ショートスリーパー講座はなぜ募集を止めたのか
ショートスリーパーとしてネット上で話題になった堀大輔さんが、公式Xで睡眠改善プログラムの新規募集を停止すると発表しました。既存の受講生のうち、継続を希望する人にだけ提供を続ける形だといいます。
CEOセオさんはこのニュースを入口に、ショートスリーパーは本当に存在するのかという疑問と、盛り上がる睡眠ビジネスの構造を掘り下げていきます。
セオさんによると、研究で確認されているショートスリーパーは生まれつきの遺伝子変異を持つ人です。そのため、ショートスリーパーを名乗る人の多くは、ただの寝不足だという前提があると説明しています。
セオさんは睡眠の悩みを2つに分けます。眠りたいのに眠れない不眠症と、自分の意思で睡眠時間を削る睡眠制限です。堀さんの講座は後者で、削った時間を有効に使おうという考え方でした。
ただし、削った時間を本当に有効に使えるのかという点に、セオさんは疑問を投げかけています。
堀さんは以前、YouTubeで1週間連続のライブ配信を行い、1日30分睡眠を見せる企画をしていました。ところが施術中に27分眠る様子がそのまま配信され、スマートリングの計測では1週間の総睡眠時間が362分、1日平均51分だったと報道されています。
私は正直な目線から言うと、(ショートスリーパーは)なかなか難しい、ちょっと嘘なのかなというふうに思ってしまうところではあります。
報道後、堀さんは肩書きを「ショートスリーパー」から「睡眠時間は自由に」へ変更したそうです。また、弁護士が受講経験者向けに返金措置の検討を勧める投稿もしています。
物議をかもした理由についてセオさんは、子どもや妊婦、体調の優れない人、うつ病の人にとって、睡眠を短くすること自体が害になりうる点を挙げます。それなのに、短時間睡眠が誰にとっても良いものに見えてしまったことが問題だったと指摘しています。
セオさんが調べたところ、講座の料金は最初の1か月が16万5000円、継続すると月3万3000円でした。受講生は公称2500人以上いたとされます。
セオさんは数字の真偽はわからないとしつつ、仮に2500人が月3万円を払っていれば月8000万円になり、とんでもないビジネスだと試算しています。内容は毎朝5時半から6時15分の早朝Zoom、毎晩11時半から11時59分の寝る前のエクササイズ、LINEのオープンチャットなどだったようです。
睡眠には解明されていない部分も多く、堀さんは「わからないのだから、こういう考え方もある」という立場で発信してきました。セオさんはその難しさを認めつつ、睡眠には巨大なマーケットがあることに注目しています。
カリスマから計測へ、睡眠ビジネスはどう変わった?
睡眠ビジネスの流れについて、セオさんは2010年代と2020年代で中心が変わったと整理しています。
2010年代は、カリスマ本人の実体験を前面に出し、「睡眠を取らなくてもいい」と講座や自己啓発でお金を得るモデルが流行しました。堀さんのような存在が典型です。
2020年代に入ると、Oura Ring ── フィンランド発の指輪型ウェアラブル端末。睡眠の質や心拍、体温などを計測し、アプリで可視化しますのようなスマートリングで自分の睡眠を測り、データをもとに改善するモデルが出てきました。ヤクルト1000のような飲料で睡眠を整える商品も、この流れにあるとセオさんは見ています。
2010年代: カリスマの実体験を軸に「寝なくていい」と説く講座・自己啓発
2020年代: スマートリングなどで自分のデータを測り、しっかり眠るための改善
セオさんは、睡眠は体のさまざまなものを修復する重要な時間で、誰もがたくさん寝たいと思っていると話します。それでも日本は、データの上では睡眠不足大国だといいます。
日本の成人で睡眠が6時間未満の人は、男性で38.5%、女性で43.6%です。このうち男性は30代から50代、女性は40代から60代で4割を超えています。セオさんは、仕事や家事、育児を担う年代ほど睡眠不足になると読み解いています。
一方で、睡眠で休息が取れていると答える人は75%います。睡眠が休息につながることは皆わかっているのに、なかなか寝られない人が増えているという構図です。
計測デバイスの利用者は約72%が女性で、特に30代から45歳が約42%を占めるとされます。セオさんは、測る市場の主役は女性であり、睡眠講座の対象者にもなっていると指摘しています。
日本の睡眠不足による経済損失は21兆円、GDPの約3%とされ、調査5か国の中で最大です。さらに、6時間睡眠を14日間続けるだけで認知能力が下がり続けるといわれています。
睡眠不足に「自覚がない」怖さ
睡眠不足の怖さとしてセオさんが挙げるのは、本人に自覚がないことです。
自分だからね、相対的に下がっても気づきづらいじゃないですか。昨日より今日が下がる、今日より明日が下がるっていうのって分かりづらいですよね。
ただし周囲の人は、「あの人、なんか記憶が弱いな」と気づくかもしれない、とセオさんは付け加えています。
