GAFAを狙う5つの法案には何が書かれているのか?
2021年6月11日、Google、Apple、Facebook、Amazonといったビッグテックを対象にした独占禁止法関連の法案が、アメリカで提出されました。草野さんと宮武さんは、この法案がどんな内容で、なぜ出されたのか、そして独占禁止法そのものが良いのか悪いのかまでを話していきます。
宮武さんによると、今回出た法案は5つで、まだ通るかどうかは決まっていません。5つの法案は大きく2つのカテゴリーに分かれるといいます。
1つ目のカテゴリーは予算の話です。FTC ── 連邦取引委員会(Federal Trade Commission)。アメリカで独占禁止法の執行や消費者保護を担う独立行政機関ですや司法省の独占禁止法担当部署は予算が削られてきたため、大企業が合併するときの手数料を引き上げ、その分を部署の予算に充てる仕組みになっています。
まあそもそもFTCとかが低予算でやってること自体がちょっとおかしいんじゃないかっていうのはあるんですけど。
2つ目のカテゴリーが、独占禁止法そのものに関わる法案です。対象は、アメリカで50万人以上のMAUを持ち、時価総額が600ビリオンドル(約60兆円)以上の会社で、現状ではGAFAの4社、もしかするとマイクロソフトが入るかもしれない程度だと宮武さんは説明します。
この法案群には、買収がほぼ禁じられる案、自社プラットフォームで自社サービスを優先できなくする案、場合によっては自社サービスの提供そのものを禁じる案など、かなりバラバラな内容が含まれています。
買収を禁じれば、スタートアップは救われるのか?
宮武さんは、買収をほぼ禁じる法案には課題があると指摘します。買収ができなくなれば、大手テック企業は新興サービスをコピーし始めるからです。
買収ができなければ、あの、大手テック企業は何するかというと、みんなコピーし始めるんで。
実際、FacebookはClubhouseやSubstackのような機能を自社で作り始めています。草野さんが挙げたように、VRの人材を大量に抱え込むなど、人材だけを取りに行く戦い方もあり、宮武さんはFacebookのVR人材は1万人いると話しています。
草野さんは、スタートアップにとっては、資金力で正面から戦われるより買収オファーが来るほうが良いかもしれないと応じます。宮武さんも、買収があるからこそ創業者がEXIT後に新しい会社を立ち上げる循環が生まれると続けました。
その代表例がPayPalマフィア ── PayPalの創業メンバーや初期社員たちの通称。同社がeBayに買収された後、それぞれがTesla、LinkedIn、YouTube、Palantirなど多くの企業の創業や投資に関わりましたです。eBayに買収されたからこそ、今のPalantirなどの企業が生まれたと宮武さんは説明します。
やっぱ買収って、アメリカですと9割のEXITが買収なので、なので、まあそこも重要かなっていうところですよね。
草野さんの言葉を借りれば、これは「エコシステム的に」買収が必要だという話です。宮武さんは、買収を禁じることは多分正しくないという立場を示しています。
「自社サービスの優遇禁止」はどう判断するのか?
宮武さんが5つの中で一番現実的だと見ているのは、最も長い法案であるAmerican Choice and Innovation Online Act ── 2021年に米下院に提出された法案の一つ。巨大プラットフォームが自社の製品やサービスを優遇することなどを禁じる内容ですです。自社プラットフォーム内で自社サービスを優先的に出すこと、サードパーティーのデータを使うことなどを禁じる内容が含まれています。
Appleに関しては、たとえばSpotifyはブラウザでしか決済できないのに、そのことをアプリ内で伝えられないという問題があり、これを禁じる話も入っているといいます。
草野さんが、AmazonがAmazonオリジナル商品を作ったり最初に出したりすることも禁止されるのかと尋ねると、宮武さんは、この法案では作るのはOKで、優先的に出すのがダメなのだと答えました。
ただし、優先しているかどうかの判断が非常に難しいと宮武さんは言います。Amazonのランキングはレビューの数や質、検索回数など多くのデータで決まり、Facebookのニュースフィードは強くパーソナライズされているからです。
実際アルゴリズム誰が見るの?っていう話になってるじゃないですか。
