2005年、メンズ市場の急拡大と雑誌創刊ブーム
2000年代以降のメンズファッションの変遷から話が始まりました。原さんによると、メンズファッションが急に盛り上がったのは2005年ごろだといいます。
伊勢丹メンズができたり、トム・フォードやエディ・スリマンフランス出身のデザイナー。ディオール オムなどでラグジュアリーブランドのメンズラインを牽引した人物として知られますがラグジュアリーブランドのディレクターを務めたりと、ハイエンドなメンズラインが一気に勢いを持ち始めた時期でした。
それまでのファッション誌は、『BOON』や『ホットドッグプレス』のようにストリートカジュアルが主体でした。それがよりハイエンドな方向へ移っていったのがこのタイミングだといいます。
この市場の広がりに合わせて雑誌が次々に創刊されます。『LEON』が2001年、『UOMO』が2005年、そして『OCEANS』が2006年の創刊でした。
この頃のメンズ雑誌って、基本的にマーケティングだと思うんですよ。もう盛り上がってるから、そこのために雑誌を出す。で、広告ビジネスをそこで展開するっていうためのツールだったと思うんですよね。
原さんは、当時の編集長たちには怒られるかもしれないと前置きしつつ、盛り上がる市場に追随して雑誌が出され、それがうまくいって文化になっていったと振り返ります。この流れは2010年ごろまで続いたと話されています。
「モテ」から「ライフスタイル」へ、そして等身大の憧れ
2006年に『OCEANS』が誕生したとき、立ち上げたのは『LEON』を作った人たちが独立したメンバーでした。
『LEON』が「女性にモテる」というキーワードで展開していたのに対し、『OCEANS』はファミリーや父親というキャラクターを評価しました。
ただし父親というのは属性であって、その本質はライフスタイルだと原さんは説明します。家庭を持つ人が好むファッション、という発想です。つまりファッションよりライフスタイルが上位に来る形へ変わっていきました。
さらにこの時期、憧れの対象そのものも変わり始めます。それまではモデルのようなかっこいい人が誌面に出ていましたが、リアルで等身大な人たちへの憧れが芽生えていったといいます。
『OCEANS』が今も続ける「まちカドパパラッチ」というスナップ企画は、その象徴です。初めて特集を組んだのは2009年ごろで、大きな反響があったと話されています。
それまではね、海外のスナップか、女性のスナップか、すごい若い子たちのスナップはあったんですけど、当時の編集長の言葉を借りると、「おじさんのスナップがない」っていう。本当にみんな着てるものが知りたいのに、おじさんのスナップがないからそれをやろうっていう。
原さんは海外取材で「なぜ日本の雑誌なのに表紙が海外の人なのか」と問われた経験も語ります。身の回りのかっこいい人を起用したほうがいいという発想から、『OCEANS』はモデルを日本人へと切り替えていきました。
この反響には複数の要因が絡んでいました。参考にしたい人が買うだけでなく、撮らせてもらった人も購入します。協力者は全員載せる方針だったため、多くの人が手に取ってくれたのです。
子供のスナップも載せていたため、親が子供の分も買うといった動きもあったといいます。当時はSNSがまだ活性化しておらず、口コミが売り上げを支えていました。
撮らせてもらった人たちにどうやって恩返しするかとか、どうやったらこう楽しんでもらえるかっていう。子供ちゃんと載せるべきだろうとか、そういうような発想でやってたんで、結構純粋な編集だったとは思いますけどね。
マスをやめる 雑誌は「個人との対話」へ
話は価値観の変化へと進みます。かつては「モテる」ことが重要な価値観であり、だからこそ『LEON』がヒットしました。
女性誌に目を向けると、この時代は『CanCam』が100万部を売り上げていたといいます。エビちゃんや山田優さんが活躍し、「モテカワ」が支持された時代でした。
逆に女性の方だとCanCamとかが百万部とか売ってたのがこの時代なんですよ。百万部売っすよ、雑誌で。
原さんは、当時は異性にモテることが前提にあり、そのためのものを求める価値観が世の中にあったのだろうと推察します。ただしこれはあくまで自身の意見だと断っています。
しかし価値観が変わると、異性にモテるだけでなく、人としてモテたい、自分のトライブの中でどうありたいか、という方向へ移っていきました。一つの価値基準では立ち行かなくなったのです。
もうみんなに向けた雑誌とかっていうのはそもそも正しくないんじゃないかっていう、ちゃんとターゲットメディアとして誰と向き合ってるかっていうのを常に意識しながら、もうむしろ個人と話してるぐらいの感じで作っていかないと、多分反響も取れないし、存在価値っていうものがなくなっていく。
ここで小畑さんが、雑誌はマスメディアであり広く情報発信するのが理想ではないか、と問いかけます。それに対する原さんの答えは意外なものでした。
雑誌はマスメディアの一つで、どれだけ広い人たちに情報発信するかが媒体としての理想だと思う。でも今の話はむしろ逆で、ペルソナを設定して狭く深くという話に聞こえる。雑誌は今どう作られているのか。
原さんは「もう元々マスだと思っていない」と答えます。ターゲットメディアであり、たまたま分母が多いだけで、対話している人の姿を想像しながら作るものだと説明します。
男女で分け、年齢で分け、好むものやアクティビティで区切っていけば、最大値でもかなり狭くなります。世の中の男性全員に届けるものは面白くも何ともない、と原さんは語ります。
ライフスタイルから逆算する編集
