なんとなく飲んでいる」層としています。
興味深いのは、他人に勧めたい「推奨度」よりも、自分が本当に好きだと感じる「ぞっこん度」のほうが売上に相関していたという点です。
ここで意外なのは、新しい企画の狙いです。既存ファンの維持と思われがちですが、実際は新規のお客様のぞっこん度を一気に引き上げ、新規コアファンを作ることが目的だといいます。
「飲みにくいグラス」と「泣ける卒業証書」
同社の企画には、あえて常識を外したものが多くあります。その代表が、飲みにくい形をした「ゆっくりビアグラス」です。
砂時計のような形で中央がくびれ、意図的に飲みづらくしてあります。適正飲酒が求められる時代に、飲む量を強制的にゆっくりにする遊び心のあるプロダクトです。
新作の「ふらつくビアグラス」は、半分をビール、半分を水にして交互に飲まないと倒れてしまう形状です。
わかっているがやれないことに対して、強制的に楽しく飲む量をゆっくりにしてくれるという、遊び心を兼ね備えたプロダクトになってます。
これらは、認知やお試しはされてもリピートが弱いという課題への答えでもありました。予算をかけずにPRで戦うため、適正飲酒という大きな潮流に乗ったのです。
広告だと予算がないので、いいものが作れても出稿ができない。PRを武器に、一風変わった面白いプロダクトで勝負をしようというところで考えてきました。
もうひとつが「約束のよなよなエール」。10年後、20年後の大切な人との約束を空き缶に入れておくタイムカプセル企画です。
そして「隠れ節目祝い」は、お弁当作りの終了など、見過ごされがちな人生の節目を祝う卒業証書型の企画。三浦さんも「これ泣けるんじゃない」と反応していました。
アイデアが尽きない会社のカルチャー
なぜこれほどユニークなアイデアが生まれるのか。その背景には、行動指針「ヤッホーバリュー」にある「革新的行動」があります。
もうひとつの土台がフラットな文化です。ニックネームで呼び合い、社長も「店長」と呼ばれるなど、心理的安全性の高い環境を意識してつくっています。
このアイデアを言ったらしょぼいって思われちゃうかな、ということではなく、誰でもアイデアを出せるような雰囲気作りはしています。
三浦さんはここに、いいアイデアが生まれやすいというより、そもそもアイデアがたくさん出る環境をつくっているという特徴を見出します。
アイデアが出る人の共通点についても話が及びました。河津さんが挙げたのは「アイデアを出すのが好き」であることと「空気が読めない」ことの2つです。
渡部さんが挙げたのは「視座が高く視点が多い」こと。多くの観点から見つつ、傍から見てどう映るかを検証できる人だといいます。
インサイトを捏造しない、アイデアの出し方
具体的なアイデアの出し方も語られました。河津さんが気をつけているのは、消費者のインサイトを自分の都合で捏造しないことです。
そのために、SNSで「ビール泣いた」「ビール感動」「ビールありがとう」といった、感情と商品が結びついた言葉を検索して声を拾っているといいます。
ビール泣いたとか、ビール感動とか、ビールありがとうみたいなワードで、小さなインサイトを拾いに行って、そこから発想するとか。
三浦さんは、これは他業種でもすぐに真似できると指摘。「採用サイト感動」「転職サイト泣いた」で検索すれば、ユーザーの本音が見えてくると応じました。
一方の渡部さんは、視座を一段上げる手法をとります。クラフトビールというニッチな枠にとどまらず、ビール、お酒とカテゴリーを広げて課題を探すのです。
その一例が、お酒に強くない人だけを集めた飲み会「正気のサタンと程よい宴」。アルコール度数0.7%のビールを使い、居酒屋や球場でみんなと乾杯したいというニーズに応えました。
やりたい企画を「通す」ための課題設定
河津さんが一番のお気に入りに挙げたのは「隠れ節目祝い」。この企画は、実現までに約2年を要したといいます。
一度社内で挫折し、再提案してようやく通った企画でした。ポイントは、アイデアを出すこと以上に、それを「通す」ことにあるといいます。
やらない理由がなんぼでも思い浮かぶ企画なんですよね。でも心の底からやりたいと思える企画を、どう通していくのか。
通すための工夫が、聞く声と聞かない声をはっきり分けることでした。顧客やブランドに致命的な意見は聞き、そうでない声はうまくスルーする。三浦さんはこれを「スルー力」と表現します。
企画で守っているラインも明確です。誰かを傷つけない、食べ物を粗末にしない、そして製品から遠く身の丈に合わないことはしない、というものでした。
ユニークさを積み重ねた先の成長
こうしたユニークな活動の積み重ねが、昨年の過去最高売上につながっています。
象徴的なのが、セブン-イレブンで全国発売した「有頂天エイリアンズ」。全国に数万店舗ある小売でクラフトビールを売るのは、本来ありえないことだといいます。
私たちのブランドの開発力とか、ユニークな活動を評価いただいて、こういうものをご依頼いただける。私たちの活動を重ねてきた結果の話なのかなと思っています。
ブランドアクションの積み重ねが世界観をつくり、ファンのLTVを高める。その循環が同社の成長を支えています。
目指す先について、渡部さんは、飲み会で「ビールにする」ではなく「エールにする」「ラガーにする」と選ばれる世の中を挙げます。
河津さんは、同社が強い「深さ」を保ちながら「広さ」も両立させ、その両方を併せ持つ初の成功事例になりたいと語りました。
ヤッホーにとってアイデアとは何か
最後に、会社にとってアイデアとは何かが問われました。河津さんの答えは「制約を軽やかに超えていける魔法」です。
渡部さんの答えは「三方よしになるもの」。自分たちだけでなく、お客さんにも取引先にも良いものであるべきだといいます。
私たちが売り上げを伸ばしたいんじゃなくて、幸せを作った結果、売り上げがついてくるっていう世界を目指したい。
そして目指すのは、エンタメと聞いてヤッホーブルーイングのビールが思い浮かぶような会社。ディズニーのように、エンターテインメント事業として誰もが認める存在になることが目標だと締めくくりました。
まとめ
予算やリソースの制約を、アイデアと熱量で乗り越えてきたヤッホーブルーイング。8年の赤字を経て、ファンのぞっこん度を軸に独自の企画を積み重ねることで、クラフトビール市場を牽引する存在へと成長してきました。
- 同社は「ビール会社」ではなく「ビールを中心としたエンターテインメント事業」を掲げている
- 8年の赤字時代を、通販とユーザー参加型企画で乗り越えた
- 推奨度よりも、ファンが自分で好きと感じる「ぞっこん度」が売上に相関していた
- 予算がない分、適正飲酒などの大きな潮流に乗ったPRで勝負している
- アイデアを出すこと以上に、やりたい企画を「通す」課題設定が重要とされている