草野さんは脱線として、TikTokを運営するByteDance ── TikTokを運営する中国のテック企業。2021年に「Volcano Engine」というブランドで、レコメンド技術などを企業向けに提供し始めましたがアルゴリズムをホワイトレーベル ── 他社が自社ブランドとして使えるように、製品やサービスを提供する形態で売る話にも触れ、プラットフォームのアルゴリズムに飲み込まれていく危険性を挙げました。宮武さんも、その危険性はめちゃくちゃあると同意しています。
Amazonについては、マーケットプレイスのサードパーティーデータから売れ筋を把握し、Amazon Basicsのようなプライベートレーベル商品を作っているのではないかという疑いがあります。Amazonは否定していますが、この法案が通れば、そうしたやり方は正式にできなくなります。
iPhoneはプラットフォームか?もっと厳しい「利益相反」法案
宮武さんは、もっと厳しい法案として、自社プラットフォーム内での利益相反を禁じる法案を挙げます。内容はふわっとしていますが、たとえばAmazonはマーケットプレイスでプライベートレーベル商品を出せなくなる可能性があります。
この法案の問題は、何がプラットフォームなのかが分かりづらいことです。iPhoneをプラットフォームと見るなら、Appleはカメラ、マップ、メールのアプリを置くことすら利益相反になりかねません。
そうです、そうです。そもそも(そうしたアプリを)作っちゃいけないんですよ。利益相反になっちゃうんで。
特にGoogleなんてひどいじゃないですか。検索で何も出せないみたいな。
草野さんは、iCloudもダメになり、ユーザーからしてもすごく不便だと反応しました。
ただ宮武さんは、この厳しい法案は戦略的に出されたものだと見ています。わざと厳しい案を出して「さすがに言いすぎ」となったところで、自社サービスの優遇禁止に落ち着かせるため、5つの法案をパッケージで一斉に出したのではないかという読みです。
厳しい案を提示
利益相反を広く禁じる法案を出す
反発を受ける
「さすがに言いすぎ」という反応が出る
落としどころへ
自社サービスの優遇禁止に落ち着かせる
民主党と共和党がそろってテック規制を望む理由
宮武さんによると、5つの法案はすべて民主党議員がリードしつつ、共和党議員もコスポンサーとして加わっています。現在は民主党が力を持っているため、民主党がリードすれば拒絶されにくく、共和党の参加を見せることで共和党側の支持も得られる構図です。
草野さんが、どちらの党もテック企業を規制したいのかと尋ねると、宮武さんは結構レアなケースだと答えました。
珍しく意見が合ってるっていうところですね。もちろんそのレベル感とか、どういうふうにやるとか、そこは多少変わってますけど。
左派ではエリザベス・ウォーレン ── マサチューセッツ州選出の民主党上院議員。巨大テック企業の分割を以前から主張してきたことで知られますさんが昔から主張しており、右派にも同じ主張をする人がいます。宮武さんは、ようやくアメリカ政府が動き始めたと受け止めています。
32歳の新FTC委員長リナ・カーンとは何者か?
法案と並ぶ大きなニュースが、FTCの新委員長の選出です。選ばれたのはリナ・カーンさんという32歳の女性で、日本でも話題になりました。
草野さんは、優秀な本人だけでなく、若い人を選ぶ組織もすごいと感心します。宮武さんは、民主党と共和党の両方からOKが出たこともレアだと説明し、その背景には独占禁止法については両党が賛同している事情があると話しました。
リナ・カーンさんはイェール大学のロースクールを出たあとコロンビア大学でも教えており、両大学で、今の独占禁止法は大手テック企業に当てはまらないと批判する論文を書いています。宮武さんは番組のリサーチのため、2015年ごろに書かれた約100ページの論文を前日に読んだといいます。
Amazonがなぜ独占禁止法案に該当するのか。それは今の法案だと該当しない風に見えますけど、実はしてるんですよっていう議論をしてて。
値段か権力か?独占禁止法の2つのセオリー
宮武さんによると、アメリカの独占禁止法には大きく2つのセオリーがあります。現在主流なのはボークセオリー ── 法学者ロバート・ボークに由来する考え方。独占禁止法の目的を消費者の利益とし、主に価格への影響で違法性を判断しますで、エンドユーザーに悪影響があるかという「コンシューマーウェルフェア」を、主に値段が上がるかどうかで判断します。
昔の独占企業は競合を潰したあと、価格を自由に決められる「プライシングパワー」を使って値段を上げるのが常でした。その時代なら、値段で判断するボークセオリーが正しかったと宮武さんは言います。