17時間から19時間起き続けると、一部のテストでは血中アルコール濃度0.05%と同等以下の成績になるといわれます。セオさんはこれをビール2杯ほど飲んだ状態にたとえ、6時間未満の睡眠の人はすでに酔っ払いのような状態にあると説明しています。
死亡リスクも、短時間睡眠では1.12倍、長すぎる睡眠では1.3倍とされます。セオさんは、睡眠は短すぎても長すぎてもいけないものだと整理しています。
国内のスリープテック市場は2023年の95億円から、2027年には160億円になると予測されています。睡眠をうたうテクノロジーやビジネスが伸びる中に、堀さんのような人が入っていったという見立てです。
セオさんは、睡眠の難しさは「本当に寝たいけど寝られない」ことにあると話します。睡眠とうつ病は、寝られないとうつ病になりやすいという話と、うつ病だから寝られないという話の両方があり、鶏と卵のような相関関係にあると述べています。
寝ている間に脳では何が起きているのか
セオさんが面白いと紹介するのが、睡眠中の脳の働きです。その日に何を食べたか、何をしたかといった記憶は、まず一時的に保存されます。
睡眠を取ると、その一時記憶が「ハードディスク」に書き込まれ、覚えられる記憶になるとセオさんはたとえます。睡眠を取らなければ一時記憶は消えてしまい、思い出せなくなります。
一時記憶
その日に食べたもの、したことが一時的に保存される
睡眠
一時記憶をハードディスクに移すプロセスが進む
記憶として定着
あとから思い出せるようになる
そのため、睡眠不足の人には記憶喪失とまではいかなくても、忘れやすいという症状が出るとセオさんは説明しています。
もう一つの重要な仕組みが、睡眠タイマーです。人間の体は朝の光を浴びてから16時間後に眠気が来るようにできているといいます。
セオさんの例では、昼の12時に起きて光を浴びた人は、16時間後の朝4時まで眠くなりません。夜に眠るためにも早く起きたほうがいい、というのがこの仕組みから導かれる理由です。
セオさんはアルコールと記憶の関係にも触れています。飲んでいる間は普通に見えたのに、翌日は覚えていない人がいるのは、アルコールが急速に脳に届くと海馬 ── 脳の側頭葉の内側にある部位。新しい記憶の形成に深く関わり、記憶の「入り口」とも呼ばれますが新規の書き込みを止めるからだそうです。
脳がもう書き込みできないよということになって、その場の掛け捨てのデータになるというふうに言われてるみたいですね。
一方で、歩く、会話するといった働きは前頭葉 ── 脳の前方にある部位。思考や判断、行動のコントロールなどを担いますの一部が動いているため保たれます。過去の記憶も壊れていないので、酔っていても普段どおりに振る舞えるのに、新しいことだけが記憶されないというわけです。
さらに、海馬が発達途中の10代から20代はアルコールのダメージを受けやすく、より忘れやすくなるといいます。セオさんは、睡眠とアルコールの相性が悪いと言われるのはこうした理由からだとまとめています。
寝られないからお酒を飲むという人について、セオさんは、それは眠っているのではなく、ある種倒れているようなものだと表現しています。
なぜ人は「寝なくていい」にすがるのか
セオさんは堀さんの手法について、実際にそうした生活をしていたわけではないのに人を欺いたと厳しく見ています。しかも相手は、寝られなくて困っている人たちです。
ただし、セオさんはそこに人の心理をつくビジネスの構造を見ています。寝られずに困っている人ほど、「寝なくていい」という言葉に救われてしまうというのです。
だって寝なきゃ寝なきゃと思うと寝れないじゃないですか。だからそういう心理的な、あのビジネスなんだなと思っていて。
セオさんは、AIやテクノロジーが進化するほど、こうしたスピリチュアルっぽいビジネスが増えていくのではないかと予想しています。
似た例として挙げるのが、ガーシーの暴露をきっかけに増えた暴露系コンテンツです。人間の愚かな部分や、何かに頼りたい、依存したい、刺激がほしいという欲求が主流になっているとセオさんは見ています。
我々とか何を信じていくのかっていうのは本当に難しくなってきてるなというふうに思いました。
最後にセオさんは、このPodcastの過去回を寝る前に聴くと眠れるかもしれない、と冗談めかして締めくくっています。
まとめ
堀大輔さんの睡眠改善プログラム停止を入口に、CEOセオさんは睡眠不足大国・日本のデータと睡眠中の脳の仕組みを紹介し、寝たいのに寝られない人ほど「寝なくていい」に惹かれる心理がビジネスになっていると読み解きました。
- 研究で確認されたショートスリーパーは遺伝子変異を持つ人で、多くはただの寝不足だとされる
- 睡眠ビジネスは、カリスマの実体験型から、スマートリングで測るデータ型へ移りつつある
- 日本は6時間未満睡眠の人が男女とも約4割で、経済損失は21兆円とされる
- 睡眠は一時記憶を定着させる時間で、不足すると本人の自覚がないまま判断力や記憶力が落ちる
- 寝られない不安が強いほど「寝なくていい」という言葉に救われてしまう、という心理構造が背景にある