『OCEANS』は雑誌の中でもライフスタイルの掘り下げと、それとファッションのリンクのさせ方が鮮やかだと小畑さんは感じています。それは対話を重ねているからではないかと問いかけました。
原さんは、今は使っていないものの、7〜8年前によく立てていた「海男、街男」という企画を例に挙げます。海に行く人と街に行く人では着たい服が違うはずだ、という発想です。
ファッションショーで「次は黒です」って言われても、海に行く人は「いやいや、もっと普通の自然の色がいいよ」って思ってたら、もう不要なものになってくる。ライフスタイルから逆算で考えていってあげた方がいいじゃない。
子供がいれば公園に繊細な服は着ていけない、といった実感もあります。だからターゲットのライフスタイルから逆算すると、ライフスタイルの提案もセットでしたくなるのです。
原さんは、深くハマった人には別の専門メディアがあるとも考えています。サーフィンがかっこいいという入り口を提供し、あとはYouTubeでライダーの動画を見ればいい、という距離感です。
サーフィンってかっこいいよねっていうところを入り口にしてくれたら、こういう居場所みたいなのを持ってた方がライフスタイル豊かになりませんかっていうところまでは常にコミュニケーションを取っていたい。
これからのファッションは「ライフスタイルの一部」に
個別化が進む今、100万部売れる雑誌は今後なさそうだと小畑さんは感じています。そこで未来のメンズファッションと『OCEANS』の展望を尋ねました。
原さんは、今はハイブランドとフレンドリーな価格のものが同時に存在すると指摘します。富裕層にとってはステータスでも、不要だと思う人にとってファッションは消費財にもなりつつある、というのです。
その転機の一例として、原さんはニューヨークの「Saturdays」を挙げます。洋服屋にコーヒーショップが併設され、オーナーはサーフィンを日課とし、それに付随する服やサーフボードも売る店です。
(Saturdaysは)もうそれってサーフライフを売ってるわけじゃないですか。
以降、セレクトショップにカフェがあることや雑貨を売ることが当たり前になっていきました。最近ではルイ・ヴィトンのメンズディレクターがファレルに代わったことも例に挙げられます。
ファッションの村だけで全部賄うっていうのは多分もう無理なんですよね。ビジネスとしてもクリエイティブとしても。他のものを掛け算していくと、結局はそれライフスタイル化だと思うんで、その中の一個のパーツがファッションっていう風になってくんじゃないかな。
ここで小畑さんが、ITの世界で言うホリゾンタルとバーティカルという考え方を持ち出します。ファッションを横軸で括るのではなく、縦軸で掘り下げる時代になったのではないか、という見立てです。
サーフィンからサーフボード、飲むコーヒー、着る服へと落としていくほうが今の時代に合っている、と小畑さんは整理しました。
なんか「あ、わかるわかる」の連続だと思うんですよね。サーフィンした後、コーヒー飲みたいわとか、どうせやんだったらボードケースもこういう感じの欲しいよねとか。じゃあ車こっちでしょ?みたいなっていうので広がっていくと、それってもう洋服だけじゃもう無理ですね。
ストリートやラグジュアリーなど、ファッションのジャンルで横に括る
サーフィンなどのライフスタイルから、服や道具、趣味へと縦に掘り下げる
等身大の憧れと、伝える道具としてのファッション
MCの種市さんもライフスタイルを体現する人ではないか、と小畑さんが話を向けます。種市さんは、洋服ばかりに偏っていた自分を客観視したとき、少しイケてないと感じた経験を語ります。
リーさん入っちゃいけないとか言ってたところを、入ってもよくないみたいなところで、まあなんか崩せるところは崩していく。スウェットパンツだったりとか、でも多分それを可視化してくれて、市民権与えてくれたのはOCEANSなんじゃないのかな。
原さんは、種市さんがスナップに出た際に「この服は何ですか」という問い合わせが届いたと明かします。モデルではない人の等身大のかっこよさに、読者が反応したのです。
私服であり、スタイリストが着せ込んだものではないため、思いがけないヒットが生まれる。ここに等身大の憧れの本質があると原さんは語ります。
さらに原さんは、ファッションの役割についても触れます。消費されるものではあるものの、人に何かを伝える道具としてこれほど便利なものはない、というのです。
「こういうサービス始めます」とか、「こういう施設できます」って言った時に、ファッション的な観点でなんか素敵だなとか、ファッション的なアイテムに落とし込んで伝えるとかってやると、みんな第一関門を突破しやすいんですよね。
これはファッションアイテムというより、ファッション的感覚に近いものだといいます。それをフィルターとして使えば、いろんなことをわかりやすく人に伝えられるのです。
まとめ
2000年代のメンズ市場の拡大と雑誌創刊ブームから始まり、憧れの対象が海外セレブから街の等身大の人へと移り、雑誌はマスから個人との対話へと役割を変えてきました。その背景には「モテ」から「ライフスタイル」への価値観の移行があり、これからのファッションはライフスタイルの一部になっていくと語られた回でした。
- メンズ市場は2005年ごろに急拡大し、『OCEANS』を含む雑誌が次々に創刊された。
- 憧れの対象はモデルから等身大のリアルな人へと変わり、スナップ企画が支持を集めた。
- 原さんは雑誌を「マス」ではなく、個人と対話する「ターゲットメディア」と捉えている。
- ファッションはライフスタイルから逆算する時代になり、その一部になりつつある。
- ファッション的感覚は、サービスや価値を人に伝える便利なフィルターにもなる。