もう1つがブランダイス・スクール ── 最高裁判事ルイス・ブランダイスにちなむ考え方。企業への権力集中そのものを問題視し、市場構造や競争環境を重視しますで、企業が特定の市場でどれだけの権力を持ち、競合が入りにくくなっているかを見ます。草野さんの質問に、宮武さんはブランダイスという人の名前が由来だと答えています。リナ・カーンさんはこちらの考え方を支持する側です。
エンドユーザーへの悪影響を、主に値段が上がるかで判断する。現在の主流
企業が市場でどれだけ権力を持ち、競合が入りにくいかを見る。リナ・カーンさんが支持
今のテック企業は、むしろ値段を下げていきます。Amazonはスケールするほど値段が下がるため、従来の基準では独占禁止法に該当しなくなってしまいます。草野さんは、安くされたら余計に他社は入りづらいと応じました。
短期ではユーザーに良く、長期では危うい
ブランダイス・スクールへの批判の1つは、安くなるならエンドユーザーには良いのでは、というものです。宮武さん自身もAmazon Primeの無料配送を便利に使っており、草野さんも翌日に届く便利さを認めています。
その短期スパンで見ると、おそらくエンドユーザーにめちゃくちゃいいんですよ。
一方で長期スパンでは競合が入れなくなり、力が一社に集まって勝手に値上げできるようになるかもしれません。さらに権力が大きいほど利益が出て、その利益で別のカテゴリーにも入り込めます。
宮武さんはAmazonの例を挙げ、AWS ── Amazon Web Servicesの略。Amazonが提供するクラウドサービスで、同社の大きな利益源になっていますという「キャッシュマシン」があるからこそホールフーズを買収でき、新しい領域でも値段を下げられると説明しました。
値下げ
スケールでエンドユーザーの値段が下がる
参入障壁
競合が入れなくなる
権力集中
一社が勝手に値上げなどをできる
他領域へ
利益を使って別カテゴリーに入り込む
独占の方程式は、スタートアップの成長戦略でもある
宮武さんは、この話が難しいのは、同じやり方が投資やスタートアップの成長の定石でもあるからだと言います。宮武さんも草野さんも投資家側に立ったことがあり、Uberがまさにその例です。
大量の資金調達をして、すぐにスケールして、で、大きくなるとプライシング落とせるんで、そうすると誰も競争ができなくなるんで。
市場を独占し、ユーザーも値下げの恩恵を受け、事業が大きくなるほどユーザーをロックインできます。UberならUber Eatsや決済事業のように、新しい展開も可能になります。
草野さんも、大手に勝つために資金を投下して一気に伸ばすのはスタートアップの醍醐味だと応じました。宮武さんは、リナ・カーンさんの考えはそれを若干批判するものでもあり、Amazon自身もそうやって伸びてきたことを考えると、どちらが正しいのかわからなくなると話しています。
GoogleフライトとYelp訴訟、ミドルマン排除は悪なのか?
宮武さんが具体例に挙げたのがフライト検索です。以前はGoogleで検索すると、広告でExpediaやPricelineなどのOTA ── Online Travel Agentの略。インターネット上で航空券やホテルを予約できる旅行会社のことが上位に出ていました。
実はExpediaやPricelineは、ITAという1つの会社のフライト検索エンジンをSaaSのような形で使っていました。そのITAを、Googleが約700億円で買収します。Googleは検索データから、フライト検索の多くが同じエンジンを使う会社に流れていると気づいていたといいます。
Google検索からExpediaなどのOTAへ移り、ITAのエンジンで検索・予約する
GoogleがITAを買収し、検索結果にGoogleフライトとして直接表示する
草野さんも、検索結果にすぐ出てとても便利だと話します。それでも宮武さんは複雑な気持ちだといいます。
独占禁止法のことを考えると、これでGoogleが結構この領域を壊しに行ってるなっていう、いわゆる競争が入れなくなるようにしてるなと思うものの、結局OTAもミドルマンですし。
Yelpも同じ課題を抱え、GoogleがYelpのレビューをスクレイピングして検索結果に出しているとして訴訟を起こしました。Googleは「本当にいいサービスならユーザーはサイトに行く」と言うだろうと宮武さんは見ています。
草野さんはGoogleの歌詞検索とGeniusの例を挙げ、情報だけ欲しいユーザーはサイトに行かないので、それで良いサービスかどうかは判断できないと指摘しました。宮武さんは、この話の難しさを2点にまとめています。アルゴリズムを誰がどう判断し制限するのかという点と、市場全体として制限が良いのか悪いのかという点です。
法案が通ればGoogleマップは出せなくなるのか?
宮武さんは、アメリカ政府がこれだけ動いている以上、何かしらの法案は必ず通るはずだと見ています。最終的に落ち着くのは、最も長い法案だろうという読みです。
草野さんが、AppleがApple Musicを、GoogleがGoogleマップを最初に出せなくなるのかと尋ねると、宮武さんは「優先的に出せない」という話だと整理しました。何らかのアルゴリズムでフェアに判断しているなら出せる可能性もあり、その判断はFTC、つまりリナ・カーンさんに委ねられることになりそうです。
テック企業を「コモンキャリア」として扱うという案
リナ・カーンさんが出している解決案の1つが、テック企業をコモンキャリア ── 公衆に対し差別なくサービスを提供する義務を負う事業者。通信や鉄道などが典型で、インフラとして扱われますとして見る考え方です。宮武さんは、日本でいえばソフトバンクや楽天、NTTドコモのようなインフラ、ユーティリティとして扱うことだと説明し、この言葉を今後1年ほどでよく聞くようになると予想しています。
民間企業との違いを説明するために、宮武さんは実際の訴訟を紹介しました。アメリカのパン屋がゲイのカップルからのカスタムオーダーを断り、最高裁まで争った結果、ビジネスとして客を選んでよいという結論になったという話です。
民間企業にはこうした選ぶ権利がある一方、それは差別にもつながりえます。ユーティリティとして扱うなら、全アメリカ人が使う権利を持つインフラとして、オープンでフェアなアクセス権を他のビジネスに義務付けることになります。
宮武さんは、FacebookやTwitterが競合へのAPIアクセスを途中で止めた例として、Periscopeの競合だった動画配信のMeerkatを挙げました。草野さんが「死んでしまった」と言うと、宮武さんはHousepartyハウスパーティーになったと補足しています。どう実行させるかは別の問題としつつ、全体的なルールを作るのはありかもしれない、というのがリナ・カーンさんの主張です。
法案で一番苦しむのはAppleかもしれない
草野さんは、AmazonならともかくAppleやGoogleが全員にフェアにするのは難しそうだと疑問を投げかけます。宮武さんは、どの法案が通ってもAppleが一番厳しい状況になると答えました。
例えばAmazonとかですと、AWSって最悪別ビジネスとして成り立ったりするんですよね。でもAppleって全商品がインテグレーションされてるんですよね。
AppleはWWDC ── Appleが毎年開く開発者向けカンファレンス。新しいOSや機能が発表されますでもインテグレーションを深めています。FaceTimeの画面共有はZoomアプリではできないことがあり、写真アプリのメモリーはApple Musicと連携し、AirPodsはSiriとの連携を深めました。
その結果、FaceTimeはZoomより、AppleマップはGoogleマップより有利になりえます。以前話したEpic対Appleの件でも、AirTagの競合であるTileが連携できないことを批判していました。宮武さんは、こうした統合こそがAppleがユーザーをロックインできる理由であり、Appleのコアだと見ています。
Spotifyがブラウザ決済を案内できたら何が起きる?
宮武さんは、SpotifyがブラウザでのKのような決済をアプリ内で案内できるようになった場合を想像してみます。おそらく全アプリ開発者が、Appleに30%を取られないブラウザ決済へ誘導し始めるでしょう。
誘導の解禁
開発者が「ブラウザで決済して」と言えるようになる
30%回避
15%オフなどでブラウザ決済へ誘導する
モデル見直し
Appleがアプリストアのビジネスモデルを考え直す
競争の縮小
開発者への入場料型の課金などで市場が小さくなる可能性
決済での競争はいいことかもしれませんが、Appleがアプリ開発者に入場料のようなSaaS課金を求めるようになれば、かえって競争が減り市場が小さくなるかもしれません。宮武さんは、そうなるとは思わないとしつつ、iPhoneを作るべきかという話にまでつながりうると語りました。
もしこういう法案が通ると、一回ユーザビリティがすごい下がると思います。
草野さんは、使いやすさにメリットを感じてみんながiPhoneを買っているのだから、そのUXがなくなるのは惜しいと話します。宮武さんも、アメリカのZ世代の約9割がiPhoneを持っているのは良いサービスだからだと同意しました。
そもそも「市場」とは何か?
草野さんは、ユーザーはiPhoneが嫌ならPixelなど他のデバイスを選べるのだから、それではダメなのかと問いかけます。宮武さんは、それこそがAppleの言い分だと答えました。
これが独占禁止法案でのすごい難しいところで、これが特にAppleとEpicが戦ってた訴訟をしている中で、裁判の中ですごい議論となったのが、何が市場なのかっていう話なんですよ。
Appleのエコシステム、アプリストア、アプリ市場、ゲーム市場、iPhone、スマホ市場。どこを市場と定義するかで、独占かどうかの判断はすべて変わってきます。
草野さんは、ユーザーにはデバイスの選択権がある一方、アプリ開発者にとってはiPhone向けに出すことが必要不可欠で、見方が違うと指摘しました。宮武さんはこの視点を面白いとし、開発者がiOSに集まればユーザーも自然とiPhoneを買うようになり、その意味でロックインしているとも言えると説明しています。
「競争が増えることが大事」というアメリカの賭け
宮武さんは、規制が良いインパクトか悪いインパクトかは正直わからないと言います。10年後に振り返っても、法案が通らなかった場合の道は確かめられないからです。
それでも、この方向性が示しているのは、アメリカ政府やリナ・カーンさんが競争が増えることが大事だと考えていることだと宮武さんは読み解きます。
今は次のAppleを目指して新しいスマホを作ろうとする起業家はおそらくおらず、Amazonを潰すのは無理だと考える投資家も多い状況です。草野さんの「次のiPhoneを作れる人はいるのか」という問いに、宮武さんは「いるはず」と答えました。
大手が人材を抱え込んでいることも状況を厳しくしています。宮武さんは、FacebookとInstagram、WhatsAppを分割する話には、タレントプールをもう一度市場に流し込む意味合いもあると説明し、草野さんは「財閥解体みたい」と表現しました。
分割後のInstagramは広告システムをどう手に入れる?
宮武さんは、おそらく10年以内にビッグテックは分割され、YouTubeやInstagramが別会社になっているかもしれないと予想します。
ただ、Instagramの裏の広告システムはすべてFacebookのもので、分割されればそれがなくなってしまいます。宮武さんは、ByteDanceがアルゴリズムを売るのと同じように、各SNS企業がインフラの一部をサービス化するのではないかと考えています。
例えばFacebookが彼らの広告システムをインスタに売りますと。
Instagramはそれに対価を払い、その間に自社で作るか頼り続けるかを選ぶ形になるかもしれません。宮武さんは、分割後の解決案の1つがSaaS企業になることだと見ています。
分割後のInstagramは自社で方向性を決められ、データをFacebookに流せなくなります。宮武さんは、多くの会社が傘下に入ることで生まれるデータ共有がユーザーのプロファイル作りや行動予測を可能にしており、そこに制限がかかるのが重要なポイントだと話しました。
次の論点はデータの独占
草野さんは、アルゴリズムがホワイトレーベルで売られるなら、アメリカのテック企業が最強という構造も薄れるのではと問いかけます。宮武さんは、各ローカルで新しいSNSが立ち上がるチャンスにもなると同意しました。
一方で宮武さんが怖いと感じるのは、ByteDanceのアルゴリズムのようなサービスを通じて、どれだけデータが提供元に流れるかです。SnapのクリエイティブキットやSnap Kit ── Snapchatの機能を他のアプリに組み込める開発者向けツール群も、いろいろな場所に存在することでデータを取得する狙いがあると見ています。
新たな問題点として、このデータの独占禁止法みたいな、データプライバシーの独占はちょっとエグくなっていきませんか?
宮武さんによると、法案の1つにはデータの可視化や、自分のデータを他へ移せるポータビリティも含まれています。それでも、Appleのプライバシー強化やクッキー廃止の流れの中で、ユーザーデータをどう獲得するかが勝負になっています。
大量のデータを持つAmazonのマーケットプレイスは広告の場として強く、会社が分割されれば別の形でデータを取る必要が出てきます。その解決策の1つがSaaSの提供だと宮武さんは話し、草野さんは結局頼らざるをえない部分はあるのだと締めくくりました。
まとめ
GAFAを対象にした独占禁止法案は、買収の制限から自社サービス優遇の禁止まで幅広く、背景には「値段」ではなく「権力」を問うリナ・カーンさんの考え方があります。短期的にはユーザーに便利なビッグテックの仕組みを、長期の競争のためにどこまで制限すべきか。宮武さん自身も答えを出しきれない難しい問いとして語られました。
- 5つの法案は予算強化と独占禁止に分かれ、厳しい案を含むパッケージで落としどころを探る戦略と宮武さんは見ている
- リナ・カーンさんは、値段で判断する従来基準ではなく、市場での権力を見るブランダイス・スクールの立場に立つ
- Googleフライトや歌詞検索のように、ユーザーに便利なことが競争を壊していないかの判断は難しい
- 統合されたエコシステムが強みのAppleは、どの法案が通っても最も厳しい状況になりうる
- 分割後はSaaS化によるインフラ提供や、データの独占が新たな論点になる


